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♠7 幼馴染の苦悩(※千鶴視点) + ♣7.5 謀(※早水視点)
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♠♠♠ 7 幼馴染の苦悩(※千鶴視点) ♠♠♠
幼馴染でいる事の、弊害っていうのだろうか。
目線を上げ、ローテーブルの向かい側で熱心にテスト勉強をしている幼馴染を観察する。
肩下くらいまである黒髪は、結ばずそのまま垂らしている。数ヶ月前までは、後方で一つに結ばれていた。その頃からだろうか。彼女が、いつも掛けていた眼鏡をやめてコンタクトにしたのは。
幼少期から、周囲の女子よりも特別に可愛いのは知っていた。だからこれ以上、可愛くならなくていいよ。何で、そんな事してんの? 好きな奴ができた? ……そうとしか思えない。
当たり前のように、オレの部屋で何時間も過ごしている癖に。オレ……男だと意識されてないって事? 結の眼中に、入ってない?
「結の好きな奴が、オレだったらいいのに」と考えたくなる。告白して確かめたいと思う事もあった。……あの時、よく踏み止まったと過去の自分に感心しているよ。告白して失敗したら、二人の関係がどうなるのか予想できない。
もし結の好きな奴が、オレじゃないなら。きっと距離を置かれるだろう。最悪「気持ち悪い」と思われる可能性も……ゼロだとは言い切れない。
だからと言って、このままずっと幼馴染のままなのも耐えられない。もう限界なんだ。
口が勝手に話し掛けていた。
「結って、好きな奴いんの?」
「ふぇっ?」
彼女は勢いよく顔を上げ、視線を彷徨わせている。……そうだよな。急に聞かれたら、驚くよな。
「えと……その……」
頬を染め俯く、幼馴染の凶器めいた可愛さに……オレの胸は抉られる。
「ごめん。無理に言わなくていいから。オレの友達が、よくそういう話をしてるから……結はどうなんだろうなって気になったんだ。聞いてみただけだよ」
微笑んで口にする。凄く知りたかったが、平静を装う。
結が見た目を気にする度に……すぐ赤くなったり傷付き易くて優しいところとか仕草とかオレに懐いてくれてるのも、全部が。オレの焦燥を加速させる。
このままの関係でいて、いい筈がない。結が、ほかの奴に奪われる最悪の想像が現実になってしまう前に……告白を……!
そう思うのに……オレは相当なヘタレらしい。今日も核心に触れられなかった。
結じゃない女子から告白された事がある。今回はマネージャーだった。明日もう一度会って、返事をしないといけなくなった。ダル……。
こっちは……これからどうやって結の心を掴んでいこうかと、考えを巡らせている最中なんだよ。頭使うのマジで苦手なんだよ。余計な雑用を増やさないでくれ。
……。
これは……もしかして、使えるんじゃないか?
「マネージャーに告白された」と結に言って……彼女の反応で、オレに脈があるか窺える事もある……のか?
