5 / 14
深夜のグレープフルーツ
しおりを挟む
上村に部屋の鍵を奪われた夜から数週間が過ぎた。
なんとかして鍵を取り返したいのに、なかなか上村と二人で話す時間が取れない。
営業の上村は元々社内にいることが少ないし、たまに外食部で見かけても、美奈子をはじめ女性社員たちがうるさくまとわりついている。
さすがに、上村が鍵を使って勝手に部屋に入り込むようなことはなかったけれど、他人が自分の部屋の鍵を持ってるなんて、やはりいい気持ちがしない。
いっそのこと鍵の取り換えをお願いしようかとも思ったけれど、管理会社に上村とのことをどう説明してよいのかわからず、私はそれもできずにいた。
「熱っ!」
考えごとをしていたせいで、熱湯を入れて温めていた湯呑みをひっくり返してしまった。シンク横の作業スペースにこぼれた湯を、慌てて布巾で拭う。
いつもの自分ならば絶対にやらないような失敗に苛立って、ため息がこぼれた。
「先輩でもそんなドジすることあるんですね、珍しい」
微笑まじりの声が聞こえて、振り向くと、給湯室の入り口ににやけた顔の上村が立っていた。
「……あんたなの。邪魔しないでくれる?」
シンク上の戸棚から茶筒を取り出し、乱暴に戸を閉める。苛立ちを態度で示しても、上村は立ち去ろうとはしない。
「あーあ、物にあたっちゃダメですよ。何をそんなにイラついてんですか」
「あんたのせいでしょう? 部屋の鍵、早く返しなさいよ」
面白そうにクスクス笑う上村を、下から思いきり睨みつけた。
私が凄んだところで、怖くもなんともないんだろう。上村はにやけた顔のままだ。
「あんまりカッカしてると眉間のしわが取れなくなりますよ。たまには代わってあげましょうか」
そう言って、上村が私が握っている茶筒に手を伸ばしてきた。
「いいわよ、そんなこと」
「いいから」
上村は無理やり茶筒を奪うと、私を押しのけ、急須にお茶の葉を入れてしまう。
この分じゃ、何を言っても聞きそうにない。仕方なく私は、上村の真横で観察することにした。
「あれっ……」
意外なことに、上村は道具の扱いにも馴れていた。
「はい、先輩も一杯どうぞ」
自信あり気に微笑むと、上村は私にお茶を勧めてくる。
「ありがとう……」
湯呑みを両手で受け取ると、お茶の冴えたグリーンが見えた。立ち昇る香りも芳しい。
一口含むと、爽やかな苦味が口の中いっぱいに広がった。
「美味しい! 意外だわ。本当に上手いのね」
この味なら、野々村部長も満足してくれるんじゃないだろうか。
上村は満足そうに微笑むと、お盆の上の部長の湯呑みにお茶を注ぎ、お盆ごと私に手渡した。
「またいつでも入れてあげますよ。じゃあね、先輩」
「えっ? ちょっと、上村!」
持っているお茶をこぼしてしまいそうで、上村を追いかけられない。
ひょっとして、私の手を塞ぐために、わざわざ自分でお茶をいれたんだろうか? 子どもじゃあるまいし、こんな悪知恵を働かせるなんて。なんてヤツなの!!
