ヴァルキリーレイズ

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第一笑(オーディン編)

4 : カミとトモに

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 俺は初めて、ミカンを畏怖の目で見てしまった。

「ミカンが、魔王?」

 ネーシャの口から放たれた衝撃的すぎるその言葉を、俺はその瞬間に飲み込み切れていなかった。
 なぜなら、ミカンが魔王だというのはおかしい。だって彼女は「魔王を探してくれ」と俺に頼んできたのだから。

「厳密に言えば、ヴァルキュリアは現在、魔王ではないわ」
「現在……?」
「今の魔王は主神オーディン。ヴァルキュリアの格上となる神よ」

 オーディンとか、ヴァルキュリアとか、こぞって名高い神がつらつらと……。

「ヴァルキュリアは一度、この世界の人類を滅ぼしたの」
「は……?」
「大きな戦争でこの世界全てが戦場と化し、そしてこの世界全てをふるいにかけた。彼女が選んだのは全ての死」

 ミカンが……そんなことを?

「それを見たオーディンはヴァルキュリアを堕神(オチガミ)として、彼女の力を奪い、この世界から追放した」

 そしてヴァルキュリアは日本へ……。そこで俺と出会ったということか。

「でも、この世界の人たちは健在じゃないか。ヴァルキュリアが……ミカンが、滅ぼしたんだろ……」

 ミカンは依然として俯いている。

「人類を復活させたのはオーディン。ヴァルハラに送られた人間たちを、この世界に送り返したのよ」

 オーディン、すごい神だな。

「そしてオーディンはその知識を民に与え、ヴァルキュリアを最凶最悪の神として伝説とした。その伝説″ラグナロク″には最後『今も、彼女は生きている』と記されて」
「でも、そんなのただの神話だろ? その、オーディンっていう今の魔王が作ったタダの作り話じゃないのか」

 ネーシャは首を横に振る。

「コウタの世界では架空の存在かもしれないけれど、この世界では神と人間は身近な存在なの。名もなき神から、最高神まで」

 宗教や、その信仰心からくるものではないということか?
 冒険者のパートナーとなるカミトモ……神友。
 この世界では、やはり神は実在している?

「今となっては魔王は悪人ではなく、人類を救った英雄として、魔法王として尊敬されている」
「それで、ミカンをどうするつもりだ?」

 どうせ俺もろとも殺されるのなら、これ以上話を聞いても無意味だろう。

「勘違いしないで。私はあなた達の敵じゃない」
「え?」

 辛辣な表情から一転、ネーシャは優しく微笑む。

「ヴァルキュリアをどう思うのかは人それぞれ。私は少なくとも悪い神だとは思ってないわよ」
「でも、ヴァルキュリアは人類を滅ぼしたんだろ?」
「言ったでしょ? 大きな戦争でこの世界が全て戦場となったの。ヴァルキュリアは戦場以外で判決を下すことは出来ない。世界全てが戦場になるほどの戦争よ? 私がヴァルキュリアだったら、同じことをしてたかもしれないわ」

 そうか。
 ヴァルキュリア――ミカンは戦争を終わらせるために、人類を……。

「別にヴァルキュリアを殺せだなんてオーディンは一言も言ってないし。一緒に冒険してたってバチは当たらないわよ。きっと」

 俺の肺から、鉛のように重たく感じる空気が抜けていく。

「何だよ……それを早く言ってくれよ。俺たち敵同士になるのかと思ったぞ」
「あはは。ごめんごめん。でもさっきも言ったように、考え方は人それぞれ。どこかの誰かはヴァルキュリアをよく思っていないかもしれないから、それは覚悟しておいて」
「ああ。わかった」

 ミカンがギルドで自分の名前を隠していたことも納得がいった。そしてこいつが本当にヴァルキュリアだったということも。
 ずっとオドオドして聞いていたシャミーは泣きながらミカンに抱きついていた。

「うにゃぁ~ミカン~!」
「良かったなミカン」
「ふん」

 撫でようとする俺と頭を振って避けるミカンの戦いが繰り広げられる中、ネーシャが「そういえば」と漏らす。

「ミカンはコウタに『魔王を探せ』って言ったのよね?」
「そうだけど、それがどうしたのか?」

 ネーシャは顎に手をあて、考える。答えが出なかったのか、今度はミカンに視線を向けるとそれに応えるのはミカン。

「私がこのまま生きていても仕方がない。オーディンに会って、殺してもらうためだ」
「なっ……」

 魔王を倒すためではなく、自分を殺してもらうためだって?

「ふさげるな!」
「ふざけていない!」

 強く、ミカンの肩を掴む。

「お前が死ぬ必要なんてない!」
「お前にその必要がなくても、私にはその必要がある! 力を失った神など神ではない!」

 あれだけ自分のことを最強の神だとか言ってたくせに、エラく謙遜するじゃないか。

「じゃあ俺は……」
「オーディンに頼んでお前の故郷に返してもらえ。それくらいのことなら容易くしてくれるだろう」

 日本に帰れるのならそれに越したことはないのかもしれないが、何だか納得がいかない。だってこいつが死ぬ必要なんてないんだから。

「神のプライドとか捨てろよ! お前は俺と出会った時からポンコツだったろ? これからもそれでいいじゃないか」
「ポンコツ言うな。……悪いが神としての威厳は捨てられない。どうしても私を生かしておきたいのなら、オーディンを説得するか倒すなりして、私の力を取り戻せ」

 最強の神であるヴァルキュリアをも下すオーディンを説得しろと? それともこの手で倒せと言っているのか? 人間が神と渡り合えるとでも?
 そうなればネーシャとシャミーは力を貸してくれないだろう。英雄として崇められるオーディンを敵に回すなんてこと……。

「コウタ! オーディンを倒しましょう!」
「へ?」
「私達も力を貸すのにゃ!」
「ど、どうして……?」

 こんなにもあっさり協力してくれるとは思いもしなかった。俺たちは出会ってまだ一日も経っていないというのに。

「考え方は人それぞれ。オーディンを英雄として讃えるのか、そうでないかも、人それぞれよ」

 この人たちは、オーディンを英雄として崇めていないのか? ヴァルキュリアを敵視していない彼女たちだからこそ、そういった考え方ができるのかもしれない。
 更にネーシャは親指を立てて。

「それに、コウタは大事なシーカー職の一人だから、見捨てるがわけないでしょう!」

 片目を閉じて笑うネーシャに、俺の体は熱く、火照った。今すぐにでも抱きしめてやりたいくらいに高まった感情が、やはり俺をつき動かした。

「シャミぃぃい!!!」
「うにゃにゃぁぁ! どうして私なのにゃ!?」

 やはりシャミーの耳はふかふかで気持ちがいい。今度はパクパクとその耳を味わった。

「ひゃにゃにゃ! くすぐったいのにゃぁ! にゃ……にゃははは! コウタ、アゴはダメなのらぁー!」

 そこで俺の袖を掴んだのはミカン。

「ん?」
「コウタ……オーディンと、戦ってくれるの?」

 切ない瞳で見上げる幼女のどんぐり眼。それが何を企んでいようとも俺は力を貸すことだろう。

「ああ。それに魔王討伐なんて、冒険者らしくていいじゃないか」
「コウタのくせに、生意気だ」

 泣いてもいいのではないかと思えるほどに切ないその瞳から、涙が零れることは無かったが、俺はこの日この時、最強のカミトモにオーディンと戦うことを決意した。
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