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~二〇〇〇〇年
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妹が帰ってきた。俺とは違ってポニーテールの似合う活気ある中学二年生の元気な女の子。部活はテニス部に所属している。日焼け止めクリームをきちんと処方している妹はこのクソ暑い夏場でも母親譲りの白い肌を保っていた。ちなみに妹は「妹」と書いて「まい」と読む。妹と書いて「まい」だが、実際俺の妹なので、まいではなくいもうと、だがしかしいもうとはまいであってまいはいもうとである。
そして妹が階段を駆け上がる音が聞こえてくる。俺の部屋は妹の部屋の通り道にあるため、発情期真っ盛りな妹は必ず俺の部屋の戸を開けるのだ。
「メアリ、隠れるんだ!」
俺の言葉に反応したメアリは素早く部屋を出ていき、ピシャリと戸を閉めた。こうして俺の部屋には俺一人となったわけだ。
「……ん?」
隠れろとは言ったが、なぜ俺の部屋から出ていったのか。部屋から出てったら妹から丸見えなんですけど。
「おにぃちゃんただ……いぃぃい!!!???」
早速ゲームオーバーか。
「誰あなた!? もしかしてお兄ちゃんの……」
そこで俺登場。
「俺の、俺の彼女だ!!」
テニスラケットを右肩に背負った妹の顔は案の定、驚愕に染まっていた。無理もない、十八年間怒涛の童貞ライフを過ごしてきた男の恋人がこんなにも美少女だというのだから。
「お、お、お兄ちゃんの、彼女……?」
おそらく妹は俺のデマを信じている。だがそれは同時に家族全員に知れ渡るということでもある。妹のことだ、口止めをしても夕食時になれば悪気のないポカンとした顔で洩らすことだろう。
「へぇ、お兄ちゃんに彼女ができたんだ……」
驚愕の表情から一転、妹はじーっとメアリを見つめている。疑っているのか?
「名前はなんて言うの?」
「私はメアリだ」
「は?」
待てメアリ、本名はマズイ。だがギリギリ誤魔化せるか。
「さ、最近は個性的な名前の子が多いよな!」
「うん、まあ。私の友達にも『棒摩』と書いて『センズリ』って名前の子もいるし」
この子は本当に……。
とりあえず今の妹に疑いの様子はない。あとは口止めをしておくだけだ。
「「ただいまァァァァア!!!」」
両親揃っての帰宅。気がついたら妹は階段を駆け下りていた。あんなだけど妹もバカじゃない、ストレートに報告したりはしないだろう。
「お父さんお母さんお兄ちゃんに彼女ができた!!!」
読点一つないストレートな報告にため息がこぼれる。
「……メアリ、悪い」
「私は何も問題はない。家族に知られて良く思わないのはお前の都合だろう」
「まあそうなんだけど……」
あの親なら死神とぶっちゃけても信じてくれそうな気がするのは考えが甘いか。
「和人ォオオ!!? 降りて来てお母さんに彼女を見せなさい!」
「和人ォ! いい加減にしろ!」
なんでいきなり怒られてんだ俺。まあいいや、隠すものがなくなったというのはメリットだろう。
俺とメアリは階段を降りて家族が待つリビングへ。
「おかえり、父さん母さん。この子はメアリ」
「どうも、メアリだ」
両親の顔が固まる。そして爆発。
「あんたにこんな可愛い彼女が出来るわけないでしょぉ!!??」
「そうだぞ和人! お前みたいなハッピーセットにこんな子が!」
まあ実際俺の彼女じゃないんだけどな。それに俺がハッピーセットならあんたらはさらに特典が付いてくるよ。
「メアリちゃん、和人のことよろしく頼むね! 結婚して、子どもの顔もちゃんと見せてね! お願いだよ!?」
何先走ってるんだこの親は、俺もメアリもそんな話、真剣に耳を傾けるはずがなく……
「分かった。その願い、叶えてやろう」
このセリフ、聞き覚えがあるな。
「メアリ……?」
俺の願いを叶えた時、確かそんなことを言っていた気がする。
「安心しろ、お前の願い事は一つ残っている。今のは先月分の願い事だ」
何言ってだこいつ。
「メアリ、先月分ってどういう事だよ」
「先月、私は一つだけしか願いを叶えてやっていない。残り一つのツケを今払った」
誰だよ一つ残したヤツ。ていうか俺も一つ願い事残してるんですが。今みたいに誰かにあげたりしないでね? 俺死ねなくなるから。
「って、ことは……」
「和人は、私と結婚しなければならない。そして子作りを」
「メアリ、少し黙ってろ」
メアリの大胆な発言に親は目を輝かせている。こういう話題には絶賛発情期中の妹が登場。
「メアリちゃんって見た目とは裏腹に責めるタイプなんだね!!」
もうこれ、アプローチとかそういうんじゃないからな。不老不死だって叶えてしまうようなやつだ。何としても結婚して子供を作る気だろう。
俺は手をパンパンと叩いて切り替える。
「さっき母さんが言ったことは冗談として、メアリ、そろそろ帰る時間だろ?」
「いや、私は」
「俺、メアリを送ってくから、先に飯食っといてよ」
なんとかメアリを外へ連れ出すことに成功。庭を出て路地に出る。
「メアリ、さっき母さんが言った願い事、みたいなのは気にしなくていいからな。あれは願い事じゃない」
本気でそんなこと思ってるわけがない。それにメアリは確か、特別に願い事だと認めた事柄のみ扱うと言っていた。それを説明できれば訂正は可能だろう。
流石に死神と結婚なんてできないし、子作りとか有り得ないもんな。
「和人」
「何だ?」
「手遅れだ」
「は?」
おいおい、既に俺とメアリは結婚してるってことになってたりしないよな!? ましてやその腹には……
「私はお前の母親の願いの根本である『お前への愛』を叶えた。つまり私は今、お前に溺愛している」
「……へ?」
つまり、俺のことを好きになっちまったってことか……?
その無表情からはそんな感情はとても……。
「お前、嘘だろ」
「本当だ。私はお前が好きでしょうがない。だが、そんなお前に対してどう接すればいいのかわからない」
死神って大変なお仕事だな。願い事によっては自分さえもコントロール出来なくなるなんて……というか、それがわかっているなら叶えなきゃよかったのに。
じーっと見つめてくるメアリに俺はやりづらくなって、頭をかいてから一声かけて部屋に戻った。
しかしなんだろうか、彼女の目が、さっきまでよりも無機質に感じるのは。
◇
翌朝、俺はメアリの隣で目を覚ます。
「こいつ……」
俺が寝る前まではベッドから離れたところで座っているだけだったメアリだが、目を覚ませばこのザマだ。
俺はメアリを残して布団から出ると制服に着替える。
「ったく、勘弁してくれよ。死神に好かれるなんて嬉しくないよ……」
好かれる、というよりは憑かれる、と言った方が正しいか。
「和人、どこへ行く」
背後で布団を捲る音が聞こえたかと思うと、寝起きとは思えないほどはっきりとした口調で問うメアリ。
「学校だよ。俺は学生だからな……って、おいメアリ、お前どこ見てんだ?」
振り返るとメアリの目線は俺の部屋の天井の隅、そこをじーっと見つめているのだ。猫がよくやるアレ。
死神だから色々見えてしまうのかもしれない。
「ん、何でもない。そうか、学校か、死ぬんじゃないぞ」
「死神に言われたくないねそんなこと」
メアリが同居していることは家族には知らせていない。だが幸いなことに俺が家を出る時間には家族はみんな家を出て、帰りは俺が一番早い。俺がいないうちに間違いが起こることはまずないだろう。
「じゃあ行ってくる」
いつものドアノブを捻り、俺は幾度と知れぬ学校への一歩を踏み出した。
◇
あれからもう七〇〇〇年か……。
今では珍しい和室の畳の上でちゃぶ台を挟むようにして座る俺とメアリは弾まない小話を楽しんでいた。
「…‥」
メアリと会った日のことを思い出す。晴れた日だっただろうか。雨の降る日だったのだろうか。確か昨日もそんなことを考えていた気がする。そして明日、俺は再びあの日のことを思い出すだろう、メアリと会ったあの日を。
メアリと出会ったあの日は、俺が生きた七〇〇〇年のうちのたった一日とない思い出だった。
西暦二〇一七年から七〇〇〇年経った今、もちろん変化はある。俺たち人類は、西暦四二〇〇年頃、「時間」を失った。そして、人類は今も尚「時間」のない日々を送っている。だがその中で俺とメアリは、まだ過去の「時間」に囚われながら生きていた。
「和人、そろそろ飽きてきたか」
「何度目だメアリ。毎日聞かれているような質問だな」
「私はこの質問を約五〇年ごとに繰り返している。普通の感覚で言うならば、久しいほどか、懐かしいとまで感じるのではないか」
俺の時間感覚は麻痺していた。メアリは何年生きてるのか知らないが、相変わらずといった様子。「あの日」から変わったことを述べていけば日が暮れるはずだが、俺は恐らく多くの「変わった」を「いつも通り」と捉えてしまっている。特に言うなら、時間がなくなったということと、人間の頭が俺たちよりも一回り大きくなっているところか。「たった」七千年でこんな変化が起こるくらいだ、さして不自然にも思えないサイズのメアリはそれほど俺と時代が離れていないのかもしれない。いや、人間そんな単純に出来ちゃいないか。
第三次世界大戦は、ちょくちょく小競り合いはあったものの、あの日から約二千年後、中国で起こった。「日朝軍」はもちろん参戦していた。そう、時間がこの世界からなくなったのは第三次世界大戦後。詳細は覚えていない。それほどくだらない理由だろう。そんなことでこんな大切なものがなくなってしまうのかと、当時はそう思ったような思わなかったような。視点を変えて考えてみれば、二千年もの間、大きな戦争が起こらなかったのはすごいことだと思う。
気づいたら戦争が終わってて、資源問題が起きて、またちょっとした戦争になって。ええと……
「まあ、色々あったけど、何だかんだで平和だよな、今は」
「ああ。そうだな」
メアリは返した後、茶を一口してから立ち上がる。
「そうか、今日は月初めだから……」
メアリは毎月、サボらずに死神の仕事をこなしている。そして今日は月初めなので仕事の日だ。
「今日はどちらへ?」
「海を渡る」
「楽しんでこいよ」
メアリはこくりと頷き、黒い石(俺は魔石と呼んでいる)を手に持って、毎回のように「笑顔」で仕事に向かった。
そして妹が階段を駆け上がる音が聞こえてくる。俺の部屋は妹の部屋の通り道にあるため、発情期真っ盛りな妹は必ず俺の部屋の戸を開けるのだ。
「メアリ、隠れるんだ!」
俺の言葉に反応したメアリは素早く部屋を出ていき、ピシャリと戸を閉めた。こうして俺の部屋には俺一人となったわけだ。
「……ん?」
隠れろとは言ったが、なぜ俺の部屋から出ていったのか。部屋から出てったら妹から丸見えなんですけど。
「おにぃちゃんただ……いぃぃい!!!???」
早速ゲームオーバーか。
「誰あなた!? もしかしてお兄ちゃんの……」
そこで俺登場。
「俺の、俺の彼女だ!!」
テニスラケットを右肩に背負った妹の顔は案の定、驚愕に染まっていた。無理もない、十八年間怒涛の童貞ライフを過ごしてきた男の恋人がこんなにも美少女だというのだから。
「お、お、お兄ちゃんの、彼女……?」
おそらく妹は俺のデマを信じている。だがそれは同時に家族全員に知れ渡るということでもある。妹のことだ、口止めをしても夕食時になれば悪気のないポカンとした顔で洩らすことだろう。
「へぇ、お兄ちゃんに彼女ができたんだ……」
驚愕の表情から一転、妹はじーっとメアリを見つめている。疑っているのか?
「名前はなんて言うの?」
「私はメアリだ」
「は?」
待てメアリ、本名はマズイ。だがギリギリ誤魔化せるか。
「さ、最近は個性的な名前の子が多いよな!」
「うん、まあ。私の友達にも『棒摩』と書いて『センズリ』って名前の子もいるし」
この子は本当に……。
とりあえず今の妹に疑いの様子はない。あとは口止めをしておくだけだ。
「「ただいまァァァァア!!!」」
両親揃っての帰宅。気がついたら妹は階段を駆け下りていた。あんなだけど妹もバカじゃない、ストレートに報告したりはしないだろう。
「お父さんお母さんお兄ちゃんに彼女ができた!!!」
読点一つないストレートな報告にため息がこぼれる。
「……メアリ、悪い」
「私は何も問題はない。家族に知られて良く思わないのはお前の都合だろう」
「まあそうなんだけど……」
あの親なら死神とぶっちゃけても信じてくれそうな気がするのは考えが甘いか。
「和人ォオオ!!? 降りて来てお母さんに彼女を見せなさい!」
「和人ォ! いい加減にしろ!」
なんでいきなり怒られてんだ俺。まあいいや、隠すものがなくなったというのはメリットだろう。
俺とメアリは階段を降りて家族が待つリビングへ。
「おかえり、父さん母さん。この子はメアリ」
「どうも、メアリだ」
両親の顔が固まる。そして爆発。
「あんたにこんな可愛い彼女が出来るわけないでしょぉ!!??」
「そうだぞ和人! お前みたいなハッピーセットにこんな子が!」
まあ実際俺の彼女じゃないんだけどな。それに俺がハッピーセットならあんたらはさらに特典が付いてくるよ。
「メアリちゃん、和人のことよろしく頼むね! 結婚して、子どもの顔もちゃんと見せてね! お願いだよ!?」
何先走ってるんだこの親は、俺もメアリもそんな話、真剣に耳を傾けるはずがなく……
「分かった。その願い、叶えてやろう」
このセリフ、聞き覚えがあるな。
「メアリ……?」
俺の願いを叶えた時、確かそんなことを言っていた気がする。
「安心しろ、お前の願い事は一つ残っている。今のは先月分の願い事だ」
何言ってだこいつ。
「メアリ、先月分ってどういう事だよ」
「先月、私は一つだけしか願いを叶えてやっていない。残り一つのツケを今払った」
誰だよ一つ残したヤツ。ていうか俺も一つ願い事残してるんですが。今みたいに誰かにあげたりしないでね? 俺死ねなくなるから。
「って、ことは……」
「和人は、私と結婚しなければならない。そして子作りを」
「メアリ、少し黙ってろ」
メアリの大胆な発言に親は目を輝かせている。こういう話題には絶賛発情期中の妹が登場。
「メアリちゃんって見た目とは裏腹に責めるタイプなんだね!!」
もうこれ、アプローチとかそういうんじゃないからな。不老不死だって叶えてしまうようなやつだ。何としても結婚して子供を作る気だろう。
俺は手をパンパンと叩いて切り替える。
「さっき母さんが言ったことは冗談として、メアリ、そろそろ帰る時間だろ?」
「いや、私は」
「俺、メアリを送ってくから、先に飯食っといてよ」
なんとかメアリを外へ連れ出すことに成功。庭を出て路地に出る。
「メアリ、さっき母さんが言った願い事、みたいなのは気にしなくていいからな。あれは願い事じゃない」
本気でそんなこと思ってるわけがない。それにメアリは確か、特別に願い事だと認めた事柄のみ扱うと言っていた。それを説明できれば訂正は可能だろう。
流石に死神と結婚なんてできないし、子作りとか有り得ないもんな。
「和人」
「何だ?」
「手遅れだ」
「は?」
おいおい、既に俺とメアリは結婚してるってことになってたりしないよな!? ましてやその腹には……
「私はお前の母親の願いの根本である『お前への愛』を叶えた。つまり私は今、お前に溺愛している」
「……へ?」
つまり、俺のことを好きになっちまったってことか……?