そう憤慨したところで、ようやく気づく。
「あ、違う。……まんまとやられたわ」
お茶のことに気を取られ、私は、鍵のことをすっかり忘れていた。
部長のお茶を手に給湯室から出ようとしていると、廊下から女の子たちの賑やかな話し声が聞こえてきた。
「やったね、美奈子。金曜の飲み会、上村さんも来てくれるんでしょ?」
「うん」
「やったあ! 楽しみ。後のメンバーは誰なの?」
この声は、うちの部の子たちだ。能天気な話し声にため息が出る。
「ちょっとあなたたち、声が大きすぎるんじゃない?」
突然現れた私を見て、三人の話し声がピタリと止まった。
「あ、三谷さん。すみません」
少しも悪びれることなく、美奈子が口だけで謝る。両脇の二人も形だけぺこりと頭を下げた。
「朝礼、遅れないでね」
どうせ今から化粧直しにでも行くつもりだったのだろう。去り際の私の一言に、小さな舌打ちが聞こえた。
「お先に失礼しまーす」
数名の女の子たちが、定時ピッタリにパソコンの電源を落とし、そそくさと更衣室に消えていった。いつもはもうちょっと遠慮して、定時5分過ぎくらいまではデスクにいるのに。
デスクの上のカレンダーを見て、「ああ」と思い出した。
そういえば今日は飲み会だって言ってたな。
どうりでみんな早いわけだ。今頃、トイレの鏡の前は大混雑だろう。
――結局、上村とは給湯室でお茶を入れてもらって以来話していない。
異動して一ヶ月、仕事が軌道に乗ったらしく、上村はかなり忙しそうだ。社内で顔を合わせることもあまりない。
もしかしたら、仕事にかまけて、上村は鍵の存在を忘れてしまったのかもしれない。
それならば、それでもいい。
合鍵もあるし、実を言うと、そう不自由しているわけでもなかったのだ。
「美奈子たち今日合コンにでも行くのかなあー。やけに気合入った髪形してませんでした?」
いつの間に近くまで来ていたのか、私の耳元で響子がポツリと呟いた。
「飲み会があるって言ってたけど、響子は誘われてないの?」
「誘われても行きませんよ! あの子たちの飲み会、男が絡むと凄いですもん。真剣すぎてこっちが引いちゃうくらい」
と言いつつ、響子はぷうっと頬を膨らます。誘われなかったことに、腹を立ててるみたいだ。
「……そのわりには、何だか羨ましそうじゃない?」
「そりゃ、私だって彼氏欲しいですもん。あれ、三谷さんも帰っちゃうんですか? まさか同じ飲み会?」
「そんなわけないでしょ。私は仕事が終わったの。響子も週末くらい早く帰んなさいよ」
「はぁい」と呟く響子の肩を軽く叩き、パソコンの画面が終了したことを確認すると、私はオフィスを後にした。
会社からの帰り道、マンション近くのスーパーに立ち寄って、夕飯の食材を買って帰った。
私は普段からできるかぎり自炊をするようにしている。
どうしても疲れてしまった時は、コンビニの弁当や買って来た惣菜を食べることもある。でも、それが毎日となると、日々の仕事を乗り切る力が湧いてこないような気がするのだ。
食事とシャワーをすませて部屋でくつろいでいると、突然玄関のインターホンが鳴った。
時計はすでに午後10時を指している。こんな時間に約束もなしにやってくる人なんて誰も思い当たらない。
きっと部屋を間違えたんだろう。そうでなければ酔っ払いかな。
私はしつこく鳴るインターホンには応答せず、突然の来訪者が間違いに気付き去っていくのを静かに待った。
すると今度は、ガチャガチャと鍵を差し込む音がする。
勘違いしたまま自分の家の鍵を無理やり押し込もうとしているとか?
それとも……泥棒!?
急に怖くなった私は、キッチンの棚からフライパンを取り出し、玄関へと向かった。
鍵を開ける音が聞こえて、慌てて玄関照明のスイッチを押した。
照明が玄関を明るく照らすのと同時にドアが開く。
意を決してドアの前まで駆け寄ると、私は無我夢中でフライパンを振りかぶった。
「ど、どろぼ……」
「うわっ、危ねっ!!」
ドサッと音を立ててビジネスバックが床に落ち、その拍子に何かが三和土をコロコロと転がったのが視界の端に映った。
恐る恐る顔を上げる。背中を玄関ドアに預け、片腕でフライパンからの攻撃をかわそうと身構えていたのは、なんと上村だった。
「う、上村?」
「……あんた、俺を殺す気か?」
痛みに顔をしかめ、ゆっくりと体を起こすと、彼は私を威圧的に見下ろした。相変わらず偉そうな態度だ。
「何なのよ。上村、どうして勝手に入ってくるの?」
私は上村に気づかれるのが嫌で、恐怖でまだ微かに震える手を背中の後ろに隠した。動悸がなかなか治まらない。
――とりあえず、強盗じゃなくて良かった。
「勝手にって、ちゃんと鍵を預かったでしょ」
「なっ!? 私は預けた覚えはないわよ! あんたが勝手に持って行ったんじゃない。……わかった! その鍵、返しにきてくれたのよね?」
私は、さっさと鍵を返して欲しくて、上村に向かって右手を突き出した。
「……先輩、ひょっとして震えてんの?」
上村の視線に気づいた時には遅かった。とっさに手首を掴まれて、隠しようがない。
「あんたのことを泥棒だと思ったのよ。悪い?」
反対の手で口を覆い、肩を揺らして笑いを堪える上村にムッとして、私は思いっきり上村の手を振り払った。
「それはそれは、驚かせてすみません。先輩も意外に可愛いところあるじゃないですか」
「一体何の用? 用がないのなら、鍵を置いてさっさと帰んなさいよ」
上村の一言一言が一々癇に障る。
人のこと驚かせておいて、謝ったって口先だけで、絶対に悪いなんて思ってない。本当にこいつ、性格悪い!
「……用があるから来たんでしょ。とりあえず部屋に上げてくださいよ」
「鍵を返すなら入れてあげるわ」
「……わかりました。帰るときに返します」
嫌そうな顔でそう答えると、上村は体を折り曲げて、下から何かを拾い上げた。
「何それ……グレープフルーツ?」
さっき三和土を転がったのはこれだったんだ。上村は手のひらに載せたグレープフルーツを「はい」と私に手渡した。
「それ、お土産です」
「はあ……ありがとう」
とりあえず間に合わせで選んだのだろうか。上村からの奇妙な手土産を手に、私は部屋の中へと向かう。
「お邪魔しまっす」
上村は機嫌よく私の後についてきた。
上村は、まるで元からこの部屋の住人だったかのようにどっしりとソファに腰掛け、思いっきりくつろいでいる。
一人では広く感じるこの部屋も、背の高い上村がいると急に窮屈に感じるから不思議だ。
「それで、一体何しにいらしたんですか?」
ソファに座る上村の前に立ち、腕を組んで彼を睨みつけた。
相変らずの飄々とした態度に苛々していると、
「また他人行儀な。このうちは、客にお茶も出さないんですか?」
そう言って、上村はふてぶてしく私に笑いかけた。
「……くっ! わかったわよ。コーヒーとお茶どちらがよろしいですか?」
自棄になってキッチンへ向かうと、「あ、待って」と上村に呼び止められた。
「今度は何よ?」
いきなり両手を合わせ、私に向かって拝むようなポーズをしてくる。
「先輩、やっぱりコーヒーはいいから何か食わせてくんない?」
「はあ? 上村、美奈子たちと飲み会だったんでしょ? ご飯食べてないの?」
私がそう口にした途端、上村は何かを思い出したのか、思いっきり顔をしかめた。
「美奈子って、相良美奈子? あいつ会社でも仕事してなさそうだけど、ホントひどいよね。他の女たちも気の利かないバカばっかだし。飲み会の間中べったりくっつかれて、飯食うどころじゃなかった」
「なによそれ。じゃあどうしてあの子たちと飲みに行ったの?」
上村はただでさえもてるんだから、そんなところに行ったら女の子たちに囲まれるに決まっている。それがわからない上村じゃないだろうに。
「俺がいないと、女の子たち集まんないでしょ。そんなの営業の連中の為に決まってるじゃん。少しでもあいつらに恩売っておかなきゃね」
「……呆れた。あんたってホントいい性格してる」
「お褒めに預かり光栄ですよ。そんなことより先輩、早く何か食わせて。頼むから」
「嫌よ。どうして私が」
「そう、この鍵返さなくていいんだ」
そう言うと、上村はあの日のように私の眼前に鍵をぶら下げる。
奪い返そうと手を伸ばすと簡単にかわされた。
「返して欲しいんじゃないの?」
「……わかったわよ」
仕方なく私は、冷蔵庫を開けて食事の用意を始めた。
「やー、うまいわ」
そう言って、上村はテーブルの上の料理を片っ端から片付けていく。
……上村って、結構食べるんだ。なんだか意外だわ。
その旺盛な食欲を前に、私はただただ唖然としていた。
「本当、上村よく食べたわね」
上村に食後のコーヒーを手渡しながら、テーブル一杯の空き皿を見回した。
「片付けはしますから安心してください」
「え、いいよそんなこと」
「いいから」
上村はコーヒーを一気に飲み干すと、私が片づけようと持っていた皿を奪い、キッチンへ運んで行った。
