73 / 75
【72】契約
しおりを挟む
「我との契約か、それは無理だな」
軽く告げられ、リオネルは、瞬きをした。
「……え?」
「たしかに英雄を名乗るだけの資質はある。だが、我を使役出来る器ではない。過ぎた力は身を滅ぼすだけだ」
「じゃあ、何のための試練!?」
命を削って、覚悟を晒した。ヒューの姿をしたものを傷つけてまで。
それで、何も得られなかったのでは、引き下がれない。
「まあ急くな」
ヴォルケリオンは小さな手を上げ、宥めるように振った。
そして、アレクとヒューの姿をしたものたちに、視線を送る。
「《巡風候》《断雷候》――我と同じく、ヴァルナオグと竜の狭間に生まれた子らだ。称号はあれど、未だに真の名を持たぬ」
「魔王と竜の……」
「定型を持たぬ。ゆえに、誰の姿にもなれる。知性は未熟だが、力そのものは魔公に劣らぬ。ただし……」
竜王は、くっくと喉を鳴らした。
「面白いことにしか興味を示さん」
アレクが微笑み、ヒューが肩を竦めた。
二人がしそうな仕草だ。
「お主との戦いは、楽しかったはずだ」
幼子の姿をした竜王は、リオネルに近づき、その顔を見上げた。
「名を与え、契約を結べ」
「ボクが与えちゃっていいの? 魔王の子なら、あなたが兄だ」
自分より遥かに古く、強い存在。
彼が名付けず、いきなり現れた人間の子供に、その資格があるのだろうか。
「兄ゆえに、与えぬのだ。竜王が名を与えれば、こやつらは我のものになる。我と生き、我に縛られ、もはや自由に羽ばたけぬ」
透き通った瞳が、ゆっくりと細められる。
未だアレクとヒューの姿をした青年たちが、よく分かっていないような顔で見返した。
「共にこの世界の果てで暮らし、幾百年……そろそろ、こやつらも“外”を知って良い頃合いだ」
雷が、静かに鳴る。
風が、衣を揺らす。
「兄は、見守るものだ」
「会ったばかりのボクで、いいのか?」
「他の竜にも、それを言ってきたのか?」
ヴォルケリオンがまた笑う。
「名を持たぬまま幾百年。風は吹き、雷は落ち、ただそれだけで在った。定まらぬものは、定まらぬままなら自由だ。しかし、縛られることで得るものもある。それを決めるのは、我でもお主でもない」
ヴォルケリオンの声が、どこか優しく、神殿を満たした。
「お主が嫌なら、拒否する権利はこやつらにもある。それが“契約”だろう?」
「……うん」
名を与えろ。
そう言われ、リオネルは二つの存在を見た。
アレクの姿。ヒューの姿。
追いかけてきた背中。守りたかった人。
リオネルは二人に向き合った。
大切なことには変わりない。
だが、いつまでも縋るべきじゃない。
「――もう、その姿じゃなくて、いい」
リオネルの言葉に、光が揺れた。
アレクが、ヒューが、かすかに輪郭を失う。
「外に行こう。ボクの力になってくれ」
両手をそれぞれに向けると、輪郭が完全に失われる前の、二人の手が、リオネルにゆっくりと伸ばされた。
「《断雷候》」
閃光が爆ぜる。
「《巡風候》」
神殿に奔流が走る。
リオネルは光に包まれた。
(……あ)
光の中で、雷をはらんだ風が吹き荒れる。リオネルはその中心に立っていた。
まだ若い、母のラドネーの姿を見た。
赤ん坊を抱いている。
赤い髪の赤ん坊。
――大変な時代に、産んじゃったね。
「……母上……」
まだ少女のような姿の母が、大切そうに自分を抱えている。
その自分の手を、大きく武骨な手が、こわごわと触れている。
赤ん坊の指が、父の手を握り返す。
――すごいな。まだ小さいのに、もう力強い。
「……父……上……?」
死んだ父、アルベリクの姿だ。
その微笑みを見るだけで、全身が震えた。
――竜騎士のあたしと、この国の守護騎士たる、貴方の子だもん。強いよ。
――いきなり期待をかけて、大丈夫かな。
ラドネーとアルベリク。若い夫婦が、宝物のように赤ん坊を抱きながら、仲睦まじい様子で笑い合っている。
「……父上……母上……」
目の奥が痛んだ。涙が出る前のような痛み。
でも、胸の奥は温かかった。
――大丈夫だよ。ほら、この子、ずっと笑ってる。
――じゃあ、リオネル……お前は、《若獅子》だ。
父・アルベリクが、大きな手のひらを、そっとリオネルの額に当てた。
――国や王を護る、守護獣の名だよ。
「……は……」
意識が揺さぶられた。
「過去を、見せてくれたの……?」
声をかけたが、風も雷も答えない。
またごうごうと風が唸った。渦のように巻き上がり、永遠の螺旋のように、リオネルの周りを舞い続けている。
(……また、見える……)
六歳になった自分が、泣いている。
父を失い、母は国に戻ったからだ。
母は、リオネルだけを仲間たちに預けた。
――ラドネー。本当にいいのか?
