47 / 60
二章 復讐のその後
47 確認
しおりを挟む
ここは……!
テスト期間中に何と大胆な。
分かった! 彼女の魂胆が。
「ここでも勉強する気なんだ。きっとそうだ……。私も早く帰って勉強しなきゃいけないのに!」
焦りから思考を口に出していた。ギリギリと歯軋りして私の横に立っている岸谷君を睨む。岸谷君から呆れられている雰囲気の一瞥を寄越された。彼は冷静な面持ちで言う。
「ここに来て普通、勉強なんてするか? するわけねーだろ。それに勉強ならさっきファミレスでしてただろ?」
……岸谷君が何をいいたいのか薄ら伝わってくる。
「岸谷君、帰るよ」
言い聞かせる。もうこれ以上はさすがに付き合いきれない。それなのに。
岸谷君にじっと見つめられた。
「いやいや。待って。まさか? ここに入るの?」
聞いたけど岸谷君は黙っている。まさかだよね? 私は相当怖じ気付いていた。戸惑っている内に右手首を掴まれてしまった。
「行こう」
抵抗する間もないまま手を引かれ、岸谷君に続いて店の中へ入った。
「ここまでする必要ある? 岸谷君は晴菜ちゃんの事が好きなの?」
カラオケ店の個室でソファに膝立ちし壁に耳を当てている、かつて好きだった人の現在の姿を残念な気持ちで眺めていた。彼は私の質問には答えず「あ、やっぱり歌い出したぞ。勉強なんてする筈ねーよな」とフッとほくそ笑んだ。言ってやる。
「あ~そっち? 私はてっきりイチャイチャするのかなって思ってたよ?」
岸谷君がぎょっとした顔でこっちを見た。彼の表情から生気がなくなっていく。
「………………やっぱりそうだよな。付き合ってるなら……きっとそうなんだろうな」
岸谷君はソファに座り直し、深く項垂れてしまった。……ああ。やっぱり晴菜ちゃんの事が好きなんじゃん。
ちょっと意地悪を言い過ぎたかなと考えた。「彼が下を向いているのは泣いているからなのでは?」と思い至って慌てた。
「岸谷君ごめん! そんなに晴菜ちゃんの事が好きだった?」
岸谷君の隣に腰掛け謝った。上半身を傾けて彼の表情を知ろうとした。肩を押され視界が天井を向いた。天井を遮るように岸谷君の顔がある。
彼は聞いてくる。
「ねぇ。本当に俺の事、好きじゃなくなった?」
「もしかして今日の彼の狙いはこれだった?」と頭の隅で思考している傍ら返事をする。
「うん」
一拍置いて確認される。
「そんなにアイツがいいの?」
見下ろしてくる双眸がどこかつらそうに笑う。重く答えを返す。
「うん」
「そうか……」
彼は私の右肩辺りに項垂れ、暫く動かなかった。
「ごめんね岸谷君。私、あなたとは一緒にいれない」
天井を見つめて伝えた。
バカだなぁ、私。何で今まで気付かなかったんだろう。もっと早く……岸谷君が不安になる前に気付いてあげられていたら、きっと違う「今」があったのかもしれない。もう戻れないけれど。
岸谷君は本当に、私の事が好きだったんだなぁ。
「ありがとう。ハッキリ言ってくれて。やっと諦めが付くよ」
すぐ近くで低めの声が伝えてくる。右肩から重みが退いた。少しぎこちなく笑って離れていく彼を見ていた。
私も身を起こし掛けたところで部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「聡!」
部屋に嵐の如く入って来たのは姫莉ちゃんだった。
「おまっ! 何でここが分かった?」
岸谷君が目を剥いて疑問を口にした。姫莉ちゃんは得意げに胸を張って言った。
「秘密!」
彼女と目が合った。笑い掛けると露骨にむっとしたような顔で睨まれた。
「聡は姫莉のだから!」
彼女は岸谷君の腕をぎゅっと抱きしめ言い放った。小柄な体躯が小刻みに震えている様子に思い出す。以前岸谷君が言っていた。姫莉ちゃんは情緒不安定なところがあり泣いていたって。
岸谷君はきっと姫莉ちゃんの心の支えなんだろうな。仔猫が怯えて威嚇している姿に似ていると微笑ましく思いながら彼女に近付いた。
「姫莉ちゃん。岸谷君の事をよろしくね。岸谷君がフラフラしているのも、きっと寂しいからだと思うんだ。私はもう彼とは一緒にいられないから。姫莉ちゃんが守ってあげて」
岸谷君へも言っておく。
「岸谷君。私の頼みを何でも聞いてくれるって言ってたよね? 姫莉ちゃんを幸せにしてあげて。彼女だけを好きでいてあげて。……これからは寂しいからってほかの人で埋めようとしないで」
最後にもう一度、彼の顔を見た。明るく笑顔で言えた。
「今までありがとう」
テスト期間中に何と大胆な。
