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第1章「あなたの遺伝子、下さい」
「これって愛の逃避行みたいじゃね?」
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屋敷から離れた街道を一台の屋根のないジープが走っていた。
ガタゴトと大きな音を立てながら走る。それなりに舗装はされているが、元の世界に比べると凸凹した道路なので揺れる。
この世界にも、車はある。<機械に通じる素質>を持つ者がわたしの世界の誰かと結婚して、ちょっとした技術革命が起こったらしく、それなりに便利な機械は存在している。そのひとつが、今タクトが運転してくれているジープというわけだ。石油なんて無いから、運転者の魔力をエネルギーにしているのが大きな違いだろう。魔力はあるが、魔法はほとんど使えないらしい。昔は使えていたらしいが、神様が魔方陣を与えた時から使える魔法がほとんどなくなってしまったようで、ちょっとした明かりと指先に灯したり、そよ風とか小さな炎や水を出すのが精一杯らしい。弱々しい魔法より、<素質>のほうが遙かに便利で優れたものが多いようだった。
「俺が発破かけといてなんだけど、これでよかったわけ?」
リュイが眠っている隙に屋敷を抜け出し、門の前に堂々と停めたタクトの車に乗り込んだ。屋敷が完全に見えなくなるまで、わたしもタクトも何も話さなかった。片手でハンドルを捌くタクトがようやく口を開いたと思ったら、わたしの心配だったから意外すぎて笑ってしまう。
「よくないけど、いいんです。それより。ふふ、わたしのお腹の中、ほんとにリュイの子がいる?」
「―――ン、いる。それに胎に妊娠した証の魔法陣が浮かんでるだろう。あの屋敷にあった召喚の魔法陣と同じ。動かぬ証拠だな」
ハンドルを握っていないほうの手でわたしのお腹の下のほうに触れていたタクトが、頷く。
まだ形にもなってない状態の子どもの魔力を感じ取っていたのだ。
タクトに言われて、そっとブラウスのボタンを上から幾つか外して、襟のほうからお腹を覗き込んだ。肌に、召喚された時に見た魔方陣と似たようなものが浮かんでいた。
「ふふふ、やった!嬉しい。―――これで、リュイは【リセット】してもわたしのことちゃんと覚えてくれてるんだよね?」
子どもができたことは嬉しい。
どんな形であれ、リュイがリュイのままで、わたしを覚えていてくれるという事実は痺れるくらい嬉しい。
「そうだよー。いやー、女の執念ってマジ怖いねえ」
「…うるさい。タクト、うるさい」
「はは、ごめん、ごめんって。んじゃ、トーコ。そっちの約束は果たしたんだ。
――――俺の約束も守ってくれるよな?」
前を向いて運転しているタクトが、桜色の視線をよこす。
「……うん。いいよ。この子を産んだら、タクトの子どもも産めばいいんでしょ?でも、いいの?
わたし、ただ日本人ってだけで、ほかにはなにも……それに、タクトじゃない。リュイが好きなのに」
「はは、そんなこと?いーの、いーの。全然気にしなくていいって。
だって、俺にとっては俺の子どもを産んでくれる女が日本人ってことが一番大事だからさ!」
清々しいまでのタクトのブレなささ。
少し申し訳なく思ったじぶんがばかみたい。でも、その潔さに、安堵する。
「そっか。なら、いいのか、な。……マザコンもたまには良いこと言うね」
「おっけー、おっけー、超余裕。ただしマザコンは余計な。
―――んじゃ、俺の家まで飛ばすぜ!母さんは死んじまってるけど、未練たらたらの親父ならいるからさ」
「安全運転してください。あと、お父さんの件は微妙な気持ちになった」
「ははは、ドン引き?でも親父はトーコのこと気に入るかもなー」
どこか嘘くさい笑みを浮かべたタクトは、真っ直ぐ前を見ながら、にっと口元をつり上げる。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「つーか、多分さ」
(トーコ、あんたが思ってるよりは、多分、リュイのやつ)
考えかけて、やめる。
「うん?」
「いんや、なんでもないわ。…………塩送るような真似はやめとく」
今は運転に集中しつつ、隣の席で愛おしそうに胎を撫でる女をからかうことに専念しよう。