「先輩って、料理うまいんだね」
「母の仕事が忙しかったから、ずっと私が家事をやってたの。うまいっていうか、慣れてるだけ」
物心ついた時から、ずっと母と二人だった。蒸発したという父の顔を私は覚えてはいない。
「お母さんは今入院してるんでしたよね。もう長いの?」
「去年の秋から。でも母もそう長くはないと思うわ。だって、余命宣告を受けてるもの」
そう話すと、一瞬上村が動きを止めた。驚いて当然だろう。会社の人間はおろかまだ誰にも話していない。
「先輩が入院費を払ってるって言ってたけど、他にご家族は?」
「いないわ。ずっと母と二人よ」
「……先輩も苦労してるんだね」
「……ありがとう、助かったわ。一人じゃ案外時間かかるのよ。おかげで早く片付いた」
しんみりとした雰囲気になるのが嫌で、私はわざと話を逸らした。
「や、食べたの俺だし」
上村もなんとなく察してくれたのか、それ以上母の話題を持ち出すことはなかった。
最後に手を洗う上村にハンドタオルを手渡すと、「先輩、ごちそうさまでした」と頭を下げられて少し驚いた。
こういうところ、上村は意外にちゃんとしている。
「あ、先輩あれ食べようよ、グレープフルーツ」
「ああ、いいけど」
私は冷蔵庫にしまっておいたグレープフルーツを取り出すと、包丁で真っ二つにして半分ずつガラスの器に入れ、ソファに腰掛けている上村にスプーンと一緒に手渡した。
「え、このまま食うの?」
「普通はそうでしょ。こうやって、スプーンで掬すくって食べるのよ」
上村は私が食べる様子を興味深そうに見ている。
「グレープフルーツって、ミカンみたいに剥いて食うんだと思ってた」
上村は私と同じようにスプーンを使い、果肉を一口、口に含んだ。
「う…すっぱ」
そう言って眉をしかめる。
「グレープフルーツなんだから当たり前じゃない。そんなに好きでもないならどうして買ってきたのよ」
「酔い覚ましにいいかと思ったんですよ。ここに泊まっていいなら別だけど」
「いいわけないでしょう? それ食べたら、鍵を置いてさっさと帰ってね」
「つれないなあ」
一口、二口と食べるうちにグレープフルーツの酸味にも慣れたのか、上村は最後の一粒まできれいに平らげた。
「じゃあ、ホントごちそうさまでした」
「はい、じゃあね」
そろそろお暇します、という上村を玄関まで見送る。
上村がドアノブに手を掛けたところで、大事なことを忘れていたことに気がついた。
「あ、鍵は置いていってね」
「ああ」と上村は振り向き、胸ポケットから鍵を取り出す。私は、大事な鍵を受け取ろうと、上村に向かって手のひらを広げた。
これ以上、上村の身勝手に振り回されてたまるか。
「なーんて、ね?」
そう言って、上村は私の部屋の鍵を素早く胸ポケットに戻した。
入りきらなかったシルバーのチャームがポケットからはみ出している。
「……いい加減にしてくれる? ちゃんと鍵、返しなさいよ!」
私はムッとした顔で、上村に手を伸ばした。が、またしても寸でのところでかわされた。
「わっ!?」
上村に避けられたせいでバランスを崩した私は、廊下の壁に手をついて、なんとかふらついた体を支えた。
「ちょっと、危ないじゃない!!」
「ああ、スミマセン」
