あなたの遺伝子、ください

志藤みかづき

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第1章「あなたの遺伝子、下さい」

1.2 あなたの遺伝子を、くれませんか★

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反則的な素質―――<年下の男を魅了する素質>を持ったエレミアの登場。

 その上、タクトから聞かされた彼らの【リセット】の体験を伴った詳細。


 ふたつのできごとが、私を凶行に走らせる。

 そう、凶行だ。

 わたしはこれから自分のする行動が、本当に身勝手で、独りよがりだということはわかっていた。
 リュイの心を無視し、傷つける恥すべき行い。
 罪深い行いだと知りながら、それでも自分のために平気でやってしまうわたしだから、この世界の神様は<素質>を与えてくれなかったのか。だとしたら神様は完璧だ。先見の明もある。


 日本だと、犯罪者になるのかな?でも、いい。ここは日本じゃない、男女比の狂った世界。


 リュイは言ったじゃないか。自分に相応しい男を選んで、子どもを産んで欲しいって。


 わたしにとって、それは、リュイだ。



 大それたことをしてしまうという恐れはない。母親大好きな日本人贔屓のタクトの応援もあると思えば、気持ちも少しは軽くなる。全てが終われば、わたしの身柄は彼の預かりになるだろう。リュイの元に戻る資格はなくなる。リュイだって二度とわたしの顔を見たいとは思わない。


 エレミアに気づかれないようにそっと自室を抜け出して。
 オレンジ色の光が灯された廊下を忍び足で歩く。
 タクトから渡された――<あらゆる薬を調合する素質>のある女性から貰った媚薬を片手に、リュイの部屋の前で立ち止まり、ノックして声をかける。



「エレミア?」


 短く返ってくる名は、エレミアの名で心が折れそうになる。
 ずっとこの屋敷にリュイといたのは私なのに。
 これしきのことでめげていては、先に進めない。わたしは震える声で返事を返す。


「夜遅くにごめんなさい。わたし、透子です」

「え、トウコ?」


 驚いたようなリュイの声を聞きながら、不作法にも彼の許可が下りる前にドアノブを握りしめ、一気に開け放った。


「どうしたの、トウコ」


 目を見開き、驚いたようなリュイの声に、わたしを心配するような色が混じっている。
 

「リュイ、お願い」


 部屋へ踏み出し、後ろ手にドアを閉める。
 今まさに寝ようとしていたのであろうベッドの上に腰かけていたリュイのもとに近づき、わたしは静かに告げた。


「わたしに、あなたの遺伝子を、くれませんか」


 ベッドに乗り上げる。唖然とするリュイの頬へと両手を伸ばし、「え」と口を開けて固まるリュイの顔へ唇を寄せた。


「ごめんなさい。せめて、思い出を」


 まやかしでもいい、リュイ、あなたとの思い出がほしい。
 そうして、触れるだけの口づけを交わし、ポケットから部屋に入る直前に隠した桃色の小瓶を取り出し、中身の媚薬を口に含んで一気に呷った。間髪入れず、両腕を伸ばし、リュイの首へと絡ませる。

 逆らわないのか、逆らえないのか。
 この期に及んでも、ベッドに押し倒されるような形となっても動かないリュイの唇に再度己の唇を重ねる。今度は唇を触れ合わせるだけの子供だましみたいなものじゃない。舌を使って強引に口をこじ開ける。拒絶されるよりも先に、わたしは口に含んだ媚薬を口移しでリュイに注ぎ込んだ。



「…?……ッ!!?」



 リュイの真紅の瞳が驚愕に見開かれる。

 ここに来てようやくリュイがもがいて身を離そうとするが、わたしは振り落とされないようにさらに強く腕を絡ませた。

 そうして全部の液体をリュイが飲み干したのを確認した後、息を乱しながら離れる。


「トウコ、こんな…こんなことをしても、ぼくは…っ」 


 ク…ッと悩ましげな息を吐きながら、リュイの四肢から徐々に力が抜けていく様子を、わたしは冷静に眺めていた。その動きが完全に停止したのを見届けて、わたしはにっこり微笑んでみせた。


