3 / 14
3 無敵士団の帰還
しおりを挟む
防壁が消滅した日から二年、バーゼル大陸の様相は一変していた。
暗黒界の支配者である魔王は、下部の魔物を使って大陸を蹂躙し、多くの街を廃墟にしていった。
独自の結界で護られた一部の国を除き国家は機能不全に陥り、民衆は徘徊する魔物に怯える日々を送っていた。
ルツェルン王国の王にしてバーゼル大陸連合の代表、大帝ガランテはこれらに対抗する為、魔物を退治した者に多額の報奨金を与えると宣言する。
我こそはという猛者たちが次々に勇者パーティーを設立、各所で魔物狩りが始まる。
「いいぞーがんばれー!」
「逃がすな―行け―!」
「そこだーやっちまえー!」
街の広場には、壁面に映る勇者パーティーの戦いに一喜一憂する人々の歓声が響いていた。
魔物狩りの様子は、従来よりあった伝書魔鳥による長距離通信を応用した中継網を使って、大陸の各地で上映されていた。
この中継網は、報奨金ポイント計算のために魔法道具士たちが作ったものだが、暗澹たる今の時代において、魔物狩り上映は民衆にとって最高のエンターテイメントとなっていた。
「やっぱりブライツ様は最強だわ!」
「いいえ、ルキア様も負けてないわ!」
若い女性たちが推しメンを自慢し合う、上位の勇者パーティーは彼女たちにとってアイドルのような存在だ。
中でも、大帝の第一騎士ブライツ率いるパーティーは「無敵士団」と呼ばれ、実力と共に絶大な人気を誇る。
その無敵士団においてブライツと人気を二分するのが、彼の愛弟子のルキアだ。彼は天使の生まれ変わりで人間離れした美貌を持つ。そして、レアスキルの飛行魔法を操る事ができるため「天空剣士」と呼ばれていた。
無敵士団の五人を乗せた馬車がルツェルン王国に帰還した。通常であれば盛大なセレモニーで迎えられるはずだが、今回はなぜか隠密行動を求められた。
「魔獣に対する警備が薄いな…」
街の様子を目にしたブライツは険しい顔をした。
「やれやれ、二か月ぶりの我が家だというのに仕事熱心な事だ」
長老のドルチェは呆れたようにリーダーを見た。
「おっと、すまない…みんな今日は思う存分飲み食いしてくれ」
「そうこなくてはな」
「飲み過ぎては駄目よドルチェ」
白魔術師のエクセリーヌが釘をさす。
「ドルチェの事はお前に任せるよ」
「ブライツは行かないの?」
「俺は大帝様に呼ばれているからな」
「師匠、俺も城に連れていってください!」
ルキアが懇願した。
「駄目だ、城に呼ばれているのは俺とプレザージュだけだ」
「そう言う事です。ルキアさんはしっかり静養してください」
賢者プレザージュが穏やかにルキアを諭した。
酒場は中々の盛況だった。ルキアたち三人は店の隅の立ち飲みテーブルに陣取った。
「注文してくるわ、何がいい?」
エクセリーヌに聞かれて、ルキアとドルチェは「お任せで」と頼んだ。
「赤ワインを二杯とクランベリージュースを一杯、それからローストビーフとミートパイ、後はエビのフリッターとマッシュポテト…」
エクセリーヌがカウンター越しのマスターに注文していると、
「ヘイ彼女、かわいい顔して大食いだね」
三人組の酔っ払いが絡んできた。
「ねえ、その代金、俺たちが奢るからさ、一緒に飲もうよ」
「連れがいるので」
「そう言わないでさ…」
男がエクセリーヌの肩を掴む。その手を、ルキアが払った。
「俺の仲間にちょっかい出すの止めてくれるかな」
「イケメンくん、俺たちが誰か知ってるのか?市民の安全を護ってる近衛兵さまだぞ!」
それを聞いたルキアの目が鋭くなった。
「近衛兵なら飲んだくれてないで魔獣から市民を護れよ、市中にほとんど警備がいないじゃないか」
「貴様あ、ケンカを売ってんのか!」
「まあまあまあ、どちらも落ち着いて…」
ドルチェが間に割って入った。
「うるせえ、じじいは引っ込んでろ!」
男がドルチェの胸を突いた。
「まあまあ…」
ドルチェは男の手を軽くひねる。
「うわっ!」
次の瞬間、男は吹っ飛んだ。
「じじい!何しやがった…」
別の男が恫喝する。
「いや、ちょっと待て…」
更に別の男が静止する。
「よく見ろ、こいつら…いや、このお方たちは、『無敵士団』のメンバーだ!」
「何だとお?……お、お許しください!」
男は土下座し、頭を地面にこすりつけた。
「国に戻られているとは知らず、とんだご無礼を…謝罪いたします」
もう一人の男も深々と頭を下げる。それから二人の男はのびている男を引きずって店を出て行った。
「ルキア、ごめんね…ありがと。ドルチェもね」
エクセリーヌが声をかける。
「大事にならなくて良かったが…ルキア、お前はワシなんかより遥かに強い、だがな、平和に解決する方法も学ばんといかん」
ドルチェはルキアの肩を叩いた。
「そうだね、相手がどんなクズ野郎でも殺さないように注意するよ」
ルキアは美しい顔に冷たい笑みを浮かべた。
暗黒界の支配者である魔王は、下部の魔物を使って大陸を蹂躙し、多くの街を廃墟にしていった。
独自の結界で護られた一部の国を除き国家は機能不全に陥り、民衆は徘徊する魔物に怯える日々を送っていた。
ルツェルン王国の王にしてバーゼル大陸連合の代表、大帝ガランテはこれらに対抗する為、魔物を退治した者に多額の報奨金を与えると宣言する。
我こそはという猛者たちが次々に勇者パーティーを設立、各所で魔物狩りが始まる。
「いいぞーがんばれー!」
「逃がすな―行け―!」
「そこだーやっちまえー!」
街の広場には、壁面に映る勇者パーティーの戦いに一喜一憂する人々の歓声が響いていた。
魔物狩りの様子は、従来よりあった伝書魔鳥による長距離通信を応用した中継網を使って、大陸の各地で上映されていた。
この中継網は、報奨金ポイント計算のために魔法道具士たちが作ったものだが、暗澹たる今の時代において、魔物狩り上映は民衆にとって最高のエンターテイメントとなっていた。
「やっぱりブライツ様は最強だわ!」
「いいえ、ルキア様も負けてないわ!」
若い女性たちが推しメンを自慢し合う、上位の勇者パーティーは彼女たちにとってアイドルのような存在だ。
中でも、大帝の第一騎士ブライツ率いるパーティーは「無敵士団」と呼ばれ、実力と共に絶大な人気を誇る。
その無敵士団においてブライツと人気を二分するのが、彼の愛弟子のルキアだ。彼は天使の生まれ変わりで人間離れした美貌を持つ。そして、レアスキルの飛行魔法を操る事ができるため「天空剣士」と呼ばれていた。
無敵士団の五人を乗せた馬車がルツェルン王国に帰還した。通常であれば盛大なセレモニーで迎えられるはずだが、今回はなぜか隠密行動を求められた。
「魔獣に対する警備が薄いな…」
街の様子を目にしたブライツは険しい顔をした。
「やれやれ、二か月ぶりの我が家だというのに仕事熱心な事だ」
長老のドルチェは呆れたようにリーダーを見た。
「おっと、すまない…みんな今日は思う存分飲み食いしてくれ」
「そうこなくてはな」
「飲み過ぎては駄目よドルチェ」
白魔術師のエクセリーヌが釘をさす。
「ドルチェの事はお前に任せるよ」
「ブライツは行かないの?」
「俺は大帝様に呼ばれているからな」
「師匠、俺も城に連れていってください!」
ルキアが懇願した。
「駄目だ、城に呼ばれているのは俺とプレザージュだけだ」
「そう言う事です。ルキアさんはしっかり静養してください」
賢者プレザージュが穏やかにルキアを諭した。
酒場は中々の盛況だった。ルキアたち三人は店の隅の立ち飲みテーブルに陣取った。
「注文してくるわ、何がいい?」
エクセリーヌに聞かれて、ルキアとドルチェは「お任せで」と頼んだ。
「赤ワインを二杯とクランベリージュースを一杯、それからローストビーフとミートパイ、後はエビのフリッターとマッシュポテト…」
エクセリーヌがカウンター越しのマスターに注文していると、
「ヘイ彼女、かわいい顔して大食いだね」
三人組の酔っ払いが絡んできた。
「ねえ、その代金、俺たちが奢るからさ、一緒に飲もうよ」
「連れがいるので」
「そう言わないでさ…」
男がエクセリーヌの肩を掴む。その手を、ルキアが払った。
「俺の仲間にちょっかい出すの止めてくれるかな」
「イケメンくん、俺たちが誰か知ってるのか?市民の安全を護ってる近衛兵さまだぞ!」
それを聞いたルキアの目が鋭くなった。
「近衛兵なら飲んだくれてないで魔獣から市民を護れよ、市中にほとんど警備がいないじゃないか」
「貴様あ、ケンカを売ってんのか!」
「まあまあまあ、どちらも落ち着いて…」
ドルチェが間に割って入った。
「うるせえ、じじいは引っ込んでろ!」
男がドルチェの胸を突いた。
「まあまあ…」
ドルチェは男の手を軽くひねる。
「うわっ!」
次の瞬間、男は吹っ飛んだ。
「じじい!何しやがった…」
別の男が恫喝する。
「いや、ちょっと待て…」
更に別の男が静止する。
「よく見ろ、こいつら…いや、このお方たちは、『無敵士団』のメンバーだ!」
「何だとお?……お、お許しください!」
男は土下座し、頭を地面にこすりつけた。
「国に戻られているとは知らず、とんだご無礼を…謝罪いたします」
もう一人の男も深々と頭を下げる。それから二人の男はのびている男を引きずって店を出て行った。
「ルキア、ごめんね…ありがと。ドルチェもね」
エクセリーヌが声をかける。
「大事にならなくて良かったが…ルキア、お前はワシなんかより遥かに強い、だがな、平和に解決する方法も学ばんといかん」
ドルチェはルキアの肩を叩いた。
「そうだね、相手がどんなクズ野郎でも殺さないように注意するよ」
ルキアは美しい顔に冷たい笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる