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第8話
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アサヒテレビ楽屋
アイドルグループ『SSコンプレックス』の 新谷ろんりは、スマホであの事故について検索していた、
(マスメディアは全滅か‥初日の国交省が事故調査官を派遣したって記事以降、続報無し‥SNSじゃ政府の 陰謀だの国際テロ組織の 仕業だの 胡散臭い話ばっかりだし‥
あの日、あの瞬間、あたしは何かを思い出しかけていた‥その直後に起こった事故、きっと関係があるはず)
「ハイッ」
センターの 新山みずきがろんりにカップを差し出した。
「何?」
「抹茶ミルクティー、好きでしょ。ロリリン、さっきからずっと独り言いってるから‥」
「えっ、声出てた?ゴメン、ありがとう‥」
ろんりはそそくさとカップを受け取るとみずきに背を向けた。ろんりはみずきが苦手だった、他人と一定の距離を保ってきたろんりに対して、誰とでも自然に親しくなってしまうみずきの存在は受け入れ 難いものだった。
(みずきは能力者に違いない、それもあたしとは逆の能力‥)
ろんりには秘密にしている能力があった。それは簡単に言えば相手の言葉の裏を読み取る能力、具体的には相手の言葉に含まれる気持ちやイメージ、概念を読み取る能力だ。
これは、一般に『勘が鋭い』とか『感受性が高い』と言われる物の進化形だろうとろんりは考えていた。つまり人間を通信機に例えれば、受信能力が高いと言う事だ。
それとは逆に、送信能力が高い人間もいるだろうというのがろんりの考えだった。『言葉に発信力がある』とか『存在にオーラがある』と言われる人達は、相手に自分の言葉や存在を強く印象付ける能力があって、その能力が強い人間は、他人の考えに干渉する事もあるはずだと思っていた。誰もがみずきを何となく受け入れてしまうのは、その能力が高いからだと‥
(もしかすると、あの胸のざわつきの原因は事故現場にいた能力者の干渉を受けたからかもしれない‥だとしたら、その能力者はみずき以上に強力な力を持っている事になる。しかも、あたしの過去に何か関係があるとしたら‥やっぱり何とかして探し出さなきゃ、こんなもやもやした気持ちのままじゃいられない!)
* * *
ハヤセモータース設計開発室
主任の黒崎迅がハヤセモータース社長の早瀬正造と電話で話している。
『大事なモーターショーでトラブルとはとんだ失態だな』
「申し訳ありません、が、事態は収束しつつあります」
『当然だ、これ以上調査が続いて裏OSの存在が明るみに出るような事にでもなってみろ、我が社の評判は地に落ちるぞ』
「あれは海外の極秘サーバーから105の揮発性メモリにロードされますので、緊急停止された段階で消滅しています。絶対に存在を知られる事はありません」
『信じていいんだろうな?前任の桐生森雄は天才だったが、私を裏切った。だから君には期待しているのだよ、桐生を越えられない迄も、私を納得させられるだけの成果を出してくれる事をね‥』
電話を切った黒崎、
「僕が桐生森雄より劣るだと?バカにするな!僕は誰よりも優れているんだ‥誰よりも!」
そう言うと机の書類を乱暴に手で払った。
「海外の極秘サーバー?‥そんなもの存在しないと知ったら社長はどんな顔するかな‥」
黒崎は不敵な笑を浮かべながら机のノートPCを手で撫でた。
ホテルの一室
携帯で調査室長の佐高に電話を掛けている章生。
「室長、PD-105の発表会を中止させてください。まだ暴走の原因が分かっていないんですから」
『それは‥できんよ。採取したデータと設計データに差異は無かったんだろう?欠陥があるという確証でもない限り、我々にPD-105の出荷時期を遅らせるような事をする権限は無い。
出張は今日までだったね、早く戻って報告書をまとめてくれたまえ‥』
「今、ここを離れたら確実に証拠を隠蔽されます。あと数日延長させてください」
『物騒な事を言うもんじゃない、とにかく一旦戻りたまえ』
「室長、経産省から横槍が入ってるんじゃないですか?」
『‥それは君が気にする事じゃない』
佐高が一瞬言い淀むのを見逃さず食い下がる章生、
「ハヤセモーターはPDにもう一つのOS、非正規のOSを搭載している疑いがあります」
『なに、そんな事をしてハヤセに何の得があるんだ?』
「公道でのAI完全自動運転の実験をする為です。AIコンピュータを成長させるには公道での実践データの蓄積が必須、しかし事故責任の所在が明確でない為、公道では完全自動運転の使用が認められていない。そこで表面上は自動運転レベルを落としたOSを使用し、裏で非正規のOSを使用してデータ収集しようというのがハヤセの目的だと思います」
『大した推理力‥というか想像力だが、証拠は何もないんだろう?発表会と言っても発売はまだ数ヶ月先だ、データを持ち帰って、じっくり腰を据えて調査すればいい』
「そんな悠長な‥今、手を打たなければ暴走する危険を秘めたままのロボットが公道を歩き回る事になるんですよ。それを止められなくて何が国交省ですか!」
