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♦6 『今日』
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♦♦♦ 6 『今日』 ♦♦♦
「んっ、ふっ……はぁ……っんむ」
唇や舌や唾液も、早水君でいっぱいになる。仰向けに寝かされている間も、キスは続いていた。
彼の手が初めて、私の胸に触れる。一瞬、自分の体がビクッと震えたけど……次第に強張りが解けていく。
最初は、ためらうようにぎこちなかった。少しして……動きに遠慮がなくなる。結構、好き勝手に触ってるなと感じる程に弄んでくる。
口が放された。薄く呼吸を繰り返しながら見上げる。睨むような険しい視線を注がれている。
「どういう事?」
問い詰められるけど、何の件についてか思い当たらない。僅かに眉を寄せ、首を傾げる。
「中学生のおっぱいじゃない。何てものを隠してたんだよ。ピンクだし」
理不尽なお咎めに、頬が熱くなる。
「そ、そこまで? 違うよ。絶対に言い過ぎだよ! ほかにもいるよ! 見た事あるもん。私よりも大きい人!」
「へえぇ?」
信じていない口振りで返された。
「誰?」
聞かれて、渋々白状する。
「三年生の人……」
「そう」
尋ねておいて……答えにはさして興味のなさそうな物言いをする彼に、首を傾げる。
その時。
双丘の間にある谷に、早水君の顔が埋まる。
それだけでも、心臓が痛いくらい鼓動を鳴らしているのに。左右の丘……特に頂上を指で擦られ、甘い痺れが走る。おへその下辺りが疼いて、堪らず太腿をすり合わせる。
「うっ……あ……っ……んぅ」
谷間を舐めていた早水君が顔を離した。
「千鶴君にムカついてる」
少し怒っているトーンの声音で告げられる。
「多分、僕より進んでるから」
理由が語られる。早水君の目が、イタズラを思い付いたような笑みに細まるのが見える。
執拗に揉み回してくる手の蠢きが凪いだ。嫌な予感がする。
早水君の顔が、再び谷間に落ちてくる。
「あっ! ちょっとっ!」
声を掛けて止めようとしたけど、遅かった。胸の間を吸われ、更に体が切なくなる。
「やだ、そこは……」
抵抗しようと出した声も、か細く消え入る。
ダメだよ……そんな所にキスマークを付けたら、千鶴君にバレちゃう。早水君とエッチな事したってバレちゃう!
ダメなのに。凄く欲求が濃くなる。焦燥に意識の大半を支配されているようだと、頭の隅で考えている。
早水君の頭が、谷間から離れた。
「仕返し」
言い切って愉快そうに、ニヤリと笑う……膝立ちで私に跨る相手を仰ぐ。
早水君は察しているのかもしれないと感じた。もしくは、私が彼の思惑に捕まっただけなのかも。
どこか陰りのある微笑を浮かべ、見下ろしてくる。
きっともう……止められないのだと悟った。
千鶴君と彼の部屋で会う。前日に早水君から付けられたキスマークを見られた。
……その時まで。ドキドキしていた。恐れていた。千鶴君が、どんな反応を示すのか。
胸元を見られた際、相手の表情が僅かに強張ったように見える。だけど……それも一瞬の事で、すぐに続きが再開される。
私は「よかった。嫌われてなさそう」と、心の内で安堵していた。いつものように、お互いを慰め合う。――でも。本当は違っていた。私が気付いていないだけで……千鶴君の中では大きな変化があったのだ。
今日が私の人生にとって重大な日だったなんて。予想もしなかった。
いつも以上に満たされ、余韻にぼうっとしている。
千鶴君は玄関の外まで見送ってくれた。
「結」
呼ばれて振り向く。マンションの通路で、千鶴君と向かい合う。
私は再び制服を着ていたけど、千鶴君は普段に着ているのをよく見掛ける部屋着姿だった。
彼が少し俯いたので視線が外れる。
「あのさ。オレのお願い、聞いてくれる?」
言われて目を瞠る。
どうしたんだろう……改まって。
千鶴君のお願いなら、何でも叶えてあげたいと思う。
彼が口を開く。
「オレの事が好きだって、言ってほしい」
一拍、息が止まりそうになる。状況が分からず「私の気持ち、知られてたの?」といった思考が、脳内を駆け巡る。焦って取り乱し掛ける直前、千鶴君がぽつりと言うのを聞く。
「本心じゃなくてもいい」
彼は笑顔なのに。私は何か……とてつもなく悪い事をしてしまったような気配を感じる。それが何なのか掴めていなかった。
息を吸う。
「好きだよ。千鶴君が…………好きだよ」
一生懸命な心持ちで言った。泣きそうになる。
次の瞬間、抱きしめられた。ぎゅうっと強く。すぐ傍で聞こえる。
「オレもっ…………結が好きだ」
あれっ……。ああ。もしかして私、夢を見ているのかな?