尋ねているのは、ヒューだ。
幼い、と感じた。
記憶の中では、ヒューはずっと大人のように思っていた。
あの頃のヒューは、十八ぐらいだったはずだ。
元々童顔なのに、顔にまだ子供っぽさが残っている。
――いいの。こっちこそ、ごめんね。ハーケイルは安定してない。暗殺、策謀、内乱……そんな中に、リオネルを連れて行けなくて……。
――俺たちはいいよ。でも、この旅だって、きっと過酷だから。
――一番信頼出来る人間は、貴方たち。皮肉だね、祖国の人間さえ、信用出来ない。竜のほうが、よっぽどまともだよ。
母は微笑んでいたが、その目は腫れていた。
そうか、母上も、泣いていたんだ。
ボクだけ泣いていたんじゃなかった。
「……大丈夫だよ、母上……」
過去の光景を見て、リオネルは呟いた。
泣きじゃくるリオネルの手を、ラドネーが離す。
離した後、また繋ぐ。
縋ろうとした自分を、母親は涙を溢れさせながら、抱き締め、引き離した。
そのリオネルを、ヒューがそっと抱き締めた。
ラドネーの背中に向かって伸ばされた手を、ヒューの手が包む。
「……あんなに、細かったんだ」
ヒューの手、華奢で、子供みたい。
でもいつも、しっかりと握っていてくれた。
「……決めた」
リオネルは胸に片手を当て、顔を上げた。
与える名を決めた。
その瞬間に、嵐が晴れた。
元の神殿だ。
アレクとヒューの姿はもう無く、そこに巨大な光の柱が二つあった。
リオネルは声を上げた。
「ハーケイル五大家が一つ、グランデル家に連なりし竜騎士、リオネル・アルベリク・グランデルの名において、お前たちに名を与える」
先に、雷を見る。
荒れ狂い、すべてを薙ぎ払う。
その中心にあるのは、揺るがぬ強さ。
王のように。
「雷なる竜よ、汝の名は《王の星》」
雷鳴が、祝福のように轟く。
名を受け入れたのだ。
光が弾け、形を変える。
電が収束し、竜の骨格を描き出す。
その目が開き、確かな意志を宿した。
――名を得た雷竜の姿だ。
次に、風に向き直る。
柔らかく包み、優しく導く。
しかし時に渦となって、運命さえ巻き込む。
絶えず巡り、終わらない命のように。
「風なる竜よ、汝の名は《命の渦》」
そよ風が、歌うように踊った。
与えられた名を、高らかに繰り返すように。
透き通る翼が空を描く。
細身の竜が、しなやかに首をもたげた。
その瞳もまた、リオネルを映していた。
「……さっきのは、スピラか? ありがとう。会わせてくれて」
そっと下りてきた風竜の首に、リオネルは手を当てた。
くるる、と雷竜が不満そうに鳴く。近づいてきたその首も、一緒に撫でてやる。
「レグルスも、よろしくな」
子供が笑うような声が聴こえた。
体は大きいが、彼らの種族としては、まだまだ子供なのだろう。
「ボクと同じだ」
もう、早く大きくなりたいとは思わなかった。
リオネルなりの早さで、力をつけていけばいい。
いずれそれが、母やヒューの助けになると信じている。
「己を信じられるようになったか」
ヴォルケリオンが、一番愉しそうに笑っている。
幼子の姿のまま、リオネルに近づく。
「雷竜レグルス、風竜スピラ――良い名を与えてくれた」
「これからは、呼びやすいでしょ?」
リオネルはヴォルケリオンに笑った。
竜王も、ふっと微笑んだ。
「……我の力が必要になったら、強く願うといい。いまのお主の器であれば、一度くらいは呼べるだろう」
「マジ?」
「一度だぞ。忘れるな」
指を一つ立てる竜王に、リオネルは頷いた。
「ありがとう、竜王……天竜ヴォルケリオン。神殿、寂しくならない?」
「しばらくは、世界を見て愉しむ。というか、何故すぐ行くつもりでおる?」
「え?」
「雷竜と風竜の力を、予習もなく使う気か。しばらく修行しろ、ここで」
「……え」
リオネルは顔を引き攣らせた。
「お主ら、稽古の続きをやれ」
雷竜と風竜に目配せすると、竜たちはまた光となって、しゅるしゅると収束した。
その姿は、またアレクとヒューになった。武器を携えて。
「待ってよ! ボクが主じゃないの!?」
「我は兄だからな。兄の言うことは、まあ絶対であろう」
「そんなことないよ!」
「言ったであろう、そやつらは遊び相手が欲しかったと。主として、気が済むまで遊んでやれ」
「嘘だろ!」
「ついでに強くなる」
アレクとヒューが、微笑みながら武器を構えた。
「せめて休ませてよ!」
叫びつつも、リオネルも光の槍を構えた。
弩を持ち上げながら、ヒューが優しくも厳しい声で言う。
「戦場で休めると思ってんのか?」
「リオネルは、まだ子供だなぁ」
アレクが嘲るように笑う。
「さっきは、手加減してやっただけなのに」
嫌な再現性の高さだ。
「主なら、完全にねじ伏せて見せよ」
背後で、ヴォルケリオンが退屈などしないといったふうに、愉快げに見つめている。
「くそ……! 絶対強くなってやる!」
リオネルは吠えて、再び地面を蹴った。
何日でも、何カ月かかっても、必ずヒューのところに戻ってやる。
新しい強さを身に着けて。
軽く告げられ、リオネルは、瞬きをした。
「……え?」
「たしかに英雄を名乗るだけの資質はある。だが、我を使役出来る器ではない。過ぎた力は身を滅ぼすだけだ」
「じゃあ、何のための試練!?」
命を削って、覚悟を晒した。ヒューの姿をしたものを傷つけてまで。
それで、何も得られなかったのでは、引き下がれない。
「まあ急くな」
ヴォルケリオンは小さな手を上げ、宥めるように振った。
そして、アレクとヒューの姿をしたものたちに、視線を送る。
「《巡風候》《断雷候》――我と同じく、ヴァルナオグと竜の狭間に生まれた子らだ。称号はあれど、未だに真の名を持たぬ」
「魔王と竜の……」
「定型を持たぬ。ゆえに、誰の姿にもなれる。知性は未熟だが、力そのものは魔公に劣らぬ。ただし……」
竜王は、くっくと喉を鳴らした。
「面白いことにしか興味を示さん」
アレクが微笑み、ヒューが肩を竦めた。
二人がしそうな仕草だ。
「お主との戦いは、楽しかったはずだ」
幼子の姿をした竜王は、リオネルに近づき、その顔を見上げた。
「名を与え、契約を結べ」
「ボクが与えちゃっていいの? 魔王の子なら、あなたが兄だ」
自分より遥かに古く、強い存在。
彼が名付けず、いきなり現れた人間の子供に、その資格があるのだろうか。
「兄ゆえに、与えぬのだ。竜王が名を与えれば、こやつらは我のものになる。我と生き、我に縛られ、もはや自由に羽ばたけぬ」
透き通った瞳が、ゆっくりと細められる。
未だアレクとヒューの姿をした青年たちが、よく分かっていないような顔で見返した。
「共にこの世界の果てで暮らし、幾百年……そろそろ、こやつらも“外”を知って良い頃合いだ」
雷が、静かに鳴る。
風が、衣を揺らす。
「兄は、見守るものだ」
「会ったばかりのボクで、いいのか?」
「他の竜にも、それを言ってきたのか?」
ヴォルケリオンがまた笑う。
「名を持たぬまま幾百年。風は吹き、雷は落ち、ただそれだけで在った。定まらぬものは、定まらぬままなら自由だ。しかし、縛られることで得るものもある。それを決めるのは、我でもお主でもない」
ヴォルケリオンの声が、どこか優しく、神殿を満たした。
「お主が嫌なら、拒否する権利はこやつらにもある。それが“契約”だろう?」
「……うん」
名を与えろ。
そう言われ、リオネルは二つの存在を見た。
アレクの姿。ヒューの姿。
追いかけてきた背中。守りたかった人。
リオネルは二人に向き合った。
大切なことには変わりない。
だが、いつまでも縋るべきじゃない。
「――もう、その姿じゃなくて、いい」
リオネルの言葉に、光が揺れた。
アレクが、ヒューが、かすかに輪郭を失う。
「外に行こう。ボクの力になってくれ」
両手をそれぞれに向けると、輪郭が完全に失われる前の、二人の手が、リオネルにゆっくりと伸ばされた。
「《断雷候》」
閃光が爆ぜる。
「《巡風候》」
神殿に奔流が走る。
リオネルは光に包まれた。
(……あ)
光の中で、雷をはらんだ風が吹き荒れる。リオネルはその中心に立っていた。
