入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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 父の名はハンク、母はケリー。
 八歳年上の兄はレーン、五歳年上の姉はリズ。
 なのに何で私の名前は「アレクサンドラ」なの?家族で一人だけ仰々しくて浮いている。
 ケリーは「生まれて来たアリの顔を見たら『アレクサンドラ』しかないって思ったのよ」と笑う。

 アレクサンドラは髪が赤い。父と兄は黒髪、母は焦茶、姉は明るい茶色。父と兄はストレート、母と姉は緩いウェーブ、アレクサンドラは縦巻きになりそうな程キツくウェーブしている。
 瞳の色はアレクサンドラは琥珀色、父と姉は緑、兄は茶色、母は青。
 アレクサンドラ以外の家族は皆んな切れ長の眼で背が高い。アレクサンドラは眼がぱっちりと大きく、背は低くはないが高くもない。
「大きくなったら背も伸びるよ」
 ハンクとレーンはそう言って笑う。
「眼が大きくて羨ましいわ」
 リズが言うとケリーは頷く。
「私のお祖母様が眼がぱっちりした美人さんだったのよ。アリはお祖母様に似たのね」
「俺のお祖母様も赤毛でくるくるした髪だったぞ」
 ハンクも言う。

 優しい家族がアレクサンドラは大好きだった。
 それでも、小さい頃から「私の居場所はここではない」と言う気持ちがあった。
 辺境伯である父が王都へ行く時は「連れて行って」と泣いた。
 兄が学園に行く歳になると、私も行きたいと泣き、長期休暇で帰って来る度王都の話を聞かせてと迫った。
 今日は来春から学園に入るリズに「私も行きたい」と駄々をこねて泣いていたのだ。

 間違えて…ううん。何かの間違いで私はここに居るんだ。

 前世は15歳で亡くなった日本人だった。
 難病で、学校にも通えずいつも家か病院かのベッドの上。
 ずっとスマートフォンでゲームをしていた。パズル、RPG、アクション…色々やったけど、友人もいない、恋どころか、父と医師と看護師以外の男性とは話した事もない私がハマったのは恋愛シミュレーションゲーム…所謂乙女ゲームだった。

「お姉様、王都の話を聞かせて」
「またあ?アリは相変わらず王都の話が好きね」
 学園に行った姉が夏季休暇で帰ってくると、いつも王都の流行りや貴族の噂話を聞いた。
 13歳になった今もリズに王都の話をねだる。
 
 15歳になれば学園に入れる。王都に行けるんだわ。
 学園に行ったら友達ができるかしら。恋とかもしちゃったりして?ああ…楽しみだわ。

「そうそう、第一王子殿下がご婚約されたのよ」
「第一王子殿下?」
「サイモン殿下よ。すごく綺麗なお方よ。アリは知らなかったかしら?」
「サ、イモン、殿下…」
 アレクサンドラの頭の中に何かが引っかかった。

 サイモン、王子?婚約者は…
「サイモン王太子殿下!?」
「あら、サイモン殿下はまだ王太子殿下ではないわよ。ご婚約されたし、近い内には立太子されるでしょうけど」
「婚約者はオリー・マーシャル公爵令嬢!?」
「あら、よく知ってるわね」

 王太子のサイモン、婚約者のオリー
 第二王子はロイド、婚約者は……

「ア…アレクサンドラ」
「え?アリ、いきなり自分の名前なんて言い出してどうしたの?大丈夫?」
 頭を抱えてガクガクと震えるアレクサンドラに、リズが慌てて声を掛ける。

 前世で病状が悪化する直前までプレイしていた乙ゲー「恋する生徒会」のキャラクターがアレクサンドラの頭に浮かぶ。
 中世的で麗しい王太子のサイモン。精悍な顔立ちの第二王子ロイドは生徒会副会長。生徒会長は宰相候補ランドルフ、もう一人の副会長は将来の近衛騎士マーク、書記は公爵家の嫡男クリストファー、会計は大商家の後継者のエリック、生徒会顧問教師はサイモンの友人のゴヴァン。

 アレクサンドラ・クロフォード侯爵令嬢
 第二王子のロイドの婚約者で赤い髪を縦ロールにした「典型的悪役令嬢」だ。
「つまり、私…?」

 どうして?
 私のイチ推しはクリストファーだったのに、何でロイドの婚約者になってるの?
 ううん。ロイドの婚約者は王都のクロフォード侯爵家の令嬢よ。たまたま、そう偶々私が同じ名前なだけで…

 アレクサンドラは自分の部屋へ飛び込むと、鏡を覗き込んだ。

 結えていた髪を解き、指にくるくると巻きつける。
 指を抜くと、綺麗な縦ロールができた。
 赤い縦ロールの髪、大きな琥珀色の瞳、気の強そうな顔…どこから見てもスマホの画面の中に居たロイドの婚約者の「アレクサンドラ」だった。

 
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