思いオソレリ

夜行回

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1、一章

1、3水に濡れた

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 水飲み場まで運んでやると、俺の肩に捕まりながら蛇口をひねり水を飲む。ピチャピチャと水がシンクを打つ音がした。その間俺はこいつを見ないようにした。

 キュッとひねりが閉じられ、残りの水がポタポタ落ちる音を聞いた。水音以外の音が聞こえない。今は放課後だ、校庭も近いのに水の滴る音だけが浸透していた。

「ありがとう。お礼がしたいからさ、僕の部室に来てくれよ」

「いや、いいって。怪我したから帰って休みたいんだ」

「そんな事言わずにさあ」

 俺の肩にこいつの手が触れた。先ほど倒れていたとは思えない力強い手。俺は冷や汗をかいている。体が濡れていることに気がついた。だがそれは汗ではない。首筋から背中にかけて水が伝っていく。

 濡れているのは目の前のこいつの方なのだ。

 俺は慌ててこいつを振り解いた。けれど今度は手を掴まれる。湿った手滑らかな肌なのに、ギザギザとした質感がある。

「おいでよー」

 強力な力で俺の手を引っ張る。俺は見た、そいつの足元が濡れているのを。水がそいつが倒れていた部屋の中まで続いている。そして、部屋には明かりがない。昼間だぞ! 

 部屋の入り口に溜まった水が光の届かない洞窟の水みたいに闇を含んでいる。

「君にはさ、資格がある。だからおいでー。助けてあげるからさー」

 俺は相手の顔を見た、片目だけ瞳が2つある、黒い瞳がズレて灰色の目。奴の瞳は3つあったのだ。

 どうにか手を振り解き、下駄箱へと走った。

 うしろは見ない。途中まで聞こえていたピチャピチャと水の上を歩く音もいつしか消えて、俺は下駄箱に辿り着く。

 そこには帰る生徒たちが少なからず居た。音も聞こえる遠くで校庭の外周を声掛けしながら走る運動部たちの声。ボールの跳ねる音、体育館からもシューズがキュッキュッと床にこすれる摩擦音。

 でも、確かにあれは居た。だって俺の首から肩にかけて大きく濡れてしまっているから。制服の上には何かがついている。よく見ればあの鱗だ! 慌てて払い落とした。

 俺は急かされるように靴を履き替え下校する。カバンを教室に忘れた。少し肌寒いからタオルをもらっても良かった。明日提出の宿題だってある。だけど帰らなければ、とにかく学校から出たい気持ちが勝った。
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