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第10話(最終回) きっとこれが大団円なのでしょう
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一命を取り留めたウイリアムは前王妃派の手によって匿われ、成長してからは猟師に扮して街に潜伏し、復讐の機会を伺っていました。
ウイリアムは、城の内と外を結ぶ秘密の地下通路の存在を知っていました。
私が秘薬をお婆様に届けるという情報を得たウイリアムは、過去の出来事から秘薬が偽物である可能性が高いと推測しました。そこで、地下通路を使って城に潜入すると、秘薬を盗んで私の後を追いかけたのでした。
* * * * *
「悪事の証拠は掴んでる、覚悟しろ!」
ウイリアムは継母を指差しました。
「認めません、認めませんよ私は…」
継母の悪あがき、これは私の想定した通りの反応です。
私は継母に詰め寄り、
「お婆様は手遅れでした…あなたにとってはどうでもいい事かもしれませんけど」
と言って右の袖をまくり上げました。そこには、はっきりとした噛み傷がありました。
「お婆様だった狼に噛まれた傷です。痛かったあ…」
「まさか…赤ずきん、感染したのですか!」
継母の顔色が変わりました。
遂に復讐の時が来たのです。私の筋肉は盛り上がり、全身を毛が覆い…そして私は、狼に変身しました―
顔面蒼白の継母に向かって、私は喉の奥から唸り上げるように言いました。
「判決を言い渡します、あなたは……死刑!」
私は大きな口を開き、継母の首筋に牙を立てました。
「ヒィィィィ…」
継母は死の恐怖に失禁し、白目を剥いて気を失いました。
* * * * *
結局、私は継母を殺しませんでした。死をもって罪を帳消しにはしたくなかったからです。
それから、本当の母君は生きていました。完全に狼となり人としての記憶はありませんが、地下牢で鎖に繋がれながら生きながらえていたのです。
母君の為に柵に囲われた庭園を用意し、その面倒を一生を賭けて継母に見させる事にしました。それが因果応報というものです。
私は秘薬を使って自分の人狼病を治すと共に、緑の里にいるランスロットの妹も治療しました。
それから方々探し回りましたが、ランスロットも少年も行方は分からないまま時は過ぎていきました…
* * * * *
あれから3年が過ぎました。
のんびり者の父王が早めの退位を希望した為、ウイリアムが王位を継ぐことになり、今日はその戴冠式です。
王の間でウイリアムと私は来賓を迎えては挨拶するという作業を繰り返していました。
「退屈ですね兄君…」
「退屈だな赤ずきん…」
私達は朝からこんな事ばかり話していました。
「リン国のナイジェル王子、ご来場ー!」衛兵が告げました。
「リン国の王子?」
私が訊くと、ウイリアムは首を横に振りました。
「俺も会った事が無いな」
大扉が開かれ、そこに立つ人物を見た私は目を疑いました。
「あなたは…」
「言ったでしょう?僕は強いと」
その人は、立派な青年に成長した、あの少年でした。
「もっと早く参上したかったのですが、しばらくの間、ランスロットを連れて辺境を旅していたので。勝手ながらランスロットは改心したと判断して故郷に帰しました。マズかったですか?」
「いいえ、それで…それが良いと思います」
運命の出会い、なんて信じてはいなかったけれど、もし万が一そんなものが存在するとしたら、きっとこれがそうなのだろうと私は思いました。
「ナイジェル様、辺境を旅した時の話、聞かせていただけますか?」
「はい喜んで!これがもう驚きの連続で、始まりは…」
(完)
ウイリアムは、城の内と外を結ぶ秘密の地下通路の存在を知っていました。
私が秘薬をお婆様に届けるという情報を得たウイリアムは、過去の出来事から秘薬が偽物である可能性が高いと推測しました。そこで、地下通路を使って城に潜入すると、秘薬を盗んで私の後を追いかけたのでした。
* * * * *
「悪事の証拠は掴んでる、覚悟しろ!」
ウイリアムは継母を指差しました。
「認めません、認めませんよ私は…」
継母の悪あがき、これは私の想定した通りの反応です。
私は継母に詰め寄り、
「お婆様は手遅れでした…あなたにとってはどうでもいい事かもしれませんけど」
と言って右の袖をまくり上げました。そこには、はっきりとした噛み傷がありました。
「お婆様だった狼に噛まれた傷です。痛かったあ…」
「まさか…赤ずきん、感染したのですか!」
継母の顔色が変わりました。
遂に復讐の時が来たのです。私の筋肉は盛り上がり、全身を毛が覆い…そして私は、狼に変身しました―
顔面蒼白の継母に向かって、私は喉の奥から唸り上げるように言いました。
「判決を言い渡します、あなたは……死刑!」
私は大きな口を開き、継母の首筋に牙を立てました。
「ヒィィィィ…」
継母は死の恐怖に失禁し、白目を剥いて気を失いました。
* * * * *
結局、私は継母を殺しませんでした。死をもって罪を帳消しにはしたくなかったからです。
それから、本当の母君は生きていました。完全に狼となり人としての記憶はありませんが、地下牢で鎖に繋がれながら生きながらえていたのです。
母君の為に柵に囲われた庭園を用意し、その面倒を一生を賭けて継母に見させる事にしました。それが因果応報というものです。
私は秘薬を使って自分の人狼病を治すと共に、緑の里にいるランスロットの妹も治療しました。
それから方々探し回りましたが、ランスロットも少年も行方は分からないまま時は過ぎていきました…
* * * * *
あれから3年が過ぎました。
のんびり者の父王が早めの退位を希望した為、ウイリアムが王位を継ぐことになり、今日はその戴冠式です。
王の間でウイリアムと私は来賓を迎えては挨拶するという作業を繰り返していました。
「退屈ですね兄君…」
「退屈だな赤ずきん…」
私達は朝からこんな事ばかり話していました。
「リン国のナイジェル王子、ご来場ー!」衛兵が告げました。
「リン国の王子?」
私が訊くと、ウイリアムは首を横に振りました。
「俺も会った事が無いな」
大扉が開かれ、そこに立つ人物を見た私は目を疑いました。
「あなたは…」
「言ったでしょう?僕は強いと」
その人は、立派な青年に成長した、あの少年でした。
「もっと早く参上したかったのですが、しばらくの間、ランスロットを連れて辺境を旅していたので。勝手ながらランスロットは改心したと判断して故郷に帰しました。マズかったですか?」
「いいえ、それで…それが良いと思います」
運命の出会い、なんて信じてはいなかったけれど、もし万が一そんなものが存在するとしたら、きっとこれがそうなのだろうと私は思いました。
「ナイジェル様、辺境を旅した時の話、聞かせていただけますか?」
「はい喜んで!これがもう驚きの連続で、始まりは…」
(完)
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