タクトはくだらない思考を打ち切る。
いつものように軽口を叩きながら、トウコを己の家に連れ去るべく、アクセルを強く踏んだ。
ガタゴトと大きな音を立てながら走る。それなりに舗装はされているが、元の世界に比べると凸凹した道路なので揺れる。
この世界にも、車はある。<機械に通じる素質>を持つ者がわたしの世界の誰かと結婚して、ちょっとした技術革命が起こったらしく、それなりに便利な機械は存在している。そのひとつが、今タクトが運転してくれているジープというわけだ。石油なんて無いから、運転者の魔力をエネルギーにしているのが大きな違いだろう。魔力はあるが、魔法はほとんど使えないらしい。昔は使えていたらしいが、神様が魔方陣を与えた時から使える魔法がほとんどなくなってしまったようで、ちょっとした明かりと指先に灯したり、そよ風とか小さな炎や水を出すのが精一杯らしい。弱々しい魔法より、<素質>のほうが遙かに便利で優れたものが多いようだった。
「俺が発破かけといてなんだけど、これでよかったわけ?」
リュイが眠っている隙に屋敷を抜け出し、門の前に堂々と停めたタクトの車に乗り込んだ。屋敷が完全に見えなくなるまで、わたしもタクトも何も話さなかった。片手でハンドルを捌くタクトがようやく口を開いたと思ったら、わたしの心配だったから意外すぎて笑ってしまう。
「よくないけど、いいんです。それより。ふふ、わたしのお腹の中、ほんとにリュイの子がいる?」
「―――ン、いる。それに胎に妊娠した証の魔法陣が浮かんでるだろう。あの屋敷にあった召喚の魔法陣と同じ。動かぬ証拠だな」
ハンドルを握っていないほうの手でわたしのお腹の下のほうに触れていたタクトが、頷く。
まだ形にもなってない状態の子どもの魔力を感じ取っていたのだ。
タクトに言われて、そっとブラウスのボタンを上から幾つか外して、襟のほうからお腹を覗き込んだ。肌に、召喚された時に見た魔方陣と似たようなものが浮かんでいた。
「ふふふ、やった!嬉しい。―――これで、リュイは【リセット】してもわたしのことちゃんと覚えてくれてるんだよね?」
子どもができたことは嬉しい。
どんな形であれ、リュイがリュイのままで、わたしを覚えていてくれるという事実は痺れるくらい嬉しい。
「そうだよー。いやー、女の執念ってマジ怖いねえ」
「…うるさい。タクト、うるさい」
「はは、ごめん、ごめんって。んじゃ、トーコ。そっちの約束は果たしたんだ。
――――俺の約束も守ってくれるよな?」
前を向いて運転しているタクトが、桜色の視線をよこす。
「……うん。いいよ。この子を産んだら、タクトの子どもも産めばいいんでしょ?でも、いいの?
わたし、ただ日本人ってだけで、ほかにはなにも……それに、タクトじゃない。リュイが好きなのに」
「はは、そんなこと?いーの、いーの。全然気にしなくていいって。
だって、俺にとっては俺の子どもを産んでくれる女が日本人ってことが一番大事だからさ!」
清々しいまでのタクトのブレなささ。
少し申し訳なく思ったじぶんがばかみたい。でも、その潔さに、安堵する。
「そっか。なら、いいのか、な。……マザコンもたまには良いこと言うね」
「おっけー、おっけー、超余裕。ただしマザコンは余計な。
―――んじゃ、俺の家まで飛ばすぜ!母さんは死んじまってるけど、未練たらたらの親父ならいるからさ」
「安全運転してください。あと、お父さんの件は微妙な気持ちになった」
「ははは、ドン引き?でも親父はトーコのこと気に入るかもなー」
どこか嘘くさい笑みを浮かべたタクトは、真っ直ぐ前を見ながら、にっと口元をつり上げる。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「つーか、多分さ」
(トーコ、あんたが思ってるよりは、多分、リュイのやつ)
考えかけて、やめる。
「うん?」
「いんや、なんでもないわ。…………塩送るような真似はやめとく」
今は運転に集中しつつ、隣の席で愛おしそうに胎を撫でる女をからかうことに専念しよう。
タクトはくだらない思考を打ち切る。
いつものように軽口を叩きながら、トウコを己の家に連れ去るべく、アクセルを強く踏んだ。
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