分かった! 彼女の魂胆が。
「ここでも勉強する気なんだ。きっとそうだ……。私も早く帰って勉強しなきゃいけないのに!」
焦りから思考を口に出していた。ギリギリと歯軋りして私の横に立っている岸谷君を睨む。岸谷君から呆れられている雰囲気の一瞥を寄越された。彼は冷静な面持ちで言う。
「ここに来て普通、勉強なんてするか? するわけねーだろ。それに勉強ならさっきファミレスでしてただろ?」
……岸谷君が何をいいたいのか薄ら伝わってくる。
「岸谷君、帰るよ」
言い聞かせる。もうこれ以上はさすがに付き合いきれない。それなのに。
岸谷君にじっと見つめられた。
「いやいや。待って。まさか? ここに入るの?」
聞いたけど岸谷君は黙っている。まさかだよね? 私は相当怖じ気付いていた。戸惑っている内に右手首を掴まれてしまった。
「行こう」
抵抗する間もないまま手を引かれ、岸谷君に続いて店の中へ入った。
「ここまでする必要ある? 岸谷君は晴菜ちゃんの事が好きなの?」
カラオケ店の個室でソファに膝立ちし壁に耳を当てている、かつて好きだった人の現在の姿を残念な気持ちで眺めていた。彼は私の質問には答えず「あ、やっぱり歌い出したぞ。勉強なんてする筈ねーよな」とフッとほくそ笑んだ。言ってやる。
「あ~そっち? 私はてっきりイチャイチャするのかなって思ってたよ?」
岸谷君がぎょっとした顔でこっちを見た。彼の表情から生気がなくなっていく。
「………………やっぱりそうだよな。付き合ってるなら……きっとそうなんだろうな」
岸谷君はソファに座り直し、深く項垂れてしまった。……ああ。やっぱり晴菜ちゃんの事が好きなんじゃん。
ちょっと意地悪を言い過ぎたかなと考えた。「彼が下を向いているのは泣いているからなのでは?」と思い至って慌てた。
「岸谷君ごめん! そんなに晴菜ちゃんの事が好きだった?」
岸谷君の隣に腰掛け謝った。上半身を傾けて彼の表情を知ろうとした。肩を押され視界が天井を向いた。天井を遮るように岸谷君の顔がある。
彼は聞いてくる。
「ねぇ。本当に俺の事、好きじゃなくなった?」
「もしかして今日の彼の狙いはこれだった?」と頭の隅で思考している傍ら返事をする。
「うん」
一拍置いて確認される。
「そんなにアイツがいいの?」
見下ろしてくる双眸がどこかつらそうに笑う。重く答えを返す。
「うん」
「そうか……」
彼は私の右肩辺りに項垂れ、暫く動かなかった。
「ごめんね岸谷君。私、あなたとは一緒にいれない」
天井を見つめて伝えた。
バカだなぁ、私。何で今まで気付かなかったんだろう。もっと早く……岸谷君が不安になる前に気付いてあげられていたら、きっと違う「今」があったのかもしれない。もう戻れないけれど。
岸谷君は本当に、私の事が好きだったんだなぁ。
「ありがとう。ハッキリ言ってくれて。やっと諦めが付くよ」
すぐ近くで低めの声が伝えてくる。右肩から重みが退いた。少しぎこちなく笑って離れていく彼を見ていた。
私も身を起こし掛けたところで部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「聡!」
部屋に嵐の如く入って来たのは姫莉ちゃんだった。
「おまっ! 何でここが分かった?」
岸谷君が目を剥いて疑問を口にした。姫莉ちゃんは得意げに胸を張って言った。
「秘密!」
彼女と目が合った。笑い掛けると露骨にむっとしたような顔で睨まれた。
「聡は姫莉のだから!」
彼女は岸谷君の腕をぎゅっと抱きしめ言い放った。小柄な体躯が小刻みに震えている様子に思い出す。以前岸谷君が言っていた。姫莉ちゃんは情緒不安定なところがあり泣いていたって。
岸谷君はきっと姫莉ちゃんの心の支えなんだろうな。仔猫が怯えて威嚇している姿に似ていると微笑ましく思いながら彼女に近付いた。
「姫莉ちゃん。岸谷君の事をよろしくね。岸谷君がフラフラしているのも、きっと寂しいからだと思うんだ。私はもう彼とは一緒にいられないから。姫莉ちゃんが守ってあげて」
岸谷君へも言っておく。
「岸谷君。私の頼みを何でも聞いてくれるって言ってたよね? 姫莉ちゃんを幸せにしてあげて。彼女だけを好きでいてあげて。……これからは寂しいからってほかの人で埋めようとしないで」
最後にもう一度、彼の顔を見た。明るく笑顔で言えた。
「今までありがとう」
0
あなたにおすすめの小説
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる