【完結】【応募版】背徳トライアングル

猫都299

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♠8 類(※千鶴視点) + ♣8.5 望む事(※早水視点)

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♠♠♠ 8 類(※千鶴視点) ♠♠♠


 昨日『結の好きな奴が誰か』早水に尋ねた。「僕が、それとなく……探りを入れてこようか?」と言われ、思わずその案に飛び付いてしまった。そして今日……結に「話がある」と呼ばれ、放課後に彼女の部屋を訪れた。


「私っ……早水君と付き合う事にしたの」


 告げられた。ハッキリと。

 震えを止めようと必死だった。ちゃんと笑えているのか分からない。自分が今、何を言っているのかも。

 彼女の好きな人は、早水だったのか? そんな筈ないよな? 信じたくない。オレの方が、結に近い場所にいるのに。

 恐れていた事を口に出す。


「じゃあさ。もしかして、これからはオレたち……会わない方がいいのかな?」


 奥歯を噛み締める。

 自分から幕を引くなんてな。オレ……何を期待してた?
 滑稽な自分に絶望する。

 現実に叩きのめされて、二度と再起できそうもない気分だった。


 結にシャツの袖を掴まれて、目を見開く。

「嫌! 嫌だよ!」

 大きな声が響く。普段は大人しい彼女が迸らせた激しい感情に、頬を叩かれたような衝撃を受ける。

 眉を寄せた必死な様相で見つめられている。瞳が、強く訴え掛けてくる。

 もしかして。結は本当は、オレの事を好きなんじゃないかと……錯覚しそうになる。動揺しながら尋ねる。

「いいの? オレといて」

 彼女は――頷いた。息を呑む。渇いた唇で紡ぐ。

「結は……」

 大事な件を確認する。

「本当に、早水の事が好きなの?」

 何か言い掛けるように動いた彼女の口が閉ざされる。様子がおかしい。
 再び目が合った時、微笑みを向けられた。優しい眼差しに、一欠片の歪さが混ざっているのを見た。

「うん……好き。好きだよ。私は、早水君が…………好き」

 結の告白は、到底信じられなかった。『早水君』ね……。違和感が大きい。胃がムカムカしてくるような不快感に、顔をしかめる。今まで感じた事のない程の、どす黒い狂気を……早水に向けたくなる。


 彼女を早水から奪いたい。


 オレの想いは、まだ伝えるべきじゃない。結が本当に早水を好きなら、すぐに振られるだろうから。

 あいつなら……多分、彼女に渡してるだろうな。「今、この時」を、奴も知る為の物を。鎌をかけてみる。

「アイツが渡してきた物、持ってる?」

「な、何で知ってるの?」

 結の目が丸くなっている。確認する前までは「スマホアプリの方か?」とも思っていたが、ボイスレコーダーで当たりだった。やっぱりかよ。抜かりねーな。

「ごめんね。勝手に会話を録音してて。もし千鶴君と二人きりで会うなら、一部始終を録音しておいてって頼まれて。あっ、ほら! 一応……付き合っているから、その……私と千鶴君の関係を心配していたのかも」

 結の言い分も、凄くそれらしく聞こえる。だが。

 ――違うな。
 オレが感じた、アイツの本性は……。

 長年、抑えていた衝動に今日……初めて、許しを与える。結に触れる。彼女の髪を撫でる。

 早水は、オレの大切な結に手を出してきた。憎悪の一端が、呟きになって漏れる。

「これは宣戦布告だ」

「早水君は、いい人だよ!」

 結がアイツを庇い、悲しげに顔を曇らせるのを冷静に眺めていた。

「まあ、ある意味そうかもな」

 認める。早水が動いたから、オレも覚悟ができた。ヘタレなオレを煽ってくれたのだけは感謝してもいい。

 早水。お前は甘いんだよ。結をオレの元へ寄越した事……後悔しても遅いからな。

 奴の企みに乗ったフリをして、結をじっくりとオレのものにしていく。怪しまれないように、アイツの謀に踊らされている素振りで。少しずつ進めていく。

 アイツが本当は何を望んでいるのか、解る気がしている。解る自分を、許してはいけない。結を……めちゃくちゃにしてしまいそうだ。狂気に身を沈めてしまう前に、確かめなければ。

 早水の思惑に囚われていると知りつつ、挑発に乗ってしまった。




 結との関係が進んだ。自分の中で起きている変化に戸惑っていた。

 決定的だったのは、結の胸の谷間に付けられた赤い痕に気付いた時だった。覚悟していたつもりだった。オレとの関係が進んでいくように、結と早水の関係も……。想像してしまう。

 ショックは大きく……濁流の如く押し寄せる激情のままに、彼女を抱いた。



 玄関の外まで見送る。名を呼ぶ。振り向いた結を、目に焼いた。
 彼女を大切に想うのなら、壊してしまう前に離れないとだめだ。

 諦め切れない心が願う。

「オレの事が好きだって、言ってほしい」

 口をぱくぱくさせている結の様子に、少し笑う。困らせたくない。

「本心じゃなくてもいい」

 苛烈に彼女へ向かいたがる劣情とボロボロに傷付けられた恋情を、心の内に隠して……譲歩する。

 結がオレを大切に思ってくれているのは、十分に分かったよ。
 失恋したからマネージャーの代わりに慰めてくれという、無茶苦茶で最低な要求を受け入れてくれた。馬鹿な奴。早水と幸せになっても……たまには、オレの事も思い出してほしい。


「好きだよ。千鶴君が…………好きだよ」


 最後に、思い切り抱きしめた。
 夢を見てるみたいだ。両想いになれたような愛しい幻に妥協して、瞳を伏せる。

「オレもっ…………結が好きだ」

 結が抱きしめ返してくれた。十分だよ。


「オレ、もう結とは会わない」

 迷いを払って別れを告げた。




 去り際に、気がかりな件を伝える。早水が結に、まだ打ち明けていないだろう秘密を。

「じゃな」

 明るく言って、背を向けた。

 早く放さないと、ぐちゃぐちゃにしてしまいそうだった。
 オレたちの、これまで築いてきた関係も。結がオレに見ている「オレ」のイメージも。彼女の未来も。

 格好悪く振られる事もしないで、「彼女の為」と理由を付けて自分を守った。困惑していた。

 オレは大事な幼馴染に何をした? これから、何をするつもりだった?



♣♣♣ 8.5 望む事(※早水視点) ♣♣♣


 結ちゃんが泣いてる。



 千鶴君に振られたと落ち込んでいる彼女を、温泉に連れ出す。もう少しで目的地の足湯に辿り着きそうだった。

「足湯、楽しみだなぁ」

 明るく笑って見せる彼女に、胸が痛んで顔をしかめる。結ちゃんが空元気で、無理に笑っているのは分かっていた。

 結ちゃんと千鶴君の仲を乱したのは、紛れもない僕だ。だけど、この結果を望んだ訳じゃない。


 突然だった。前を歩いていた結ちゃんが、躓いて地面に手をつく。よく見ると、彼女の足元に僅かな段差がある。

「大丈夫?」

 声を掛け、助け起こそうと手を差し出す。――彼女は、泣いていた。

「千鶴君、千鶴君……!」

 顔をぐちゃぐちゃに歪めて彼を呼ぶ結ちゃんを目にしてイラつく。千鶴君……僕の結ちゃんに、何て事してくれたんだよ。


「この世界から、私がいなくなったとしても。千鶴君は悲しんでくれない。彼は違う誰かと生きていくから。……寂しいよ」

「ばか!」

 結ちゃんが弱気過ぎて口出しした。彼女を立ち上がらせ、言い聞かせる。

「何の為に僕が今ここにいるか、分かってないんだ?」

 涙目で首を傾げる彼女の頬を、滴が流れ落ちていく。睨んだ。
 結ちゃんが千鶴君を必要とするように、僕も結ちゃんにいてもらわないとダメなんだ。

 知ってほしいんだ。結ちゃんがいてくれるだけで、救われている人もいるんだって。




 微かに夢を見ていたようだ。目を覚ますと、隣に彼女が寝ていて微笑む。綺麗で柔らかい髪を撫でる。

 千鶴君が取り零した結ちゃんの愛は、全部僕がもらう。……でも、ちょっと奪い過ぎたかな? 彼女が不憫に思える。

 ――目の届く所にいてもらわないと。

 結ちゃん。いなくなったら許さないよ。どこにも行かせない。





 結ちゃんが瞼を上げた。
 彼女が起きたら話そうと考えていた。

 真相を打ち明ける。
 大きく開かれた彼女の目に、次第に涙が溜まっていく。

「……初めから、二人は両想いだったんだよ」

 言い及ぶ。結ちゃんの辛そうに細められた目から、涙が溢れて落ちる。

「嘘……嘘だよ。千鶴君は真由ちゃんが好きだって…………真由ちゃんに彼氏がいるから、代わりに私といるって……!」

 眼前の瞳が、悲痛な面持ちで伏せられる。絞り出すような声で訴えてくる。

「もう会わないって言われた」

「うん」

「私、早水君に言えなかった事があって」

「うん」

 何となく察した。振られるのは、初めから分かっていた事だから。
 彼女を縛るのはやめる。寂しいのは多分……僕だけだと内心で独り言ち、薄く苦笑する。


「千鶴君と、セックスした」

「うん?」

 彼女の告白が思っていたものと違っていて、「聞き間違いかな?」と耳を疑う。

「今まで黙ってて、ごめんね。千鶴君に口止めされてて。早水君の知らない所で、たくさんしたの」

 暫く何も言葉が浮かばず、呆然とする。理解が追いついていない。

 え? 何だって? 僕の知らない間に結ちゃん、千鶴君とヤッてたの? しかも「たくさんしたの」って。

「惨過ぎるよ……」

 溜め息と共に、感想を吐き出す。気付けなかった自分に、げんなりして肩を落とす。

「ごめん」

「可愛く『ごめん』って、謝られても……」

 自らの頭を押さえる。彼女は視線を下へ逸らし、気まずそうにしている。確認した。

「結ちゃんには色々してもらったけど。何だかんだ理由を付けて、最後までさせてくれなかったよね? 僕には。僕は必死に我慢していたのに……その努力さえ嘲笑うように、二人は裏切っていたんだね」

「ごめんね」

「こんなんじゃ納得できない」

 不満が爆発しそうだ。結ちゃんを睨む。

「やり直そう」

 提案すると、見返してくる彼女の目が大きくなった。

「千鶴君は、最高な役割を果たしてくれる男だよ」

 感極まって力説する。結ちゃんが、ポカンと口を開けている。
 首を傾げる彼女へ思いの丈を語る。僕が、強く望んでいた展開について。
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