イケメンオジイついに交際したことを忘れる

彩根梨愛

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その日の練習終わり。
ミヤが着替え終わるのを確認して歩み寄るとその手を掴む。


「帰るか」

「えっ」

「えっ?って何。ほら帰るよ」


そう言ってミヤの手を引くと強ばった掌が躊躇いがちに握り返してくる。


「あ…えっと…はい……」

「何?緊張してんの?」


そう言って顔を覗き込むと、聞くまでもなく真っ赤な顔で思わず笑ってしまう。
可愛い。


「ミヤはうぶだな」

「ーーっう、うぶとか、そう言う事じゃないです」

「違うの?」

「部活終わりで暑いだけで」

「ふーん…そんなミヤ初めて見たけどまぁ、今日暑かったしね」


なんだ、俺と手を繋いだからじゃないのかと少しぶすくれながら歩く帰り道。
2人の影が繋がっているのを見てなんだか口元が緩む。
なんだろうこの気持ち。


「ミヤ見て」

「?」


影を指さすがミヤは不思議そうに首を傾げてからこちらに顔を向けてくる。


「どれですか?」

「影」

「影?」

「手繋いでるの可愛くない?」


そう言って笑いかけるとミヤは俯いてただ一言『…そうですね』と返してきた。
全くもってつれない後輩、もとい恋人である。
朝はあんなに懐いてきていたのに。


「今日疲れてる?」

「疲れてはいるけど…まぁ…いつも通りですよ?」

「やっぱり怒ってんの?」

「怒…?なんでですか?」

「なんかテンション低いし………俺が恋人になったことも忘れてるポンコツだから怒ってるんじゃないの?」


立ち止まって問いかけるとミヤは慌てたように顔を上げて今度は強く掌を握りしめてきた。


「ごめんなさい蒼先輩…そうじゃなくて………恥ずかしかったから、変な感じになっちゃった」


穏やかなタレ目が恥ずかしそうに伏せられるのを見てまた身体がムズムズとした。
家の猫が構いすぎて逃げたくせに数分で構えと甘えてくる時に感じるものと同じ感情だ。


「……なぁんだ、やっぱり照れたのか。可愛いやつ」

「ーーっ先輩、そんな感じでしたっけ!?」

「そんな感じって?」

「だから!…だから、その、可愛いとか、言うタイプでしたっけ…?それに、手とか…繋ぐの?」

「……え?繋いじゃダメなの?」

「ダメじゃないけど!聞いてない!」

「なにを!?」


なんか付き合ってることが発覚してからのミヤ、なんだな様子がおかしくないか?と思いながらその顔を見るがあまりに赤くて心配になる。
完全に完熟したリンゴである。


「そんな甘くなるなんて聞いてない!」

「なにそれ」

「急なマジトーンなに!」

「だって何それじゃん」


ミヤの言っている事がさっぱり分からないが何やら怒っているらしい。
小さな身体でぷんぷん毛を逆立てて可愛いにしかならないがこんな怒り方で大丈夫なのだろうか。
甘えられていると勘違いするぞ。
主に俺が。


「待って」

「なにを」

「刺激強い」

「まだキスもしてないのに?」

「だから刺激強い!」


また毛を逆立てて怒っている。
可愛い。
ダメだ。完全に俺がキュートアグレッションに入ってしまっている。
何を見ても可愛い。
敬語外れたミヤもいいな…と思いながら見つめているとむっすりした顔のミヤがジト目でこちらを見ている。


「からかってますか?」

「いや?俺そんな子供じゃないし。その時思ったこと言っただけ」

「でも、にやにやしてました」


赤いほっぺたで不満気な顔をしても全く怒られている気がしない。
むしろ狙ってやってないかと思いながら話を聞いていてはたりと動きを止める。
今にやにやしてると言われた気がする。


「え。いや…にやにやってそんな変態みたいな顔してた?」

「へ、変態ではないけど…にやにやしてました」

「………ごめん、敬語外れたミヤめっちゃいいなって思ってたら顔に出てたっぽい」

「……………………もう!」


いきなり牛になったミヤに思わず目を見開くと、バツが悪そうに俯く。
なんだか今日は喧嘩…?をしてばかりな気がする。


「分かりました。蒼先輩が人たらしだということが!」

「なにいってんだ。ミヤだけだよ」

「だからそういうとこ!」


また怒られた。
なんだか癖になりそうである。
そしてやはりなぜ怒られているのかてんで分からない。
ミヤにしかこんなこと言わないのに。


「なぁ、俺たちどうやって付き合ったの?」


その言葉にミヤは少し緊張した様子で数秒の沈黙の後口を開く。


「僕が先輩に好きだって告白しました」


その言葉に1週間前の帰り道、アイスを食べている俺にミヤが言った言葉を思い出した。
あの時俺は確か…。


「そしたら俺も好きだって…いってくれました」











その好きはアイスのことである。
まじですまん。
とは口が裂けてもいえなかった。

『僕…ーーがすきです』

と肝心なところが聞こえなくて俺は『僕それ(アイス)が好きです』と解釈したのだ。
それで『俺も好きだ』と返したんだが。
そのうえで『好きならアイス食べる?』と差し出したわけである。
その流れなら『なぜアイスを差し出してくるんだ』とは思ったとしてもでも『変人と名高い蒼先輩だしな』と思われ多分食べるだろう。
間違いなく普段の自分の行いが悪い。


「なるほどなぁ…思い出したわ。ほんとポンコツな頭でごめん」


記憶力だけじゃなくて察し能力もポンコツでマジですまん。
よくよく思い出せばあの空気はどう考えてもアイスが好きという雰囲気ではなかった。
夕日が差すが見える土手を歩く帰り道。
隣に並んでいたのに突然足を止めたミヤに気がついて振り返った俺に彼は緊張した面持だった。
そして手を身体の前で握りしめて

『僕…それが好きです』

はどう考えてもない。
絶対アイスではない。

『僕…先輩が好きです』

に決まっている。
何故あの時の自分はアイスだと思ったのか。
きっと脳内が『アイスうまい』に侵食されていたからに違いない。
頭脳5歳児か!


「いえ…あの、でも…ほかの先輩には言わないでくださいね…?その、恥ずかしいので」


清楚すぎる反応に思わず抱きしめそうになったが、現状告白をアイスだと思っていた男にそんな権利は無い。
粛々と罪を受け入れることにする。
家に帰って自分を殴る回数は十回にすることにした。
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