「スミマセンじゃないわよ、だから鍵!」
なんとかして鍵を取り返そうと、上村に向かって手を伸ばしたけれど。
「先輩の飯、また食べに来ますから。それじゃ」
私の腕は空を切り、目の前でバタンと大きな音を立ててドアが閉まった。
「……まったく、一体何しに来たのよ!」
私は悪態をつきながら、ドアの内鍵を回した。
いつもはそのままのチェーンも、今日ばかりはしっかりとドアに掛けておいた。
なんとかして鍵を取り返したいのに、なかなか上村と二人で話す時間が取れない。
営業の上村は元々社内にいることが少ないし、たまに外食部で見かけても、美奈子をはじめ女性社員たちがうるさくまとわりついている。
さすがに、上村が鍵を使って勝手に部屋に入り込むようなことはなかったけれど、他人が自分の部屋の鍵を持ってるなんて、やはりいい気持ちがしない。
いっそのこと鍵の取り換えをお願いしようかとも思ったけれど、管理会社に上村とのことをどう説明してよいのかわからず、私はそれもできずにいた。
「熱っ!」
考えごとをしていたせいで、熱湯を入れて温めていた湯呑みをひっくり返してしまった。シンク横の作業スペースにこぼれた湯を、慌てて布巾で拭う。
いつもの自分ならば絶対にやらないような失敗に苛立って、ため息がこぼれた。
「先輩でもそんなドジすることあるんですね、珍しい」
微笑まじりの声が聞こえて、振り向くと、給湯室の入り口ににやけた顔の上村が立っていた。
「……あんたなの。邪魔しないでくれる?」
シンク上の戸棚から茶筒を取り出し、乱暴に戸を閉める。苛立ちを態度で示しても、上村は立ち去ろうとはしない。
「あーあ、物にあたっちゃダメですよ。何をそんなにイラついてんですか」
「あんたのせいでしょう? 部屋の鍵、早く返しなさいよ」
面白そうにクスクス笑う上村を、下から思いきり睨みつけた。
私が凄んだところで、怖くもなんともないんだろう。上村はにやけた顔のままだ。
「あんまりカッカしてると眉間のしわが取れなくなりますよ。たまには代わってあげましょうか」
そう言って、上村が私が握っている茶筒に手を伸ばしてきた。
「いいわよ、そんなこと」
「いいから」
上村は無理やり茶筒を奪うと、私を押しのけ、急須にお茶の葉を入れてしまう。
この分じゃ、何を言っても聞きそうにない。仕方なく私は、上村の真横で観察することにした。
「あれっ……」
意外なことに、上村は道具の扱いにも馴れていた。
「はい、先輩も一杯どうぞ」
自信あり気に微笑むと、上村は私にお茶を勧めてくる。
「ありがとう……」
湯呑みを両手で受け取ると、お茶の冴えたグリーンが見えた。立ち昇る香りも芳しい。
一口含むと、爽やかな苦味が口の中いっぱいに広がった。
「美味しい! 意外だわ。本当に上手いのね」
この味なら、野々村部長も満足してくれるんじゃないだろうか。
上村は満足そうに微笑むと、お盆の上の部長の湯呑みにお茶を注ぎ、お盆ごと私に手渡した。
「またいつでも入れてあげますよ。じゃあね、先輩」
「えっ? ちょっと、上村!」
持っているお茶をこぼしてしまいそうで、上村を追いかけられない。
ひょっとして、私の手を塞ぐために、わざわざ自分でお茶をいれたんだろうか? 子どもじゃあるまいし、こんな悪知恵を働かせるなんて。なんてヤツなの!!
