2 / 43
第1章「あなたの遺伝子、下さい」
1.2 あなたの遺伝子を、くれませんか★
しおりを挟む
反則的な素質―――<年下の男を魅了する素質>を持ったエレミアの登場。
その上、タクトから聞かされた彼らの【リセット】の体験を伴った詳細。
ふたつのできごとが、私を凶行に走らせる。
そう、凶行だ。
わたしはこれから自分のする行動が、本当に身勝手で、独りよがりだということはわかっていた。
リュイの心を無視し、傷つける恥すべき行い。
罪深い行いだと知りながら、それでも自分のために平気でやってしまうわたしだから、この世界の神様は<素質>を与えてくれなかったのか。だとしたら神様は完璧だ。先見の明もある。
日本だと、犯罪者になるのかな?でも、いい。ここは日本じゃない、男女比の狂った世界。
リュイは言ったじゃないか。自分に相応しい男を選んで、子どもを産んで欲しいって。
わたしにとって、それは、リュイだ。
大それたことをしてしまうという恐れはない。母親大好きな日本人贔屓のタクトの応援もあると思えば、気持ちも少しは軽くなる。全てが終われば、わたしの身柄は彼の預かりになるだろう。リュイの元に戻る資格はなくなる。リュイだって二度とわたしの顔を見たいとは思わない。
エレミアに気づかれないようにそっと自室を抜け出して。
オレンジ色の光が灯された廊下を忍び足で歩く。
タクトから渡された――<あらゆる薬を調合する素質>のある女性から貰った媚薬を片手に、リュイの部屋の前で立ち止まり、ノックして声をかける。
「エレミア?」
短く返ってくる名は、エレミアの名で心が折れそうになる。
ずっとこの屋敷にリュイといたのは私なのに。
これしきのことでめげていては、先に進めない。わたしは震える声で返事を返す。
「夜遅くにごめんなさい。わたし、透子です」
「え、トウコ?」
驚いたようなリュイの声を聞きながら、不作法にも彼の許可が下りる前にドアノブを握りしめ、一気に開け放った。
「どうしたの、トウコ」
目を見開き、驚いたようなリュイの声に、わたしを心配するような色が混じっている。
「リュイ、お願い」
部屋へ踏み出し、後ろ手にドアを閉める。
今まさに寝ようとしていたのであろうベッドの上に腰かけていたリュイのもとに近づき、わたしは静かに告げた。
「わたしに、あなたの遺伝子を、くれませんか」
ベッドに乗り上げる。唖然とするリュイの頬へと両手を伸ばし、「え」と口を開けて固まるリュイの顔へ唇を寄せた。
「ごめんなさい。せめて、思い出を」
まやかしでもいい、リュイ、あなたとの思い出がほしい。
そうして、触れるだけの口づけを交わし、ポケットから部屋に入る直前に隠した桃色の小瓶を取り出し、中身の媚薬を口に含んで一気に呷った。間髪入れず、両腕を伸ばし、リュイの首へと絡ませる。
逆らわないのか、逆らえないのか。
この期に及んでも、ベッドに押し倒されるような形となっても動かないリュイの唇に再度己の唇を重ねる。今度は唇を触れ合わせるだけの子供だましみたいなものじゃない。舌を使って強引に口をこじ開ける。拒絶されるよりも先に、わたしは口に含んだ媚薬を口移しでリュイに注ぎ込んだ。
「…?……ッ!!?」
リュイの真紅の瞳が驚愕に見開かれる。
ここに来てようやくリュイがもがいて身を離そうとするが、わたしは振り落とされないようにさらに強く腕を絡ませた。
そうして全部の液体をリュイが飲み干したのを確認した後、息を乱しながら離れる。
「トウコ、こんな…こんなことをしても、ぼくは…っ」
ク…ッと悩ましげな息を吐きながら、リュイの四肢から徐々に力が抜けていく様子を、わたしは冷静に眺めていた。その動きが完全に停止したのを見届けて、わたしはにっこり微笑んでみせた。
「もうリュイの気持ちなんていりませんよ?」
リュイからの気持ちなんて期待してるわけない。
この世界に来てからの時間のほとんどが、あなたを見つめる時間だった。
あなたがわたしに恋愛感情を抱くなんて微塵も思ってない。
わたしの言葉に、びくりとリュイの身体が震える。
子犬のように瞳を潤ませるリュイに、嗜虐心が芽生えてきそう。
ひどいこと、したくなる。
「タクトがわたしに協力してくれたんです。特別な媚薬なんだよ」
この媚薬のすごいところは、身体の自由を本人から奪いながらも――性器だけは反応させるところだ。 <素質>ってすごい。嘘みたいな薬を作れるんだから。
お尻を浮かせて、リュイの股間のほうへ手を伸ばした。パンツの上からでもわかるほど、明らかにリュイのものがはりつめているのがわかった。感触を確かめるように触れれば、ぐっと密度が増したから、思わず笑みが零れた。
「リュイがわたしのことなんとも思ってないのは知ってるわかってる。でも、好き。好きなんです。リュイのことが、好きで、好きで、ほんとに、好きで」
薬のせいで熱く脈打つリュイのものを撫でながら、もう一方の手で自身の胸を掻き抱いた。
「だから、ごめんなさい。わたしのこと許せないだろうし、許さなくていい。わたしのこと忘れないでいてほしい。―――だからね、これからのことは全部わたしのせい、薬のせい」
「……ッ、トウコ……!!」
理性を振り絞るようにリュイがわたしの名前を呼んだ。
嬉しい。リュイの目がぐるぐると回り出す。どんな気持ちでわたしの名前を呼んだのか。
それを確かめる勇気はとてもじゃないけどないよ。
「リュイがしたくないこと、わたしと一緒にしよう?」
わたしの名前を呼んだのを最後に、リュイの理性は吹き飛び、媚薬に理性を持って行かれた。
押し倒されたままのリュイの身体の上で、わたしは淫らなダンスを踊っていた。
舌を絡めて温もりを分かち合いながら、胸が揉みしだかれる。
エレミアほどではないがそこそこある白い乳房が、リュイの意外にも男らしい指先でぐにゃぐにゃと姿を変えられていく。
リュイはぐちゃぐちゃと音を立てながら結合した部分の少し上方へと指を伸ばした。
薄い茂みをかき分けられて、クリトリスを暴き出だされ、指で優しく刺激された。
「りゅい…っ!そこは、いや…っ!」
熱く色づいた顔を振り、快感に耐えるように身を捩らせた。
リュイは、わたしの反応に朦朧とした瞳のままにどこか嬉しそうに笑う。
そして、わたしは何度も下から突き上げられ、媚薬の効果か抜かず何度も子宮の奥まで精液を注がれ続けた。気がつけば、ベッドの上で攻守逆転し、獣のような体勢で何度もリュイに名前を呼ばされながら、背中に彼の熱い体温を感じていた。
「――――」
数を数えるのも出来なくなるくらい意識を飛ばして、暗闇に堕ちるその前に。
リュイが何事かをわたしの耳元で囁いたが、その言葉を理解する前に、わたしの意識は完全になくなった。
「宿ったかな、リュイのこども」
わたしを抱えてベッドに横たわり眠りに落ちるリュイの腕から、するりと抜け出す。
遠ざかっていく温もりを惜しむようにリュイの指先がぴくりと動くが、それ以上は動けない。
わたしはうっとりとした表情で、精液塗れの子宮を腹の上から撫でた。
まだナカが収縮し、貪欲にリュイの精液を飲み干しているような感覚さえ覚える。
愛しいリュイを見下ろしながら、わたしは最後にとそっと唇を寄せた。
触れるだけの可愛らしい口づけを、贈る。
「好きでもない女からの、最後のキスだよ」
わたしは自嘲するように笑って、リュイを起こさないように部屋を出た。
そしてそのまま、逃げ出すように屋敷から出た。
――――温もりを失ったリュイの腕が急速に冷えてゆく。
意識はあるのに、身体が動かない。
一晩中ヤり通したからなのか、トウコの盛った媚薬の影響か。おそらくは後者だろう。
タクトが彼女に渡した媚薬は、男に強い副作用を与えるものだった。
薬が身体から抜けて。
リュイが目覚めて完全に動けるようになった頃には、トウコの姿はもう屋敷からなかった。
自室に昨夜の行為の名残はほとんどなかった。
シーツに僅かについた赤い染みと、自身の腰の倦怠感と心地よいすっきりとした感覚がなければ性質の悪い夢だと片付けてしまっていただろう。
「……トウコ。トウコを、探さなくちゃ」
全裸のまま、リュイはそう言って、ベッドから立ち上がった。
性急に行為を望んだトウコによって切り裂かれた下着と寝巻に目をやって、苦笑する。
薬で朦朧としていたとはいえ、記憶ははっきり残っている。最後のほうは自分で破り捨てるように脱いでいたと思う。
クローゼットから下着と普段着を取り出した。支度しているとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「入るわよ、リュイ。――って、あら。どうしたの?そんな顔して」
ドアから顔を覗かせたのは、艶やかな顔をしたエレミアだった。
何故だろうか。昨日は甘い蜜を放つ花のように魅力的だったのに、今のエレミアを見ても何も思わない。エレミアがこの世界に来た時と同じように、色っぽい美人だなという客観的な感想しか思い浮かばない。
「そんな顔ってなに。ぼくは、普通のつもりだけど」
「…そうかしら。なんだか、今のリュイ、少し怖いわ。不思議ね」
エレミアはそう困ったように形の整った眉をさげて、肩をすくめた。すぐに気を取り直し、両手を合わせて心から喜ぶような美しい笑みを浮かべる。
「今朝、衝撃の出来ごとがあったのよ。もうほんっと、ワタシびっくりしちゃった」
どこかむずむずとした様子で、興奮が隠せないといったようなエレミア。
子どもみたいなエレミアの様子に、リュイは微笑ましいなと思う。屋敷の管理者として、異世界の女性が喜ぶ姿を見るのは自分のように嬉しい。
理由がどうであれ。
「ほら、ワタシより年下だけど――ずっとアナタのそばにいた、あの子。トウコちゃん。あの子がね、今朝早く、タクトを選んで出て行ったの!」
「……ッ!?」
時が止まったかと思った。
リュイは反射的にクローゼットの扉を勢いよく叩きつけるように閉めてしまう。
「ちょっと……っ!びっくりするわ……乱暴に閉めないで?」
エレミアが驚いて目を閉じ、身体をすくませる。
おそるおそるリュイのほうを見て、場を和ませるように笑いながら言えば。
「ふざけるな………!!」
声を荒げるリュイに、エレミアは息を呑んだ。
てっきり、リュイは同胞の吉報を喜んでくれると思っていた。普段は穏やかな彼らしくもない恐ろしい形相のまま、エレミアを―――いや、エレミア越しに誰かを見ていた。
トウコが出て行って、エレミアの邪魔をする者はいなくなった。
これから、リュイはエレミアのモノになるはずだった。彼女にはそれだけの<素質>があるはずだった。
エレミアは我知らず、あとずさった。
なのに、リュイは、まだエレミアを睨みつけている。
違う、エレミアは声を漏らす。女の勘でぴんと来てしまった。
怒るリュイは、エレミアを通して誰かを―――ようやく幸せになった同胞のトウコを見ているのだ。
怒りで昂ぶったリュイの瞳は血が固まったような赤黒さで恐ろしくて、その瞳はもうエレミア自身を映さないのだろうと気づいてしまった。
その上、タクトから聞かされた彼らの【リセット】の体験を伴った詳細。
ふたつのできごとが、私を凶行に走らせる。
そう、凶行だ。
わたしはこれから自分のする行動が、本当に身勝手で、独りよがりだということはわかっていた。
リュイの心を無視し、傷つける恥すべき行い。
罪深い行いだと知りながら、それでも自分のために平気でやってしまうわたしだから、この世界の神様は<素質>を与えてくれなかったのか。だとしたら神様は完璧だ。先見の明もある。
日本だと、犯罪者になるのかな?でも、いい。ここは日本じゃない、男女比の狂った世界。
リュイは言ったじゃないか。自分に相応しい男を選んで、子どもを産んで欲しいって。
わたしにとって、それは、リュイだ。
大それたことをしてしまうという恐れはない。母親大好きな日本人贔屓のタクトの応援もあると思えば、気持ちも少しは軽くなる。全てが終われば、わたしの身柄は彼の預かりになるだろう。リュイの元に戻る資格はなくなる。リュイだって二度とわたしの顔を見たいとは思わない。
エレミアに気づかれないようにそっと自室を抜け出して。
オレンジ色の光が灯された廊下を忍び足で歩く。
タクトから渡された――<あらゆる薬を調合する素質>のある女性から貰った媚薬を片手に、リュイの部屋の前で立ち止まり、ノックして声をかける。
「エレミア?」
短く返ってくる名は、エレミアの名で心が折れそうになる。
ずっとこの屋敷にリュイといたのは私なのに。
これしきのことでめげていては、先に進めない。わたしは震える声で返事を返す。
「夜遅くにごめんなさい。わたし、透子です」
「え、トウコ?」
驚いたようなリュイの声を聞きながら、不作法にも彼の許可が下りる前にドアノブを握りしめ、一気に開け放った。
「どうしたの、トウコ」
目を見開き、驚いたようなリュイの声に、わたしを心配するような色が混じっている。
「リュイ、お願い」
部屋へ踏み出し、後ろ手にドアを閉める。
今まさに寝ようとしていたのであろうベッドの上に腰かけていたリュイのもとに近づき、わたしは静かに告げた。
「わたしに、あなたの遺伝子を、くれませんか」
ベッドに乗り上げる。唖然とするリュイの頬へと両手を伸ばし、「え」と口を開けて固まるリュイの顔へ唇を寄せた。
「ごめんなさい。せめて、思い出を」
まやかしでもいい、リュイ、あなたとの思い出がほしい。
そうして、触れるだけの口づけを交わし、ポケットから部屋に入る直前に隠した桃色の小瓶を取り出し、中身の媚薬を口に含んで一気に呷った。間髪入れず、両腕を伸ばし、リュイの首へと絡ませる。
逆らわないのか、逆らえないのか。
この期に及んでも、ベッドに押し倒されるような形となっても動かないリュイの唇に再度己の唇を重ねる。今度は唇を触れ合わせるだけの子供だましみたいなものじゃない。舌を使って強引に口をこじ開ける。拒絶されるよりも先に、わたしは口に含んだ媚薬を口移しでリュイに注ぎ込んだ。
「…?……ッ!!?」
リュイの真紅の瞳が驚愕に見開かれる。
ここに来てようやくリュイがもがいて身を離そうとするが、わたしは振り落とされないようにさらに強く腕を絡ませた。
そうして全部の液体をリュイが飲み干したのを確認した後、息を乱しながら離れる。
「トウコ、こんな…こんなことをしても、ぼくは…っ」
ク…ッと悩ましげな息を吐きながら、リュイの四肢から徐々に力が抜けていく様子を、わたしは冷静に眺めていた。その動きが完全に停止したのを見届けて、わたしはにっこり微笑んでみせた。
「もうリュイの気持ちなんていりませんよ?」
リュイからの気持ちなんて期待してるわけない。
この世界に来てからの時間のほとんどが、あなたを見つめる時間だった。
あなたがわたしに恋愛感情を抱くなんて微塵も思ってない。
わたしの言葉に、びくりとリュイの身体が震える。
子犬のように瞳を潤ませるリュイに、嗜虐心が芽生えてきそう。
ひどいこと、したくなる。
「タクトがわたしに協力してくれたんです。特別な媚薬なんだよ」
この媚薬のすごいところは、身体の自由を本人から奪いながらも――性器だけは反応させるところだ。 <素質>ってすごい。嘘みたいな薬を作れるんだから。
お尻を浮かせて、リュイの股間のほうへ手を伸ばした。パンツの上からでもわかるほど、明らかにリュイのものがはりつめているのがわかった。感触を確かめるように触れれば、ぐっと密度が増したから、思わず笑みが零れた。
「リュイがわたしのことなんとも思ってないのは知ってるわかってる。でも、好き。好きなんです。リュイのことが、好きで、好きで、ほんとに、好きで」
薬のせいで熱く脈打つリュイのものを撫でながら、もう一方の手で自身の胸を掻き抱いた。
「だから、ごめんなさい。わたしのこと許せないだろうし、許さなくていい。わたしのこと忘れないでいてほしい。―――だからね、これからのことは全部わたしのせい、薬のせい」
「……ッ、トウコ……!!」
理性を振り絞るようにリュイがわたしの名前を呼んだ。
嬉しい。リュイの目がぐるぐると回り出す。どんな気持ちでわたしの名前を呼んだのか。
それを確かめる勇気はとてもじゃないけどないよ。
「リュイがしたくないこと、わたしと一緒にしよう?」
わたしの名前を呼んだのを最後に、リュイの理性は吹き飛び、媚薬に理性を持って行かれた。
押し倒されたままのリュイの身体の上で、わたしは淫らなダンスを踊っていた。
舌を絡めて温もりを分かち合いながら、胸が揉みしだかれる。
エレミアほどではないがそこそこある白い乳房が、リュイの意外にも男らしい指先でぐにゃぐにゃと姿を変えられていく。
リュイはぐちゃぐちゃと音を立てながら結合した部分の少し上方へと指を伸ばした。
薄い茂みをかき分けられて、クリトリスを暴き出だされ、指で優しく刺激された。
「りゅい…っ!そこは、いや…っ!」
熱く色づいた顔を振り、快感に耐えるように身を捩らせた。
リュイは、わたしの反応に朦朧とした瞳のままにどこか嬉しそうに笑う。
そして、わたしは何度も下から突き上げられ、媚薬の効果か抜かず何度も子宮の奥まで精液を注がれ続けた。気がつけば、ベッドの上で攻守逆転し、獣のような体勢で何度もリュイに名前を呼ばされながら、背中に彼の熱い体温を感じていた。
「――――」
数を数えるのも出来なくなるくらい意識を飛ばして、暗闇に堕ちるその前に。
リュイが何事かをわたしの耳元で囁いたが、その言葉を理解する前に、わたしの意識は完全になくなった。
「宿ったかな、リュイのこども」
わたしを抱えてベッドに横たわり眠りに落ちるリュイの腕から、するりと抜け出す。
遠ざかっていく温もりを惜しむようにリュイの指先がぴくりと動くが、それ以上は動けない。
わたしはうっとりとした表情で、精液塗れの子宮を腹の上から撫でた。
まだナカが収縮し、貪欲にリュイの精液を飲み干しているような感覚さえ覚える。
愛しいリュイを見下ろしながら、わたしは最後にとそっと唇を寄せた。
触れるだけの可愛らしい口づけを、贈る。
「好きでもない女からの、最後のキスだよ」
わたしは自嘲するように笑って、リュイを起こさないように部屋を出た。
そしてそのまま、逃げ出すように屋敷から出た。
――――温もりを失ったリュイの腕が急速に冷えてゆく。
意識はあるのに、身体が動かない。
一晩中ヤり通したからなのか、トウコの盛った媚薬の影響か。おそらくは後者だろう。
タクトが彼女に渡した媚薬は、男に強い副作用を与えるものだった。
薬が身体から抜けて。
リュイが目覚めて完全に動けるようになった頃には、トウコの姿はもう屋敷からなかった。
自室に昨夜の行為の名残はほとんどなかった。
シーツに僅かについた赤い染みと、自身の腰の倦怠感と心地よいすっきりとした感覚がなければ性質の悪い夢だと片付けてしまっていただろう。
「……トウコ。トウコを、探さなくちゃ」
全裸のまま、リュイはそう言って、ベッドから立ち上がった。
性急に行為を望んだトウコによって切り裂かれた下着と寝巻に目をやって、苦笑する。
薬で朦朧としていたとはいえ、記憶ははっきり残っている。最後のほうは自分で破り捨てるように脱いでいたと思う。
クローゼットから下着と普段着を取り出した。支度しているとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「入るわよ、リュイ。――って、あら。どうしたの?そんな顔して」
ドアから顔を覗かせたのは、艶やかな顔をしたエレミアだった。
何故だろうか。昨日は甘い蜜を放つ花のように魅力的だったのに、今のエレミアを見ても何も思わない。エレミアがこの世界に来た時と同じように、色っぽい美人だなという客観的な感想しか思い浮かばない。
「そんな顔ってなに。ぼくは、普通のつもりだけど」
「…そうかしら。なんだか、今のリュイ、少し怖いわ。不思議ね」
エレミアはそう困ったように形の整った眉をさげて、肩をすくめた。すぐに気を取り直し、両手を合わせて心から喜ぶような美しい笑みを浮かべる。
「今朝、衝撃の出来ごとがあったのよ。もうほんっと、ワタシびっくりしちゃった」
どこかむずむずとした様子で、興奮が隠せないといったようなエレミア。
子どもみたいなエレミアの様子に、リュイは微笑ましいなと思う。屋敷の管理者として、異世界の女性が喜ぶ姿を見るのは自分のように嬉しい。
理由がどうであれ。
「ほら、ワタシより年下だけど――ずっとアナタのそばにいた、あの子。トウコちゃん。あの子がね、今朝早く、タクトを選んで出て行ったの!」
「……ッ!?」
時が止まったかと思った。
リュイは反射的にクローゼットの扉を勢いよく叩きつけるように閉めてしまう。
「ちょっと……っ!びっくりするわ……乱暴に閉めないで?」
エレミアが驚いて目を閉じ、身体をすくませる。
おそるおそるリュイのほうを見て、場を和ませるように笑いながら言えば。
「ふざけるな………!!」
声を荒げるリュイに、エレミアは息を呑んだ。
てっきり、リュイは同胞の吉報を喜んでくれると思っていた。普段は穏やかな彼らしくもない恐ろしい形相のまま、エレミアを―――いや、エレミア越しに誰かを見ていた。
トウコが出て行って、エレミアの邪魔をする者はいなくなった。
これから、リュイはエレミアのモノになるはずだった。彼女にはそれだけの<素質>があるはずだった。
エレミアは我知らず、あとずさった。
なのに、リュイは、まだエレミアを睨みつけている。
違う、エレミアは声を漏らす。女の勘でぴんと来てしまった。
怒るリュイは、エレミアを通して誰かを―――ようやく幸せになった同胞のトウコを見ているのだ。
怒りで昂ぶったリュイの瞳は血が固まったような赤黒さで恐ろしくて、その瞳はもうエレミア自身を映さないのだろうと気づいてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件
こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる