11 / 33
第一笑(オーディン編)
10 : 新ダンジョン
しおりを挟む
俺は日々コツコツとクエストをこなしてお金を貯めている。そのどれもが採取クエストなのだが、その報酬もバカにはできない。
何日かこの世界で暮らしていると大体物の相場が把握出来てくる。採取クエストの報酬でも、贅沢しなければ難なく過ごせるのだ。
それはギルドのクエストボード前。
「コウタ! ダンジョンに行くわよ!」
「あ?」
決まって俺の安寧を崩壊させるのはこの師範級シーカーであり我らがパーティリーダーのネーシャだ。
「この街の近辺で新たなダンジョンが発見されたらしいの! 他のパーティにお宝を先取りされる前に行かなくちゃ!」
「あのなネーシャ。難易度不明の新ダンジョンに、俺のような駆け出し冒険者が入っても足でまといになるだけだ。言いたいことはわかるな?」
ネーシャはキョトンとした顔の後、閃いたように手を打つ。
「積極的にコウタを戦わせればいいのね!」
「お前一人で行ってこい」
「何でよ~! あれから色々とスキルを教えてあげたんだし、今のコウタでも大丈夫よ!」
想像を遥かに超える腕力で肩を掴むなこの馬鹿力女が。
「何が大丈夫だ! お前が教えるスキルはどれもこずるいものばかりじゃないか! モンスターと正面から戦うなんてできないんだよ!」
俺のスキルポイントはギガウルフ戦でかなり溜まっていたようで、事実色々とスキルを習得することができたのだ。何故かと言うと、ギガウルフがサラの魔法によって消し飛ばされる直前に、突き出した俺のダガーの切っ先が当たっていたらしい。そして、問題のスキルなのだが……。
気配を消す「スニーキング」、水面を移動することが出来る「ウェーブフット」、高速で穴を掘る「ホール」。どれも真正面からの勝負では使いづらいものばかりだ。
「仕方ないじゃない。シーカーの基礎スキルは大体そんなものよ」
シーカーが不人気である理由のひとつがこれだろう。地味で陰湿で味方の支援もできない自己満足ジョブなのだ。
「でも安心して。上級のものになるとすごく強力なスキルだって沢山あるんだから!」
「そりゃあシーカーのお前が特殊部隊に入れるくらいだし、強いスキルはあるだろうよ。だが今の俺が詳細不明のダンジョンに入るべきではない」
「ああ言えばこう言うわね」
「ああ言って来たからこう言っただけだ」
今にも手が出そうな俺たちの間に入ったのはサラ。
「まぁまぁお二人とも。冷静になって話し合わないと……」
「話し合ってるじゃない! なんか文句あるわけ!? このポンコツプリースト!」
「はぅ……酷いですよネーシャさん」
こいつ……サラに八つ当たりを。
「サラに乱暴な口聞くんじゃねぇよバカが! お前は大体――」
「誰がバカですってぇー!? もう一度言ってみなさいよ切り刻んであげるわ!」
「何度でも言ってやるさ、バーカバーカ!」
「うがァァァ!!!」
ネーシャが俺に飛びかかろうとした瞬間、傍らでわざとらしい咳払い。ギルドの嬢長だ。
「クエストボードの前で騒がれますと、他の方に迷惑なんですけど」
「「ごめんなさい」」
口を揃えて謝る俺とネーシャに嬢長はニッコリと笑う。
「分かればいいんです。……そういえばお二人はシーカーでしたよね?」
「はい。そうですけど」
何やら思いついたように手を打って嬢長は続ける。
「ペナルティとして、お二人には新ダンジョンへの探索に向かってもらいます」
「な、何だって……」
「新ダンジョンには危険なモンスターが潜んでいる可能性が高く、この街の冒険者では中々踏み込むことがいないんですよ。ですからダンジョンの調査を任せたいのです」
シーカーだからか!? シーカーだから敵に発見されることなくダンジョンを進めるとでも!?
