家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

3章 逆境は真実へと至る最初の道筋である。

学校だよ！やったね！帰りたいよ！

　カリカリカリ、と。部屋の中で物を書く音が響く。

　時計を見ると、既に日付を超えており、書類に書く速度も減少していき、睡魔に襲われつつある。

　だが、眠い目を擦りながら、その書類に目を通す。

「本当に………」

　その書類は報告書だった。
　レベッカ・ルーズの指名手配を取り消すという内容の。

「本当に、僕の助けは必要なかったのですね」

　その少年、ナイルは報告書を読みながらそう呟く。

　レベッカが指名手配された日から直接国に反対していたこと。レベッカを指名手配を解除すること。自分なりに集めた証拠と根拠を元に反論してきたが、終ぞ王が首を縦に振ることはなかった。

　だが、国の懐刀であるリリルナ家現当主であるヴェルフ・リリルナが言うだけでレベッカの指名手配は容易く解除された。

　無論、リリルナ家はリリルナ家なりに解除にする根拠を並べて解除させたのだろう。だが、王とて馬鹿ではない。納得したからこそ、レベッカの指名手配は解除されたのだった。

「やはり、足でまといか………」

　それは、あの日レベッカがナイルに言った言葉。
　自分は足でまといだと、はっきりと言われた。

「全く、その通りだ」

　自虐気味にそう言う。ナイルは、一目見た時からレベッカのことは気になっていた。だから、ナイルはレベッカの力になりたかったのだが、

「僕の力は必要なかった」

「そんなことないよ」

　自虐を込めた言葉に、何者かが反論してきた。

「！？」

　ナイルは驚愕しながら立ち上がり、声が聞こえた方向に構える。

　窓は開いていて、そこに座っていた。レベッカが。

「ナイル、久しぶり」

　二ヶ月ぶりに見たレベッカは以前別れた時よりも優しい雰囲気が漂っていた。

「うん。久しぶり………」

　ナイルはそう返すが、気まずい雰囲気が両者の間で発生した。
　それはそうだろう。レベッカからしてみれば、優しくしてくれたのに傷つけて、酷い言葉で追い返した相手であり、ナイルからしてみれば力になると言いながら、結局はなにもできなかった相手だ。

　だから、折角会ったにも関わらず、二人は気まずそうにするばかり。

「えっと、ありがとう………」

　と、レベッカが小さくお礼を言った。
　だが、ナイルは困惑するだけだった。お世辞にも、ナイルは自分がレベッカになにかをしたという自覚はなかったのだから。

「えっと、僕がなにを………？」

　純粋な疑問。それはナイルからしてみれば当然の疑問であった。

「だって、指名手配の件、抗議してくれたんでしょ？そのおかげでヴェルフさんもスムーズにできたみたいだし」

「それでも、殆ど役にたてなかったけどね………」

「そんなことないよ。私、ナイルにはいっぱいお礼したいことがあるもん」

　レベッカはそう言うが、ナイルとしては、お礼を言われるほどのことをした記憶はない。もっと上手にできるはずだと思っていたから、だからこんなに時間がかかったのだ。

「そうだ」

　レベッカは、ポケットから一封の手紙を取り出すと、ナイルに渡す。

「なんだい？これは………」

「手紙だよ。招待状って言った方がいいのかな？」

　招待状の意味がわからずにナイルが中身を確認すると

「パフォーマンスの公演の………」

「そう。私ね、今リリルナ家のご令嬢と一緒にアイドルしてるの。良かったら見に来てね」

　せめてものお礼だと、そう言いながらレベッカは去って行った。
　中にはヴェルフからの手紙も一緒に入っており、それを読んだナイルは悲しそうな表情のまま、出かける準備を始めるのだった。