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①
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ある日の早朝最愛の弟は堪りかねたようにウィルバート・ウィリアム・キャンベル事、僕の元に突撃してきた。
同じようなファーストネームとミドルネームだが、父や大祖父のファーストネームで歴史ある名前なので文句を垂れても仕方ない。
その突撃してきた当人といえば眠れていないのか少々隈があるが大丈夫だろうか。
「にぃに。いい加減観念して俺と結婚してください」
「いい加減観念してって何!?」
「待っていたんだよ。にぃにから言ってくれるのを」
「ちょっと!にぃにの話を聞きなさい。こらっ、ちょっと……んっ、お、おしり触らない!」
最近隙あらばお尻を触ろうとするのはいただけない。
不埒な手を叩くと黙っていれば堅実剛健なその顔を不満げに歪めた。
黒髪に碧眼、絵に書いたような美丈夫。
けれど僕のイメージでは外見と中身のミスリードがすごい。
どう見ても性欲とは無縁で堅物で、恋愛になど興味がなく武の道を極めそうな顔をしている。
が、顔だけで中身はかなり俗物だ。
「にぃにがこんなふうに育てたくせに」
「確かに育てたのは僕だけど想定と全然違う育ち方したくせに!」
「全然違う?にぃにはそう思ってるの?」
生意気にそう言うアレックスに僕は青筋を立ててその頬を摘んだ。
「どの辺が。説明しなさい」
「にぃには強くて貴族の誇りは損なうことなく公平で賢くなりなさいと俺に言いましたよね」
その言葉には覚えがある所か、口癖の様に言い聞かせていた。
それは本当だ。
「だから俺は学問も武芸も全力で取り組みました。学問の成績は貴族学院で二位。
魔術はそれほど得意ではありませんが最後の試験では三百人中三十二位でした。
剣技は一位で、首席で騎士学校への入学して、主席卒業、昨日騎士になりました」
僕の育てた弟(婚約者)が優秀すぎて鼻が高い。
得意では無い魔術だって人数から言えば上位一割には届かないものの、それも誤差程度であるし、第一上位一割は基本的魔術師になれるほどの実力があるので、アレックスは騎士でありながら魔術も使えるハイスペックさんなのだ。
得意では無いとは一体なんだったのか。
それにしても聞けば聞くほど僕は鼻が高い。
「人には暴力を振るわないし悪口も言わない。嘘もつかないし、自信を持ってはいますが、おごってもいないつもりです」
「………」
「まだ何が足りないとウィルは仰るんですか」
「…………僕は言ったよね。アレックスが成人したら婚約は解消すると。その時のために君が素晴らしい紳士になれるように教育してきたんだよ」
宥めるようにそう言ってその手を握ると感傷に浸りながら言葉を続ける。
「君とのお別れは確かに寂しい事だけど、元々そう言う約束だったし、歳が六つも離れている。しかもアルファの君が年下だ。人生を棒に振るような事はさせたくないんだよ」
言葉を紡ぐ度思い出が蘇る。
一緒に暮らし始めたばかりのこと寂しくて眠れないからと一緒の布団で寝たり、外で駆け回って鬼ごっこをしたり。
思い出すほどに感慨深くて、良くぞここまで立派に育ったと思う。
「まず一つ、ウィルは大きな勘違いをしています」
「なにが?」
感傷に浸りすぎて鼻声になっているウィルバートとは裏腹にアレックスの声は至って冷静……むしろ冷ややかな怒りを感じる。
「俺は婚約を解消するなんて一言も言っていない」
「…………なんだって?」
「よくよく思い出して。俺がウィルバートとの会話で婚約解消すると一度でも言ったことがあったか?頷いたことも無いはずだけど?
第一、俺はもう十八で、本来の婚約予定期間より二年も延びてる。何故か。ウィルバート・ウィリアム・キャンベルが、俺が騎士になるまでは~と駄々を捏ねて延期にしたせいだ。
心当たりがないとは言わせない」
「……そう、だねぇ」
「だから俺は昨日プロポーズされると思っていたし、いつされるのかと心待ちにしていたのに…この仕打ち!もしかして夜這いされるのかってドキドキしながら待ってたのに!」
フルネームで呼ばれた。これはなかなか怒っている。
アレックスは僕に対してあの甘ったれた弟ムーブがデフォルトのブラコンだ。
他の人には基本的に容姿の雰囲気に合う堅物クールキャラで、口調も威厳あるものだ。
思春期にそうなってから一週間程で僕には堅物クールキャラはやめたが周囲には続行しているらしい。
終わらない反抗期なのだろうか。
でもそれがとても似合うのだから傍から見ていて眼福である。
やはり黒髪・美丈夫・冷静・頭脳派・騎士とくれば堅物不器用だけど気高く真面目で善人、というのが似合いすぎる。
かっこいい。僕はアレックスにこう育って欲しかったのだ。
でも今の甘ちゃんアレックスは目に入れても痛くないくらい愛してやまないのでどう育っても良かったのかもしれない。
「聞いているのか」
そして僕は知っている。
僕に対して甘ったれ弟ムーブを止めた時のアレックスは怒りの限界値に近いくらい怒っていることを。
「……………………か、考えておくと言ったじゃないか」
「ふぅん?ウィルは考える事イコール要件を呑むのか?じゃあ今すぐ考えさせることにしよう」
「待って、違います。ごめんなさい。考えるは考えるであって要件を呑むことではありません」
貴族学院で次席をとる頭脳優秀な人間に凡人の僕がかなうはずがない。