ネーシャはやれやれと首を振る。
「仕方ないわね~。ペナルティなら断るわけにはいかないわ、それも嬢長の頼みなんですもの、ね? コウタさん?」
こいつゥ……ニヤニヤしやがって。
だが、ペナルティとして課せられては拒否できないな。それに強いモンスターが潜んでいると決まったわけじゃないし、報酬も高くつくだろう。いざとなったらネーシャとサラがいることだし。
「分かったよ。行こう、新ダンジョンに」
◇
ダンジョンの入口は、街を出てすぐの所にあった。
「近辺とは聞いていたが、これはもはやサイラの所有地なんじゃないのか?」
街の城壁に隣接するように、地下への階段が続いていた。
「でも、ギルド公認の新ダンジョンよ?」
「もしかしたら、古い時代に作られたものかもしれませんね」
大体、こんな所にあるダンジョンが今まで発見されなかったことがおかしいんだよ。
「ミカン?」
神妙な面持ちのミカンに異変を感じる。不思議といったものではなく、何か知っているかのような目でじっと、階段の先を見つめていた。
「なるほどな」
「なるほどなって……何か知ってるのか?」
「入ってみれば分かる。だがコウタ、覚悟しておけ。この中にいる敵は……強い」
その言葉に唾液を飲み下す。ブラックベアやギガウルフを前にしても狼狽えることのなかったミカンが、真剣な顔で「強い」と。彼女にそう言わせるモンスターとは一体……。
「え? 何? ミカンはここに来たことがあるの?」
ネーシャの質問にミカンが返す。
「見たことも無い。だが″ナニ″かは分かる。知りたければ入ればいい」
場に緊張が走る。サラはミカンの正体を知らないからか、不思議そうに見守っているがこの先に危険が待ち構えていることは明確だ。
ギルドからペナルティとして請け負ったクエストであるため、引き返すこともできず地下へ続く階段を下っていく。
当然、日光は届かず照明すらないのだが不思議と視界は安定していた。
「不思議な場所ね」
「神秘的だな。ダンジョンだから、殺伐とした所を想像してたんだが……」
階段の先、通路の壁は滑らかな白い素材で形成されていた。自然に出来たものではなさそうだが、それにしても神秘的だ。こんな場所が俺の住んでいた世界にあったのなら、世界遺産にでも登録されていることだろう。
しばらく歩いていると、行き止まり。
「何よこれ、行き止まりじゃない」
「うーん。一本道だったし、道を間違えたってことはないはずなんだけどなぁ?」
サラが杖を抱いて。
「私の魔法で破壊してみましょうか?」
「おいやめろ……いや待てよ?」
そうか。この壁の先には道が続いていて、これを開くために何かをしなきゃならないのか。
「うーん」
だが破壊するというのは正解なのだろうか。仮にそうだとしたら、この壁は既に破壊されているはずだろう。でも、これを作った人間が、入るためにわざわざ壊したりするのか?
「いいのかお前たち」
「ミカン……?」
急に覚悟を求めるような発言をしたミカンに、皆の視線が集まる。
まさか、この先にミカンの言う強いモンスターが?
「この先に、私を立ち入らせてもいいのか?」
「どういうことだよ……?」
なんだその聞き方は? まるでミカンがこの先に入ることで、俺たちに危険が降りかかるかのような。
「この先にあるのは私の力だ」
「お前の……力?」
「このダンジョンを見たとき理解した。オーディンは、私の力を世界中に散りばめたのだと」
じゃあこの先にあるのは、ヴァルキュリアの力の一部? 元々その力の持ち主であるミカンは、それを感じ取っていたのか。
「それなら話は早いじゃないか。オーディンを倒さなくてもお前は力を取り戻せるということだろ? それで、どうやったらこの先に行けるんだ?」
きりっと、睨みつけてくるミカン。
「私がほんのわずかだとしても力を取り戻すんだぞ? ……いいのか?」
「何を言ってるんだ。そのためにオーディンと戦おうって、俺たちで決めたじゃないか」
なんだよミカンのやつ。神の力を失ったらプライドがどうのこうのと、あれほど自分で言ってたのに。
その力の一部が目の前にあるんだから、喉から手が出るほどに欲しいはずだ。
「あのー。オーディンと戦うって……」
サラが不安そうに言う。
そうだった。彼女には俺たちがオーディン打倒を目指していることを知らせていなかったんだ。
それに対し、軽く口を開いたのはネーシャ。
「私たち、オーディンを倒すのよ」
「へぇぇえ!?」
驚くのも当然だ。たとえ師範級のプリーストでもオーディン相手となると気が引けるだろう。それにオーディンは世界を救った英雄として崇められている。ネーシャやシャミーはそうでないにせよ、サラがこの目的に同調してくれる可能性は低い。
「そ、そんな! オーディン様を倒すだなんて無理ですよぉ!」
「大丈夫よ、今は無理でも強くなればいいだけじゃない」
まぁ、ネーシャが言うほど一筋縄ではいかないとは思うが、今はこの単細胞な発言が俺に勇気を与えてくれた。
「でも私、去年テシリーさんと一緒にオーディン様と戦って負けたばかりなんですよ? すっごく強かったんです! あんなのに勝てるわけないって、思ったんですから!」
場を沈黙が包む。
依然として眉を八の字に曲げて唸っているサラに、言う。
「サラ、お前今何て言ったんだ?」
次はキョトンとした顔で。
「へ? ですから私は、テシリーさんと一緒にオーディン様と戦って……」
「何ちゃっかり戦ってんだよォオオオ!!」
「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい!」
それにしても、サラとテシリーが組んでも全く歯が立たなかったということは、今の俺たちじゃまだまだ先の話になるな。
だが目的は、ミカンが勝手にオーディンに殺されに行くことがないように、彼女の力を取り戻すためだ。その力が世界に散りばめられたことが分かった今、無理にオーディンを倒す必要はないんじゃないか?
いや……どうせその力の核となる部分はオーディンが握ってる、みたいなことになってるんだろうなぁ。
「まぁそれはいいんだが……どうしてオーディンと戦ったんだ?」
サラとテシリーはオーディンに恨みでもあるのか?
「それが……」
「ん?」
恥ずかしそうにモジモジするサラ。
「その日は酒場でテシリーさんと飲んでいたのですが、お酒に酔った勢いで超高難度クエストに行ったんです」
「ん? おい」
その時点で既にツッコミたいんだが。
「対象モンスターを探していると、見たことも無い大きなお城を見つけて、私たちはそこに入ったんです。その中にいたのはあのオーディン様でした」
「見間違えなんじゃないの? そんなに簡単に会えるわけ無いでしょうに」
ネーシャの疑いを全力で否定するのはサラ。
「見間違えなんかじゃありません! 眼帯をしていて、そして神々しいあの大槍を持った姿は、まさしく王都のオーディン像のそれだったんです!」
俺はまだ何か言いたそうなネーシャの口を塞いだ。
「それで、続きは?」
「はい。オーディン様は確か私たちに『立ち去れ』とか言ってましたけど、何せ私とテシリーさんは泥酔だったものでして……」
「ものでして?」
サラはぎゅっと目を閉じて丸い拳をあげた。
「二人して……『ぶっころすぞー!』と叫んでオーディン様に襲いかかってしまったのです」
それで、ボコボコにされたと。見事に返り討ちにあったわけだ。
はは、サラとテシリーは案外陽気なんだな。
……って。
「ぶっころすぞー! じゃねェエ!!」
「ごめんなさいごめんなさい! オーディン様に会えて興奮してしまいつい……」
つい、で一番偉い神様に襲いかかるなよ……。
「それにしても、よく生きて帰ってこれたわね?」
確かに、相手は英雄として崇められる偉い神様だ。それに刃向かったとなっては殺されてもおかしくは無い。サラの話を聞くと、明らかにオーディンの方が戦闘力は上。よく逃げ切ったものだ。こればかりはネーシャも感心気味だった。
「オーディン様が瀕死で怯んでいる隙に逃げたんです」
「……瀕死だと?」
おいおい、あんなのに勝てるわけないとか言ってたよな?