千鶴君を抱きしめ返して目を閉じる。涙を流しながら願う。
夢なら覚めないで。
今日という日は、私の人生に大きく刻まれる事になる。長年、望んでいた時と恐れていた時が……同時に訪れたから。
「オレ、もう結とは会わない」
甘い夢は終わりを迎える。伝えられた『サヨナラ』に、彼を引き留める為の手立てを見付けようとする行為さえ……拒まれたのだと理解した。
やっと手が届きそうだと……もう少しで私のものになる筈だった、かつて望んだ未来は。私自体の変容によって行方を見失った。
私を捕らえていた温もりが、離れていく。彼はニッと笑んだ。
「今まで、ごめんな。早水とするべきところを色々……オレがもらって」
キスや……初めての事を言っているんだ。
反応もできず、ただ話を聞いていた。
「気を付けろよ」
不意に、千鶴君の表情が険しくなる。眉間に皺を寄せ、何か心配事がありそうな素振りで耳打ちされる。内容に目を見開く。
早水君の……秘密?
呆然と立ち尽くす私へ、笑い掛けてくる。
「じゃな」
きっと、これは夢だよね? 早く覚めてほしい。
明るい響きで永遠のサヨナラを告げ…………私を置いて行く。
真実も本心も、ずっと隠し続けていた望みも。
伝えられないまま、終わってしまった。
私の一番大切に想っていた人は振り向かずに、ドアの向こうへ消えた。
海沿いの歩道を進んでいる。振り向いて、早水君へ笑い掛ける。
「デートって、初めて」
元気な素振りを見せる。早水君を安心させたかった。
だけど……。
返ってきたのは、どこか心配そうな……ぎこちない笑顔だった。
千鶴君に別れを告げられた日、自室に独りでいる時「これはダメだ」と思った。うじうじした思考しか浮かばなかったし、どれだけあるんだろうと不思議になるくらいに涙が出続けていた。
陥ってしまった状況を変えたくて、早水君に連絡した。通話にて話を聞いてもらった。
この世の終わりに遭遇したみたいに暗い私を、元気付けようと考えてくれたのかもしれない。提案された。「明日、デートしようよ」と。
私たちの住んでいる地域から割と遠い温泉地へ行こうと誘われた。「バスで行けない事もない……のかな?」と、僅かな不安と……少しワクワクしたような気分の上昇を感じる。朝早く出発し、早めに戻って来ないと。バスの本数が少ない気がする。乗り遅れたら大変だ。
デートに誘ってもらえて、よかった。準備とかバスの時刻の事を考えている間、千鶴君の件を忘れていられたから。
思考していた意識を現在へ戻す。右手には海と空が、遠くまで広がっている。左手には宿泊施設がある。
バス停からここまで歩いた道の溝から湯気が出ていた。そんな光景を、街のあちこちで見掛ける。さすが温泉地だなぁと、ほっこりする。
今日の早水君は、茶色の半袖シャツを着ている。黒い細身のズボンを穿いていて、普段見慣れている制服姿よりも、大人っぽい印象を受ける。
私の方は灰色の上着と、タイトなデニムのスカートという出で立ちだった。今日は足湯に行く予定なので、肩に掛けているバッグにタオルを入れてある。
「足湯、楽しみだなぁ」
明るく言って、再び前を向く。千鶴君に振られたけど、私には早水君という心強い味方がいる。大丈夫だよ。自分へ言い聞かせる。
「千鶴君がいないと、生きていけないと思ってた。ずっと。今、私がここにいるのは……早水君がいてくれるからだよ。ううん。それだけじゃない。お父さんや、お母さんや、おじいちゃん、おばあちゃん、学校の友達や、先生や……皆がいてくれるからだ。きっと」
どうしてだろう。大丈夫だと信じようとしているのに。胸は、まだ痛くて。涙が零れ出てくる。今、一緒にいてくれる早水君に迷惑を掛けてしまうと分かっているから……必死に我慢しているのに。全然、敵わない。
泣いていて視界が悪かった。足元に僅かな段差があり、躓いて転んだ。
「大丈夫?」
早水君が手を差し出してくれるのを目にした時、心の何かが決壊した。
「千鶴君、千鶴君……!」
この場にいない人を、強く求めてしまう。駄々っ子の如く、ないものねだりしているのだと……物凄く格好悪い恥ずかしい行いだと、頭の片隅で嫌悪している。けれど、自制できない。
恋が終わってしまった後で、弱々しくすすり泣く惨めな自分が許せない。せっかく私の為に、ここまで連れて来てくれた早水君にも……酷い態度だった。なんて未熟なんだろう。愚かで浅はかで思いやりがないんだろう。自分に失望していた。
「この世界から、私がいなくなったとしても。千鶴君は悲しんでくれない。彼は違う誰かと生きていくから。……寂しいよ」
「ばか!」
急に浴びせられた暴言に驚いて、目を見開く。早水君が私の腕を持ち上げ、立つよう促してくる。両腕を掴まれた状態になる。正面から言われた。
「何の為に僕が今ここにいるか、分かってないんだ?」
彼の言葉の意味を考える。首を傾げる。
私を心配して、元気付ける為に一緒にいてくれてると思っていたけど。違うのかな?
困惑する。
何で早水君は今、私の傍にいてくれるんだろう?
じっと相手を見つめる。
睨むような視線を返され、見透かされている心持ちになる。
「んっ、ふっ……はぁ……っんむ」
唇や舌や唾液も、早水君でいっぱいになる。仰向けに寝かされている間も、キスは続いていた。
彼の手が初めて、私の胸に触れる。一瞬、自分の体がビクッと震えたけど……次第に強張りが解けていく。
最初は、ためらうようにぎこちなかった。少しして……動きに遠慮がなくなる。結構、好き勝手に触ってるなと感じる程に弄んでくる。
口が放された。薄く呼吸を繰り返しながら見上げる。睨むような険しい視線を注がれている。
「どういう事?」
問い詰められるけど、何の件についてか思い当たらない。僅かに眉を寄せ、首を傾げる。
「中学生のおっぱいじゃない。何てものを隠してたんだよ。ピンクだし」
理不尽なお咎めに、頬が熱くなる。
「そ、そこまで? 違うよ。絶対に言い過ぎだよ! ほかにもいるよ! 見た事あるもん。私よりも大きい人!」
「へえぇ?」
信じていない口振りで返された。
「誰?」
聞かれて、渋々白状する。
「三年生の人……」
「そう」
尋ねておいて……答えにはさして興味のなさそうな物言いをする彼に、首を傾げる。
その時。
双丘の間にある谷に、早水君の顔が埋まる。
それだけでも、心臓が痛いくらい鼓動を鳴らしているのに。左右の丘……特に頂上を指で擦られ、甘い痺れが走る。おへその下辺りが疼いて、堪らず太腿をすり合わせる。
「うっ……あ……っ……んぅ」
谷間を舐めていた早水君が顔を離した。
「千鶴君にムカついてる」
少し怒っているトーンの声音で告げられる。
「多分、僕より進んでるから」
理由が語られる。早水君の目が、イタズラを思い付いたような笑みに細まるのが見える。
執拗に揉み回してくる手の蠢きが凪いだ。嫌な予感がする。
早水君の顔が、再び谷間に落ちてくる。
「あっ! ちょっとっ!」
声を掛けて止めようとしたけど、遅かった。胸の間を吸われ、更に体が切なくなる。
「やだ、そこは……」
抵抗しようと出した声も、か細く消え入る。
ダメだよ……そんな所にキスマークを付けたら、千鶴君にバレちゃう。早水君とエッチな事したってバレちゃう!
ダメなのに。凄く欲求が濃くなる。焦燥に意識の大半を支配されているようだと、頭の隅で考えている。
早水君の頭が、谷間から離れた。
「仕返し」
言い切って愉快そうに、ニヤリと笑う……膝立ちで私に跨る相手を仰ぐ。
早水君は察しているのかもしれないと感じた。もしくは、私が彼の思惑に捕まっただけなのかも。
どこか陰りのある微笑を浮かべ、見下ろしてくる。
きっともう……止められないのだと悟った。
千鶴君と彼の部屋で会う。前日に早水君から付けられたキスマークを見られた。
……その時まで。ドキドキしていた。恐れていた。千鶴君が、どんな反応を示すのか。
胸元を見られた際、相手の表情が僅かに強張ったように見える。だけど……それも一瞬の事で、すぐに続きが再開される。
私は「よかった。嫌われてなさそう」と、心の内で安堵していた。いつものように、お互いを慰め合う。――でも。本当は違っていた。私が気付いていないだけで……千鶴君の中では大きな変化があったのだ。
今日が私の人生にとって重大な日だったなんて。予想もしなかった。
いつも以上に満たされ、余韻にぼうっとしている。
千鶴君は玄関の外まで見送ってくれた。
「結」
呼ばれて振り向く。マンションの通路で、千鶴君と向かい合う。
私は再び制服を着ていたけど、千鶴君は普段に着ているのをよく見掛ける部屋着姿だった。
彼が少し俯いたので視線が外れる。
「あのさ。オレのお願い、聞いてくれる?」
言われて目を瞠る。
どうしたんだろう……改まって。
千鶴君のお願いなら、何でも叶えてあげたいと思う。
彼が口を開く。
「オレの事が好きだって、言ってほしい」
一拍、息が止まりそうになる。状況が分からず「私の気持ち、知られてたの?」といった思考が、脳内を駆け巡る。焦って取り乱し掛ける直前、千鶴君がぽつりと言うのを聞く。
「本心じゃなくてもいい」
彼は笑顔なのに。私は何か……とてつもなく悪い事をしてしまったような気配を感じる。それが何なのか掴めていなかった。
息を吸う。
「好きだよ。千鶴君が…………好きだよ」
一生懸命な心持ちで言った。泣きそうになる。
次の瞬間、抱きしめられた。ぎゅうっと強く。すぐ傍で聞こえる。
「オレもっ…………結が好きだ」
あれっ……。ああ。もしかして私、夢を見ているのかな?
千鶴君を抱きしめ返して目を閉じる。涙を流しながら願う。
夢なら覚めないで。
今日という日は、私の人生に大きく刻まれる事になる。長年、望んでいた時と恐れていた時が……同時に訪れたから。
「オレ、もう結とは会わない」
甘い夢は終わりを迎える。伝えられた『サヨナラ』に、彼を引き留める為の手立てを見付けようとする行為さえ……拒まれたのだと理解した。
やっと手が届きそうだと……もう少しで私のものになる筈だった、かつて望んだ未来は。私自体の変容によって行方を見失った。
私を捕らえていた温もりが、離れていく。彼はニッと笑んだ。
「今まで、ごめんな。早水とするべきところを色々……オレがもらって」
キスや……初めての事を言っているんだ。
反応もできず、ただ話を聞いていた。
「気を付けろよ」
不意に、千鶴君の表情が険しくなる。眉間に皺を寄せ、何か心配事がありそうな素振りで耳打ちされる。内容に目を見開く。
早水君の……秘密?
呆然と立ち尽くす私へ、笑い掛けてくる。
「じゃな」
きっと、これは夢だよね? 早く覚めてほしい。
明るい響きで永遠のサヨナラを告げ…………私を置いて行く。
真実も本心も、ずっと隠し続けていた望みも。
伝えられないまま、終わってしまった。
私の一番大切に想っていた人は振り向かずに、ドアの向こうへ消えた。
海沿いの歩道を進んでいる。振り向いて、早水君へ笑い掛ける。
「デートって、初めて」
元気な素振りを見せる。早水君を安心させたかった。
だけど……。
返ってきたのは、どこか心配そうな……ぎこちない笑顔だった。
千鶴君に別れを告げられた日、自室に独りでいる時「これはダメだ」と思った。うじうじした思考しか浮かばなかったし、どれだけあるんだろうと不思議になるくらいに涙が出続けていた。
陥ってしまった状況を変えたくて、早水君に連絡した。通話にて話を聞いてもらった。
この世の終わりに遭遇したみたいに暗い私を、元気付けようと考えてくれたのかもしれない。提案された。「明日、デートしようよ」と。
私たちの住んでいる地域から割と遠い温泉地へ行こうと誘われた。「バスで行けない事もない……のかな?」と、僅かな不安と……少しワクワクしたような気分の上昇を感じる。朝早く出発し、早めに戻って来ないと。バスの本数が少ない気がする。乗り遅れたら大変だ。
デートに誘ってもらえて、よかった。準備とかバスの時刻の事を考えている間、千鶴君の件を忘れていられたから。
思考していた意識を現在へ戻す。右手には海と空が、遠くまで広がっている。左手には宿泊施設がある。
バス停からここまで歩いた道の溝から湯気が出ていた。そんな光景を、街のあちこちで見掛ける。さすが温泉地だなぁと、ほっこりする。
今日の早水君は、茶色の半袖シャツを着ている。黒い細身のズボンを穿いていて、普段見慣れている制服姿よりも、大人っぽい印象を受ける。
私の方は灰色の上着と、タイトなデニムのスカートという出で立ちだった。今日は足湯に行く予定なので、肩に掛けているバッグにタオルを入れてある。
「足湯、楽しみだなぁ」
明るく言って、再び前を向く。千鶴君に振られたけど、私には早水君という心強い味方がいる。大丈夫だよ。自分へ言い聞かせる。
「千鶴君がいないと、生きていけないと思ってた。ずっと。今、私がここにいるのは……早水君がいてくれるからだよ。ううん。それだけじゃない。お父さんや、お母さんや、おじいちゃん、おばあちゃん、学校の友達や、先生や……皆がいてくれるからだ。きっと」
どうしてだろう。大丈夫だと信じようとしているのに。胸は、まだ痛くて。涙が零れ出てくる。今、一緒にいてくれる早水君に迷惑を掛けてしまうと分かっているから……必死に我慢しているのに。全然、敵わない。
泣いていて視界が悪かった。足元に僅かな段差があり、躓いて転んだ。
「大丈夫?」
早水君が手を差し出してくれるのを目にした時、心の何かが決壊した。
「千鶴君、千鶴君……!」
この場にいない人を、強く求めてしまう。駄々っ子の如く、ないものねだりしているのだと……物凄く格好悪い恥ずかしい行いだと、頭の片隅で嫌悪している。けれど、自制できない。
恋が終わってしまった後で、弱々しくすすり泣く惨めな自分が許せない。せっかく私の為に、ここまで連れて来てくれた早水君にも……酷い態度だった。なんて未熟なんだろう。愚かで浅はかで思いやりがないんだろう。自分に失望していた。
「この世界から、私がいなくなったとしても。千鶴君は悲しんでくれない。彼は違う誰かと生きていくから。……寂しいよ」
「ばか!」
急に浴びせられた暴言に驚いて、目を見開く。早水君が私の腕を持ち上げ、立つよう促してくる。両腕を掴まれた状態になる。正面から言われた。
「何の為に僕が今ここにいるか、分かってないんだ?」
彼の言葉の意味を考える。首を傾げる。
私を心配して、元気付ける為に一緒にいてくれてると思っていたけど。違うのかな?
困惑する。
何で早水君は今、私の傍にいてくれるんだろう?
じっと相手を見つめる。
睨むような視線を返され、見透かされている心持ちになる。
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