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【22】壊れた勇者の愛し方
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アレックスの手が衣服の下をまさぐる。腕はもう一まとめにされて、片手で簡単に固定されてしまった。抵抗出来ないし、したって無駄だ。
夢の中で抱かれたら、どうなるんだろう。戻れるのかな。考えても答えが分かるはずもない。エルドなら教えてくれるかもしれないけど。そうだ、エルド、無事なんだろうか。
「……泣かないで、ヒュー」
拭っても涙が伝う頬に、アレックスの唇が触れる。脚を広げられて、服を少しずつ脱がされていく、その間も、彼は愛しそうに、何度も口づけてきた。
竜の仔は、すっかり大人しくなった。きっと怯えているのだろう。いくらこいつが人間でないものだと言っても、《勇者》に勝てる者は、この世にもう神ぐらいだ。
ごめんな、とヒューは心の中で詫びた。助けてやれない。何度もやめてと頼んだけれど、アレックスは無慈悲にヒューの体を開き、逃げ場の無い感覚が奥まで押し寄せてきた。内側がひどくざわついて、ああ、怖がっている、と分かるのに、どうしようも出来なかった。子供のように泣くしか出来なくて、路地にうずくまっていたあの頃と同じだと思った。
「……くそったれ……」
奥まで痛む腹をさすることも出来なくて、ヒューは身を捩った。小さく鼻を啜って、アレックスから目を背けた。
「あは、ヒューらしくなってきた」
無邪気に笑う勇者は、ヒューの腹の中にあるものが万が一流れても、きっと笑うのだろう。ヒューの体は気遣っても、そこに棲みついた生命のことは、どうでもいいのだ。それはそのまま、彼の世界への関心だ。
誰にでも優しくて、真っ直ぐな奴だと思っていた。それは間違いじゃない。
けれど、それだけで世界を救っては駄目だったのだと、ヒューは気づいた。
(……エルドが危惧してたのは、こういうことか……)
エルドはヒューを逃がしてくれたが、本当はアレックスの傍に、永遠にいてほしかっただろう。それをやれと言えないところが、彼の正しさだった。
(俺が逃げたせいで……全部おかしくなった?)
アレックスの傍で、なるべく命を長らえる方法を見つけて、添い遂げて。
それなら世界は、数十年の平和は保証されていた。
(――腹、痛い……)
アレックスと繋がった奥で、竜の仔が弱々しくなっていくのを感じて、ヒューは涙を流した。《勇者》の加護は現神のものだから、古い竜には辛いのかもしれない。ごめん、と何度も謝る。
「……んっ……」
痛いのに、しっかり甘い疼きを拾う自分が嫌だ。
「ヒュー、相変わらず可愛いね」
「……ざけんな……」
「あのまま、閉じ込めておけば良かったかな。そうしたら」
アレックスの手が腹を撫でると、嫌でも体がびくりと跳ねた。そこは嫌だ。触れないでほしい。中と外から圧迫されて、ヒューは強く頭を振った。
「だめ……ごめん、頼む……」
「どうして謝るの? 僕だけに集中してないから?」
「してる……っ、してるから……!」
「はは、実体は無いのに、本当に腹に子供がいるみたい。悔しいなぁ、竜にそんなことが出来るなんてさ。僕にも出来たらいいのに。ヒューを孕ませたいな」
「ちがうっ……孕んでるわけじゃねえよっ……!」
「態度の問題じゃない? 違うって言いながら、ずっとお腹を庇おうとしてるの、お母さんみたいだよ。違うって言うなら、これ平気でしょ?」
ごり、と体の奥から音がして、同時に外から手のひらで軽く押される。
「……、っ、あ、……っ」
「怖い? 大丈夫だよ、孕んでないんだから。ヒューはただの《仮宿》だろ?」
見下ろすアレックスの瞳が、ヒューを映して淡く歪んでいる。
「可哀相だね、ヒュー。不自由で。ヒューの中の毒は、僕がなんとかしてあげる。そうしたら、この仔は引きずり出していいね?」