まだ若い、母のラドネーの姿を見た。
赤ん坊を抱いている。
赤い髪の赤ん坊。
――大変な時代に、産んじゃったね。
「……母上……」
まだ少女のような姿の母が、大切そうに自分を抱えている。
その自分の手を、大きく武骨な手が、こわごわと触れている。
赤ん坊の指が、父の手を握り返す。
――すごいな。まだ小さいのに、もう力強い。
「……父……上……?」
死んだ父、アルベリクの姿だ。
その微笑みを見るだけで、全身が震えた。
――竜騎士のあたしと、この国の守護騎士たる、貴方の子だもん。強いよ。
――いきなり期待をかけて、大丈夫かな。
ラドネーとアルベリク。若い夫婦が、宝物のように赤ん坊を抱きながら、仲睦まじい様子で笑い合っている。
「……父上……母上……」
目の奥が痛んだ。涙が出る前のような痛み。
でも、胸の奥は温かかった。
――大丈夫だよ。ほら、この子、ずっと笑ってる。
――じゃあ、リオネル……お前は、《若獅子》だ。
父・アルベリクが、大きな手のひらを、そっとリオネルの額に当てた。
――国や王を護る、守護獣の名だよ。
「……は……」
意識が揺さぶられた。
「過去を、見せてくれたの……?」
声をかけたが、風も雷も答えない。
またごうごうと風が唸った。渦のように巻き上がり、永遠の螺旋のように、リオネルの周りを舞い続けている。
(……また、見える……)
六歳になった自分が、泣いている。
父を失い、母は国に戻ったからだ。
母は、リオネルだけを仲間たちに預けた。
――ラドネー。本当にいいのか?
尋ねているのは、ヒューだ。
幼い、と感じた。
記憶の中では、ヒューはずっと大人のように思っていた。
あの頃のヒューは、十八ぐらいだったはずだ。
元々童顔なのに、顔にまだ子供っぽさが残っている。
――いいの。こっちこそ、ごめんね。ハーケイルは安定してない。暗殺、策謀、内乱……そんな中に、リオネルを連れて行けなくて……。
――俺たちはいいよ。でも、この旅だって、きっと過酷だから。
――一番信頼出来る人間は、貴方たち。皮肉だね、祖国の人間さえ、信用出来ない。竜のほうが、よっぽどまともだよ。
母は微笑んでいたが、その目は腫れていた。
そうか、母上も、泣いていたんだ。
ボクだけ泣いていたんじゃなかった。
「……大丈夫だよ、母上……」
過去の光景を見て、リオネルは呟いた。
泣きじゃくるリオネルの手を、ラドネーが離す。
離した後、また繋ぐ。
縋ろうとした自分を、母親は涙を溢れさせながら、抱き締め、引き離した。
そのリオネルを、ヒューがそっと抱き締めた。
ラドネーの背中に向かって伸ばされた手を、ヒューの手が包む。
「……あんなに、細かったんだ」
ヒューの手、華奢で、子供みたい。
でもいつも、しっかりと握っていてくれた。
「……決めた」
リオネルは胸に片手を当て、顔を上げた。
与える名を決めた。
その瞬間に、嵐が晴れた。
元の神殿だ。
アレクとヒューの姿はもう無く、そこに巨大な光の柱が二つあった。
リオネルは声を上げた。
「ハーケイル五大家が一つ、グランデル家に連なりし竜騎士、リオネル・アルベリク・グランデルの名において、お前たちに名を与える」
先に、雷を見る。
荒れ狂い、すべてを薙ぎ払う。
その中心にあるのは、揺るがぬ強さ。
王のように。
「雷なる竜よ、汝の名は《王の星》」
雷鳴が、祝福のように轟く。
名を受け入れたのだ。
光が弾け、形を変える。
電が収束し、竜の骨格を描き出す。
その目が開き、確かな意志を宿した。
――名を得た雷竜の姿だ。
次に、風に向き直る。
柔らかく包み、優しく導く。
しかし時に渦となって、運命さえ巻き込む。
絶えず巡り、終わらない命のように。
「風なる竜よ、汝の名は《命の渦》」
そよ風が、歌うように踊った。
与えられた名を、高らかに繰り返すように。
透き通る翼が空を描く。
細身の竜が、しなやかに首をもたげた。
その瞳もまた、リオネルを映していた。
「……さっきのは、スピラか? ありがとう。会わせてくれて」
そっと下りてきた風竜の首に、リオネルは手を当てた。
くるる、と雷竜が不満そうに鳴く。近づいてきたその首も、一緒に撫でてやる。
「レグルスも、よろしくな」
子供が笑うような声が聴こえた。
体は大きいが、彼らの種族としては、まだまだ子供なのだろう。
「ボクと同じだ」
もう、早く大きくなりたいとは思わなかった。
リオネルなりの早さで、力をつけていけばいい。
いずれそれが、母やヒューの助けになると信じている。
「己を信じられるようになったか」
ヴォルケリオンが、一番愉しそうに笑っている。
幼子の姿のまま、リオネルに近づく。
「雷竜レグルス、風竜スピラ――良い名を与えてくれた」
「これからは、呼びやすいでしょ?」
リオネルはヴォルケリオンに笑った。
竜王も、ふっと微笑んだ。
「……我の力が必要になったら、強く願うといい。いまのお主の器であれば、一度くらいは呼べるだろう」
「マジ?」
「一度だぞ。忘れるな」
指を一つ立てる竜王に、リオネルは頷いた。
「ありがとう、竜王……天竜ヴォルケリオン。神殿、寂しくならない?」
「しばらくは、世界を見て愉しむ。というか、何故すぐ行くつもりでおる?」
「え?」
「雷竜と風竜の力を、予習もなく使う気か。しばらく修行しろ、ここで」
「……え」
リオネルは顔を引き攣らせた。
「お主ら、稽古の続きをやれ」
雷竜と風竜に目配せすると、竜たちはまた光となって、しゅるしゅると収束した。
その姿は、またアレクとヒューになった。武器を携えて。
「待ってよ! ボクが主じゃないの!?」
「我は兄だからな。兄の言うことは、まあ絶対であろう」
「そんなことないよ!」
「言ったであろう、そやつらは遊び相手が欲しかったと。主として、気が済むまで遊んでやれ」
「嘘だろ!」
「ついでに強くなる」
アレクとヒューが、微笑みながら武器を構えた。
「せめて休ませてよ!」
叫びつつも、リオネルも光の槍を構えた。
弩を持ち上げながら、ヒューが優しくも厳しい声で言う。
「戦場で休めると思ってんのか?」
「リオネルは、まだ子供だなぁ」
アレクが嘲るように笑う。
「さっきは、手加減してやっただけなのに」
嫌な再現性の高さだ。
「主なら、完全にねじ伏せて見せよ」
背後で、ヴォルケリオンが退屈などしないといったふうに、愉快げに見つめている。
「くそ……! 絶対強くなってやる!」
リオネルは吠えて、再び地面を蹴った。
何日でも、何カ月かかっても、必ずヒューのところに戻ってやる。
新しい強さを身に着けて。
12
あなたにおすすめの小説
片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
おしまいのそのあとは
makase
BL
悪役令息として転生してしまった神楽坂龍一郎は、心を入れ替え、主人公のよき友人になるよう努力していた。ところがこの選択肢が、神楽坂の大切な人を傷つける可能性が浮上する。困った神楽坂は、自分を犠牲にする道を歩みかけるが……
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される
水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」
宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。
しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。
処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!?
強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。
秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる