未熟な最強者の逆転ゲーム

tarakomax

文字の大きさ
7 / 70

遊びから始まる革命の兆し

しおりを挟む
市場に足を踏み入れると、活気に満ちた声が響き渡っていた。

果物や野菜が並ぶ露店、焼きたてのパンの香り、行き交う村人たちの賑やかな笑い声。

「思ったよりにぎやかだな……。」

馬車を降りながら、広場を見渡す。

父さんが軽く頷いた。

「この市場は、近隣の村からも商人が集まる。領地の経済を支える大事な場所だ。」

「へぇ……。」

なんとなく周囲を見渡していたら、目の前でひときわ元気な声が飛び込んできた。

「いらっしゃい! ハーブティーにキャンドル、それに編み物もありますよー!」

茶髪のショートカットを揺らしながら、エプロン姿の女性が店先で手を動かしていた。

手際よく商品を並べながら、にこにこと客に声をかけている。

「あっ、ラルフ様!」

少女は父さんの姿を見つけると、慌ててお辞儀をした。

「初めまして! 私、リリー・パクソンといいます! 市場でお店をやってます!」

「リリーか。息子のアーサーだ。」

父さんがさらりと紹介すると、リリーは驚いたように目を見開いた。

「えっ! アーサー様ですか!?」

その反応に、僕は軽く肩をすくめる。

「……そんなに驚く?」

「いや、だって、兄上や姉上の話ばっかり聞いてたから……もっとこう、威厳のある感じかと!」

「うん、それは僕じゃないね。」

苦笑いしながら、店先の棚を眺める。

「編み物にキャンドル、ハーブティーか……ずいぶんいろいろあるんだね。」

「お客さんが楽しめるように、いろんなものを扱ってるんです!」

リリーは胸を張る。

適当に相槌を打っていたら、父さんがふと村長の方へ目を向けた。

「アーサー、ここで少し自由に見ていろ。私は村の者たちと話してくる。」

「ん、分かった。」

父さんが村長と一緒に市場の奥へ歩いていくのを横目で見送る。

(……さて、適当に時間を潰すか。)

再び視線を店に戻すと、棚の隅に並べられた木の札に目が留まった。

何枚か重ねて束ねられているそれは、シンプルなデザインながら、丁寧に磨かれていて手触りがいい。

「これ、何?」

「木札ですよ! お守りにしたり、名前を書いて荷物につけたり……用途はいろいろです!」

「ふーん……。」

何気なく木札を指で弾く。

薄い板の感触が心地よく、軽く手に馴染んだ。

(……これ、ちょっとトランプっぽいな。)

昔、日本で遊んだカードゲームをふと思い出す。

リリーが興味津々に僕の手元を覗き込んできた。

「アーサー様、それ気になります? 何かいい使い道、ありますか?」

「んー……そうだな。」

指先で木札をくるくる回しながら、頭の中で考える。

「例えば、何かルールを作って遊ぶとか?」

「ルール?」

「うん。いくつかの札に違う絵を描いたり、数字を入れたりして……それを使って、みんなで遊ぶんだ。」

思いつくままに話すと、リリーの目が一気に輝いた。

「えっ、それめっちゃ面白そうじゃないですか!!!」

「いや、まだ何も決まってないけど。」

「でも、それならお店で売れるかも! どんなゲームなんですか?」

「……まだ考えてないよ。」

苦笑しながら言うと、リリーは興奮した様子で身を乗り出してきた。

「じゃあ、考えましょう! 私、材料の手配とか手伝いますから!」

(初めて会ったんだけど、勢いすごいな。これが商人……)

「はぁ、わかったよ。とりあえず、使えそうなもの探してくる。」

「お待ちしてます!」

リリーが笑顔で言った。

市場を歩いていると、ふと紙や筆記用具を並べた露店が目に入った。

鼻眼鏡の年配の商人が帳簿にペンを走らせている。

「いらっしゃいませ。若い方が紙を?」

「ちょっと試したいことがあってね。」

適当に紙の束を手に取る。薄くて頼りない感触だけど、試作品には十分だろう。

「この紙は安価で扱いやすいですが、破れやすいのでお気をつけください。」

商人の説明を聞き流しながら、「10枚ください」と手短に伝える。

手際よく束ねられた紙を受け取り、「うまくいったらまた来るよ」と適当に返し、その場を後にした。

裏手に回って膝をつくと、すぐにリリーが顔を覗かせてくる。

「それで、アーサー様! この紙で何を作るんですか?」

興味津々の顔に、なんだか気恥ずかしくなる。

「遊ぶためのものだけど……作ってみないと分からないね。」

適当に言葉を濁しながら紙を細長く切る。歪んだ切り口を見て、まあいいかと肩をすくめた。

「ちょっと手伝って!」

ペンを渡しながら指示を出す。

「適当に数字とか絵を描いてみて。簡単なやつでいいから。」

「え、私がです?」

驚きつつも、リリーは紙に数字や絵を描き始める。

「スペードとかハートとか、こういうの。」

手本を示すと、リリーの描いたスケッチを見て思わず吹き出した。

「これ、すぐ破れそうですね……。」

リリーが紙を触りながら呟く。

「まあ試作品だしね。」

軽く肩をすくめ、できた紙の束を地面に並べる。

「よし、簡単なゲームを教えるよ。」

懐かしい記憶を辿りながら、ルールを説明する。

「一人ずつ隣の人のカードを引く。ペアができたら場に出して、最後に『ジョーカー』が残った人の負け。」

「これがジョーカーね。」

僕は一枚を指刺した。

「簡単そうですね!」

「じゃあ、リリー、まず引いてみて。」

「えっと……ペアになりました!」

リリーが嬉しそうにカードを場に出す。

(くそっ、こっちはまだペアができてないのに……。)

でも、彼女の笑顔を見ると、まあいいかと思えてくる。

ゲームが進むにつれ、笑い声が増えていく。

「アーサー様、これ、すごいです! ただの紙なのに、こんなに楽しいなんて!」

「まあ、ちゃんとした素材で作れば、もっと面白くなるかもね。」

「それ、商品化したら絶対売れますよ!」

リリーが興奮気味に身を乗り出す。

「……商品ねぇ。ま、父さんに相談しないとだけど。」

適当に答えると、リリーが勢いよく立ち上がった。

「私、絶対にこれを成功させます!」

その時、不意に後ろから低い声が響く。

「アーサー、お前が何をしてるかと思えば……なんの遊びだ?」

振り返ると、父さんが腕を組んで立っていた。

その表情は呆れと興味が半々だった。

「父さん、なんでここに?」

僕は地面のカードを隠すこともなく、そのまま見上げた。

「市場の視察を終えたところだ。村長との話も一区切りついたから様子を見に来た。」

父さんの視線がカードに移る。

「それで、その紙切れは何だ?」

「ただの遊び用のカードだよ。暇だったから作ってみた。」

気負いもなくカードを見せると、父さんはそれを軽くめくり、少し眉を上げた。

「雑だが、興味深い形をしているな。」

その言葉に、リリーが勢いよく前に出る。

「ラルフ様、これすごいんです! アーサー様の考えたカード遊び、村に広めたら絶対に人気が出ます!」

「そうか。それで、お前はこれをどうしたいんだ?」

父さんが僕に問いかける。

「どうって……別に。遊ぶために作っただけだから、父さんが良さそうだと思うなら適当にやってよ。」

さらりと答えると、父さんは苦笑しながら首を振った。

「全く、お前は変わらんな。まあいい。お前がそこまで気にしていないなら、私が村長と話をしてみる。ただし、リリー、お前も協力しろ。」

「私ですか!?」

リリーが驚きつつも即座に頷く。

「もちろんです! 私、全力でお手伝いします!」

父さんは満足げに頷くと、念を押すように僕を見た。

「ただし、アーサー。途中で投げ出すなよ。」

「分かったよ。でも、結局は父さんがなんとかしてくれるんでしょ?」

軽く肩をすくめると、父さんは深いため息をつきながら呆れ顔を見せた。

「本当にお前は……。」

市場の喧騒の中、僕とリリー、そして父さんの三人が笑い合った。

市場を歩き回った後、僕と父さんはリリーと別れ、遅めの昼食を取るために**「ヴィヴィアンの食堂」**へ向かった。

店の扉を開けると、温かい香りと賑やかな声が迎えてくれる。

「ラルフ様、アーサー様、ようこそ!」

カウンターの奥で、エプロン姿のヴィヴィアンが明るく手を振った。

「今日は視察の途中でな。少し遅い昼食をいただこうと思っている。」

父さんが軽く挨拶すると、ヴィヴィアンはすぐに奥へ向かい、娘のティナを呼ぶ。

「ラルフ様、アーサー様、いらっしゃいませ!」

15歳のティナが、元気よく飲み物を運んできた。

「こういう食堂、なんか落ち着くね。」

僕が店内を見回しながら言うと、ヴィヴィアンが誇らしげに笑った。

「うちは家庭的な雰囲気が売りですから!」

「アーサー様が市場を回られていたと聞いて、みんな驚いていましたよ。」

ティナがちらりと僕を見て言う。

「そんなに珍しいこと?」

肩をすくめると、父さんが淡々と答えた。

「貴族の子弟が市場を歩き回るのは普通じゃないからな。」

「でも、意外と楽しそうでしたよね?」

ティナがくすっと笑う。

「まあ、市場は見てるだけでも面白かったよ。」

そう答えながら、視線を窓の外へ向けた。

食堂を出た後、父さんはふと提案した。

「丘へ寄っていくか。」

「丘?」

「村を一望できる場所だ。ここに来るたび、私は必ず訪れる。」

馬車が揺れる中、今日一日を思い返す。

やがて丘に到着すると、心地よい風が吹き抜けた。

目の前には村全体が広がり、畑や市場の喧騒が遠く小さく聞こえる。

「すごい眺めだね。」

思わず呟くと、父さんが静かに言った。

「ここから見ると、村の成り立ちがよく分かる。」

「それぞれが一つの歯車となって村が回っている。領主はそれを支え、見守るのが役目だ。」

「支えるかあ……僕に何かできるのかな?」

父さんは微笑し、僕の肩を軽く叩いた。

「できることを探すのも視察の目的だ。焦る必要はない。」

「うーん……でも、トランプの件は面白いと思うよ。リリーもすごく乗り気だったし。」

「ふっ……リリーも、お前の遊びに付き合うのが大変そうだな。」

父さんが苦笑する。

「まあ、リリーなら上手くやるでしょ。」

僕が肩をすくめると、父さんは呆れたように笑った。

丘を後にし、馬車に乗り込む。

「今日は退屈するかと思ったけど、意外と面白かったな。」

「それでいい。視察とは、お前が何を感じ、どう動くかを考える機会でもある。」

「動くって言われても、まだ分かんないけどね。」

「それでいいさ。次に来るときは、また違うものが見えるだろう。」

日が沈み始め、屋敷へと戻る道。

「ただいま。」

屋敷の扉を開けながら呟く。

その声には、今日一日を満足したような穏やかさが滲んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...