「やめろ!」
「ほら、頭の中まで支配されてる。守らなきゃって。違うよ。寄生されてるだけ」
「……でも、それは……っ」
アレックスの言うことは正しい気がする。でも、体の中にいるものも、愛しいと感じる。
恐怖と悲しさで、頭も心もぐちゃぐちゃだった。
大切だと思っていたアレックスが、怖くてたまらなかった。
でももう嫌だと言ったら、世界を壊されてしまう。
拒むことも受け入れることも出来なくて、気が狂いそうだった。
「……う……」
「ごめんね、また泣かせて」
そう言う声も、髪を撫でる手も優しい。優しいのに、平然と酷いことを言う。竜の仔を殺そうとしたり、世界を壊すと言ったり、無理やり組み敷いて、ヒューの心も体もズタズタに引き裂いてくる。
「……き、らい……」
「僕のこと、嫌い?」
言っては駄目だと分かっているのに、ぽろぽろ零れる涙と共に、溢れてきた。
溢れる。
溢れる。
止められない。
「――嫌い……っ……お前なんて、もう、嫌いだ……!」
「世界がどうなっても?」
「――どうなっても、いい! お前に抱かれるのなんて、金輪際ごめんだ!」
は、とアレックスが笑った。
「ヒューがそんなこと言うの、初めてだ」
乱暴に唇を奪われても、ヒューの心はもう冷たく、どんな熱も感じなくなっていった。
それなのに。
(なんでそんな、嬉しそうなんだよ……)
狂ってる。もうこんな奴、《勇者》じゃない。
――それでも、憎いのに、少しも嫌いになれない。
きっと自分も、狂ってしまった。
「嬉しいな。世界がどうなってもいいほど、僕のことが嫌いなんて」
抱き締められても、もう胸の痛みも感じない。
夢の中なのに、ご丁寧に服を直されて、ベッドの上で恋人同士のように腕に抱かれて、ヒューはただぼんやりと自分の腹をさすっていた。あんなに感じていた鼓動が、あまり聴こえない。
ぽた、と涙が落ちた。
「身を潜めてるだけ。生きてるよ」
アレックスが涙を掬いながらそう言ったが、不安で押し潰されそうだった。
「思い込まされてるだけ。そいつは君の子供じゃないし、ただの宿主。おおかた君にそいつを預けた母竜も、宿主だっただけだろう。そうやって、母親を求めて渡り歩いているだけだ」
腹を撫でるヒューの手を、アレックスの手のひらが包み込む。
「ヒューは、優しいから」
愛しそうに、また口づけられる。ヒューはそれをただ受け入れた。
夢は、いつ終わるんだろう。俺は目覚めることが出来るんだろうか。そんなことを思いながら、部屋を見つめる。
泊っていた宿ではなく、あの日、バルド王城でアレックスと結ばれた、あの部屋だと気づいた。
ヒューがあの朝、抜け出した部屋の扉。ベッドを降りて少し走れれば、あの扉を開けられる。けれど、あそこを出たところで、夢から醒める保証はない。
「ヒュー、このまま、ずっとこうしていたい」
キスの合間、アレックスの言葉に、それでもいいかもしれないと思う。こんな奴、このまま夢の中に閉じ込めてしまっていたほうが、よほど世界は無事かもしれない。壊れかけてもいつかまた、新しい《勇者》が現れて、また世界は救われるだろう。
「ヒュー、愛してる」
ようやく唇が離れ、アレックスがヒューの手を取る。彼の左手の薬指には指輪が煌めいていた。ヒューは外していたから、揃いの指輪はそこになかった。夢の中なのに、こいつに都合の良いことばかりじゃないんだなと、少し可笑しかった。
「夢でくらい、付けてくれたらいいのに」
アレックスも気づいたのか、不満そうに言った。ふ、とヒューは少し笑ってしまって、アレックスは驚いたような顔をした。
散々強姦しておいて、まだそんな顔するのかと、ヒューは呆れた。
「……まだ、笑ってくれるんだ」
薬指に口づけられる。指を絡めて、アレックスが愛しげに目を細める。
「ねえ、ヒュー。君のためなら、《勇者》を頑張るよ。魔族たちも抑えるし、魔獣も倒す。世界を守れるよ」
また脅しのつもりだろうか。エルドヴァルドもお人好しだ。あのとき、ヒューを逃がさずに捕らえて、アレックスに差し出しておけば、世界なんて簡単に守れたのに。
アレックスもお人好しだった。強いが世間知らずで、一緒についていってやらないと、危なっかしかった。戦う以外には何も出来なかったから、いつもヒューが傍にいた。
(どうしようか? ヒュー)
よくそんなふうに、何でも尋ねてくるから、少しは自分で考えろと叱ったこともある。
「……アレク……」
アレックスの腕の中で、ヒューは掠れた声を零した。
「……俺、どうしたらいい……?」
涙が溢れて止まらなかった。あの冷たい聖都で、降りしきる雪に埋まりながら、誰かも忘れた赤ん坊を抱き締め、誰かをずっと待っていたときのように。
祈っても、神様からの祝福はなかった。
でもそれは全部、いずれアレックスに会うためだったのかもしれない。
《勇者》に愛される以上の祝福なんて、きっとない。
「もう何も考えなくていいよ。僕が全部、なんとかしてあげる」
アレックスが優しく抱き締める。
「お腹の仔も、守ってあげるよ。毒だって、治してみせるから」
最初から、そうすればよかった。
何も考えずに、アレクのものになれば良かった。
「可愛い、僕のヒュー。最初から、こうしておけばよかったね」
考えることが一緒なのが笑える。
アレックスがまた手を取り、誓いの指に何度も口づけた。
「――し、失礼します……」
ギィ、と扉が開く、重たい音がした。アレックスの目が、すっと細まる。
その眼光にひっと怯え声を出し、魔族の青年が扉の奥から顔を出した。
「へえ。君も、夢渡り出来る魔族だったのかい? ヴェルゼ」
扉の奥で、青年がこくこくと頷く。え……、とヒューはゆっくり顔を上げた。
「アレク、いい加減にしてよ」
アレックスの首許に光槍を突きつけ、竜燐鎧に身を包んだ赤髪の少年が、いつの間にかベッドの傍らに立っていた。
「ヒューはあんたのものじゃない。返して」
夢の中で抱かれたら、どうなるんだろう。戻れるのかな。考えても答えが分かるはずもない。エルドなら教えてくれるかもしれないけど。そうだ、エルド、無事なんだろうか。
「……泣かないで、ヒュー」
拭っても涙が伝う頬に、アレックスの唇が触れる。脚を広げられて、服を少しずつ脱がされていく、その間も、彼は愛しそうに、何度も口づけてきた。
竜の仔は、すっかり大人しくなった。きっと怯えているのだろう。いくらこいつが人間でないものだと言っても、《勇者》に勝てる者は、この世にもう神ぐらいだ。
ごめんな、とヒューは心の中で詫びた。助けてやれない。何度もやめてと頼んだけれど、アレックスは無慈悲にヒューの体を開き、逃げ場の無い感覚が奥まで押し寄せてきた。内側がひどくざわついて、ああ、怖がっている、と分かるのに、どうしようも出来なかった。子供のように泣くしか出来なくて、路地にうずくまっていたあの頃と同じだと思った。
「……くそったれ……」
奥まで痛む腹をさすることも出来なくて、ヒューは身を捩った。小さく鼻を啜って、アレックスから目を背けた。
「あは、ヒューらしくなってきた」
無邪気に笑う勇者は、ヒューの腹の中にあるものが万が一流れても、きっと笑うのだろう。ヒューの体は気遣っても、そこに棲みついた生命のことは、どうでもいいのだ。それはそのまま、彼の世界への関心だ。
誰にでも優しくて、真っ直ぐな奴だと思っていた。それは間違いじゃない。
けれど、それだけで世界を救っては駄目だったのだと、ヒューは気づいた。
(……エルドが危惧してたのは、こういうことか……)
エルドはヒューを逃がしてくれたが、本当はアレックスの傍に、永遠にいてほしかっただろう。それをやれと言えないところが、彼の正しさだった。
(俺が逃げたせいで……全部おかしくなった?)