「もうリュイの気持ちなんていりませんよ?」



 リュイからの気持ちなんて期待してるわけない。
 この世界に来てからの時間のほとんどが、あなたを見つめる時間だった。
 あなたがわたしに恋愛感情を抱くなんて微塵も思ってない。


 わたしの言葉に、びくりとリュイの身体が震える。
 子犬のように瞳を潤ませるリュイに、嗜虐心が芽生えてきそう。
 ひどいこと、したくなる。


「タクトがわたしに協力してくれたんです。特別な媚薬なんだよ」


 この媚薬のすごいところは、身体の自由を本人から奪いながらも――性器だけは反応させるところだ。 <素質>ってすごい。嘘みたいな薬を作れるんだから。
 お尻を浮かせて、リュイの股間のほうへ手を伸ばした。パンツの上からでもわかるほど、明らかにリュイのものがはりつめているのがわかった。感触を確かめるように触れれば、ぐっと密度が増したから、思わず笑みが零れた。



「リュイがわたしのことなんとも思ってないのは知ってるわかってる。でも、好き。好きなんです。リュイのことが、好きで、好きで、ほんとに、好きで」



 薬のせいで熱く脈打つリュイのものを撫でながら、もう一方の手で自身の胸を掻き抱いた。



「だから、ごめんなさい。わたしのこと許せないだろうし、許さなくていい。わたしのこと忘れないでいてほしい。―――だからね、これからのことは全部わたしのせい、薬のせい」


「……ッ、トウコ……!!」


 理性を振り絞るようにリュイがわたしの名前を呼んだ。
 嬉しい。リュイの目がぐるぐると回り出す。どんな気持ちでわたしの名前を呼んだのか。
 それを確かめる勇気はとてもじゃないけどないよ。



「リュイがしたくないこと、わたしと一緒にしよう?」



 わたしの名前を呼んだのを最後に、リュイの理性は吹き飛び、媚薬に理性を持って行かれた。





 押し倒されたままのリュイの身体の上で、わたしは淫らなダンスを踊っていた。


 舌を絡めて温もりを分かち合いながら、胸が揉みしだかれる。

 エレミアほどではないがそこそこある白い乳房が、リュイの意外にも男らしい指先でぐにゃぐにゃと姿を変えられていく。

 リュイはぐちゃぐちゃと音を立てながら結合した部分の少し上方へと指を伸ばした。

 薄い茂みをかき分けられて、クリトリスを暴き出だされ、指で優しく刺激された。


「りゅい…っ!そこは、いや…っ!」


 熱く色づいた顔を振り、快感に耐えるように身を捩らせた。

 リュイは、わたしの反応に朦朧とした瞳のままにどこか嬉しそうに笑う。


 そして、わたしは何度も下から突き上げられ、媚薬の効果か抜かず何度も子宮の奥まで精液を注がれ続けた。気がつけば、ベッドの上で攻守逆転し、獣のような体勢で何度もリュイに名前を呼ばされながら、背中に彼の熱い体温を感じていた。



「――――」



 数を数えるのも出来なくなるくらい意識を飛ばして、暗闇に堕ちるその前に。

 リュイが何事かをわたしの耳元で囁いたが、その言葉を理解する前に、わたしの意識は完全になくなった。




                                                                                


「宿ったかな、リュイのこども」



 わたしを抱えてベッドに横たわり眠りに落ちるリュイの腕から、するりと抜け出す。
 遠ざかっていく温もりを惜しむようにリュイの指先がぴくりと動くが、それ以上は動けない。
 わたしはうっとりとした表情で、精液塗れの子宮を腹の上から撫でた。
 まだナカが収縮し、貪欲にリュイの精液を飲み干しているような感覚さえ覚える。
 愛しいリュイを見下ろしながら、わたしは最後にとそっと唇を寄せた。
 触れるだけの可愛らしい口づけを、贈る。



「好きでもない女からの、最後のキスだよ」



 わたしは自嘲するように笑って、リュイを起こさないように部屋を出た。
 そしてそのまま、逃げ出すように屋敷から出た。






 ――――温もりを失ったリュイの腕が急速に冷えてゆく。

 意識はあるのに、身体が動かない。
 一晩中ヤり通したからなのか、トウコの盛った媚薬の影響か。おそらくは後者だろう。
 タクトが彼女に渡した媚薬は、男に強い副作用を与えるものだった。



 薬が身体から抜けて。
 リュイが目覚めて完全に動けるようになった頃には、トウコの姿はもう屋敷からなかった。
 自室に昨夜の行為の名残はほとんどなかった。
 シーツに僅かについた赤い染みと、自身の腰の倦怠感と心地よいすっきりとした感覚がなければ性質の悪い夢だと片付けてしまっていただろう。



「……トウコ。トウコを、探さなくちゃ」



 全裸のまま、リュイはそう言って、ベッドから立ち上がった。


 性急に行為を望んだトウコによって切り裂かれた下着と寝巻に目をやって、苦笑する。
 薬で朦朧としていたとはいえ、記憶ははっきり残っている。最後のほうは自分で破り捨てるように脱いでいたと思う。
 クローゼットから下着と普段着を取り出した。支度しているとドアをノックする音が聞こえた。



「どうぞ」


「入るわよ、リュイ。――って、あら。どうしたの?そんな顔して」



 ドアから顔を覗かせたのは、艶やかな顔をしたエレミアだった。

 何故だろうか。昨日は甘い蜜を放つ花のように魅力的だったのに、今のエレミアを見ても何も思わない。エレミアがこの世界に来た時と同じように、色っぽい美人だなという客観的な感想しか思い浮かばない。



「そんな顔ってなに。ぼくは、普通のつもりだけど」


「…そうかしら。なんだか、今のリュイ、少し怖いわ。不思議ね」



 エレミアはそう困ったように形の整った眉をさげて、肩をすくめた。すぐに気を取り直し、両手を合わせて心から喜ぶような美しい笑みを浮かべる。


「今朝、衝撃の出来ごとがあったのよ。もうほんっと、ワタシびっくりしちゃった」


 どこかむずむずとした様子で、興奮が隠せないといったようなエレミア。
 子どもみたいなエレミアの様子に、リュイは微笑ましいなと思う。屋敷の管理者として、異世界の女性が喜ぶ姿を見るのは自分のように嬉しい。


 理由がどうであれ。


「ほら、ワタシより年下だけど――ずっとアナタのそばにいた、あの子。トウコちゃん。あの子がね、今朝早く、タクトを選んで出て行ったの!」


「……ッ!?」


 時が止まったかと思った。


 リュイは反射的にクローゼットの扉を勢いよく叩きつけるように閉めてしまう。


「ちょっと……っ!びっくりするわ……乱暴に閉めないで?」


 エレミアが驚いて目を閉じ、身体をすくませる。
 おそるおそるリュイのほうを見て、場を和ませるように笑いながら言えば。


「ふざけるな………!!」


 声を荒げるリュイに、エレミアは息を呑んだ。

 てっきり、リュイは同胞の吉報を喜んでくれると思っていた。普段は穏やかな彼らしくもない恐ろしい形相のまま、エレミアを―――いや、エレミア越しに誰かを見ていた。


 トウコが出て行って、エレミアの邪魔をする者はいなくなった。
 これから、リュイはエレミアのモノになるはずだった。彼女にはそれだけの<素質>があるはずだった。


 エレミアは我知らず、あとずさった。


 なのに、リュイは、まだエレミアを睨みつけている。
 違う、エレミアは声を漏らす。女の勘でぴんと来てしまった。
 怒るリュイは、エレミアを通して誰かを―――ようやく幸せになった同胞のトウコを見ているのだ。
 怒りで昂ぶったリュイの瞳は血が固まったような赤黒さで恐ろしくて、その瞳はもうエレミア自身を映さないのだろうと気づいてしまった。
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