その無表情からはそんな感情はとても……。
「お前、嘘だろ」
「本当だ。私はお前が好きでしょうがない。だが、そんなお前に対してどう接すればいいのかわからない」
死神って大変なお仕事だな。願い事によっては自分さえもコントロール出来なくなるなんて……というか、それがわかっているなら叶えなきゃよかったのに。
じーっと見つめてくるメアリに俺はやりづらくなって、頭をかいてから一声かけて部屋に戻った。
しかしなんだろうか、彼女の目が、さっきまでよりも無機質に感じるのは。
◇
翌朝、俺はメアリの隣で目を覚ます。
「こいつ……」
俺が寝る前まではベッドから離れたところで座っているだけだったメアリだが、目を覚ませばこのザマだ。
俺はメアリを残して布団から出ると制服に着替える。
「ったく、勘弁してくれよ。死神に好かれるなんて嬉しくないよ……」
好かれる、というよりは憑かれる、と言った方が正しいか。
「和人、どこへ行く」
背後で布団を捲る音が聞こえたかと思うと、寝起きとは思えないほどはっきりとした口調で問うメアリ。
「学校だよ。俺は学生だからな……って、おいメアリ、お前どこ見てんだ?」
振り返るとメアリの目線は俺の部屋の天井の隅、そこをじーっと見つめているのだ。猫がよくやるアレ。
死神だから色々見えてしまうのかもしれない。
「ん、何でもない。そうか、学校か、死ぬんじゃないぞ」
「死神に言われたくないねそんなこと」
メアリが同居していることは家族には知らせていない。だが幸いなことに俺が家を出る時間には家族はみんな家を出て、帰りは俺が一番早い。俺がいないうちに間違いが起こることはまずないだろう。
「じゃあ行ってくる」
いつものドアノブを捻り、俺は幾度と知れぬ学校への一歩を踏み出した。
◇
あれからもう七〇〇〇年か……。
今では珍しい和室の畳の上でちゃぶ台を挟むようにして座る俺とメアリは弾まない小話を楽しんでいた。
「…‥」
メアリと会った日のことを思い出す。晴れた日だっただろうか。雨の降る日だったのだろうか。確か昨日もそんなことを考えていた気がする。そして明日、俺は再びあの日のことを思い出すだろう、メアリと会ったあの日を。
メアリと出会ったあの日は、俺が生きた七〇〇〇年のうちのたった一日とない思い出だった。
西暦二〇一七年から七〇〇〇年経った今、もちろん変化はある。俺たち人類は、西暦四二〇〇年頃、「時間」を失った。そして、人類は今も尚「時間」のない日々を送っている。だがその中で俺とメアリは、まだ過去の「時間」に囚われながら生きていた。
「和人、そろそろ飽きてきたか」
「何度目だメアリ。毎日聞かれているような質問だな」
「私はこの質問を約五〇年ごとに繰り返している。普通の感覚で言うならば、久しいほどか、懐かしいとまで感じるのではないか」
俺の時間感覚は麻痺していた。メアリは何年生きてるのか知らないが、相変わらずといった様子。「あの日」から変わったことを述べていけば日が暮れるはずだが、俺は恐らく多くの「変わった」を「いつも通り」と捉えてしまっている。特に言うなら、時間がなくなったということと、人間の頭が俺たちよりも一回り大きくなっているところか。「たった」七千年でこんな変化が起こるくらいだ、さして不自然にも思えないサイズのメアリはそれほど俺と時代が離れていないのかもしれない。いや、人間そんな単純に出来ちゃいないか。
第三次世界大戦は、ちょくちょく小競り合いはあったものの、あの日から約二千年後、中国で起こった。「日朝軍」はもちろん参戦していた。そう、時間がこの世界からなくなったのは第三次世界大戦後。詳細は覚えていない。それほどくだらない理由だろう。そんなことでこんな大切なものがなくなってしまうのかと、当時はそう思ったような思わなかったような。視点を変えて考えてみれば、二千年もの間、大きな戦争が起こらなかったのはすごいことだと思う。
気づいたら戦争が終わってて、資源問題が起きて、またちょっとした戦争になって。ええと……
「まあ、色々あったけど、何だかんだで平和だよな、今は」
「ああ。そうだな」
メアリは返した後、茶を一口してから立ち上がる。
「そうか、今日は月初めだから……」
メアリは毎月、サボらずに死神の仕事をこなしている。そして今日は月初めなので仕事の日だ。
「今日はどちらへ?」
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