「オーディン様は傷を負えば負うほど強くなっていくようで、五回目の瀕死状態から復帰されてさすがにこれ以上はマズいということで、もう一回瀕死にさせた後、酔いも覚めた私たちは颯爽と逃げたわけです」
オーディンを六回も倒しかけたのかよコイツら! スゲエ! 流石は王都直属の特殊部隊だ!
ん? ちょっと待てよ。ということは何だ? 下手すればネーシャとサラ、そしてテシリーの三人が組めば今でも倒せたかもしれないオーディンは、六回も瀕死になるほどの傷を負ったことによりアホみたいに強くなってるということか?
「サラ」
「はい。……ぁぐっ?」
サラの柔らかい唇を掴んで思いっきり横に伸ばした。
「このポンコツプリーストがァァァァ~!!」
「ごへんらはいぃ~!!!」
と、その時、重い音が響いた。
「っ! 壁が!?」
行き止まりとなっていた壁がゆっくりと開いてゆく。その目の前で手を突き出しているのはミカン。
「どうやら私の力に反応して開くようになっているみたいだ」
「お前何勝手に――」
「オーディンを六回も瀕死に追いやった者がいれば、この先に行っても問題ないだろう」
確かにそうだ。オーディンより強いやつなんてこの世界にはいないはずだし、それならこんなダンジョンに現れるモンスターなんて、サラにとっては苦労にもならないだろう。
「これは……」
先には空間。その部屋は金色に輝いており、神秘的だった。
金色の輝きを放っている根はこれか。
「何かの……欠片? もしかしてこれが……」
部屋の中心には長方形の石の台座にひとつ、金色の破片が置かれていた。
「私の力だ」
ミカンが俺の体によじ登る。彼女の背では台座の欠片に届かないため、俺が抱えてそこに歩み寄った。
そしてミカンは手を伸ばす。
一同、唖然としてその様子を見守った。
ミカンの手が欠片に触れる直前、ネーシャが口を開く。
「そういえば現れなかったわね、モンスター」
「バカお前――」
轟音。岩が崩れたかのような音が響き渡ると同時に、部屋の壁の一面が剥がれた。
「なっ……」
「うわ! 何なのよアレェ!」
「落ち着け、ホワイトマンだ」
「落ち着いていられるか!」
「にゃにゃにゃ~!!」
壁自体がモンスターだったのか!?
一言で表すならこいつはゴーレムだ。白い岩で形成された硬そうな体躯には恐らく斬撃は食らわない。俺やネーシャじゃ分が悪いか。だがこっちにはサラがいる!
「サラ!」
「はい! お任せ下さい!」
「待て」
止めたのはミカン。
目の前に巨体が構えているというのに、冷静に欠片を手に取って、飲み込んだ。
「み、ミカン? そんなの食ったら腹壊すぞ?」
「壊さんわい。……見ておけ」
俺に抱きかかえられたままのミカンはホワイトマンに手を伸ばし、黄金の光をそこに集めた。
「っ……!」
ミカンの体が少し重くなったかと思うと、彼女のそれは成長していた。少女といえるくらいに。
「これは判決ではない、戦いだ――サーガ・インテンション」
眩い閃光。
「なっ……」
目を開ければその少女、ミカンが突き出した右手から真っ直ぐに伸びる光の矢がホワイトマンの巨体を貫通していた。
巨大な矢から光が漏れ、場を神々しく照らしていた。
ホワイトマンは微動にしなくなり、矢が消えると同時にその体は崩れ、ただの破片となって地に落ちていく。
沈黙の後。
「す、すげぇじゃんミカン! 一部の力を取り戻しただけでこんなに強いなんて、一体お前の完全体はどんだけ――」
俺の腕に抱えられているのは、幼女だった。
「ん? ミカンお前、元に戻ってないか?」
さっきは神々しさのあまりミカンが大きく見えていたのだろうか。
「む……」
ミカンは何とも言えない表情で俺を睨みつけていた。
「ミカン?」
「手に入れた力を……使い果たしたのだ。核がないと、欠片を集めたところで使い捨てもいいところだ」
ギルドに帰ると、新ダンジョンについての報告をしておいた。
何もありませんでした、と。
何日かこの世界で暮らしていると大体物の相場が把握出来てくる。採取クエストの報酬でも、贅沢しなければ難なく過ごせるのだ。
それはギルドのクエストボード前。
「コウタ! ダンジョンに行くわよ!」
「あ?」
決まって俺の安寧を崩壊させるのはこの師範級シーカーであり我らがパーティリーダーのネーシャだ。
「この街の近辺で新たなダンジョンが発見されたらしいの! 他のパーティにお宝を先取りされる前に行かなくちゃ!」
「あのなネーシャ。難易度不明の新ダンジョンに、俺のような駆け出し冒険者が入っても足でまといになるだけだ。言いたいことはわかるな?」
ネーシャはキョトンとした顔の後、閃いたように手を打つ。
「積極的にコウタを戦わせればいいのね!」
「お前一人で行ってこい」
「何でよ~! あれから色々とスキルを教えてあげたんだし、今のコウタでも大丈夫よ!」
想像を遥かに超える腕力で肩を掴むなこの馬鹿力女が。
「何が大丈夫だ! お前が教えるスキルはどれもこずるいものばかりじゃないか! モンスターと正面から戦うなんてできないんだよ!」
俺のスキルポイントはギガウルフ戦でかなり溜まっていたようで、事実色々とスキルを習得することができたのだ。何故かと言うと、ギガウルフがサラの魔法によって消し飛ばされる直前に、突き出した俺のダガーの切っ先が当たっていたらしい。そして、問題のスキルなのだが……。
気配を消す「スニーキング」、水面を移動することが出来る「ウェーブフット」、高速で穴を掘る「ホール」。どれも真正面からの勝負では使いづらいものばかりだ。
「仕方ないじゃない。シーカーの基礎スキルは大体そんなものよ」
シーカーが不人気である理由のひとつがこれだろう。地味で陰湿で味方の支援もできない自己満足ジョブなのだ。
「でも安心して。上級のものになるとすごく強力なスキルだって沢山あるんだから!」
「そりゃあシーカーのお前が特殊部隊に入れるくらいだし、強いスキルはあるだろうよ。だが今の俺が詳細不明のダンジョンに入るべきではない」
「ああ言えばこう言うわね」
「ああ言って来たからこう言っただけだ」
今にも手が出そうな俺たちの間に入ったのはサラ。
「まぁまぁお二人とも。冷静になって話し合わないと……」
「話し合ってるじゃない! なんか文句あるわけ!? このポンコツプリースト!」
「はぅ……酷いですよネーシャさん」
こいつ……サラに八つ当たりを。
「サラに乱暴な口聞くんじゃねぇよバカが! お前は大体――」
「誰がバカですってぇー!? もう一度言ってみなさいよ切り刻んであげるわ!」
「何度でも言ってやるさ、バーカバーカ!」
「うがァァァ!!!」
ネーシャが俺に飛びかかろうとした瞬間、傍らでわざとらしい咳払い。ギルドの嬢長だ。
「クエストボードの前で騒がれますと、他の方に迷惑なんですけど」
「「ごめんなさい」」
口を揃えて謝る俺とネーシャに嬢長はニッコリと笑う。
「分かればいいんです。……そういえばお二人はシーカーでしたよね?」
「はい。そうですけど」
何やら思いついたように手を打って嬢長は続ける。
「ペナルティとして、お二人には新ダンジョンへの探索に向かってもらいます」
「な、何だって……」
「新ダンジョンには危険なモンスターが潜んでいる可能性が高く、この街の冒険者では中々踏み込むことがいないんですよ。ですからダンジョンの調査を任せたいのです」
シーカーだからか!? シーカーだから敵に発見されることなくダンジョンを進めるとでも!?
ネーシャはやれやれと首を振る。
「仕方ないわね~。ペナルティなら断るわけにはいかないわ、それも嬢長の頼みなんですもの、ね? コウタさん?」
こいつゥ……ニヤニヤしやがって。
だが、ペナルティとして課せられては拒否できないな。それに強いモンスターが潜んでいると決まったわけじゃないし、報酬も高くつくだろう。いざとなったらネーシャとサラがいることだし。
「分かったよ。行こう、新ダンジョンに」
◇
ダンジョンの入口は、街を出てすぐの所にあった。
「近辺とは聞いていたが、これはもはやサイラの所有地なんじゃないのか?」
街の城壁に隣接するように、地下への階段が続いていた。
「でも、ギルド公認の新ダンジョンよ?」
「もしかしたら、古い時代に作られたものかもしれませんね」
大体、こんな所にあるダンジョンが今まで発見されなかったことがおかしいんだよ。
「ミカン?」
神妙な面持ちのミカンに異変を感じる。不思議といったものではなく、何か知っているかのような目でじっと、階段の先を見つめていた。
「なるほどな」
「なるほどなって……何か知ってるのか?」
「入ってみれば分かる。だがコウタ、覚悟しておけ。この中にいる敵は……強い」
その言葉に唾液を飲み下す。ブラックベアやギガウルフを前にしても狼狽えることのなかったミカンが、真剣な顔で「強い」と。彼女にそう言わせるモンスターとは一体……。
「え? 何? ミカンはここに来たことがあるの?」
ネーシャの質問にミカンが返す。
「見たことも無い。だが″ナニ″かは分かる。知りたければ入ればいい」
場に緊張が走る。サラはミカンの正体を知らないからか、不思議そうに見守っているがこの先に危険が待ち構えていることは明確だ。
ギルドからペナルティとして請け負ったクエストであるため、引き返すこともできず地下へ続く階段を下っていく。
当然、日光は届かず照明すらないのだが不思議と視界は安定していた。
「不思議な場所ね」
「神秘的だな。ダンジョンだから、殺伐とした所を想像してたんだが……」
階段の先、通路の壁は滑らかな白い素材で形成されていた。自然に出来たものではなさそうだが、それにしても神秘的だ。こんな場所が俺の住んでいた世界にあったのなら、世界遺産にでも登録されていることだろう。
しばらく歩いていると、行き止まり。
「何よこれ、行き止まりじゃない」
「うーん。一本道だったし、道を間違えたってことはないはずなんだけどなぁ?」
サラが杖を抱いて。
「私の魔法で破壊してみましょうか?」
「おいやめろ……いや待てよ?」
そうか。この壁の先には道が続いていて、これを開くために何かをしなきゃならないのか。
「うーん」
だが破壊するというのは正解なのだろうか。仮にそうだとしたら、この壁は既に破壊されているはずだろう。でも、これを作った人間が、入るためにわざわざ壊したりするのか?
「いいのかお前たち」
「ミカン……?」
急に覚悟を求めるような発言をしたミカンに、皆の視線が集まる。
まさか、この先にミカンの言う強いモンスターが?
「この先に、私を立ち入らせてもいいのか?」
「どういうことだよ……?」
なんだその聞き方は? まるでミカンがこの先に入ることで、俺たちに危険が降りかかるかのような。
「この先にあるのは私の力だ」
「お前の……力?」
「このダンジョンを見たとき理解した。オーディンは、私の力を世界中に散りばめたのだと」
じゃあこの先にあるのは、ヴァルキュリアの力の一部? 元々その力の持ち主であるミカンは、それを感じ取っていたのか。
「それなら話は早いじゃないか。オーディンを倒さなくてもお前は力を取り戻せるということだろ? それで、どうやったらこの先に行けるんだ?」
きりっと、睨みつけてくるミカン。
「私がほんのわずかだとしても力を取り戻すんだぞ? ……いいのか?」
「何を言ってるんだ。そのためにオーディンと戦おうって、俺たちで決めたじゃないか」
なんだよミカンのやつ。神の力を失ったらプライドがどうのこうのと、あれほど自分で言ってたのに。
その力の一部が目の前にあるんだから、喉から手が出るほどに欲しいはずだ。
「あのー。オーディンと戦うって……」
サラが不安そうに言う。
そうだった。彼女には俺たちがオーディン打倒を目指していることを知らせていなかったんだ。
それに対し、軽く口を開いたのはネーシャ。
「私たち、オーディンを倒すのよ」
「へぇぇえ!?」
驚くのも当然だ。たとえ師範級のプリーストでもオーディン相手となると気が引けるだろう。それにオーディンは世界を救った英雄として崇められている。ネーシャやシャミーはそうでないにせよ、サラがこの目的に同調してくれる可能性は低い。
「そ、そんな! オーディン様を倒すだなんて無理ですよぉ!」
「大丈夫よ、今は無理でも強くなればいいだけじゃない」
まぁ、ネーシャが言うほど一筋縄ではいかないとは思うが、今はこの単細胞な発言が俺に勇気を与えてくれた。
「でも私、去年テシリーさんと一緒にオーディン様と戦って負けたばかりなんですよ? すっごく強かったんです! あんなのに勝てるわけないって、思ったんですから!」
場を沈黙が包む。
依然として眉を八の字に曲げて唸っているサラに、言う。
「サラ、お前今何て言ったんだ?」
次はキョトンとした顔で。
「へ? ですから私は、テシリーさんと一緒にオーディン様と戦って……」
「何ちゃっかり戦ってんだよォオオオ!!」
「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい!」
それにしても、サラとテシリーが組んでも全く歯が立たなかったということは、今の俺たちじゃまだまだ先の話になるな。
だが目的は、ミカンが勝手にオーディンに殺されに行くことがないように、彼女の力を取り戻すためだ。その力が世界に散りばめられたことが分かった今、無理にオーディンを倒す必要はないんじゃないか?
いや……どうせその力の核となる部分はオーディンが握ってる、みたいなことになってるんだろうなぁ。
「まぁそれはいいんだが……どうしてオーディンと戦ったんだ?」
サラとテシリーはオーディンに恨みでもあるのか?
「それが……」
「ん?」
恥ずかしそうにモジモジするサラ。
「その日は酒場でテシリーさんと飲んでいたのですが、お酒に酔った勢いで超高難度クエストに行ったんです」
「ん? おい」
その時点で既にツッコミたいんだが。
「対象モンスターを探していると、見たことも無い大きなお城を見つけて、私たちはそこに入ったんです。その中にいたのはあのオーディン様でした」
「見間違えなんじゃないの? そんなに簡単に会えるわけ無いでしょうに」
ネーシャの疑いを全力で否定するのはサラ。
「見間違えなんかじゃありません! 眼帯をしていて、そして神々しいあの大槍を持った姿は、まさしく王都のオーディン像のそれだったんです!」
俺はまだ何か言いたそうなネーシャの口を塞いだ。
「それで、続きは?」
「はい。オーディン様は確か私たちに『立ち去れ』とか言ってましたけど、何せ私とテシリーさんは泥酔だったものでして……」
「ものでして?」
サラはぎゅっと目を閉じて丸い拳をあげた。
「二人して……『ぶっころすぞー!』と叫んでオーディン様に襲いかかってしまったのです」
それで、ボコボコにされたと。見事に返り討ちにあったわけだ。
はは、サラとテシリーは案外陽気なんだな。
……って。
「ぶっころすぞー! じゃねェエ!!」
「ごめんなさいごめんなさい! オーディン様に会えて興奮してしまいつい……」
つい、で一番偉い神様に襲いかかるなよ……。
「それにしても、よく生きて帰ってこれたわね?」
確かに、相手は英雄として崇められる偉い神様だ。それに刃向かったとなっては殺されてもおかしくは無い。サラの話を聞くと、明らかにオーディンの方が戦闘力は上。よく逃げ切ったものだ。こればかりはネーシャも感心気味だった。
「オーディン様が瀕死で怯んでいる隙に逃げたんです」
「……瀕死だと?」
おいおい、あんなのに勝てるわけないとか言ってたよな?
「オーディン様は傷を負えば負うほど強くなっていくようで、五回目の瀕死状態から復帰されてさすがにこれ以上はマズいということで、もう一回瀕死にさせた後、酔いも覚めた私たちは颯爽と逃げたわけです」
オーディンを六回も倒しかけたのかよコイツら! スゲエ! 流石は王都直属の特殊部隊だ!
ん? ちょっと待てよ。ということは何だ? 下手すればネーシャとサラ、そしてテシリーの三人が組めば今でも倒せたかもしれないオーディンは、六回も瀕死になるほどの傷を負ったことによりアホみたいに強くなってるということか?
「サラ」
「はい。……ぁぐっ?」
サラの柔らかい唇を掴んで思いっきり横に伸ばした。
「このポンコツプリーストがァァァァ~!!」
「ごへんらはいぃ~!!!」
と、その時、重い音が響いた。
「っ! 壁が!?」
行き止まりとなっていた壁がゆっくりと開いてゆく。その目の前で手を突き出しているのはミカン。
「どうやら私の力に反応して開くようになっているみたいだ」
「お前何勝手に――」
「オーディンを六回も瀕死に追いやった者がいれば、この先に行っても問題ないだろう」
確かにそうだ。オーディンより強いやつなんてこの世界にはいないはずだし、それならこんなダンジョンに現れるモンスターなんて、サラにとっては苦労にもならないだろう。
「これは……」
先には空間。その部屋は金色に輝いており、神秘的だった。
金色の輝きを放っている根はこれか。
「何かの……欠片? もしかしてこれが……」
部屋の中心には長方形の石の台座にひとつ、金色の破片が置かれていた。
「私の力だ」
ミカンが俺の体によじ登る。彼女の背では台座の欠片に届かないため、俺が抱えてそこに歩み寄った。
そしてミカンは手を伸ばす。
一同、唖然としてその様子を見守った。
ミカンの手が欠片に触れる直前、ネーシャが口を開く。
「そういえば現れなかったわね、モンスター」
「バカお前――」
轟音。岩が崩れたかのような音が響き渡ると同時に、部屋の壁の一面が剥がれた。
「なっ……」
「うわ! 何なのよアレェ!」
「落ち着け、ホワイトマンだ」
「落ち着いていられるか!」
「にゃにゃにゃ~!!」
壁自体がモンスターだったのか!?
一言で表すならこいつはゴーレムだ。白い岩で形成された硬そうな体躯には恐らく斬撃は食らわない。俺やネーシャじゃ分が悪いか。だがこっちにはサラがいる!
「サラ!」
「はい! お任せ下さい!」
「待て」
止めたのはミカン。
目の前に巨体が構えているというのに、冷静に欠片を手に取って、飲み込んだ。
「み、ミカン? そんなの食ったら腹壊すぞ?」
「壊さんわい。……見ておけ」
俺に抱きかかえられたままのミカンはホワイトマンに手を伸ばし、黄金の光をそこに集めた。
「っ……!」
ミカンの体が少し重くなったかと思うと、彼女のそれは成長していた。少女といえるくらいに。
「これは判決ではない、戦いだ――サーガ・インテンション」
眩い閃光。
「なっ……」
目を開ければその少女、ミカンが突き出した右手から真っ直ぐに伸びる光の矢がホワイトマンの巨体を貫通していた。
巨大な矢から光が漏れ、場を神々しく照らしていた。
ホワイトマンは微動にしなくなり、矢が消えると同時にその体は崩れ、ただの破片となって地に落ちていく。
沈黙の後。
「す、すげぇじゃんミカン! 一部の力を取り戻しただけでこんなに強いなんて、一体お前の完全体はどんだけ――」
俺の腕に抱えられているのは、幼女だった。
「ん? ミカンお前、元に戻ってないか?」
さっきは神々しさのあまりミカンが大きく見えていたのだろうか。
「む……」
ミカンは何とも言えない表情で俺を睨みつけていた。
「ミカン?」
「手に入れた力を……使い果たしたのだ。核がないと、欠片を集めたところで使い捨てもいいところだ」
ギルドに帰ると、新ダンジョンについての報告をしておいた。
何もありませんでした、と。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる