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雨
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朝からの生憎の雨に、庭園では首を下げた花々が涙のような雫を垂らしていた。ガラス戸を伝う雨の筋の合間から、その様子を見つめるブルーデンスの表情は物憂げだ。オルガイム人である彼女の出身国は山岳地帯で空気も乾いていると聞く、衣服が湿気で重く肌に張りつくような、ジメジメとした気候は合わないのだろうか。
「どうぞお掛けになってください、ブルーデンス様」
数人分の紅茶の乗ったトレーを運んできたブルーデンス付き侍女デリスは、黙って庭を臨むブルーデンスの背中にそう声をかける。舞踏会でその腕に受けた傷による熱は下がり、体調も以前と同じくらいに回復してきてはいたが、過度に締めつけない部屋着に近いドレスの中の身体は、デリスの目にまだ細過ぎるように映った。
「……っ、申し訳ありません」
物想いからハッと立ち戻ったようで、振り返った彼女はテーブルに茶器や焼き菓子を並べるデリスのもとへと歩み寄ってくる。
何も言わず、トレーの上に重ねられたカトラリーを、並べられた茶器の横に置いていく。手際よく、デリスの邪魔をしない身のこなしは、給仕にとても慣れていることを物語っていた。慎ましいブルーデンスは最初にデリスが固辞したために、たびたび彼女を気遣って開かれた女だけの茶会の準備には、意識して手出しをしなくなっていたのに……それが、今のように手が出てしまったのは、上の空になるくらい何か心に引っ掛かるものがあるということだ。
ブルーデンスを心悩ませている原因が、デリスには分かり過ぎるほどよく分かっていた。我が主フォーサイス……婚約者であるブルーデンスへの謂われなき冷遇の数々を悔い、その命にかかわるほどの傷を負わせたゴーシャを排斥するために、彼はトゥリース邸へと向かった。その事実を言うなと命じられていたが、己が屋敷での在り方を憂うブルーデンスを前に、初めて主の命を破ってしまった。
けれど、そのことが清らかな彼女の自己嫌悪を払拭することにはならなかった。ブルーデンスは、目覚めて四日目にして、いまだ屋敷に戻らないフォーサイスの身を案じているのだ。
「……あっ、ごめんなさい。うっかりしていて」
大体の食器の設置が終わり、顔を上げたブルーデンスは、ようやく思案深げな視線を送るデリスに気付いたようで、謝罪の声を上げる。小さく綻びた口もとを手で押さえる仕草も無意識だろうに至極優美で、手伝いをしておきながら謝罪をする様がちぐはぐだった。
「ブルーデンス様、じきにお戻りになられますわ」
デリスも諌めることはせず、代わりにそう伝える。
「……そうですね。信じると決めたのに、申し訳ありません」
何を言っても謝罪してしまう彼女に、デリスはあのときの自身の選択が正しかったどうか判断が揺いでいた……どこまでも善良であるブルーデンスに、当主に対して悪戯に負い目を感じさせてしまったのではないかと。自分が彼女に抱いて欲しかったのは、ダグリード邸の未来の女主人及びフォーサイスの妻としての自信であって、卑屈なほどの罪悪感ではない。
本当に、当主には一刻も早く戻ってきてもらわなくては困る。そして、形振り構わず跪いて許しを乞うくらいの気概をみせなければ、彼女に報うことなど到底できないだろう。敬愛する主に対して暴言も甚だしいが、それも親愛の情ゆえ。ブルーデンスを逃せば、もう二度とフォーサイスの心は救われない。
「まあ、美味しそう!」
しっとりとした空気の中に、元気な少女の声が飛び込んできた。客間の扉から、両腕にまだ花弁に水滴のついた薔薇を抱えたファティマが現れたのだ。
「ファティマ様っ、濡れてらっしゃるじゃないですか」
この雨の中、庭先に出ていたらしい彼女のもとに、ブルーデンスはすぐに寄っていき、ペティコートのポケットに忍ばせていたハンカチでその頬から顎へ伝う一筋の雫を拭ってやる。
「大げさですわ、ブルーデンスお義姉様。ちゃんと傘を差していましたのよ」
そう唇を尖らせるファティマだったが、大好きな義姉に甲斐甲斐しく世話を焼かれることは嫌ではないらしく、されるままになっている。まるで本当の姉妹のような二人の様子は微笑ましく、邪魔をしないようにファティマの腕の中から薔薇を受け取るデリスの口もとにも笑みが浮かんだ。
「髪の毛も先が濡れています、このままではドレスが濡れて風邪を引いてしまいますわ……これでまとめてしまいましょう」
そう言って、ブルーデンスは己の髪を編み込んでいた組み紐の一本をシュルリと解く。うしろでまとめていた銀の髪が肩に落ちるが、カチューシャのように輪郭を覆う編み込みは残っていて、その美しさは損なわなかった。
「もしかして、お姉様が結ってくださるんですの?」
ファティマが興奮気味に尋ねるのも無理はない。ブルーデンスはオルガイムの貴族令嬢の慣習で、その長い髪を自らの手で結っていた。それも毎日違う結い方で……あの忌まわしい舞踏会の夜も、オルガイムの工芸品である色鮮やかな組み紐とこの屋敷の庭園から摘んだ花を使い、それは見事に編み上げていた。ブルーデンスがダグリード邸に来るまではずっとエルロージュに付き、その髪も結っていたデリスの目から見ても彼女の技術は卓越したものだった。
「はい、よろしければ……ファティマ様はオルガイムの髪結いに興味がおありでしたよね?」
「ええっ、是非お願いしますわ!」
薔薇色に頬を染めて何度も頷くファティマに、ブルーデンスは本当に姉のような優しい笑みを向けて、長椅子に誘った。
* * *
「まあ、素敵っ……!」
ブルーデンスが渡した手鏡を覗き込むと、ファティマはため息とともに吐き出す。
波打つ見事な黒髪は後頭部を一周するように裏編み込みをすると、まるで花冠をつけているに華やかになる。編み込みの房の間にはさきほどまでブルーデンスがしていた薄紅色の組み紐も織り込んで、右耳の上辺りに、髪飾りのように花結びを咲かせてやった。ファティマは髪質がよく、量も豊かなので、何のくせもなく量も少ない己の髪を扱うときよりもよほど楽だった。
「気に入って頂けてよかったですわ、ファティマ様」
満面の愛らしい笑みを浮かべる義妹の様子に、ブルーデンスの表情も綻ぶ。普段は周囲の視線を避けるように身なりに気を遣わない義妹を飾り立てるのは、殊のほか楽しかった。母から教え込まれていたときは試験のような緊張感があったし、今も自分に施しているものはブルースの存在を消すための偽装に他ならなかった。そのため、ただただ素直に喜んでくれるファティマの笑顔には、本当に心が癒される。
「よく似合っていてよ、ファティマ……今日、チェイス様も来られたらよかったのだけれど」
少し遅れて合流していたエルロージュの口から洩れた予想もしない人物の名には、ブルーデンスだけでなくデリスも驚いたように瞠目した。
「ファティマに頼まれて招待状を出したのだけれどね。フォーサイスだけじゃなく、副隊長まで外地任務に就いている今、自分まで職務を離れるわけにはいかないってお返事があって。まだお若いのにとても真面目な方で……本当に、残念だったわね」
もともとひどい男嫌いのファティマであったし、件の舞踏会での二人の第一印象は、居合わせたブルーデンスには最悪だったように見えた。そのあと、示し合わせて自分を巻き込む悪ふざけをしでかしたくらいだから、そこまで気が合わないわけではないだろうとは思っていたのだが……驚きである。
「へっ、変な意味じゃありませんのよ! 先日は大変お世話になりましたし、チェイス様もお義姉様にきちんと謝罪したいとおっしゃられていたからっ……!」
意味深な笑みを浮かべる母、瞠目した二人の視線を受け、ファティマは尋ねてもいないことを早口で否定し、ブンブンと頭を振る。
「ファティマ様っ、せっかくの御髪が……」
激しい動きで飾り結びが解けかけ、デリスに注意されて居住まいを正すも、ゆでだこのように赤面する彼女の初心な想いは、至極分かり易かった。
「フォーサイスが戻ったら、今度こそチェイス様もお招きしてお茶会を開きましょうね」
「そんなの絶対嫌ですわ! お兄様がいらっしゃったら、長くお話できないじゃありませんのっ!」
エルロージュの言葉に、ファティマは再び大きく頭を振る。
「あらまぁ……」
「問うに落ちず語るに落ちる、でございますね」
思わず零れ落ちた本音に笑いさざめく中、ブルーデンスはふと、その視線をガラス戸の向こうに注ぐ。弱まる様子を見せない雨足は、美しい庭園を白い飛沫で曖昧に塗り潰していた。
幼年期の心の傷と決別するために旅立ったフォーサイスは、いまだ戻らない。
そして、ライサチェックの外地任務とは、一体どういうことなのか?
この時期に、要人警護もないだろうに……もしや一ヶ月余り経って何の成果も上げられない自分にフカッシャーの父母が業を煮やし、何かしら手を打ったのだろうか?
それとも、彼の魔術師の仕業か……
鳩尾が掻き回されるような、薄ら寒い恐怖にとりつかれる。
「ブルーデンスお義姉様? どうかなさいまして?」
「……っ、……いいえ、何でも」
不審げに呼びかけられた声に、ブルーデンスは慌てて無意識に眉間に込めていた力を抜き、歪んでしまった微笑みを作り直す。
「じっとしていて下さい、ファティマ様。完全に解けてしまいましたから、結び直しましょう」
皆の疑心の目を逸らすため、そして、心に停滞する危惧を払拭するように、ブルーデンスはファティマの黒髪にその手を伸ばした。
自分はどうなっても構わない。
すべてが終われば、その咎で地獄に突き落とされてしまえばいい。
けれど、雷龍隊は……彼だけは、どうか助けて。
己の心模様を映したような雨は、いまだ止まない。
「どうぞお掛けになってください、ブルーデンス様」
数人分の紅茶の乗ったトレーを運んできたブルーデンス付き侍女デリスは、黙って庭を臨むブルーデンスの背中にそう声をかける。舞踏会でその腕に受けた傷による熱は下がり、体調も以前と同じくらいに回復してきてはいたが、過度に締めつけない部屋着に近いドレスの中の身体は、デリスの目にまだ細過ぎるように映った。
「……っ、申し訳ありません」
物想いからハッと立ち戻ったようで、振り返った彼女はテーブルに茶器や焼き菓子を並べるデリスのもとへと歩み寄ってくる。
何も言わず、トレーの上に重ねられたカトラリーを、並べられた茶器の横に置いていく。手際よく、デリスの邪魔をしない身のこなしは、給仕にとても慣れていることを物語っていた。慎ましいブルーデンスは最初にデリスが固辞したために、たびたび彼女を気遣って開かれた女だけの茶会の準備には、意識して手出しをしなくなっていたのに……それが、今のように手が出てしまったのは、上の空になるくらい何か心に引っ掛かるものがあるということだ。
ブルーデンスを心悩ませている原因が、デリスには分かり過ぎるほどよく分かっていた。我が主フォーサイス……婚約者であるブルーデンスへの謂われなき冷遇の数々を悔い、その命にかかわるほどの傷を負わせたゴーシャを排斥するために、彼はトゥリース邸へと向かった。その事実を言うなと命じられていたが、己が屋敷での在り方を憂うブルーデンスを前に、初めて主の命を破ってしまった。
けれど、そのことが清らかな彼女の自己嫌悪を払拭することにはならなかった。ブルーデンスは、目覚めて四日目にして、いまだ屋敷に戻らないフォーサイスの身を案じているのだ。
「……あっ、ごめんなさい。うっかりしていて」
大体の食器の設置が終わり、顔を上げたブルーデンスは、ようやく思案深げな視線を送るデリスに気付いたようで、謝罪の声を上げる。小さく綻びた口もとを手で押さえる仕草も無意識だろうに至極優美で、手伝いをしておきながら謝罪をする様がちぐはぐだった。
「ブルーデンス様、じきにお戻りになられますわ」
デリスも諌めることはせず、代わりにそう伝える。
「……そうですね。信じると決めたのに、申し訳ありません」
何を言っても謝罪してしまう彼女に、デリスはあのときの自身の選択が正しかったどうか判断が揺いでいた……どこまでも善良であるブルーデンスに、当主に対して悪戯に負い目を感じさせてしまったのではないかと。自分が彼女に抱いて欲しかったのは、ダグリード邸の未来の女主人及びフォーサイスの妻としての自信であって、卑屈なほどの罪悪感ではない。
本当に、当主には一刻も早く戻ってきてもらわなくては困る。そして、形振り構わず跪いて許しを乞うくらいの気概をみせなければ、彼女に報うことなど到底できないだろう。敬愛する主に対して暴言も甚だしいが、それも親愛の情ゆえ。ブルーデンスを逃せば、もう二度とフォーサイスの心は救われない。
「まあ、美味しそう!」
しっとりとした空気の中に、元気な少女の声が飛び込んできた。客間の扉から、両腕にまだ花弁に水滴のついた薔薇を抱えたファティマが現れたのだ。
「ファティマ様っ、濡れてらっしゃるじゃないですか」
この雨の中、庭先に出ていたらしい彼女のもとに、ブルーデンスはすぐに寄っていき、ペティコートのポケットに忍ばせていたハンカチでその頬から顎へ伝う一筋の雫を拭ってやる。
「大げさですわ、ブルーデンスお義姉様。ちゃんと傘を差していましたのよ」
そう唇を尖らせるファティマだったが、大好きな義姉に甲斐甲斐しく世話を焼かれることは嫌ではないらしく、されるままになっている。まるで本当の姉妹のような二人の様子は微笑ましく、邪魔をしないようにファティマの腕の中から薔薇を受け取るデリスの口もとにも笑みが浮かんだ。
「髪の毛も先が濡れています、このままではドレスが濡れて風邪を引いてしまいますわ……これでまとめてしまいましょう」
そう言って、ブルーデンスは己の髪を編み込んでいた組み紐の一本をシュルリと解く。うしろでまとめていた銀の髪が肩に落ちるが、カチューシャのように輪郭を覆う編み込みは残っていて、その美しさは損なわなかった。
「もしかして、お姉様が結ってくださるんですの?」
ファティマが興奮気味に尋ねるのも無理はない。ブルーデンスはオルガイムの貴族令嬢の慣習で、その長い髪を自らの手で結っていた。それも毎日違う結い方で……あの忌まわしい舞踏会の夜も、オルガイムの工芸品である色鮮やかな組み紐とこの屋敷の庭園から摘んだ花を使い、それは見事に編み上げていた。ブルーデンスがダグリード邸に来るまではずっとエルロージュに付き、その髪も結っていたデリスの目から見ても彼女の技術は卓越したものだった。
「はい、よろしければ……ファティマ様はオルガイムの髪結いに興味がおありでしたよね?」
「ええっ、是非お願いしますわ!」
薔薇色に頬を染めて何度も頷くファティマに、ブルーデンスは本当に姉のような優しい笑みを向けて、長椅子に誘った。
* * *
「まあ、素敵っ……!」
ブルーデンスが渡した手鏡を覗き込むと、ファティマはため息とともに吐き出す。
波打つ見事な黒髪は後頭部を一周するように裏編み込みをすると、まるで花冠をつけているに華やかになる。編み込みの房の間にはさきほどまでブルーデンスがしていた薄紅色の組み紐も織り込んで、右耳の上辺りに、髪飾りのように花結びを咲かせてやった。ファティマは髪質がよく、量も豊かなので、何のくせもなく量も少ない己の髪を扱うときよりもよほど楽だった。
「気に入って頂けてよかったですわ、ファティマ様」
満面の愛らしい笑みを浮かべる義妹の様子に、ブルーデンスの表情も綻ぶ。普段は周囲の視線を避けるように身なりに気を遣わない義妹を飾り立てるのは、殊のほか楽しかった。母から教え込まれていたときは試験のような緊張感があったし、今も自分に施しているものはブルースの存在を消すための偽装に他ならなかった。そのため、ただただ素直に喜んでくれるファティマの笑顔には、本当に心が癒される。
「よく似合っていてよ、ファティマ……今日、チェイス様も来られたらよかったのだけれど」
少し遅れて合流していたエルロージュの口から洩れた予想もしない人物の名には、ブルーデンスだけでなくデリスも驚いたように瞠目した。
「ファティマに頼まれて招待状を出したのだけれどね。フォーサイスだけじゃなく、副隊長まで外地任務に就いている今、自分まで職務を離れるわけにはいかないってお返事があって。まだお若いのにとても真面目な方で……本当に、残念だったわね」
もともとひどい男嫌いのファティマであったし、件の舞踏会での二人の第一印象は、居合わせたブルーデンスには最悪だったように見えた。そのあと、示し合わせて自分を巻き込む悪ふざけをしでかしたくらいだから、そこまで気が合わないわけではないだろうとは思っていたのだが……驚きである。
「へっ、変な意味じゃありませんのよ! 先日は大変お世話になりましたし、チェイス様もお義姉様にきちんと謝罪したいとおっしゃられていたからっ……!」
意味深な笑みを浮かべる母、瞠目した二人の視線を受け、ファティマは尋ねてもいないことを早口で否定し、ブンブンと頭を振る。
「ファティマ様っ、せっかくの御髪が……」
激しい動きで飾り結びが解けかけ、デリスに注意されて居住まいを正すも、ゆでだこのように赤面する彼女の初心な想いは、至極分かり易かった。
「フォーサイスが戻ったら、今度こそチェイス様もお招きしてお茶会を開きましょうね」
「そんなの絶対嫌ですわ! お兄様がいらっしゃったら、長くお話できないじゃありませんのっ!」
エルロージュの言葉に、ファティマは再び大きく頭を振る。
「あらまぁ……」
「問うに落ちず語るに落ちる、でございますね」
思わず零れ落ちた本音に笑いさざめく中、ブルーデンスはふと、その視線をガラス戸の向こうに注ぐ。弱まる様子を見せない雨足は、美しい庭園を白い飛沫で曖昧に塗り潰していた。
幼年期の心の傷と決別するために旅立ったフォーサイスは、いまだ戻らない。
そして、ライサチェックの外地任務とは、一体どういうことなのか?
この時期に、要人警護もないだろうに……もしや一ヶ月余り経って何の成果も上げられない自分にフカッシャーの父母が業を煮やし、何かしら手を打ったのだろうか?
それとも、彼の魔術師の仕業か……
鳩尾が掻き回されるような、薄ら寒い恐怖にとりつかれる。
「ブルーデンスお義姉様? どうかなさいまして?」
「……っ、……いいえ、何でも」
不審げに呼びかけられた声に、ブルーデンスは慌てて無意識に眉間に込めていた力を抜き、歪んでしまった微笑みを作り直す。
「じっとしていて下さい、ファティマ様。完全に解けてしまいましたから、結び直しましょう」
皆の疑心の目を逸らすため、そして、心に停滞する危惧を払拭するように、ブルーデンスはファティマの黒髪にその手を伸ばした。
自分はどうなっても構わない。
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