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しおりを挟む九年前
「さぁ!ウィルバート!好きなのを選ぶといいよ!」
「…………はい?」
「おや、お眼鏡に叶う男がいなかったかい?ウィル。……ん~たしかにガキ臭い男しかいなかったね。ウィルはパパのこと大好きだからなぁ……もう少し大人の男がいいかい?とりあえずチェンジ」
そう言って手をしっしっと振りそうなお父様に慌てて駆け寄る。
「待ってくださいお父様!」
「お父様だなんて…背伸びしたいざかりなのかい?パパと呼んでいいんだよ♡」
背伸びしたいも何もウィルバートはもう十六歳。
大人の仲間入りをしている。
こんな人前で礼儀礼節弁えることなく『パパ』等と呼べるわけもない。
けれど人間、礼儀礼節よりも人間関係の円滑さを重視することもある。
「……パパ、これは一体?」
「ウィルの婚約者の選定だよぉ」
「僕の?」
「うんうん。お前はオメガだからね。お前を守れる出来のいい男ばかり集めてきたつもりなんだが、気に入らないかい?」
お眼鏡に叶わないだ気に入らないだと連呼するのはやめて欲しい。
僕の婚約者候補として集められたざっと見ただけで十数人いる、一桁代から二十代前半頃の見目麗しい美少年、美青年達に失礼すぎる。
まず僕はこれほどまでの美形たちを評価できるほど自分の顔は整っていない。
普通に毛が生えた程度の顔で、頭も良くないし、身体は弱いしいい所なんてない。
にも拘らず何故こんなにも格差ハーレムお見合いが成立しているのかと言えば僕の生まれにある。
「公爵閣下、発言をよろしいでしょうか」
「許す」
「もし、ご子息…ウィルバート様が我らの人となりを知りたいと仰って頂けるのであれば、成人済みの我らがお傍に侍り、相性を確認して頂くのはどうでしょうか」
「どうだ?」
『どうだ?』では無い。
こんなあからさまに権力にギラギラしている美形に侍られたら、あっという間に傀儡にされるに決まっている。
お父様は王弟でその僕はその一人息子。
現王にはお子が二人いらっしゃるが、男子継承のこの国では姫にはその権利がないので、僕が王位継承第二位ということになる。
つまり頭の出来も普通で、そこそこの見た目のか弱いオメガで、地位もある。
傀儡にはもってこいの優良物件なのだ。
自分で言ってて悲しくなってくる。
かくなる上はこれしかないのである。
「パパ……僕、パパ以外の男の人は怖いよ……」
「ウィル……っ可哀想に、そうだね、野蛮で下品な男は嫌だね。帰らせようね」
人間恥もプライドも掻き捨て。
平凡に生きていくためには犠牲は付き物なのだ。
「じゃああの子をお前が調教するといい」
「ありがとうぱ………今なんて」
「こちらにおいで。二十三番のお前」
待って、お父様、この美形貴族たちを番号呼びするの止めない!?
あ、待ってその二十三番って列の最後尾にいた一桁台の艶やかな黒髪の美少年では!?
ちょっと待ってあーーーー!!!
「パパは知っているぞ~。ウィルは黒髪が好きだろう」
「なっ……」
秘密を打ち明けるように小さな声で微笑みながら暴露される。
知られていた。
お父様に好みのタイプなんて話はしたことないのに。なぜ知っているのか。
「名前は言えるかい?」
「はい、テイラー伯爵家の三男、アレックス・ろばーと・テイラーでございます」
「アレックス、今日からお前は私の息子だよ。ウィルの婚約者としてよろしく頼む」
「まことに光栄でございます、つつしんで拝命いたしました」
僕の腰ほどしか無い背丈で懸命に僕を見上げて、指にキスをする。
こちらを見ている碧眼の大きな目は反射でキラキラと輝いていて美しい。
指先へのキスは忠誠を誓う動作だ。
拙いながらも礼儀作法はしっかりしていて、感心する。しっかり教育されているようだ。
「他の者は帰って良い」
「はっ」
自分の身を取り入るための道具として使うほどの野心家だ。
笑顔で去っていくその仮面の下にどれほどの屈辱を抱えているのか考えるだけでゾッとする。
「ウィル、アレックスの面倒はおまえが見るんだよ。まだ幼いからね。至らないところもあるだろうかお前が好みに育ててやりなさい」
「パパ、僕は婚約者なんて……」
「そういう訳にも行かないんだよ。王位継承者が王太子様とお前しか居ない今、お前は血を残す必要がある。だからお前好みのアルファを迎えてやりたかったが……お前が大人の男は恐ろしいと言うから」
たしかに僕は婚約回避の為にそう言ったので僕の責任ではあるけど……。
それはそれとしても一桁代の少年捕まえて好みに調教してやれなんてどんな鬼畜だ。
心底お父様がお父様で良かった。
絶対に敵に回したくない。
「……申し訳ありません…ぼくが至らないから、ウィルバート様は、困っていますよね」
先程までの大人びた返答から一変、年相応に悲しげにそう謝罪するアレックスにしゃがみこんでその手を握る。
「違うよ。アレックスは悪くないからね」
「本当ですか…?ぼくのような、こどもでは……ウィルバート様をおまもりこともできません。今からでも……兄様達に…」
大変返答に困ることを言うのはやめて欲しい。
ここでそんなことないよ!君がいいんだ!と言う大人はショタコンだろう。
と僕は思う。
「……一旦」
「……?」
「一旦君を婚約者ということにするから、君が大きくなったら解消しよう」
名案だ。名案すぎる。
この子が何歳か知らないが十六で成人するこの国ならあと八年くらいはかかるだろう。
その時僕は二十四歳でオメガとしては適齢期を少し過ぎている。
それまでに僕の二つ年上の王太子様に子供がいれば無益な争いを産むこともない。
僕はこのまま悠々自適に暮らせるという訳である。なんて素晴らしい。
今日の僕は冴えている。
「あ……あの…でも」
「ん?」
「結婚、したかったらどうしたら?」
「………ん?」
「僕はいま十歳ですが、十六になった時、僕が結婚したくても捨てられるのでしょうか」
なんて……なんていい子なんだろう。
十六になるまでに僕のことを好きになってくれようとしているなんて。
尚のことこの子にはこんな干物オメガではなく、良いオメガと結婚して欲しい。
それにしても君十歳だったのか思ったより大きかったが、計画には影響でないだろうか。
とふと考えるがそこの所であまり変わらないだろうと安易に考えて、その疑問は放置することとした。
「捨てたりなんてしないよ。何があっても僕たちは家族だよ」
きっとその頃には世の中にはたくさんのオメガも美人も、賢人もいることに気がつく。
まぁ間違いなく婚約は破棄されるので無用の心配である。
血は繋がっていないが十歳から十六歳まで共に育てば家族くらいにはなれるだろう。
突発お見合いには驚いたが弟を迎えるためだったと思えば悪くもない。
実は弟妹が欲しかったので棚から牡丹餅すぎる。
兄弟仲の良い友人がいて漠然と憧れていた。
うちは生んでくれた父上が身体が弱かったので兄弟は望めなかったから今すぐ抱きしめたいくらい嬉しかった。
さすがに婚約者の十歳の少年に初対面で自分から抱きつくという字ズラが半端じゃなく犯罪臭がするのでしないが。
それからの僕は毎日アレックスと遊び、アレックスが思春期を迎えるまで同じベットで寝て、共にお風呂に入り、ベッタベタに甘やかし倒した訳である。
そりゃぁ多少ブラコンに仕上がっても仕方ないなと自覚するほどの溺愛であった。
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