『分かった、止めても無駄なようだな‥しかし、やるからには必ず確証を掴め、でなければ調査を強行した国交省の立場が無くなるからな』
アイドルグループ『SSコンプレックス』の 新谷ろんりは、スマホであの事故について検索していた、
(マスメディアは全滅か‥初日の国交省が事故調査官を派遣したって記事以降、続報無し‥SNSじゃ政府の 陰謀だの国際テロ組織の 仕業だの 胡散臭い話ばっかりだし‥
あの日、あの瞬間、あたしは何かを思い出しかけていた‥その直後に起こった事故、きっと関係があるはず)
「ハイッ」
センターの 新山みずきがろんりにカップを差し出した。
「何?」
「抹茶ミルクティー、好きでしょ。ロリリン、さっきからずっと独り言いってるから‥」
「えっ、声出てた?ゴメン、ありがとう‥」
ろんりはそそくさとカップを受け取るとみずきに背を向けた。ろんりはみずきが苦手だった、他人と一定の距離を保ってきたろんりに対して、誰とでも自然に親しくなってしまうみずきの存在は受け入れ 難いものだった。
(みずきは能力者に違いない、それもあたしとは逆の能力‥)
ろんりには秘密にしている能力があった。それは簡単に言えば相手の言葉の裏を読み取る能力、具体的には相手の言葉に含まれる気持ちやイメージ、概念を読み取る能力だ。
これは、一般に『勘が鋭い』とか『感受性が高い』と言われる物の進化形だろうとろんりは考えていた。つまり人間を通信機に例えれば、受信能力が高いと言う事だ。
それとは逆に、送信能力が高い人間もいるだろうというのがろんりの考えだった。『言葉に発信力がある』とか『存在にオーラがある』と言われる人達は、相手に自分の言葉や存在を強く印象付ける能力があって、その能力が強い人間は、他人の考えに干渉する事もあるはずだと思っていた。誰もがみずきを何となく受け入れてしまうのは、その能力が高いからだと‥
(もしかすると、あの胸のざわつきの原因は事故現場にいた能力者の干渉を受けたからかもしれない‥だとしたら、その能力者はみずき以上に強力な力を持っている事になる。しかも、あたしの過去に何か関係があるとしたら‥やっぱり何とかして探し出さなきゃ、こんなもやもやした気持ちのままじゃいられない!)
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ハヤセモータース設計開発室
主任の黒崎迅がハヤセモータース社長の早瀬正造と電話で話している。
『大事なモーターショーでトラブルとはとんだ失態だな』
「申し訳ありません、が、事態は収束しつつあります」
『当然だ、これ以上調査が続いて裏OSの存在が明るみに出るような事にでもなってみろ、我が社の評判は地に落ちるぞ』
「あれは海外の極秘サーバーから105の揮発性メモリにロードされますので、緊急停止された段階で消滅しています。絶対に存在を知られる事はありません」
『信じていいんだろうな?前任の桐生森雄は天才だったが、私を裏切った。だから君には期待しているのだよ、桐生を越えられない迄も、私を納得させられるだけの成果を出してくれる事をね‥』
電話を切った黒崎、
「僕が桐生森雄より劣るだと?バカにするな!僕は誰よりも優れているんだ‥誰よりも!」
そう言うと机の書類を乱暴に手で払った。
「海外の極秘サーバー?‥そんなもの存在しないと知ったら社長はどんな顔するかな‥」
黒崎は不敵な笑を浮かべながら机のノートPCを手で撫でた。
ホテルの一室
携帯で調査室長の佐高に電話を掛けている章生。
「室長、PD-105の発表会を中止させてください。まだ暴走の原因が分かっていないんですから」
『それは‥できんよ。採取したデータと設計データに差異は無かったんだろう?欠陥があるという確証でもない限り、我々にPD-105の出荷時期を遅らせるような事をする権限は無い。
出張は今日までだったね、早く戻って報告書をまとめてくれたまえ‥』
「今、ここを離れたら確実に証拠を隠蔽されます。あと数日延長させてください」
『物騒な事を言うもんじゃない、とにかく一旦戻りたまえ』
「室長、経産省から横槍が入ってるんじゃないですか?」
『‥それは君が気にする事じゃない』
佐高が一瞬言い淀むのを見逃さず食い下がる章生、
「ハヤセモーターはPDにもう一つのOS、非正規のOSを搭載している疑いがあります」
『なに、そんな事をしてハヤセに何の得があるんだ?』
「公道でのAI完全自動運転の実験をする為です。AIコンピュータを成長させるには公道での実践データの蓄積が必須、しかし事故責任の所在が明確でない為、公道では完全自動運転の使用が認められていない。そこで表面上は自動運転レベルを落としたOSを使用し、裏で非正規のOSを使用してデータ収集しようというのがハヤセの目的だと思います」
『大した推理力‥というか想像力だが、証拠は何もないんだろう?発表会と言っても発売はまだ数ヶ月先だ、データを持ち帰って、じっくり腰を据えて調査すればいい』
「そんな悠長な‥今、手を打たなければ暴走する危険を秘めたままのロボットが公道を歩き回る事になるんですよ。それを止められなくて何が国交省ですか!」
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