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2章
魔法の料理
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俺の目の前には大きな町が広がっている。ダンジョンなのに昼間の明るさで、大通りは人々で賑わっており、活気に満ちている。
店々の入り口からは様々な光が溢れ、町全体が鮮やかな色に包まれている。
軽食の屋台では、甘い香りとともに焼かれるパンや、色とりどりの果物が並んでいる。行列になる人々が待ちながら、美味しそうな料理を手に取っている。
食料品店もまた、新鮮で美しい食材が陳列され、その光景は絵画に描かれた物が現実に出てきたような奇妙と神秘的に満ちた体験だった。
武器屋では、ファンタジーらしい武器が光り輝いている。剣には繊細に模様が彫り込まれ、弓には不思議な宝石が嵌め込まれている。杖も一つとして同じ形がない、ハンドメイドの特別な品物のようだ。
「すっごーい! 見たことないものばっかり、人も猫の耳とか、ドラゴンの顔とか、体が蛇とか多様性ぃ!」
「勝手に触ったりするなよ?」
「大丈夫、許可を取るから」
「そうじゃなくてな……」
凛音ははしゃいでいるが、ここは現実の常識が通じない場所だ。話しかけた相手が危険な人かもしれないし、犯罪に巻き込まれてしまうかもしれない。注意が必要だ。むしろ、触りすぎて訴えられそうで怖い。
「じゃあ、私はここで。困ったら、宿に戻ろうね」
「遠くに行くなよ?」
「大丈夫、近場でもきっと色々ある。悠人も楽しんで来て!」
「分かった」
手を振った凛音は雑踏に消えていった。俺も町に目を向ける。遠くから見ていて分かったのは中央に行くつれ大きな建物が有ることだ。所々、光る鉱石が生えていて、水晶が明かりを放っている。
それは町の店の中でもそうなのだ。基本的に暗いダンジョンの中で暮らす人々の工夫なのだ。
「素敵な町ですね、写真を撮りませんか?」
俺の鞄から出てきたカメラは少女の姿になる。
「撮りたいが人が多すぎる。カメラを構えられないな」
「スマホがあるじゃない!」
カメラに続いてポケットのスマホが出てきたが、人形にならずに宙を浮いている。この浮遊はアーツである擬人化道具の魔法なのだろう。
ここまで、ゴールドボーイや獣避けの柵のように形を変えるもの。檻のように洗脳の魔法を用いるものがいた。
「浮いているのって、魔法なのか?」
「そうよ! 機能を拡張できるってリュセラが言っていたでしょう?」
「スマホが浮かんでいたら、確かに便利だな」
「そうでしょう、どこかの重そうな女と違うの!」
「わ、私だって何か出来るように、成りたいけど、どうすれば良いのか分からなくて……」
落ち込んだカメラはうつ向いてしまった。
「大丈夫。二人とも今のままでも素晴らしい機能を持っているよ」
「ありかとうございます!」
素直に喜ぶカメラ。カメラとは対照的に画面を伏せたのはスマホ。
「照れるじゃない……」
俺はが浮遊しているスマホに手を添えると、スマホは俺の手に収まった。
「じゃあ、行こうか」
賑わう大通りを歩く俺。自分の足跡が埋もれる賑やかな人波を縫うように歩くと、店に吊るしてある干し肉を見つける。吊るされた干し肉をスマホのカメラで撮影した。
こんなに賑わう町を歩くのは初めてで、異世界の町ならなお未知の場所だ。見た事がない景色に興奮を隠せない。
良い写真なら妹にも見せてやれば喜ぶぞ。いつも、おみやげの方が喜ぶけど。それも後で買うとして。
早速撮った写真を見返してみた。すると、見覚えのあるものが。
「これは! 百均の透明袋……」
干し肉を包んでいたのは、透明な袋で、お菓子等を小分けにして渡す時に使う小さい袋。
「袋を挟んでいるのは洗濯バサミに、物干しも百均製だ……」
物干しは洗濯バサミがいくつも付いている、小さい洗濯物を干すための道具。
「みんなの言った通り、俺たちの世界のものがけっこう使われているな」
「使い方違うけれどね……」
「いいや、これで良いんだ。使い方は人それぞれだしな」
食料品の写真を撮影した俺は、しばらく歩いて店を見て回った。幾つも食べ物の店が並んでおり、その一つのオレンジの明かりが着いた店に入った。
「幻想の食卓、変わったものが有りそうだな」
店の中は繁盛している。席の半分以上は団体客で一杯。奥に見える調理場の前にあるカウンターにもそこそこ人がいる。
「いらっしゃい!」
歩いていたスタッフが俺を見つけて声をかけた。彼の服装は薄めの布で作られたエプロン。その真ん中に描かれているのデフォルメされたドラゴン。その下には……
「ローマ字でドラゴンって書いてあるじゃない……」
「日本の小学校で子供が付けてたやつっぽいな」
「悠人さまも付けてましたね」
「そうだな。今見ると、ちょっと恥ずかしい気もする」
「大丈夫ですよ。当時は喜んで居ましたから」
「むー。共に過ごした時間マウントしたわね!」
「まあまあ。落ち着いてくれ。俺の黒歴史はともかくとして。店員さんも待ってるから」
男性の店員はフロアの様子を気にしながら俺たちが会話しているのを待ってくれた。
「一人で」
「他の方々は良いのかい?」
「他のって……」
「ほら会話していた」
カメラとスマホは人形に変身した。
「「私たちも良いんですか?」」
「主人が許可を出せばな」
「そうか、人形だから食事できるんだ」
俺は迷った。貧乏ゆえの悩みだ。そして、スマホとカメラの顔を見た。彼女らは食事を必要としない。でも、だからこそ。
「三名で」
「良いんでしょうか、悠人さま?」
「俺も誰かと共有しながら食事したいから」
「いいじゃない。私たちも食べてみたかったでしょ?」
「はい!」
三人で店に入店した俺たちは奥のカウンターに座った。スマホとカメラは俺を囲んで座る。
俺は置いてあるメニューを開いてワクワクしている。冒険をした後の俺は、さっきより身軽な気がした。見たことのない料理を求めて冒険だ。
安めのやつにしとくのだが。
店々の入り口からは様々な光が溢れ、町全体が鮮やかな色に包まれている。
軽食の屋台では、甘い香りとともに焼かれるパンや、色とりどりの果物が並んでいる。行列になる人々が待ちながら、美味しそうな料理を手に取っている。
食料品店もまた、新鮮で美しい食材が陳列され、その光景は絵画に描かれた物が現実に出てきたような奇妙と神秘的に満ちた体験だった。
武器屋では、ファンタジーらしい武器が光り輝いている。剣には繊細に模様が彫り込まれ、弓には不思議な宝石が嵌め込まれている。杖も一つとして同じ形がない、ハンドメイドの特別な品物のようだ。
「すっごーい! 見たことないものばっかり、人も猫の耳とか、ドラゴンの顔とか、体が蛇とか多様性ぃ!」
「勝手に触ったりするなよ?」
「大丈夫、許可を取るから」
「そうじゃなくてな……」
凛音ははしゃいでいるが、ここは現実の常識が通じない場所だ。話しかけた相手が危険な人かもしれないし、犯罪に巻き込まれてしまうかもしれない。注意が必要だ。むしろ、触りすぎて訴えられそうで怖い。
「じゃあ、私はここで。困ったら、宿に戻ろうね」
「遠くに行くなよ?」
「大丈夫、近場でもきっと色々ある。悠人も楽しんで来て!」
「分かった」
手を振った凛音は雑踏に消えていった。俺も町に目を向ける。遠くから見ていて分かったのは中央に行くつれ大きな建物が有ることだ。所々、光る鉱石が生えていて、水晶が明かりを放っている。
それは町の店の中でもそうなのだ。基本的に暗いダンジョンの中で暮らす人々の工夫なのだ。
「素敵な町ですね、写真を撮りませんか?」
俺の鞄から出てきたカメラは少女の姿になる。
「撮りたいが人が多すぎる。カメラを構えられないな」
「スマホがあるじゃない!」
カメラに続いてポケットのスマホが出てきたが、人形にならずに宙を浮いている。この浮遊はアーツである擬人化道具の魔法なのだろう。
ここまで、ゴールドボーイや獣避けの柵のように形を変えるもの。檻のように洗脳の魔法を用いるものがいた。
「浮いているのって、魔法なのか?」
「そうよ! 機能を拡張できるってリュセラが言っていたでしょう?」
「スマホが浮かんでいたら、確かに便利だな」
「そうでしょう、どこかの重そうな女と違うの!」
「わ、私だって何か出来るように、成りたいけど、どうすれば良いのか分からなくて……」
落ち込んだカメラはうつ向いてしまった。
「大丈夫。二人とも今のままでも素晴らしい機能を持っているよ」
「ありかとうございます!」
素直に喜ぶカメラ。カメラとは対照的に画面を伏せたのはスマホ。
「照れるじゃない……」
俺はが浮遊しているスマホに手を添えると、スマホは俺の手に収まった。
「じゃあ、行こうか」
賑わう大通りを歩く俺。自分の足跡が埋もれる賑やかな人波を縫うように歩くと、店に吊るしてある干し肉を見つける。吊るされた干し肉をスマホのカメラで撮影した。
こんなに賑わう町を歩くのは初めてで、異世界の町ならなお未知の場所だ。見た事がない景色に興奮を隠せない。
良い写真なら妹にも見せてやれば喜ぶぞ。いつも、おみやげの方が喜ぶけど。それも後で買うとして。
早速撮った写真を見返してみた。すると、見覚えのあるものが。
「これは! 百均の透明袋……」
干し肉を包んでいたのは、透明な袋で、お菓子等を小分けにして渡す時に使う小さい袋。
「袋を挟んでいるのは洗濯バサミに、物干しも百均製だ……」
物干しは洗濯バサミがいくつも付いている、小さい洗濯物を干すための道具。
「みんなの言った通り、俺たちの世界のものがけっこう使われているな」
「使い方違うけれどね……」
「いいや、これで良いんだ。使い方は人それぞれだしな」
食料品の写真を撮影した俺は、しばらく歩いて店を見て回った。幾つも食べ物の店が並んでおり、その一つのオレンジの明かりが着いた店に入った。
「幻想の食卓、変わったものが有りそうだな」
店の中は繁盛している。席の半分以上は団体客で一杯。奥に見える調理場の前にあるカウンターにもそこそこ人がいる。
「いらっしゃい!」
歩いていたスタッフが俺を見つけて声をかけた。彼の服装は薄めの布で作られたエプロン。その真ん中に描かれているのデフォルメされたドラゴン。その下には……
「ローマ字でドラゴンって書いてあるじゃない……」
「日本の小学校で子供が付けてたやつっぽいな」
「悠人さまも付けてましたね」
「そうだな。今見ると、ちょっと恥ずかしい気もする」
「大丈夫ですよ。当時は喜んで居ましたから」
「むー。共に過ごした時間マウントしたわね!」
「まあまあ。落ち着いてくれ。俺の黒歴史はともかくとして。店員さんも待ってるから」
男性の店員はフロアの様子を気にしながら俺たちが会話しているのを待ってくれた。
「一人で」
「他の方々は良いのかい?」
「他のって……」
「ほら会話していた」
カメラとスマホは人形に変身した。
「「私たちも良いんですか?」」
「主人が許可を出せばな」
「そうか、人形だから食事できるんだ」
俺は迷った。貧乏ゆえの悩みだ。そして、スマホとカメラの顔を見た。彼女らは食事を必要としない。でも、だからこそ。
「三名で」
「良いんでしょうか、悠人さま?」
「俺も誰かと共有しながら食事したいから」
「いいじゃない。私たちも食べてみたかったでしょ?」
「はい!」
三人で店に入店した俺たちは奥のカウンターに座った。スマホとカメラは俺を囲んで座る。
俺は置いてあるメニューを開いてワクワクしている。冒険をした後の俺は、さっきより身軽な気がした。見たことのない料理を求めて冒険だ。
安めのやつにしとくのだが。
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