アレックスの傍で、なるべく命を長らえる方法を見つけて、添い遂げて。
それなら世界は、数十年の平和は保証されていた。
(――腹、痛い……)
アレックスと繋がった奥で、竜の仔が弱々しくなっていくのを感じて、ヒューは涙を流した。《勇者》の加護は現神のものだから、古い竜には辛いのかもしれない。ごめん、と何度も謝る。
「……んっ……」
痛いのに、しっかり甘い疼きを拾う自分が嫌だ。
「ヒュー、相変わらず可愛いね」
「……ざけんな……」
「あのまま、閉じ込めておけば良かったかな。そうしたら」
アレックスの手が腹を撫でると、嫌でも体がびくりと跳ねた。そこは嫌だ。触れないでほしい。中と外から圧迫されて、ヒューは強く頭を振った。
「だめ……ごめん、頼む……」
「どうして謝るの? 僕だけに集中してないから?」
「してる……っ、してるから……!」
「はは、実体は無いのに、本当に腹に子供がいるみたい。悔しいなぁ、竜にそんなことが出来るなんてさ。僕にも出来たらいいのに。ヒューを孕ませたいな」
「ちがうっ……孕んでるわけじゃねえよっ……!」
「態度の問題じゃない? 違うって言いながら、ずっとお腹を庇おうとしてるの、お母さんみたいだよ。違うって言うなら、これ平気でしょ?」
ごり、と体の奥から音がして、同時に外から手のひらで軽く押される。
「……、っ、あ、……っ」
「怖い? 大丈夫だよ、孕んでないんだから。ヒューはただの《仮宿》だろ?」
見下ろすアレックスの瞳が、ヒューを映して淡く歪んでいる。
「可哀相だね、ヒュー。不自由で。ヒューの中の毒は、僕がなんとかしてあげる。そうしたら、この仔は引きずり出していいね?」
「やめろ!」
「ほら、頭の中まで支配されてる。守らなきゃって。違うよ。寄生されてるだけ」
「……でも、それは……っ」
アレックスの言うことは正しい気がする。でも、体の中にいるものも、愛しいと感じる。
恐怖と悲しさで、頭も心もぐちゃぐちゃだった。
大切だと思っていたアレックスが、怖くてたまらなかった。
でももう嫌だと言ったら、世界を壊されてしまう。
拒むことも受け入れることも出来なくて、気が狂いそうだった。
「……う……」
「ごめんね、また泣かせて」
そう言う声も、髪を撫でる手も優しい。優しいのに、平然と酷いことを言う。竜の仔を殺そうとしたり、世界を壊すと言ったり、無理やり組み敷いて、ヒューの心も体もズタズタに引き裂いてくる。
「……き、らい……」
「僕のこと、嫌い?」
言っては駄目だと分かっているのに、ぽろぽろ零れる涙と共に、溢れてきた。
溢れる。
溢れる。
止められない。
「――嫌い……っ……お前なんて、もう、嫌いだ……!」
「世界がどうなっても?」
「――どうなっても、いい! お前に抱かれるのなんて、金輪際ごめんだ!」
は、とアレックスが笑った。
「ヒューがそんなこと言うの、初めてだ」
乱暴に唇を奪われても、ヒューの心はもう冷たく、どんな熱も感じなくなっていった。
それなのに。
(なんでそんな、嬉しそうなんだよ……)
狂ってる。もうこんな奴、《勇者》じゃない。
――それでも、憎いのに、少しも嫌いになれない。
きっと自分も、狂ってしまった。
「嬉しいな。世界がどうなってもいいほど、僕のことが嫌いなんて」
抱き締められても、もう胸の痛みも感じない。
夢の中なのに、ご丁寧に服を直されて、ベッドの上で恋人同士のように腕に抱かれて、ヒューはただぼんやりと自分の腹をさすっていた。あんなに感じていた鼓動が、あまり聴こえない。
ぽた、と涙が落ちた。
「身を潜めてるだけ。生きてるよ」
アレックスが涙を掬いながらそう言ったが、不安で押し潰されそうだった。
「思い込まされてるだけ。そいつは君の子供じゃないし、ただの宿主。おおかた君にそいつを預けた母竜も、宿主だっただけだろう。そうやって、母親を求めて渡り歩いているだけだ」
腹を撫でるヒューの手を、アレックスの手のひらが包み込む。
「ヒューは、優しいから」
愛しそうに、また口づけられる。ヒューはそれをただ受け入れた。
夢は、いつ終わるんだろう。俺は目覚めることが出来るんだろうか。そんなことを思いながら、部屋を見つめる。
泊っていた宿ではなく、あの日、バルド王城でアレックスと結ばれた、あの部屋だと気づいた。
ヒューがあの朝、抜け出した部屋の扉。ベッドを降りて少し走れれば、あの扉を開けられる。けれど、あそこを出たところで、夢から醒める保証はない。
「ヒュー、このまま、ずっとこうしていたい」
キスの合間、アレックスの言葉に、それでもいいかもしれないと思う。こんな奴、このまま夢の中に閉じ込めてしまっていたほうが、よほど世界は無事かもしれない。壊れかけてもいつかまた、新しい《勇者》が現れて、また世界は救われるだろう。
「ヒュー、愛してる」
ようやく唇が離れ、アレックスがヒューの手を取る。彼の左手の薬指には指輪が煌めいていた。ヒューは外していたから、揃いの指輪はそこになかった。夢の中なのに、こいつに都合の良いことばかりじゃないんだなと、少し可笑しかった。
「夢でくらい、付けてくれたらいいのに」
アレックスも気づいたのか、不満そうに言った。ふ、とヒューは少し笑ってしまって、アレックスは驚いたような顔をした。
散々強姦しておいて、まだそんな顔するのかと、ヒューは呆れた。
「……まだ、笑ってくれるんだ」
薬指に口づけられる。指を絡めて、アレックスが愛しげに目を細める。
「ねえ、ヒュー。君のためなら、《勇者》を頑張るよ。魔族たちも抑えるし、魔獣も倒す。世界を守れるよ」
また脅しのつもりだろうか。エルドヴァルドもお人好しだ。あのとき、ヒューを逃がさずに捕らえて、アレックスに差し出しておけば、世界なんて簡単に守れたのに。
アレックスもお人好しだった。強いが世間知らずで、一緒についていってやらないと、危なっかしかった。戦う以外には何も出来なかったから、いつもヒューが傍にいた。
(どうしようか? ヒュー)
よくそんなふうに、何でも尋ねてくるから、少しは自分で考えろと叱ったこともある。
「……アレク……」
アレックスの腕の中で、ヒューは掠れた声を零した。
「……俺、どうしたらいい……?」
涙が溢れて止まらなかった。あの冷たい聖都で、降りしきる雪に埋まりながら、誰かも忘れた赤ん坊を抱き締め、誰かをずっと待っていたときのように。
祈っても、神様からの祝福はなかった。
でもそれは全部、いずれアレックスに会うためだったのかもしれない。
《勇者》に愛される以上の祝福なんて、きっとない。
「もう何も考えなくていいよ。僕が全部、なんとかしてあげる」
アレックスが優しく抱き締める。
「お腹の仔も、守ってあげるよ。毒だって、治してみせるから」
最初から、そうすればよかった。
何も考えずに、アレクのものになれば良かった。
「可愛い、僕のヒュー。最初から、こうしておけばよかったね」
考えることが一緒なのが笑える。
アレックスがまた手を取り、誓いの指に何度も口づけた。
「――し、失礼します……」
ギィ、と扉が開く、重たい音がした。アレックスの目が、すっと細まる。
その眼光にひっと怯え声を出し、魔族の青年が扉の奥から顔を出した。
「へえ。君も、夢渡り出来る魔族だったのかい? ヴェルゼ」
扉の奥で、青年がこくこくと頷く。え……、とヒューはゆっくり顔を上げた。
「アレク、いい加減にしてよ」
アレックスの首許に光槍を突きつけ、竜燐鎧に身を包んだ赤髪の少年が、いつの間にかベッドの傍らに立っていた。
「ヒューはあんたのものじゃない。返して」
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