【完結】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299

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一章

7 接触

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「私はアンタが大嫌い!」

 いきなり言い捨てられた。まるで長年抑えていた鬱憤を吐き出すかの如き剣幕で面と向かって。

 私を睨んでいた黒いスカジャンの女の子は感情を押しとどめようとする風に口をへの字に結びこちらへ歩いて来る。

「でも」

 囁くように……擦れ違う際、彼女は確かに言った。

「何も知らなくてかわいそう」

 胸の奥が不規則に脈打つ。振り返って尋ねようとした。それはどういう事なのかと。

 私よりも少しだけ低い身長。スカジャンの背部には金色の糸で大きな蝶の翅を模した刺繍が施されてある。

 彼女は私と他校の女子の間で足を止めた。先程、私に話し掛けてきたクール美人の目が細まった。その大人びた風貌の女子はスカジャンの少女を見据え静かに口にする。

「出たわね」

「人を害虫みたいに言うのやめてくんない?」

 スカジャンの子の不本意そうな声。クール美人が返す。

「邪魔しないで。私たち、坂上さんとお友達になる為にここへ来たの。坂上さん……! 内巻晴菜は……あの『悪女』は坂上さんに友達ができないように仕向けているの! 私たちの話を聞いて?」

 クール美人が私へ訴えてくる。その内容が衝撃的で目を見開いたまま数秒、返事ができなかった。

 え? 晴菜ちゃんて私に友達ができないようにしてたの? え? もしかして今まで晴菜ちゃんしか友達いなかったのって、そのせい?

「……教えてくれてありがとうございます」

 内心納得できる部分があり情報をくれた女の子へそう微笑んだ。だけど……。

「だけど私の友達を『悪女』って呼ばないで下さい。嫌な気分になりました。詳しい事は明日彼女に聞いてみます」

「えっ……と」

 私の返答に満足していない様子でクール美人が口籠もっている。スカジャンの少女がこちらへ横目を向けて呟いた。

「へぇ」

 気のせいかもしれないけど、その表情はどこか嬉しそうに見えた。スカジャンの子はもしかしたら晴菜ちゃんの味方なのかもしれないと感じた。

 それにしても、本当なのだろうか。晴菜ちゃんが私に友達ができないように仕組んでたって。そうだとしてもきっと何か理由があるんじゃないかな。

「お願い。一緒に来て? あなたに会って話がしたいと私たちに頼んできた人がいて。その人を待たせてるの」

「さ、さりあちゃん」

 猶も食い下がるクール美人をベンチに座っていた別の女の子が止めようとしている。ふわっと丸みを帯びたショートカットで自然なクセが可愛くまとまっている髪型の彼女。髪色は灰色。背丈はここにいるメンバーの中で一番低く小柄な体型。

「さりあちゃん、日を改めよう? いきなり押し掛けてきたこっちが不躾だよう」

「ほとり、黙ってて! 今日は千載一遇のチャンスなのよ! あの女が一緒じゃないからナンバーツーが来たとしても手薄なの! もう今日しかないの。絶対に来てもらう!」

 クール美人はさりあちゃんという名前らしい。彼女は座っている女の子……ほとりちゃんに力説している。

「もう! さりあちゃん喋り過ぎ~! 仲間割れしないの!」

 ツインテールで飴を銜えていた女の子が呆れ声で二人を窘めている。彼女は口から棒を引き抜いた。飴は食べ切ったらしい。
 不意にその子と目が合った。一瞬、真剣な瞳を向けられた気がした。

「ねぇ、坂上さんっ! お菓子も用意してるから姫莉たちと行こーよ!」

 この子は姫莉ちゃんというらしい。小学生が友達を遊びに誘うようなノリで尋ねられた。

「あ、えーと。今日は先約があって」

 困って右隣にいる沢西君に目を向ける。

「フフッ」

 姫莉ちゃんが笑った。

「さりあちゃん、ほとりちゃん、行くよっ! ……うっきゃんっ!」

 姫莉ちゃんの掛け声が響いた。直後、彼女は尻餅をついて地面に座り込んでいた。スカートがめくれて中に穿いている黒いスパッツが見えている。

「朔菜ちゃん? いきなり足払いするなんて卑怯よ!」

 強く抗議している姫莉ちゃんに朔菜ちゃんと呼ばれた黒スカジャンの少女は不機嫌な声で対応した。

「いきなり襲い掛かってくる奴に言われたくないね」

 襲い……? ……?

 姫莉ちゃんと朔菜ちゃんの間にさりあちゃんが割り込んだ。朔菜ちゃんを横目で睨み恨みの籠もったような暗い声音で宣言する。

「あなたとは相容れないとずっと思っていたの。よりによってあの女の信奉者だなんて。……ここがその腐れた性根の墓場よ?」

「そんな台詞、きっと――なら言わない」

 朔菜ちゃんのボソボソとした少し聞き取りにくい言い分を聞いていたさりあちゃんの顔に赤みが差したように見えた。

「うるっさい!」

 突然さりあちゃんが腕を横に薙いだ。朔菜ちゃんは予め予想していたと言わんばかりに、いともあっさりその腕を躱した。
 私を背に庇うかの如く目の前に朔菜ちゃんがいる。

「誰に言われた? 首謀者は誰だ」

 朔菜ちゃんの質問にさりあちゃんは笑った。

「私たちが忠誠を誓っているのは、あの方だけだよ」

 さりあちゃんの答えを受け朔菜ちゃんが笑い返している。

「お前たちの崇める『聖女』は真っ赤な偽物だよ。いつになったら気付く? お前の求める――でもない」

 嘲る雰囲気の物言いをする朔菜ちゃんを、さりあちゃんが反抗的に睨む。

「そんな安っぽい挑発には乗らない。残念だわ。『あの方』を侮辱した罪、しっかり勉強してね」

 さりあちゃんは言葉の後半こちらへにこやかに微笑みかけてきた。

 さりあちゃんの後ろからほとりちゃんが沢西君へ近付き手を伸ばしている。私の左側にはいつの間に移動していたのか姫莉ちゃんが間近に迫っていた。眼前の朔菜ちゃんはさりあちゃんとお互いの手を掴み押し合いをしている。

「先輩!」

 沢西君に右手首を引かれ寸前で姫莉ちゃんから逃れた。引っ張られるまま先程来た道を逆走した。信号が青だったので沢西君に続き横断歩道を全力で駆けた。
 走りながら少し振り向く。後ろに姫莉ちゃんとほとりちゃんが追って来ている。道路の真ん中辺りでほとりちゃんが立ち止まった。息を整えている。

「まっ……待って。姫莉ちゃんっ。もっとゆっくり……!」

「ほとり! 早くしないと逃げられちゃうっ! ……ああもうっ! そこで止まってたら危ないからっ! 赤になるからっ!」

 後方でわちゃわちゃ焦るような二人分の声がしている。その隙に私と沢西君は彼女たちから大分距離を取る事ができた。

 とは言っても、ずっと走っているのはつらい。次第に足が遅くなってくる。
 さっき横断歩道を渡った所から歩道を左方向に進んでいる。学校と反対の方向だ。
 前を行く沢西君が振り返ってこちらを見た。私のスピードに合わせて隣を歩いてくれる。心配そうに聞いてくれる。

「すみません。危険を感じたので逃げましたけど……大丈夫でした?」

「うん……朔菜ちゃんって子がいなかったら、あの三人に無理やり連れて行かれてたかも」

 ゾッとして己の腕を摩る。

「朔菜ちゃん大丈夫かな……? さりあちゃんって子と争っているみたいだったけど」

「うーん、強そうだったし大丈夫じゃないですかね? ……って! 先輩こっち!」

 腕を引っ張られ横道へ入る。商店の並ぶ通り。少し進んだ場所にあった建物……。一階がコインパーキングになっていてその手前に道路側を向いた自動販売機があった。私たちはその裏に隠れた。

 少しして外の方から慌ただしく走る音と姫莉ちゃんの声が聞こえた。

「あっれー? こっちに来たよねー?」


 えっと……。

 駐車場隅の暗がりで沢西君に抱きしめられている。

「先輩もっと、くっつかないと見えます」

 力を込められた。
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