……という訳で、早速その日の放課後に実行した。結の部屋に行った際、報告し様子を見ていた。
パッと大きく瞼を開いた彼女は――次の瞬間、花が綻ぶように破顔した。
「おめでとう」
こんなに嬉しくない祝福が、この世にはあるんだな。
「……ありがとう」
口元を強張らせつつも、漸く返答した。
動揺してくれるのではと期待していたけど、結果は散散だった。オレ……結に何とも思われてないみたいだな。だからと言って……ほかの女と付き合う気は、更々ねーけどな。
オレの全部を賭けても、結に傍にいてほしい。彼女に嫌われるような行いはしない。
次の日の昼休み、屋上でマネージャーに告白の返事をした。
マネージャーが屋上から去った後……アイツがいるのに気付いた。
♣♣♣ 7.5 謀(※早水視点) ♣♣♣
昼休み、屋上に身を潜め一息ついていた。教室にいるとクラスの女子らが頻繁に話し掛けてくるので、落ち着いて考え事もできない。
心地いい風に瞼を閉じ……最近、気になって仕方ない人について想像を巡らせている。どうやら彼女には、片想いしている幼馴染がいるらしい。
遠くから眺めて終わる筈だった……恐らく「恋」にも近い感情のせいで、次第に……日常生活への物足りなさを積もらせていた。自覚して驚いた。自分が誰かの願いを踏みにじってまで強く欲しいと思ったのは、後にも先にも……この時だけなんじゃないかという気がした。
「彼女」は、僕の中で特別な存在だった。
そろそろ教室に戻って、件の人を観察しよう。今日の彼女は、何となく変だった。ぼーっとした瞳で、明らかに元気のない雰囲気をまとっている。
もしかして、幼馴染と何かあった? 推測するけど、本当のところは分からない。「聞いたら教えてくれるかな?」と、思考しながら歩いていた。
「ごめん。オレ、好きな人いるから」
はっきりした声が耳に届く。顔を上げ、声の聞こえてきた前方へと視線を向ける。知っている人物がいたので思わず足を止め、声の主を凝視する。
黒髪で背の高い彼は、件の人……結ちゃんの片想いしているだろう相手である。
告白の現場に遭遇してしまった。振られたらしい女子生徒が去った後に、彼と目が合う。
「わっ! びっくりした! 人がいたのか……。三組の、えーと。早水か」
へえ……僕の事、知ってるんだ。
意外だった。少し面白くなってきて目を細める。
「ああ。確か一組の人だよね? ……結ちゃんの、幼馴染の千鶴君」
彼女の名を出すと、相手の表情が僅かに曇った。
「早水って、結と仲いいの?」
「まあ、そこそこ?」
妙な沈黙があった。薄く予想していた顛末への確信が深まる。
多分、結ちゃんと彼は両片思いだ。
「早水さ……ちょっと、教えてほしいんだけど」
改まった雰囲気で尋ねてくる。
「結の好きな奴が、誰か……知ってたりする?」
…………それを、僕に聞くのか。内心で、この状況に溜め息をつく。
「僕が、それとなく……探りを入れてこようか?」
「……っ、頼む!」
怪しむ素振りもなく、提案へ飛び付いてきたライバルに苦笑する。
はあ。何で彼女の幼馴染が、ただのクラスメイトでしかない僕に頼むんだよ。全く。本当に、お似合いな二人だよ。
「あっ、早水さ。連絡先を……」
「分かった」
アプリに連絡先を登録しながら言及する。
「どっちにしろ。結果は結ちゃんから千鶴君へ、直接伝えるように助言しておく」
目線だけ上げ、反応を見る。悲愴な顔で、こっちを凝視してくる。そんなに可能性がないと思ってんの? 何かムカつくな。
「結ちゃんの好きな人が千鶴君だった場合は、そのまま付き合えばいいじゃん。正直……千鶴君の傍にいる時の結ちゃんが、一番可愛い」
「そ、そうか……」
喋り過ぎた。窺い知ろうとしてくる気配の視線に、気取られただろうなと感じ取る。
彼女へ抱く邪な想いを。
結ちゃんの事は可愛いと思う。クラスにいる、ほかの女子たちより優しいし。彼女が一途に幼馴染を好きでいるところも、好ましいと思っている。
放課後……二人だけしかいない教室で、結ちゃんの話を聞いている。千鶴君を想って涙を溜める姿を目にする。残っていた迷いを断つ。気持ちを定めた。
抑えていた感情が漏れ出してくる。
ああ。千鶴君が、もたもたしているなら……僕が奪ってもいいかなって。
ニコリとした表情を作り、彼女を唆す。
「じゃあさ。試しに千鶴君に言ってみなよ。僕と付き合ってる事。彼は焦るんじゃないかな? ただし結ちゃんは、僕の事が好きなフリをしていないとダメだよ? バレたら面白みが半げ……ンンッ、ゲホゲホ……バレたら、計画は失敗するだろうから」
どうせ千鶴君と結ちゃんは両想いだし。僕がどう足掻こうと、変わらないだろう? このくらいの悪戯したっていいよな? 僕から結ちゃんを奪うんだから。
これは宣戦布告だ。
結ちゃんに助言する体で、己の思惑を成就させるシナリオへ誘う。
「千鶴君に告白するつもりの言葉で、僕が好きだと言っといて」
自室からベランダへ出て、夜風に当たる。遠くまで続く町の灯りを眺めていた。多分、二人は今頃……。薄く笑みが湧く。
「千鶴君へ贈られる予定だった大事な言葉は、僕のものになった訳だ。彼は、どんな気分だったかな?」
夕方……屋上で結ちゃんにボイスレコーダーを渡したし、使い方も教えた。明日には、結果が分かるだろう。
翌日、結ちゃんからボイスレコーダーを返してもらった。休み時間に屋上へ向かう。周囲に人がいないのを確認し、内容を聴く。手で口を押さえ、緩み出す唇を隠す。
……面白いくらいに、うまく行ってる。
どんどん欲深くなる。止められなくなる。
「もう、放さないと」
独り言ちる。
常識的に考えて、彼女の恋を応援した方がいいのは分かっている。反対の事をしていた。「僕」を彼女の記憶に刻んで、サヨナラする日に少しでもいいから「寂しい」と思ってもらいたかった。
嘘だ。
本当はっ……ずっと想ってほしかった。
いないと生きていけない程に、僕を見てほしかった。千鶴君よりも、もっと。彼女の大部分を……できるなら全てを僕のものにしたかった。
浅い幻を思考に浮かべて、笑う。
それは、僕にとっても……望むところじゃないんだ。
聴いていた会話の雰囲気が変わってきた。結ちゃんが僕を好きだと答えた辺りから。千鶴君の声に、不穏な感情が宿っているようにも思える。
『オレ、早水に恨みがあるんだ』
うん?
眉を寄せる。音声に意識を集中する。千鶴君が結ちゃんに頼んでいる。
『復讐を手伝ってほしい』
『えっ……?』
えっ……? 何か、復讐してくるのか?
『大事な幼馴染を取られた気分で、ちょっと悔しいんだ。そういう「恨み」』
千鶴君は明るめの調子で喋っているけど。
強がってるよな。本当は、ちょっとどころじゃないだろ?
我ながら惨い事をしたと、苦い心地になる。
話の流れが、更に不穏さを増してくる。結ちゃんに持たせていたボイスレコーダーがバレた。
結ちゃんはいかにもそれっぽい理由を挙げて、会話の録音を指示した僕の思惑を誤魔化そうとしてくれた。彼女へ「今後の作戦に必要だから」と伝えていた意図も、大筋の真意ではない。
けれど既に。千鶴君には真意の方を掴まれてしまったみたいだ。
彼は言った。『これは宣戦布告だ』と。
僕の目的が、彼らの害になるのも見通されているらしい。
成り行きに耳を傾けている。やり取りの中で、千鶴君が妙な事を言い出す。
『じゃあ手始めに、今日はアイツに塩を送っといてやるか』
『塩?』
「塩?」
結ちゃんの不思議そうな声と、僕の呟きが重なる。そして――。
ちょ、聞いてない! えっ?
今こんな場所で、聞いていい音声じゃないだろ。
千鶴君。やってくれたな。このモヤモヤ感……どうしてくれるんだよ。結ちゃんに真偽を確認できそうな時間まで、まだ半日もあるんだぞ?
結ちゃんと話せたのは、放課後になってからだった。
千鶴君にキスマークを付けられたそうだ。それ以上の事は、していないと言っていた。痕も見せてもらった。何とも言えない気持ちになって、彼女を抱きしめる。
危なかった。二人の仲が、これ以上に進んでいると報告されたら……取り乱していたかもしれない。
千鶴君……仕返しのつもりか?
そっちが、そう来るなら。こっちも乗ってやるよ。
幼馴染でいる事の、弊害っていうのだろうか。
目線を上げ、ローテーブルの向かい側で熱心にテスト勉強をしている幼馴染を観察する。
肩下くらいまである黒髪は、結ばずそのまま垂らしている。数ヶ月前までは、後方で一つに結ばれていた。その頃からだろうか。彼女が、いつも掛けていた眼鏡をやめてコンタクトにしたのは。
幼少期から、周囲の女子よりも特別に可愛いのは知っていた。だからこれ以上、可愛くならなくていいよ。何で、そんな事してんの? 好きな奴ができた? ……そうとしか思えない。
当たり前のように、オレの部屋で何時間も過ごしている癖に。オレ……男だと意識されてないって事? 結の眼中に、入ってない?
「結の好きな奴が、オレだったらいいのに」と考えたくなる。告白して確かめたいと思う事もあった。……あの時、よく踏み止まったと過去の自分に感心しているよ。告白して失敗したら、二人の関係がどうなるのか予想できない。
もし結の好きな奴が、オレじゃないなら。きっと距離を置かれるだろう。最悪「気持ち悪い」と思われる可能性も……ゼロだとは言い切れない。
だからと言って、このままずっと幼馴染のままなのも耐えられない。もう限界なんだ。
口が勝手に話し掛けていた。
「結って、好きな奴いんの?」
「ふぇっ?」
彼女は勢いよく顔を上げ、視線を彷徨わせている。……そうだよな。急に聞かれたら、驚くよな。
「えと……その……」
頬を染め俯く、幼馴染の凶器めいた可愛さに……オレの胸は抉られる。
「ごめん。無理に言わなくていいから。オレの友達が、よくそういう話をしてるから……結はどうなんだろうなって気になったんだ。聞いてみただけだよ」
微笑んで口にする。凄く知りたかったが、平静を装う。
結が見た目を気にする度に……すぐ赤くなったり傷付き易くて優しいところとか仕草とかオレに懐いてくれてるのも、全部が。オレの焦燥を加速させる。
このままの関係でいて、いい筈がない。結が、ほかの奴に奪われる最悪の想像が現実になってしまう前に……告白を……!
そう思うのに……オレは相当なヘタレらしい。今日も核心に触れられなかった。
結じゃない女子から告白された事がある。今回はマネージャーだった。明日もう一度会って、返事をしないといけなくなった。ダル……。
こっちは……これからどうやって結の心を掴んでいこうかと、考えを巡らせている最中なんだよ。頭使うのマジで苦手なんだよ。余計な雑用を増やさないでくれ。
……。
これは……もしかして、使えるんじゃないか?
「マネージャーに告白された」と結に言って……彼女の反応で、オレに脈があるか窺える事もある……のか?
……という訳で、早速その日の放課後に実行した。結の部屋に行った際、報告し様子を見ていた。
パッと大きく瞼を開いた彼女は――次の瞬間、花が綻ぶように破顔した。
「おめでとう」
こんなに嬉しくない祝福が、この世にはあるんだな。
「……ありがとう」
口元を強張らせつつも、漸く返答した。
動揺してくれるのではと期待していたけど、結果は散散だった。オレ……結に何とも思われてないみたいだな。だからと言って……ほかの女と付き合う気は、更々ねーけどな。
オレの全部を賭けても、結に傍にいてほしい。彼女に嫌われるような行いはしない。
次の日の昼休み、屋上でマネージャーに告白の返事をした。
マネージャーが屋上から去った後……アイツがいるのに気付いた。
♣♣♣ 7.5 謀(※早水視点) ♣♣♣
昼休み、屋上に身を潜め一息ついていた。教室にいるとクラスの女子らが頻繁に話し掛けてくるので、落ち着いて考え事もできない。
心地いい風に瞼を閉じ……最近、気になって仕方ない人について想像を巡らせている。どうやら彼女には、片想いしている幼馴染がいるらしい。
遠くから眺めて終わる筈だった……恐らく「恋」にも近い感情のせいで、次第に……日常生活への物足りなさを積もらせていた。自覚して驚いた。自分が誰かの願いを踏みにじってまで強く欲しいと思ったのは、後にも先にも……この時だけなんじゃないかという気がした。
「彼女」は、僕の中で特別な存在だった。
そろそろ教室に戻って、件の人を観察しよう。今日の彼女は、何となく変だった。ぼーっとした瞳で、明らかに元気のない雰囲気をまとっている。
もしかして、幼馴染と何かあった? 推測するけど、本当のところは分からない。「聞いたら教えてくれるかな?」と、思考しながら歩いていた。
「ごめん。オレ、好きな人いるから」
はっきりした声が耳に届く。顔を上げ、声の聞こえてきた前方へと視線を向ける。知っている人物がいたので思わず足を止め、声の主を凝視する。
黒髪で背の高い彼は、件の人……結ちゃんの片想いしているだろう相手である。
告白の現場に遭遇してしまった。振られたらしい女子生徒が去った後に、彼と目が合う。
「わっ! びっくりした! 人がいたのか……。三組の、えーと。早水か」
へえ……僕の事、知ってるんだ。
意外だった。少し面白くなってきて目を細める。
「ああ。確か一組の人だよね? ……結ちゃんの、幼馴染の千鶴君」
彼女の名を出すと、相手の表情が僅かに曇った。
「早水って、結と仲いいの?」
「まあ、そこそこ?」
妙な沈黙があった。薄く予想していた顛末への確信が深まる。
多分、結ちゃんと彼は両片思いだ。
「早水さ……ちょっと、教えてほしいんだけど」
改まった雰囲気で尋ねてくる。
「結の好きな奴が、誰か……知ってたりする?」
…………それを、僕に聞くのか。内心で、この状況に溜め息をつく。
「僕が、それとなく……探りを入れてこようか?」
「……っ、頼む!」
怪しむ素振りもなく、提案へ飛び付いてきたライバルに苦笑する。
はあ。何で彼女の幼馴染が、ただのクラスメイトでしかない僕に頼むんだよ。全く。本当に、お似合いな二人だよ。
「あっ、早水さ。連絡先を……」
「分かった」
アプリに連絡先を登録しながら言及する。
「どっちにしろ。結果は結ちゃんから千鶴君へ、直接伝えるように助言しておく」
目線だけ上げ、反応を見る。悲愴な顔で、こっちを凝視してくる。そんなに可能性がないと思ってんの? 何かムカつくな。
「結ちゃんの好きな人が千鶴君だった場合は、そのまま付き合えばいいじゃん。正直……千鶴君の傍にいる時の結ちゃんが、一番可愛い」
「そ、そうか……」
喋り過ぎた。窺い知ろうとしてくる気配の視線に、気取られただろうなと感じ取る。
彼女へ抱く邪な想いを。
結ちゃんの事は可愛いと思う。クラスにいる、ほかの女子たちより優しいし。彼女が一途に幼馴染を好きでいるところも、好ましいと思っている。
放課後……二人だけしかいない教室で、結ちゃんの話を聞いている。千鶴君を想って涙を溜める姿を目にする。残っていた迷いを断つ。気持ちを定めた。
抑えていた感情が漏れ出してくる。
ああ。千鶴君が、もたもたしているなら……僕が奪ってもいいかなって。
ニコリとした表情を作り、彼女を唆す。
「じゃあさ。試しに千鶴君に言ってみなよ。僕と付き合ってる事。彼は焦るんじゃないかな? ただし結ちゃんは、僕の事が好きなフリをしていないとダメだよ? バレたら面白みが半げ……ンンッ、ゲホゲホ……バレたら、計画は失敗するだろうから」
どうせ千鶴君と結ちゃんは両想いだし。僕がどう足掻こうと、変わらないだろう? このくらいの悪戯したっていいよな? 僕から結ちゃんを奪うんだから。
これは宣戦布告だ。
結ちゃんに助言する体で、己の思惑を成就させるシナリオへ誘う。
「千鶴君に告白するつもりの言葉で、僕が好きだと言っといて」
自室からベランダへ出て、夜風に当たる。遠くまで続く町の灯りを眺めていた。多分、二人は今頃……。薄く笑みが湧く。
「千鶴君へ贈られる予定だった大事な言葉は、僕のものになった訳だ。彼は、どんな気分だったかな?」
夕方……屋上で結ちゃんにボイスレコーダーを渡したし、使い方も教えた。明日には、結果が分かるだろう。
翌日、結ちゃんからボイスレコーダーを返してもらった。休み時間に屋上へ向かう。周囲に人がいないのを確認し、内容を聴く。手で口を押さえ、緩み出す唇を隠す。
……面白いくらいに、うまく行ってる。
どんどん欲深くなる。止められなくなる。
「もう、放さないと」
独り言ちる。
常識的に考えて、彼女の恋を応援した方がいいのは分かっている。反対の事をしていた。「僕」を彼女の記憶に刻んで、サヨナラする日に少しでもいいから「寂しい」と思ってもらいたかった。
嘘だ。
本当はっ……ずっと想ってほしかった。
いないと生きていけない程に、僕を見てほしかった。千鶴君よりも、もっと。彼女の大部分を……できるなら全てを僕のものにしたかった。
浅い幻を思考に浮かべて、笑う。
それは、僕にとっても……望むところじゃないんだ。
聴いていた会話の雰囲気が変わってきた。結ちゃんが僕を好きだと答えた辺りから。千鶴君の声に、不穏な感情が宿っているようにも思える。
『オレ、早水に恨みがあるんだ』
うん?
眉を寄せる。音声に意識を集中する。千鶴君が結ちゃんに頼んでいる。
『復讐を手伝ってほしい』
『えっ……?』
えっ……? 何か、復讐してくるのか?
『大事な幼馴染を取られた気分で、ちょっと悔しいんだ。そういう「恨み」』
千鶴君は明るめの調子で喋っているけど。
強がってるよな。本当は、ちょっとどころじゃないだろ?
我ながら惨い事をしたと、苦い心地になる。
話の流れが、更に不穏さを増してくる。結ちゃんに持たせていたボイスレコーダーがバレた。
結ちゃんはいかにもそれっぽい理由を挙げて、会話の録音を指示した僕の思惑を誤魔化そうとしてくれた。彼女へ「今後の作戦に必要だから」と伝えていた意図も、大筋の真意ではない。
けれど既に。千鶴君には真意の方を掴まれてしまったみたいだ。
彼は言った。『これは宣戦布告だ』と。
僕の目的が、彼らの害になるのも見通されているらしい。
成り行きに耳を傾けている。やり取りの中で、千鶴君が妙な事を言い出す。
『じゃあ手始めに、今日はアイツに塩を送っといてやるか』
『塩?』
「塩?」
結ちゃんの不思議そうな声と、僕の呟きが重なる。そして――。
ちょ、聞いてない! えっ?
今こんな場所で、聞いていい音声じゃないだろ。
千鶴君。やってくれたな。このモヤモヤ感……どうしてくれるんだよ。結ちゃんに真偽を確認できそうな時間まで、まだ半日もあるんだぞ?
結ちゃんと話せたのは、放課後になってからだった。
千鶴君にキスマークを付けられたそうだ。それ以上の事は、していないと言っていた。痕も見せてもらった。何とも言えない気持ちになって、彼女を抱きしめる。
危なかった。二人の仲が、これ以上に進んでいると報告されたら……取り乱していたかもしれない。
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