そう憤慨したところで、ようやく気づく。
「あ、違う。……まんまとやられたわ」
お茶のことに気を取られ、私は、鍵のことをすっかり忘れていた。
部長のお茶を手に給湯室から出ようとしていると、廊下から女の子たちの賑やかな話し声が聞こえてきた。
「やったね、美奈子。金曜の飲み会、上村さんも来てくれるんでしょ?」
「うん」
「やったあ! 楽しみ。後のメンバーは誰なの?」
この声は、うちの部の子たちだ。能天気な話し声にため息が出る。
「ちょっとあなたたち、声が大きすぎるんじゃない?」
突然現れた私を見て、三人の話し声がピタリと止まった。
「あ、三谷さん。すみません」
少しも悪びれることなく、美奈子が口だけで謝る。両脇の二人も形だけぺこりと頭を下げた。
「朝礼、遅れないでね」
どうせ今から化粧直しにでも行くつもりだったのだろう。去り際の私の一言に、小さな舌打ちが聞こえた。
「お先に失礼しまーす」
数名の女の子たちが、定時ピッタリにパソコンの電源を落とし、そそくさと更衣室に消えていった。いつもはもうちょっと遠慮して、定時5分過ぎくらいまではデスクにいるのに。
デスクの上のカレンダーを見て、「ああ」と思い出した。
そういえば今日は飲み会だって言ってたな。
どうりでみんな早いわけだ。今頃、トイレの鏡の前は大混雑だろう。
――結局、上村とは給湯室でお茶を入れてもらって以来話していない。
異動して一ヶ月、仕事が軌道に乗ったらしく、上村はかなり忙しそうだ。社内で顔を合わせることもあまりない。
もしかしたら、仕事にかまけて、上村は鍵の存在を忘れてしまったのかもしれない。
それならば、それでもいい。
合鍵もあるし、実を言うと、そう不自由しているわけでもなかったのだ。
「美奈子たち今日合コンにでも行くのかなあー。やけに気合入った髪形してませんでした?」
いつの間に近くまで来ていたのか、私の耳元で響子がポツリと呟いた。
「飲み会があるって言ってたけど、響子は誘われてないの?」
「誘われても行きませんよ! あの子たちの飲み会、男が絡むと凄いですもん。真剣すぎてこっちが引いちゃうくらい」
と言いつつ、響子はぷうっと頬を膨らます。誘われなかったことに、腹を立ててるみたいだ。
「……そのわりには、何だか羨ましそうじゃない?」
「そりゃ、私だって彼氏欲しいですもん。あれ、三谷さんも帰っちゃうんですか? まさか同じ飲み会?」
「そんなわけないでしょ。私は仕事が終わったの。響子も週末くらい早く帰んなさいよ」
「はぁい」と呟く響子の肩を軽く叩き、パソコンの画面が終了したことを確認すると、私はオフィスを後にした。
会社からの帰り道、マンション近くのスーパーに立ち寄って、夕飯の食材を買って帰った。
私は普段からできるかぎり自炊をするようにしている。
どうしても疲れてしまった時は、コンビニの弁当や買って来た惣菜を食べることもある。でも、それが毎日となると、日々の仕事を乗り切る力が湧いてこないような気がするのだ。
食事とシャワーをすませて部屋でくつろいでいると、突然玄関のインターホンが鳴った。
時計はすでに午後10時を指している。こんな時間に約束もなしにやってくる人なんて誰も思い当たらない。
きっと部屋を間違えたんだろう。そうでなければ酔っ払いかな。
私はしつこく鳴るインターホンには応答せず、突然の来訪者が間違いに気付き去っていくのを静かに待った。
すると今度は、ガチャガチャと鍵を差し込む音がする。
勘違いしたまま自分の家の鍵を無理やり押し込もうとしているとか?
それとも……泥棒!?
急に怖くなった私は、キッチンの棚からフライパンを取り出し、玄関へと向かった。
鍵を開ける音が聞こえて、慌てて玄関照明のスイッチを押した。
照明が玄関を明るく照らすのと同時にドアが開く。
意を決してドアの前まで駆け寄ると、私は無我夢中でフライパンを振りかぶった。
「ど、どろぼ……」
「うわっ、危ねっ!!」
ドサッと音を立ててビジネスバックが床に落ち、その拍子に何かが三和土をコロコロと転がったのが視界の端に映った。
恐る恐る顔を上げる。背中を玄関ドアに預け、片腕でフライパンからの攻撃をかわそうと身構えていたのは、なんと上村だった。
「う、上村?」
「……あんた、俺を殺す気か?」
痛みに顔をしかめ、ゆっくりと体を起こすと、彼は私を威圧的に見下ろした。相変わらず偉そうな態度だ。
「何なのよ。上村、どうして勝手に入ってくるの?」
私は上村に気づかれるのが嫌で、恐怖でまだ微かに震える手を背中の後ろに隠した。動悸がなかなか治まらない。
――とりあえず、強盗じゃなくて良かった。
「勝手にって、ちゃんと鍵を預かったでしょ」
「なっ!? 私は預けた覚えはないわよ! あんたが勝手に持って行ったんじゃない。……わかった! その鍵、返しにきてくれたのよね?」
私は、さっさと鍵を返して欲しくて、上村に向かって右手を突き出した。
「……先輩、ひょっとして震えてんの?」
上村の視線に気づいた時には遅かった。とっさに手首を掴まれて、隠しようがない。
「あんたのことを泥棒だと思ったのよ。悪い?」
反対の手で口を覆い、肩を揺らして笑いを堪える上村にムッとして、私は思いっきり上村の手を振り払った。
「それはそれは、驚かせてすみません。先輩も意外に可愛いところあるじゃないですか」
「一体何の用? 用がないのなら、鍵を置いてさっさと帰んなさいよ」
上村の一言一言が一々癇に障る。
人のこと驚かせておいて、謝ったって口先だけで、絶対に悪いなんて思ってない。本当にこいつ、性格悪い!
「……用があるから来たんでしょ。とりあえず部屋に上げてくださいよ」
「鍵を返すなら入れてあげるわ」
「……わかりました。帰るときに返します」
嫌そうな顔でそう答えると、上村は体を折り曲げて、下から何かを拾い上げた。
「何それ……グレープフルーツ?」
さっき三和土を転がったのはこれだったんだ。上村は手のひらに載せたグレープフルーツを「はい」と私に手渡した。
「それ、お土産です」
「はあ……ありがとう」
とりあえず間に合わせで選んだのだろうか。上村からの奇妙な手土産を手に、私は部屋の中へと向かう。
「お邪魔しまっす」
上村は機嫌よく私の後についてきた。
上村は、まるで元からこの部屋の住人だったかのようにどっしりとソファに腰掛け、思いっきりくつろいでいる。
一人では広く感じるこの部屋も、背の高い上村がいると急に窮屈に感じるから不思議だ。
「それで、一体何しにいらしたんですか?」
ソファに座る上村の前に立ち、腕を組んで彼を睨みつけた。
相変らずの飄々とした態度に苛々していると、
「また他人行儀な。このうちは、客にお茶も出さないんですか?」
そう言って、上村はふてぶてしく私に笑いかけた。
「……くっ! わかったわよ。コーヒーとお茶どちらがよろしいですか?」
自棄になってキッチンへ向かうと、「あ、待って」と上村に呼び止められた。
「今度は何よ?」
いきなり両手を合わせ、私に向かって拝むようなポーズをしてくる。
「先輩、やっぱりコーヒーはいいから何か食わせてくんない?」
「はあ? 上村、美奈子たちと飲み会だったんでしょ? ご飯食べてないの?」
私がそう口にした途端、上村は何かを思い出したのか、思いっきり顔をしかめた。
「美奈子って、相良美奈子? あいつ会社でも仕事してなさそうだけど、ホントひどいよね。他の女たちも気の利かないバカばっかだし。飲み会の間中べったりくっつかれて、飯食うどころじゃなかった」
「なによそれ。じゃあどうしてあの子たちと飲みに行ったの?」
上村はただでさえもてるんだから、そんなところに行ったら女の子たちに囲まれるに決まっている。それがわからない上村じゃないだろうに。
「俺がいないと、女の子たち集まんないでしょ。そんなの営業の連中の為に決まってるじゃん。少しでもあいつらに恩売っておかなきゃね」
「……呆れた。あんたってホントいい性格してる」
「お褒めに預かり光栄ですよ。そんなことより先輩、早く何か食わせて。頼むから」
「嫌よ。どうして私が」
「そう、この鍵返さなくていいんだ」
そう言うと、上村はあの日のように私の眼前に鍵をぶら下げる。
奪い返そうと手を伸ばすと簡単にかわされた。
「返して欲しいんじゃないの?」
「……わかったわよ」
仕方なく私は、冷蔵庫を開けて食事の用意を始めた。
「やー、うまいわ」
そう言って、上村はテーブルの上の料理を片っ端から片付けていく。
……上村って、結構食べるんだ。なんだか意外だわ。
その旺盛な食欲を前に、私はただただ唖然としていた。
「本当、上村よく食べたわね」
上村に食後のコーヒーを手渡しながら、テーブル一杯の空き皿を見回した。
「片付けはしますから安心してください」
「え、いいよそんなこと」
「いいから」
上村はコーヒーを一気に飲み干すと、私が片づけようと持っていた皿を奪い、キッチンへ運んで行った。
「先輩って、料理うまいんだね」
「母の仕事が忙しかったから、ずっと私が家事をやってたの。うまいっていうか、慣れてるだけ」
物心ついた時から、ずっと母と二人だった。蒸発したという父の顔を私は覚えてはいない。
「お母さんは今入院してるんでしたよね。もう長いの?」
「去年の秋から。でも母もそう長くはないと思うわ。だって、余命宣告を受けてるもの」
そう話すと、一瞬上村が動きを止めた。驚いて当然だろう。会社の人間はおろかまだ誰にも話していない。
「先輩が入院費を払ってるって言ってたけど、他にご家族は?」
「いないわ。ずっと母と二人よ」
「……先輩も苦労してるんだね」
「……ありがとう、助かったわ。一人じゃ案外時間かかるのよ。おかげで早く片付いた」
しんみりとした雰囲気になるのが嫌で、私はわざと話を逸らした。
「や、食べたの俺だし」
上村もなんとなく察してくれたのか、それ以上母の話題を持ち出すことはなかった。
最後に手を洗う上村にハンドタオルを手渡すと、「先輩、ごちそうさまでした」と頭を下げられて少し驚いた。
こういうところ、上村は意外にちゃんとしている。
「あ、先輩あれ食べようよ、グレープフルーツ」
「ああ、いいけど」
私は冷蔵庫にしまっておいたグレープフルーツを取り出すと、包丁で真っ二つにして半分ずつガラスの器に入れ、ソファに腰掛けている上村にスプーンと一緒に手渡した。
「え、このまま食うの?」
「普通はそうでしょ。こうやって、スプーンで掬すくって食べるのよ」
上村は私が食べる様子を興味深そうに見ている。
「グレープフルーツって、ミカンみたいに剥いて食うんだと思ってた」
上村は私と同じようにスプーンを使い、果肉を一口、口に含んだ。
「う…すっぱ」
そう言って眉をしかめる。
「グレープフルーツなんだから当たり前じゃない。そんなに好きでもないならどうして買ってきたのよ」
「酔い覚ましにいいかと思ったんですよ。ここに泊まっていいなら別だけど」
「いいわけないでしょう? それ食べたら、鍵を置いてさっさと帰ってね」
「つれないなあ」
一口、二口と食べるうちにグレープフルーツの酸味にも慣れたのか、上村は最後の一粒まできれいに平らげた。
「じゃあ、ホントごちそうさまでした」
「はい、じゃあね」
そろそろお暇します、という上村を玄関まで見送る。
上村がドアノブに手を掛けたところで、大事なことを忘れていたことに気がついた。
「あ、鍵は置いていってね」
「ああ」と上村は振り向き、胸ポケットから鍵を取り出す。私は、大事な鍵を受け取ろうと、上村に向かって手のひらを広げた。
これ以上、上村の身勝手に振り回されてたまるか。
「なーんて、ね?」
そう言って、上村は私の部屋の鍵を素早く胸ポケットに戻した。
入りきらなかったシルバーのチャームがポケットからはみ出している。
「……いい加減にしてくれる? ちゃんと鍵、返しなさいよ!」
私はムッとした顔で、上村に手を伸ばした。が、またしても寸でのところでかわされた。
「わっ!?」
上村に避けられたせいでバランスを崩した私は、廊下の壁に手をついて、なんとかふらついた体を支えた。
「ちょっと、危ないじゃない!!」
「ああ、スミマセン」
「スミマセンじゃないわよ、だから鍵!」
なんとかして鍵を取り返そうと、上村に向かって手を伸ばしたけれど。
「先輩の飯、また食べに来ますから。それじゃ」
私の腕は空を切り、目の前でバタンと大きな音を立ててドアが閉まった。
「……まったく、一体何しに来たのよ!」
私は悪態をつきながら、ドアの内鍵を回した。
いつもはそのままのチェーンも、今日ばかりはしっかりとドアに掛けておいた。
1
あなたにおすすめの小説
卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。
雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。
「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」
琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。
白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。
清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる