赤ずきん姫、愛する騎士に守られてお婆様のお見舞いに行く。今夜もまた一人犠牲者に、人狼は誰?

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第9話 早く薬を届けなくては…そして旅が終わりました

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ランスロットは剣を振り上げました。

「姫様、あなたの命を私に下さい!」

慈悲深いヒロインなら素直に受け入れたかも知れません、でも私は誰かの犠牲になるなんてまっぴらです。

「嫌よ、私は生きる!」

「御免…」

ランスロットは剣を振り下ろしました。

カキーン

一瞬の火花。

私の前には、火かき棒で剣を受け止める少年がいました。

少年は剣を払いのけると、私をかばいながらランスロットと間合いを取りました。

「ここは僕に任せて逃げてください」

「でも…」

「大丈夫、僕は強いので」

少年はウインクしました。

「薬を届けたら戻ってきます!」

私はそう言うと、お婆様のいる湖畔の村に向かって走り出しました。

 * * * * *

夜の森は何が出るか分からない魔の領域です。でも今はそんな事、気にしていられません。

私は破裂しそうな心臓を抱えたまま走り続けました。

 * * * * *

幸運にも何も起きないまま湖畔の村に到着しました。

私は記憶を頼りにお婆様の家に辿り着きました。

お婆様はメイドと二人暮らしです。私を迎えたメイドは憔悴した顔で、お婆様は突き当りの部屋にいると告げました。

「お婆様、赤ずきんです」

部屋に入るとお婆様はベッドで頭から布団を被っていました。

「お婆様、薬をお持ちしました」

声を掛けても返事はありません。

「グルルル…」

くぐもった唸り声を上げながらベッドから何かが這い出してきました。

それは、狼でした。

獲物を狙うようなその目を見た時、私は直感しました、手遅れだったのだと…

 * * * * *

トアル城、王妃の間。私は帰ってきました。

「赤ずきん、ご苦労様でした。先代王妃様の容態はどうでした?」

私は継母の質問を無視しました。

「お継母さま、訊きたい事があります。前王妃、私のお母様を殺したのはあなたですね?」

「何を言い出すのです。そんな訳無いでしょう!」

「ローザが告白しましたよ。親友だったお母様から王妃の座を奪う為に、隠し持った狼の血を注射し人狼病に感染させ、更に秘薬を偽物にすり替えたと」

「たかがメイドの言葉なぞ誰が信じるでしょう」

継母は開き直りました。

「じゃあ、俺の事は覚えているか?」

「お前は何者です?先程から気にはなっていましたが…」

私の隣には、あの猟師が立っていました。

 * * * * *

狼になってしまったお婆様に襲われた私を救ったのは猟師でした。

森の中で私を見つけた猟師は、秘かに私を護衛してくれていたのです。

それから私は猟師の馬に乗せられて、野営していた馬車の元に戻りました。

しかし、そこにはランスロットの姿も少年の姿もありませんでした…

 * * * * *

猟師は継母に向かって歩を進めました。

「何なのですお前は、出て行きなさい!」

「俺か…俺はあんたに崖から突き落とされたウイリアムだよ」

継母は驚きを隠せませんでした。

そう、猟師は死んだと思われていた兄君のウイリアムだったのです。
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