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二章 復讐のその後
55 重ねる季節
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三月の、桜がとても綺麗な日。引っ越した先の部屋に春夜君が遊びに来てくれた。
私は四月から大学に進学し、春夜君は高校の三年生に進級する。
結局、以前約束していた春夜君のお家に引っ越す計画は取りやめになった。春夜君が「よく考えたら花織がいるんでした。絶対にダメです」と言い出した。
でも春夜君が高校を卒業したら二人暮らしをする約束をしている。
彼のマンションのすぐ隣の建物に賃貸物件の空きがあり、家賃が割と安かったので私だけ先に引っ越した。春夜君も高校を卒業したら引っ越して来る予定だ。……と言っても、すぐ近所に住んでいるのだから会おうと思えば結構頻繁に会えるだろう。
今いる部屋は三階建てのビルの二階にある。
春夜君の住むマンションの敷地に桜が植えてある。淡い青空の下、花びらが陽光と戯れ街路を春色に染めていく様は穏やかで、この一時に出会えた事を心から尊く思った。
次に咲く頃には一緒に暮らしているのかもしれない。微笑んでドアを閉めた。
居間の床に座る春夜君に紅茶を差し出した。その際、床に置かれたスマホの待ち受け画面が見えた。
「あっ、その写真」
見覚えがあって言い及ぶ。頬が緩んでしまう。
「懐かしい!」
それは春夜君と出会った頃、彼や友人たちと行った海辺で撮影したものだった。もっと見たいなと思っていたら春夜君がスマホを手渡してくれた。待ち受けにされていた画像をよく見ると……。
「えっ? これ私大きくない?」
手前にいる私が遠近の関係で画面の半分くらいを占めている。私が映っているという事は、ほとりちゃんが撮ってくれたものだ。奥の方に小さく朔菜ちゃんとさりあちゃんもいる。指で画像を拡大して確認する。
「ユララの朔菜ちゃんとさりあちゃん、やっぱり可愛いなぁ。私もちょっとユララの格好してみたいって思ったよ」
懐かしみながら、しみじみと口にした。あれ?
春夜君が薄目でこっちを見ている。不満のありそうな表情で言われた。
「明の方が可愛い」
「うっ」
呻いて胸の真ん中を押さえた。春夜君は私の心臓を止めたいの?
彼の手が肩に触れる。頬や唇に口付けされる。
「春夜君はあまりユララが好きじゃない……?」
疑問に思っていた事を聞いてみた。
「……普通ですね。別にいいですよ、明がユララの服を着ても。但しほかの奴に見せないで。オレにだけ見せて」
「えっ……?」
想像したら物凄く恥ずかしい気がしてきた。
「楽しみにしてますね」
ニヤッとした顔で言ってくる。彼からの接触が止まらない。
「……春夜君、何か……焦ってる?」
首へ伝わる刺激に身震いした。
「そうですね。明だけ大学に行かせるの不安です」
目を見開いた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。私ぼけっとしてるかもしれないけど晴菜ちゃんや皆もいるし! 楽しみなんだ」
笑って言うと彼は苦笑した。
「そういう意味じゃないです」
「じゃあ、どういう意味?」
見上げて尋ねる。
「春夜君の気持ちを……私が分かるまで教えて?」
彼が答えるまで少しの間があった。
「……いつからそんなにあざとくなったんですか?」
指摘されてしまった。そうだよ。私は春夜君を落としたいんだよ。白状する。
「だって私の方が焦ってるから」
赤面している筈の顔を両手で覆った。
高校を卒業して一緒の学び舎に通えなくなる。それだけの事でとても不安な方向に考える時もある。春夜君が新しいクラスメイトの誰かを好きにならないとも限らないとか、つい想像して自己嫌悪に陥るなんて日常的にある。
「ますます心配になりました」
告げられた心情が思い掛けなくて「え? 何で」と思って見返した。「まだ分かってないの?」と言いたげな目で睨んでくる。
凄く近くで小さく答えを教えてもらった。だけど動悸が激しくなるばかりで深く意味を理解できていなかった。
私が推量するより彼の気持ちが重いと知るのは、もう少し先の話である。
私は四月から大学に進学し、春夜君は高校の三年生に進級する。
結局、以前約束していた春夜君のお家に引っ越す計画は取りやめになった。春夜君が「よく考えたら花織がいるんでした。絶対にダメです」と言い出した。
でも春夜君が高校を卒業したら二人暮らしをする約束をしている。
彼のマンションのすぐ隣の建物に賃貸物件の空きがあり、家賃が割と安かったので私だけ先に引っ越した。春夜君も高校を卒業したら引っ越して来る予定だ。……と言っても、すぐ近所に住んでいるのだから会おうと思えば結構頻繁に会えるだろう。
今いる部屋は三階建てのビルの二階にある。
春夜君の住むマンションの敷地に桜が植えてある。淡い青空の下、花びらが陽光と戯れ街路を春色に染めていく様は穏やかで、この一時に出会えた事を心から尊く思った。
次に咲く頃には一緒に暮らしているのかもしれない。微笑んでドアを閉めた。
居間の床に座る春夜君に紅茶を差し出した。その際、床に置かれたスマホの待ち受け画面が見えた。
「あっ、その写真」
見覚えがあって言い及ぶ。頬が緩んでしまう。
「懐かしい!」
それは春夜君と出会った頃、彼や友人たちと行った海辺で撮影したものだった。もっと見たいなと思っていたら春夜君がスマホを手渡してくれた。待ち受けにされていた画像をよく見ると……。
「えっ? これ私大きくない?」
手前にいる私が遠近の関係で画面の半分くらいを占めている。私が映っているという事は、ほとりちゃんが撮ってくれたものだ。奥の方に小さく朔菜ちゃんとさりあちゃんもいる。指で画像を拡大して確認する。
「ユララの朔菜ちゃんとさりあちゃん、やっぱり可愛いなぁ。私もちょっとユララの格好してみたいって思ったよ」
懐かしみながら、しみじみと口にした。あれ?
春夜君が薄目でこっちを見ている。不満のありそうな表情で言われた。
「明の方が可愛い」
「うっ」
呻いて胸の真ん中を押さえた。春夜君は私の心臓を止めたいの?
彼の手が肩に触れる。頬や唇に口付けされる。
「春夜君はあまりユララが好きじゃない……?」
疑問に思っていた事を聞いてみた。
「……普通ですね。別にいいですよ、明がユララの服を着ても。但しほかの奴に見せないで。オレにだけ見せて」
「えっ……?」
想像したら物凄く恥ずかしい気がしてきた。
「楽しみにしてますね」
ニヤッとした顔で言ってくる。彼からの接触が止まらない。
「……春夜君、何か……焦ってる?」
首へ伝わる刺激に身震いした。
「そうですね。明だけ大学に行かせるの不安です」
目を見開いた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。私ぼけっとしてるかもしれないけど晴菜ちゃんや皆もいるし! 楽しみなんだ」
笑って言うと彼は苦笑した。
「そういう意味じゃないです」
「じゃあ、どういう意味?」
見上げて尋ねる。
「春夜君の気持ちを……私が分かるまで教えて?」
彼が答えるまで少しの間があった。
「……いつからそんなにあざとくなったんですか?」
指摘されてしまった。そうだよ。私は春夜君を落としたいんだよ。白状する。
「だって私の方が焦ってるから」
赤面している筈の顔を両手で覆った。
高校を卒業して一緒の学び舎に通えなくなる。それだけの事でとても不安な方向に考える時もある。春夜君が新しいクラスメイトの誰かを好きにならないとも限らないとか、つい想像して自己嫌悪に陥るなんて日常的にある。
「ますます心配になりました」
告げられた心情が思い掛けなくて「え? 何で」と思って見返した。「まだ分かってないの?」と言いたげな目で睨んでくる。
凄く近くで小さく答えを教えてもらった。だけど動悸が激しくなるばかりで深く意味を理解できていなかった。
私が推量するより彼の気持ちが重いと知るのは、もう少し先の話である。
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