家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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3章 逆境は真実へと至る最初の道筋である。

一つの結末

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 パフォーマンスが終わる瞬間は、あの日からドキドキの瞬間へと変わっていた。
 個人でのパフォーマンスは久しぶりだが、腕は訛っておらず既にマスタークラスのパフォーマンスの名乗ってもいいほど洗練されたパフォーマンスに、観客は圧倒され、同じノーマルランクの人達は絶望していた。

 むしろ、フィアラが未だにノーマルランクで燻っているのが間違いなのだ。ノーマルランクの人からしてみれば、はやくマスタークラスまで上がって欲しいと願うばかりだ。
 しかも、この後チノとのコンビでのパフォーマンスもするらしい。どれだけすごいのだか。

 観客に手を振り終えたフィアラはルンルン気分で帰ってくる。
 その姿を、黙って眺めることしかできない。
 以前、嫌がらせとして転ばそうとした時は楽々回避されて、ならば物理と、魔法と、報復を恐れずに襲いかかったのだが、尽く返り討ちにされてきた。

 フィアラは化け物。そう認識されている。

「疲れたよお~」

 フィアラは、ノーマルランクの楽屋とは別の、マスタークラスの楽屋に入って、ソファーに倒れた。

「お疲れ様。でもどうして今日は個人もタッグもどっちも出るの?」

 いきなりの苦行を行いだしたフィアラにチノは純粋な疑問を投げかける。
 パフォーマンスが大好きなチノでさえ、一日にソロとタッグの二種を同時に行うのは苦行らしい。

「だって………」

 ナイルが来るから。そうハッキリと言うことはできなかった。

「もしかして、好きな人でも見に来てた?」

「そんなんじゃ、ないんだけどね」

 からかうようなチノの言葉をアッサリと否定するフィアラの表情を見るに、嘘を言ってる気配はない。

「な~んだ」

 チノは少しだけ残念そうに身を引いた。

「じゃあ、フィアラのパフォーマンスも終わったし、出番も近いから着替えときなよ」

「は~い」

 フィアラは気だるげな返事をしながら更衣室に向かった。

「きっと、最後だよね………」

 フィアラの様子を見て確信した。2人で一緒にパフォーマンスをするのは最後だと。

 フィアラは真実を知りたいと言っていた。つまり、条件は達成され、会いに行くということ。

「頑張ってね、フィアラ。私は、ずっと味方だから」

 更衣室で慌ただしく着替えているフィアラには聞こえないように、チノは呟いた。


■■■


「楽しかったね!」

 フィアラは伸びをしながらそう言う。いつかと同じ光景だと、そんなことを考えながらチノは少し後ろを歩いていた。

「うん。そうだね………」

 そう返事をしたのだが、その声に覇気を感じなかったフィアラは心配しながらチノを見る。

「どうしたの?」

 それはただチノを気遣っての行為。どこまでも優しくしてくれるフィアラに

「今日で、終わりなんだよね?」

 チノはそう聞いてしまった。

「誰がそんなこと………」

「誰も、言ってないよ。私が、そう思っちゃっただけ。でも、フィアラにはもう、パフォーマンスをする理由は無くなったはず」

 そうだ。フィアラにはもう、ここにいる理由は無くなった。

「だから、もう終わりかなって、そう思っちゃって………」

 チノの目から涙が零れてくる。

「チノ………」

 そんなチノに、フィアラは声をかけることができなかった。

「フィアラ、行かないでよぉ。一緒にパフォーマンスしようよ」

 チノが初めて言った我儘に、フィアラは抱き締めることでしか返すことができなかった。

「ごめんね、チノ」

 フィアラの明らかな拒否、拒絶。わかっていても、わかりたくなかったことだ。

「本当は、私たちは出会うべきじゃなかったのかもね」

「そんなこと!」

 そんなことない。フィアラも、チノも、お互いがであったことで、寄り良い結末になったのだから。

「だから、ね?全部終わって、なにもかも片付いたら、また戻ってくるから」

「ほんとに?」

「ほんとに。私、約束は守るタイプだから」

 いつもと違うフィアラの様子に、チノは目を丸くするだけだった。

「………フィアラって、そんな雰囲気も出せたんだ………」

「あれ?もしかして馬鹿にされてる?」

 だけど、きっと信じてるから。

「じゃあ、帰ろっか」

 二人は手を繋いで自分たちの家に向かった。その手はお互いを離さないようにずっと、握り続けていた。
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