ヴァルキリーレイズ

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第一笑(オーディン編)

3 : スライム討伐、衝撃の事実

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 スライム討伐のクエストを達成するため、街を出た俺たち四人はついに草原の上を跳ねる生物を目の当たりにする。

「これがスライムか……」
「ネヨーン……ネヨーン……」

 ネヨーンと言いながら跳ねるだけのモンスター。ジェル状の物体に目が二つだけの可愛らしい生き物だ。

「ここにいるスライム達なら一撃で倒せると思うから、早速コウタにやってもらおうかしら」

 赤髪ポニーテールの少女、ネーシャは期待の眼差しで俺に言った。

「あのな、俺は剣を握ったことも無い初心者だぞ。もっと手厚く指導してはもらえませんかね、師匠?」

 ネーシャは笑い出す。

「握ったこともないのは嘘でしょう? 今、握ってるじゃない!」
「ソウナンダケド……そういうことじゃねぇ! まずは手本を見せてくれってことだ!」
「しょうがないわねぇ……よく見てなさいよ」

 ネーシャはダガーを構える。スライムが跳ねて地面から離れた瞬間。

「ネヨ……」

 空中でスライムが真っ二つになる。
 しかしどういうことか、ネーシャの体は一歩も動いていないのだ。間合いは五メートルほどあるにも関わらず、彼女は剣すら振っていない。

「こんな感じね」
「分かるかァ!!??」

 というか、俺にこれほどのことを期待していたのか? 
 シャミーが俺の袖を引っ張る。

「コウタ。剣を貸すのにゃ」
「お、おう」

 ダガーを一本、シャミーに渡す。

「見てて」

 シャミーはスライム目掛けてトテトテ走っていく。そして剣の間合いに入るとぴょんと跳んでスライムを一刺し。

「ネヨーン……」

 スライムは力なく鳴いて溶けてゆく。
 白猫のシャミーが俺の方へ帰ってくると、俺はぎゅっと彼女を抱きしめた。

「にゃ?」
「いい子だシャミー。今度魚釣りに連れて行ってやるからな」
「あ、ありがとうにゃ……?」

 猫耳がもふもふで気持ちよく、鼻で撫でるとピクピクして可愛い。

「おいロリコン」
「キェッ……」

 シャミーに抱きつく俺の背後、他の誰でもないミカンの殺気が寒気を誘う。

「スライムよりもロリコン退治が先だったな?」
「ふっ……」

 俺はシャミーの肩に手を置いて向き合う。

「シャミー、見ててくれ、俺の活躍を」
「う、うん。頑張るのにゃ、コウタ」

 俺はわかっている。これからこの自称最強神を謳う幼女に、その小さな体躯からは考えられないほどの力で殴り飛ばされるのだということを。
 構えろスライム、それが戦闘開始のゴングだ。

「エンシェントブロー!!!」
「おい待て、何で技名――」

 俺は天高く打ち上げられた。その、地面を割るほどの覇気を持った、金色に輝く小さな拳によって。

「うぎゃぁぁぁぁああああ!!!!」
「くたばれ! ロリコン!」
「ミカン、そのスキルは……まさかあなた」
「へっ? あ……これは、その……」

 高度もピークに達した直後、重力加速度を味方につけた俺はダガーを下に構え、スライムを視界の中心に捉えた。

「うぎぁぁぁあワハハハハァ!!! これは俺とミカンの連携技なのだ! 油断したなスライム! 喰らえ! 神と人間が織り成すいちげ――ごぎゃっ!?」

 言い終わる前に俺の体は地面に着地。その衝撃で見事スライムを倒すことが出来た。
 スライムがいなかったら俺、死んでたかも。

「み、ミカン。助け……ん?」

 地面にひれ伏したまま、ミカンに視線を向けると何やら辛辣な雰囲気。ネーシャと何か話しているみたいだが……。

「私は名もなき神だ。その証拠に、ミカンという名前をコウタから授かっている」
「でも、エンシェントブローは上級神にしか使えないはずじゃ……」

 何を言い合っているんだ? 神だの何だのって。
 立ち上がり、二人の元へ。

「何を話してるんだ? 俺の活躍には目もくれずってか?」
「コウタ、聞きたいことがあるの。ミカンは何者」
「えっ……」

 ただのポンコツ神ですけれども。

「名もなき神……ではないわよね」
「だったら何だって言うんだ?」
「もしかしたら、アレなのかもしれないと思ったの」
「アレ?」

 尋常ではない重い雰囲気に、表情に力が入る。シャミーは心配そうに俺を見ていた。
 ただ、一番気になったのはミカンだ。ここまでかと言わんばかりに俯く。まるで何かを隠していたみたいに。
 そこで俺の脳裏をよぎったのはやはりあの名前。彼女が他人に隠すことといえばせいぜい、それくらいしか思い浮かばない。だがそんな事を出会って間もない俺なんかに教えるのか?
 でも、今はこれ以外には思いつかない。
 そう、それは戦場の裁判人あり最強の戦神――。

「――ヴァルキュリア……じゃないかと思ったのよ」

 唾液を飲み下す。
 決して少なくはない神の中から、その名前を引き出してくるのだ。当然俺は驚かずにはいられない。
 可能性として、ヴァルキュリアという神は過去、とんでもないことをしでかしたのではなかろうか。
 ミカンが本当にヴァルキュリアだったとして……なぜ日本にいた? なぜダンボールの中で全裸であった? いつから? 誰にも発見されなかったのか? 俺がたまたま、彼女がやってきた瞬間、その時間にそこを通っただけなのか?
 俺に魔王を探せとか言ってきたが、そもそもその目的はなんだ?
 ……ていうか、何で俺こんなことしてんだ?

「……」

 だが、ネーシャとシャミーは俺の仲間であり、命の恩人でもある。嘘をつくわけには行かない。
 俺はまだミカンがヴァルキュリアという神であることを信じきってはいないのだが。
 俺はミカンに向き、真剣な表情を向けた。

「ミカン、真実を話すんだ。お前は、何者だ」
「私は……」

 この先のミカンの発言で、もしかしたら俺達の関係は終わってしまうのかもしれない。最悪の場合、俺の命までも狙われることになるかもしれない。だがもう後には引き返せないんだ。彼女の口から放たれる言葉が……俺を生かすか死なすか。穏やかすぎる戦場でその判決は言い渡された。

「私は戦神ヴァルキュリア。戦場の裁判人。″最凶″の神である……」
「……」

 何でだ? どうしてだ? どうしてお前たちはそんな目でミカンを見るんだ? 

「コウタ。あなたはこの事、知ってたのかしら?」
「ヴァルキュリアってことは知ってた……けど」

 まさか本物だとは思っていなかったが。

「じゃあ、どうして彼女と冒険者に?」
「ミカンとは別の世界……俺の故郷で出会って、魔王を探すためとかでここに送り飛ばされて……勢いで冒険者に」

 別の世界とか言って通じるかは分からないが、その言葉を言い換えて説明するほど俺の心に余裕はない。

「なるほどね。そういう事か」
「どういう事だ?」

 ネーシャはミカンを指さす。

「その子――魔王よ」
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