年齢というアドバンテージを持っていたとしても不可能だ。それは間違いない。
どうしてこうなったのか、全ての諸悪の根源は誰なのか。こうなった原因を僕は恨めしく思い出していた。
同じようなファーストネームとミドルネームだが、父や大祖父のファーストネームで歴史ある名前なので文句を垂れても仕方ない。
その突撃してきた当人といえば眠れていないのか少々隈があるが大丈夫だろうか。
「にぃに。いい加減観念して俺と結婚してください」
「いい加減観念してって何!?」
「待っていたんだよ。にぃにから言ってくれるのを」
「ちょっと!にぃにの話を聞きなさい。こらっ、ちょっと……んっ、お、おしり触らない!」
最近隙あらばお尻を触ろうとするのはいただけない。
不埒な手を叩くと黙っていれば堅実剛健なその顔を不満げに歪めた。
黒髪に碧眼、絵に書いたような美丈夫。
けれど僕のイメージでは外見と中身のミスリードがすごい。
どう見ても性欲とは無縁で堅物で、恋愛になど興味がなく武の道を極めそうな顔をしている。
が、顔だけで中身はかなり俗物だ。
「にぃにがこんなふうに育てたくせに」
「確かに育てたのは僕だけど想定と全然違う育ち方したくせに!」
「全然違う?にぃにはそう思ってるの?」
生意気にそう言うアレックスに僕は青筋を立ててその頬を摘んだ。
「どの辺が。説明しなさい」
「にぃには強くて貴族の誇りは損なうことなく公平で賢くなりなさいと俺に言いましたよね」
その言葉には覚えがある所か、口癖の様に言い聞かせていた。
それは本当だ。
「だから俺は学問も武芸も全力で取り組みました。学問の成績は貴族学院で二位。
魔術はそれほど得意ではありませんが最後の試験では三百人中三十二位でした。
剣技は一位で、首席で騎士学校への入学して、主席卒業、昨日騎士になりました」
僕の育てた弟(婚約者)が優秀すぎて鼻が高い。
得意では無い魔術だって人数から言えば上位一割には届かないものの、それも誤差程度であるし、第一上位一割は基本的魔術師になれるほどの実力があるので、アレックスは騎士でありながら魔術も使えるハイスペックさんなのだ。
得意では無いとは一体なんだったのか。
それにしても聞けば聞くほど僕は鼻が高い。
「人には暴力を振るわないし悪口も言わない。嘘もつかないし、自信を持ってはいますが、おごってもいないつもりです」
「………」
「まだ何が足りないとウィルは仰るんですか」
「…………僕は言ったよね。アレックスが成人したら婚約は解消すると。その時のために君が素晴らしい紳士になれるように教育してきたんだよ」
宥めるようにそう言ってその手を握ると感傷に浸りながら言葉を続ける。
「君とのお別れは確かに寂しい事だけど、元々そう言う約束だったし、歳が六つも離れている。しかもアルファの君が年下だ。人生を棒に振るような事はさせたくないんだよ」
言葉を紡ぐ度思い出が蘇る。
一緒に暮らし始めたばかりのこと寂しくて眠れないからと一緒の布団で寝たり、外で駆け回って鬼ごっこをしたり。
思い出すほどに感慨深くて、良くぞここまで立派に育ったと思う。
「まず一つ、ウィルは大きな勘違いをしています」
「なにが?」
感傷に浸りすぎて鼻声になっているウィルバートとは裏腹にアレックスの声は至って冷静……むしろ冷ややかな怒りを感じる。
「俺は婚約を解消するなんて一言も言っていない」
「…………なんだって?」
「よくよく思い出して。俺がウィルバートとの会話で婚約解消すると一度でも言ったことがあったか?頷いたことも無いはずだけど?
第一、俺はもう十八で、本来の婚約予定期間より二年も延びてる。何故か。ウィルバート・ウィリアム・キャンベルが、俺が騎士になるまでは~と駄々を捏ねて延期にしたせいだ。
心当たりがないとは言わせない」
「……そう、だねぇ」
「だから俺は昨日プロポーズされると思っていたし、いつされるのかと心待ちにしていたのに…この仕打ち!もしかして夜這いされるのかってドキドキしながら待ってたのに!」
フルネームで呼ばれた。これはなかなか怒っている。
アレックスは僕に対してあの甘ったれた弟ムーブがデフォルトのブラコンだ。
他の人には基本的に容姿の雰囲気に合う堅物クールキャラで、口調も威厳あるものだ。
思春期にそうなってから一週間程で僕には堅物クールキャラはやめたが周囲には続行しているらしい。
終わらない反抗期なのだろうか。
でもそれがとても似合うのだから傍から見ていて眼福である。
やはり黒髪・美丈夫・冷静・頭脳派・騎士とくれば堅物不器用だけど気高く真面目で善人、というのが似合いすぎる。
かっこいい。僕はアレックスにこう育って欲しかったのだ。
でも今の甘ちゃんアレックスは目に入れても痛くないくらい愛してやまないのでどう育っても良かったのかもしれない。
「聞いているのか」
そして僕は知っている。
僕に対して甘ったれ弟ムーブを止めた時のアレックスは怒りの限界値に近いくらい怒っていることを。
「……………………か、考えておくと言ったじゃないか」
「ふぅん?ウィルは考える事イコール要件を呑むのか?じゃあ今すぐ考えさせることにしよう」
「待って、違います。ごめんなさい。考えるは考えるであって要件を呑むことではありません」
貴族学院で次席をとる頭脳優秀な人間に凡人の僕がかなうはずがない。
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