【完結】【応募版】背徳トライアングル

猫都299

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♦3 秘密

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♦♦♦ 3 秘密 ♦♦♦


 ベッドに仰向けに寝そべる私の上に、膝立ちで跨ってくる。間近から見下ろされる。心臓が痛い程に鳴っている。早水君は、近くで見ても……綺麗だ。

「手、出して」

 言われてハッとする。差し出した右手を握られた。隙間なくぎゅっと。繋いだ手をベッドに押し付けられてもまだ、瞳を逸らせないでいる。

「まさか、この体勢で撮るの?」

「そうだよ」

 彼は穏やかな声で認める。切れ長の双眸を細めてくる。
 見透かされている気がする。左下に顔を背け、誤魔化す為に口にする。

「このシチュエーションは、恥ずかしいよ……」

「大丈夫。キスマーク以上の事はしないから」

「え? まさか、キスマークも付けるつもりなの?」

「当然。それとも、キスの方がいい?」

 当たり前のように言い切る早水君に、半ば呆れる。協力してくれるのは、とてもありがたいけど。早水君は大丈夫なのかな。相手が私でもいいのかな。心配になってしまう。

 早速、何枚か写真を撮られた。彼は右手だけで器用にやってのけた後、スマホを私の頭の横に置く。

「いい?」

 求められて応じる。キスはやっぱり、しちゃいけない気がする。だから……シャツのボタンを外す。

「もっと」

 上から二個目のボタンを外している時に促されて、ジャンパースカート内の三個目のボタンも外した。「これ、邪魔だな」と言われ、ジャンパースカートも上の方だけ下へずらす。一応、言っておく。

「えっと。千鶴君が付けたところより下は、ダメだからね」

 不満顔で睨まれた。

「千鶴君より進めてないと」

 もっともらしく反論してくる。彼の目は真剣だ。
 顔が寄せられ、胸の上辺りに唇の触れる感覚がある。体が軋む。思わず拒んだ。

「やだ、だめ! 胸は……ダメ」

「分かった」

 あっさり、やめてくれた。

「あっ」

 代わりに首の下を甘噛みされて呻く。ズクンとした痺れに支配される。再び掌が重なっていた。心許ない自分を、現実に繋ぎ止めたかったのかもしれない。縋るように握り返していた。

 陶酔する意識の片隅で必死に「これはまずい」と警鐘を鳴らす思考もあったけど、酷くぼんやりしていて掴めない。えっと。何で私……こんな状況なんだろう?

 左手で押しのけようとしたけど。吸われた痕を舐められて震える。

「結ちゃんの汗の味、凄い好き。ずっと舐めてたい」

「えっ……と?」

「定期的に舐めさせてくれるなら。ある程度、言う事を聞くよ?」

 早水君はニコニコしている。これは……取引?

「汗、舐めてほしくない」

 睨んで訴えた。「うん」と返事があり「すんなり聞き入れてもらえた?」と思い、安堵し掛ける。けれど、相手は意地悪な目付きで付け加えてくる。

「分かってて言ってる」

 そんなに……汗って美味しいものなの? 興味が高まってしまう。



 数分後。仰向けになった早水君の上に跨って、彼のシャツのボタンを外している。

「あっ、ちょ、待って待って待って」

「言う事を聞いてくれるって、言ったよね?」

 ニコニコして言い及ぶ。早水君が止めるのも聞かず、シャツをめくり首の下を舐める。うーん、美味しいかな? 少し……しょっぱい。

「あっひゃっひゃっひゃっ!」

 普段には聞けない声が、早水君から出ている。体を震わせて我慢しているようだ。
 やっぱり。彼は笑うと更に可愛い。舌を、もっと下へと這わす。

「待ってって!」

 焦っているような響きを感じる。言葉の終わる頃には、仰向けに戻されていた。
 手首を掴まれベッドに押さえ付けられた状態で、見上げる。

「煽らないで」

 警告された。サラリと落ちる前髪の間から向けられた眼差しが強くて、ゾクッとする。

 私、千鶴君の事が好きなのに。今――凄く……。

 早水君の顔が近くなって目を閉じる。唇が触れてくる。僅かばかりの行為を終え、気配が遠のく。瞼を開いて瞳を覗く。どうして?

「お仕置き。次に僕の汗を舐めようとしたら、今度は口にするから」

 見下ろしてくる相手の目が挑発するように細められるのを、呆然と眺めている。彼にキスされた左頬を手で触る。

 私……今…………何を考えてたの?

「明日の夜、千鶴君と会うよね? 写真、彼に送っとくから」

「うん……分かった」

 動揺して目を合わせられず、視線を彷徨わせながら返した。

「どうしたの? まさか、もっと凄いやつを期待してた?」

 言い当てられてしまった。体が……今までに経験のないくらい熱っぽくて、心臓の音が速い。千鶴君が好きなのに。今まで目を逸らしていた、自分の横しまな願望を突きつけられた心地がする。

 涙が滲む。凄く、みっともない顔をしているだろうと思い至る。右横を向いて目を閉じる。暫くして、聞こえる。

「……ごめん。やっぱり、するなら千鶴君とがいいよな」

 違う。今、そうじゃないから涙が出てくるの。凄く落ち着かない気持ちを持て余している。

 必死に自制して、口には出さなかった。




 翌日の夜。約束通り千鶴君の部屋を訪ねる。

 玄関の戸を開け、出迎えてくれた。彼の表情が、いつもより暗い気がする。口数も少ない。何かあったのかなと心配に思う。廊下を進む間、様子を窺っていた。部屋に入るなり聞かれる。

「早水を、部屋に入れたの?」

 振り向いた千鶴君に見下ろされる。目が怖い。

「えと……うん。何で知ってるの?」

「さっき、早水から写真が送られてきた」

 あっ、そうだった。昨日の帰り際に、早水君が言っていた。千鶴君に写真送っとくって。

「よく私の部屋だって分かったね」

「枕のカバーが、お前のと一緒だったから」

 確か枕カバーも、掛け布団と同じクマさん柄のを使っていた。

「結はやっぱり、オレよりあいつを選ぶよな。オレとお前の絆って、そんなもんだよな」

 言われて、体が軋む。昨日の出来事が脳裏を掠めて、後ろめたくなる。目線を下に彷徨わせていた。

「でもさ。するの早くない? 付き合ったばかりだろ? あいつと」

「えっと……、してないよ」

 千鶴君が誤解していると思ったので否定した。眼前の双眸が一瞬だけ、大きく瞠られる。だけど、すぐにまた睨んでくる。

「嘘つくなよ」

「キスマークまでしか、してないよ」

 あと、頬にキスされただけ。心の中で呟く。

 昨日、私が考えてしまった事は裏切りに思える。これまで千鶴君を想ってきた恋心への。

 手を引かれる。肩を押されてベッドの端に座らされる。隣に座った千鶴君が、私の目を覗いて言う。

「彼氏がいるのに、何でオレの部屋に来るんだよ。彼氏の方が大事だろ?」

 本当の事を言えなくて、黙ったまま相手の瞳を見返す。

「オレの味方したって、結には何の得にもならないだろ?」

 少し呆れているような、優しい雰囲気の声音で尋ねられる。

 千鶴君が私の髪を触る。最初は頭を撫でていた手が滑り下りて、頬で止まった。

「もう、キスはした?」

 幼馴染に、こんな質問をされる日が来るなんて。想像もしていなかった。早水君の指示に従って正解だったと思った。
 昨日考えてしまった事は、実際には起きていないので大丈夫。私は千鶴君が好き。だから……絶対に、早水君に惹かれてはいけない。

 千鶴君が聞いているのは、きっと口にするキスの事だよね……そう判断して首を横に振る。

 向けられていたピリリとした視線が、揺らいだように感じる。千鶴君の口元が、僅かに綻ぶのが見えた。

「これから結が早水とする事全部、オレが先にしてもいい?」

 呼吸が止まりそうになる。驚いて見つめ返した。

「それは……」

 唇を何とか動かす。確認しようと試みる。彼の発言の意図するところと、私の感じたニュアンスに齟齬があってはいけない。でも、何て言えばいいんだろう。慎重に言葉を選ぼうと口ごもった。

 ベッドの端を掴んでいた右手が千鶴君の左手に包まれたのを、温もりで知る。助けを乞うように、真剣な瞳で告げられる。

「ダメだって言っても、帰らせない」

 口調で気付いてしまう。彼も私と同じだ。重みを孕む強い望みを、体の内に飼っている。

 抑え切れない衝動を、私へ向けてくれたんだと理解した。

 えっと。やっぱり千鶴君は、私と……エッチな事をしたいって思ってる?

 早水君のアドバイスが神がかる程の威力を示したとしても。展開が早くて、心が追いついていない。

 今日は金曜日。千鶴君のお母さんは介護の為、泊まりがけで出掛けていて……お父さんは出張中だと聞いていた。お兄さんは、友達の家に泊まるらしい。

「でも」

 ずっと気になっていた事を切り出す。

「千鶴君は、真由ちゃんと付き合ってるんじゃないの……?」

「真由? ……ああ」

 千鶴君が少し笑った。逆に尋ねられる。

「もしかして。オレが告白されたって言ったから、気にしてたの?」

 何だろう。千鶴君が凄く嬉しそうだ。ニッと歯を見せ笑み、明かしてくる。

「あの子は彼氏いるから」

「えっ?」

 どういう事っ?

 私が詳細の説明を求める前に、千鶴君が話し始めた。

「オレ、失恋したばっかで寂しいんだ」

 窺うように神妙な面持ちの眼差しを送ってくる。

「慰めてほしい」

 彼の視線が下へ逸れる。低く呟かれた幼馴染からの要望に息を呑む。彼は傷付いていたんだ。私は……それすらも全然、分かっていなかった。

 千鶴君も真由ちゃんが好きだったんだ。

 千鶴君の話から推測する。もしかすると、二人は付き合ってすぐに別れたのかもしれない。胸が苦しい。

 目の前の幼馴染をギュッと抱きしめる。触れた場所が、千鶴君の体温で満たされる。


 そっか。

 涙が出る。
 私も失恋した。


 今。




「……ずっと好きだったんだ。いつも傍にいたかった」

 好きな人が私へ告白してくれた。

 彼女への想いを。

 とても優しい手付きで頭を撫でられている。潤んだ瞳を伏せ涙を払った。彼からもらったこの痛みも、この先ずっと覚えていたい。何もかも覚えていたい。千鶴君は私の大切な人だから。

「彼女としたかった事、結としたい」

 強く抱きしめられながら、彼の望みを聴いた。僅かに笑んでみたけど、涙は止んでくれなかった。答えを伝える。

「いいよ」

 代わりでもいい。千鶴君の失恋の痕が……真由ちゃんへの気持ちが、私との思い出に塗り潰されればいい。

「……早水には黙ってて」

 間近になって言われた。唇が宛がわれる。キスを受け入れた。性急に求められる。何度も重ね合う。

 千鶴君と秘密を持った。

 彼の手が私に触れる。
 突き抜けるように、甘い痺れを残していく。
 幾度も身を震わせた。

『ダメだって言っても、帰らせない』

 彼は断言した通り……私が恥ずかしさと強い快楽に耐えられなくなって「やめて」と言っても、やめてくれなかった。逆に弱点を知られてしまい、執拗に探求される事態へ移行する。涙目になりながら「意地悪しないで」と、お願いしても何故か更に責められ……果てには「結が煽ってくるのが悪い」と、私のせいにされた。

 初めて経験する一つ一つを、刻み込むように導かれる。千鶴君の手を握る。

 慣れていないのは私だけかなと思っていたけど、彼もどこか余裕のなさそうな雰囲気があって嬉しかった。

 彼が私を通して真由ちゃんを見ているとしても。夢が叶ったように幸せな時間だった。
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