至急、君との交際を望む

小田マキ

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 ミュラーリヤ第三弓騎兵隊隊長であるクラリス・ヴィアッカは、女性としては類稀なる体力の持ち主だ。
 そんな彼女でも、永遠のように続く性交渉には流石に精根尽き果てそうだった。
「……もっ、もうっ、も、ぁっ、だ、めっ……ふっ、かぁぃっ……」
 背後から抱き込まれた筋肉質な薄い身体は、シャトリンが組んだ胡坐の上に乗せられて、容赦なく上下に揺す振られていた。終わる気配のない抽挿への抗議は途中から掠れた喘ぎ声にすり替わり、自重でシャトリン自身を深々と吞み込まされていては逃れようがない。存分に、と狂気に駆られる彼を大いに煽る台詞を口にしたのは自分だと理解しているが、こんなのは予想外だ。
 人並み以上の持久力を保持するシャトリンに対し、どうして自分は一回で終わると思い込んでいたのだろう。普段の彼があまりに禁欲的……否、欲と言う物すら持たない無機質な人物であったから、幾ら言葉で説明されようとも、サリュート人が秘めた猟奇的なまでの生殖本能を本当の意味で理解していなかった。
 サリュート人は嘘を吐かない。
 その言葉の意味を、今激しく実感している。初めての交合の後、薄く意識を飛ばした自分の耳元でシャトリンは「もう一度」と吹き込んだが、「もう一度だけ」とは言わなかったのだ。
 挿入されて果てるまで、もう両手では足りない回数を繰り返されていた。いつの間にか結っていた紐は何処かにいってしまい、いやいやと首を振る度に肩に落ちた髪が宙に踊る。嫌がる素振りがただの虚勢でしかないことは、相手にも知れているだろう。今や血の効果なぞなくとも濡れそぼつ膣はシャトリンの形を完全に記憶してしまい、クラリスの意に反して彼を悦ばせることに余念がなかった。
 強過ぎる快楽は、苦痛よりも性質が悪い。クラリスは突き上げられる度に、自分を貫く雄を断続的に締め付けて身悶えした。互いに吐き出した物でグチャグチャに濡れているために痛みはない。恐らく本能的に、脳が快楽物質を作り出しているのだろう。少しでも痛み以外の感覚を掬い取ろうとして、次第に快感ばかりが増幅されるのだ。
 それは敵に捕らえられた捕虜が、苛烈な拷問の末に自己防衛本能を働かせ、痛覚を麻痺させるのと似ている……そんな風に分析することは出来ても、止めることは出来ない。強制的に止めさせるだけの体力も残っていなければ、身体も完全に服従していた。シャトリンの怒張が繰り返し往復し、繊細な肉襞をこじ開けると、奥へ奥へと進む亀頭を膣口は悦んで迎え入れる。実に従順に躾けられたものだ。
「あ、んんっ、んぅ……うぐっ……!」
 最奥のコリコリした子宮口までシャトリン自身をミッチリ埋められると、長大なそれは一層張り詰め、クラリスは喉笛を鳴らした。解放が近いと知るや否や胎内は期待感に切なく疼き、精を搾ろうと淫らに蠢動する。背後から感じ入ったような唸り声が上がり、反り返った項にガブリと噛み付かれた。
「……ぅっ、うぅうあっ、あっ、あーーーっ!」
 クラリスは吠えるような嬌声を上げ、胎内で彼自身が爆ぜるのとほぼ同時に達していた。上体を支えていた腕の拘束が弱まり、頭からシーツに突っ伏す。その反動で、精を吐き出して僅かに萎えたシャトリンの陰茎も抜けた。下肢を伝って大量に溢れ出した粘液の感触に、彼女は大きく身体を震わせる。微かに青味を帯びた乳白色のそれは赤い照明の下で薄赤かったが、最早血は混ざっていなかった。
 束の間訪れた休息にハーハーと荒い息を吐いていると、唐突に後ろ手を掴まれ、上体を引き上げられる。そのまま膝の上に横抱きにされると、分厚い胸板に傾いだ頭がぶつかった。
「……クラリス」
 次いで、呼吸とともに上下する旋毛に向かってシャトリンが呼び掛けてくる。二度目の交合以降、意味を成す言葉を一切喋らなくなっていた彼からの突然の呼号に、クラリスは息を整えることも忘れて顔を上げた。かち合った暗灰色の双眸は、微かに理性の光を取り戻していた。右の頬を通して伝わる鼓動もやや駆け足ではあったが、行為の最中に比べて随分と落ち着いている。
「……終わったのですか、もう?」
 掠れた声でそう問い掛けてから、自分の発した台詞が随分と名残惜しげに聞こえることに気付いた。もともと血が集まっていた頬を更に上気させたクラリスは、逸る動悸を何とか落ち着かせようと努めながら、赤い照明が血色を隠してくれることを切に願う。
「いいや、一時的に理性が浮上しただけで完全にはまだ脱していない……済まなかった」
 緩く首を横に振るとともに、心持ち落胆の色を乗せた声音が謝罪を紡ぐ。シャトリンの手は彼女の首周りを撫で擦っている。僅かに掠れた声を心配しているのかと刹那思ったが、クラリスはすぐに行為の最中に付けられた歯形のことを思い出す。
「大丈夫ですよ、大佐。見た目は派手かもしれませんが、痛くないですから。それに何もかもが初めての経験で、いちいち気にしている余裕もありませんでしたし……」
「私は君を、到底巧く抱けていたとは思えない」
 クラリスは心配無用だと伝えるつもりだったが、シャトリンは更に自省の念を深くしたようだ。普段は過度に論理的であろうとするだけに、自らが残した動物的衝動の痕跡を目の当たりにして、甚く堪えたのだろう。
「……あの、でも、そのっ……き、ききききっ……気持ち良かったですから!」
 口に出してしまった後で、何てはしたない台詞を吐いたのだとまたも頭を抱えたくなった。
「君はどこまでお人好しなんだっ、……それは私の血のせいだ」
「だからこそ、私が痛がっていたら貴方には伝わったはずでしょう? 自分の身体の変化に怖じ気づいていた私を気遣って、一度は中断してくれたのですから」
 それでも事実なのだから、否定は出来ない。なおも否定してくるシャトリンに、クラリスも確固たる自信をもって反論する。
 微弱な交感作用と催淫効果があると言うミー・ガン状態にある彼の血を経口摂取させられてから、今では大分時が経つ。窓もない地下の密室では時間の感覚は至極曖昧だったが、それでも二度目の行為の時点で効用は切れていたと確信している。合わせた肌から伝わってきた心の声は、一切聞こえなくなっていたのだから。
「私も武官の端くれ、本当に命の危険を感知すれば無意識にも反撃していたはずです。貴方も私もこれが初めての経験でしょう? 他に比べられる相手がいなくて、不安な気持ちはお互い様なのですよ。だから、私が大丈夫だと言ったら信用してください」
「……君は何と言うか、男らしいな。クラリス」
 理性を取り戻した相手にはこの方が有効だろうと、理詰めで釈明したクラリスに対し、シャトリンは感嘆も露わに呟いた。柔らかく口角を上げた世にも珍しいシャトリンを前にして、やおら今の自分の格好を思い出したクラリスは、彼の腕から抜け出そうとワタワタし始める。ただし、下肢の筋肉は疲弊し切っていて、なかなか彼女の言うことを聞かなかった。
「……何処か痛むのか?」
「違います、あのっ……見ないでください! 今唐突に我に返って、死にたいくらい恥ずかしい気分なのですよっ……」
 誤解したシャトリンが全身隈なく目を走らせてきたので、クラリスは慌てて彼の膝の上で身体を小さく折りたたむ。
「どうしてその身を恥じるのだ? 君は実に理想的な筋組織をしている。特に弓で鍛えられた広背筋は素晴らしいし、腹筋の付き方も美しい……その身体には、君のまっすぐな生き方が現れている」
 遅れてやって来た羞恥心に身悶えている彼女に対し、納得がいかない様子でシャトリンは告げる。
「……んぁっ!」
 滔々と語る賛美の台詞とともに各部位を指先でなぞられ、抑える間もなく鼻に掛かった高音が口を衝いた。意図せぬ反応だったようでビクリと跳ねた彼の指先に、クラリスの脳は更に沸騰する。
 嗚呼、穴があったら入りたい。そのまま埋葬してほしい。
「……済まない、不躾だった」
 不自然な間をおいて謝罪する彼の声音は硬い。だが、それにも増して硬く熱を持った物が尾てい骨に当たっていて、クラリスはヒュッと息を呑む。即座に知らぬふりをしていれば良かったと反省したが、今や遅し。二人の間にばつの悪い空気が流れた。
 バクバクバクッ、と心臓だけが酷く煩い。
「……あの、……します?」
 もうどうにでもなれ! と半ば自棄になったクラリスは、シャトリンにそう持ち掛ける……それでも顔は伏せたまま、声も蚊が鳴くように小さかった。つい先程まで両手に余る程致していたのだが、互いに素面の状態でとなるとまた格別な恥ずかしさがある。
「いや、抑えられる。君もさすがに限界だろう、今の内に僅かでも休まなければ。隣室は浴室になっている、身体を清めれば熱も落ち着くはずだ……少尉、君から先に」
 紳士的に首を横に振った彼に、自分から言い出したことながら、クラリスは大きな安堵感を覚える。しかし、それと同時に再び名前から階級へと形を変えた呼び名に、一抹の寂しさが胸を刺した。相反する感情に大いに動揺したクラリスは彼の腕から慌てて抜け出そうとし、柔らかなシーツに手をつく。次いで、両足に力を込めたところでピタリとその動きが止まってしまった。
「クラリス?」
「……あっ……、足に力が入らなくてっ」
 怪訝そうに呼び掛けてきたシャトリンに、泣きそうな声で立てない旨を説明し、クラリスはフルフルと首を横に振った。下腹部に重苦しい倦怠感があることは自覚していたが、まさか立ち上がることもままならぬ程に足にきているとは思わなかった。
「浴室まで運ばせてもらう……配慮が足らず、本当に申し訳ない」
 更なる慚愧の念に駆られたらしい謝罪の声は、彼らしからず深く沈んでいた。期限付きながら理性を取り戻したとは言え、こんな現状では常の理路整然とした姿勢を貫くことは難しかろう……今だって互いに一糸纏わぬ姿だ。肩に落ちたざんばら髪と両手で、申し訳程度に恥部を隠すクラリスだって、出来ることなら気絶でもして現状から逃れたかった。
 俯いた際に不可抗力で視界に入った、僅かに兆しの見えるシャトリン自身にも実際眩暈を覚える。体内に青い血が流れる彼の性器は血液が集中し、赤い照明と相俟って濃い紫に発色しており、まるで新種の果物のように映った。にもかかわらず、それはつい先程までクラリスの胎内を蹂躙し尽していたのだ……今も顔だけ見れば、性の気配など微塵も漂わせないシャトリンなのに。普段の彼がどれだけ完璧に感情を制御、統制していたか、今更ながら実感した。
「……クラリス、さすがに私も羞恥心は持ち合わせているのだが」
 控え目に窘めるような声音がして、クラリスは自分が彼の男性器に長々と見入っていたことに気付く。自らの不躾さに少なからず衝撃を受けて、喉の奥で声にならない悲鳴を上げた。
「済みませんっ! あの、それっ……処理させてください、口で!」
「はっ……?」
 どうにか取り繕おうと開いた口から飛び出した言葉に、シャトリンは一瞬虚を突かれたような顔をする。その内に言葉の意味が脳裏に染み渡ったらしく、暗灰色の瞳の瞳孔が開き、目元からじわじわと蒼褪めていく……クラリスが自ら発した台詞が恥の上塗り以外の何物でもないと気付いた時には、もう取り返しがつかなかった。
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