入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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「ずっと現実感がない。気持ちもずっと平坦で上向きも下向きもしない。ドロシー嬢がここまで来てくれても面倒だとしか思えないし、アリに好きだと言われても……」
 マークはじっと自分の手を見詰めながら苦し気に言った。
「面倒なのね?」
 アレクサンドラはため息混じりに言った。
「…嬉しい気持ちはある」
「無理する事はないわ。キッパリと振って欲しいんだし」
「無理はしていない。ただ何もかもが目の前の被膜を通して見ている感じで…自分の事と感じられないんだ…」
 マークは俯いて右手で自分の目を覆う。
 アレクサンドラはマークの左の袖口を掴んでいた手を離した。
「ローズに会いたい?」
「…ああ。会って聞きたい。どうして俺はなったのか」
 アレクサンドラは大きく息を吐き、大きく息を吸う。
「マーク」
 意を決して言った。
「信じなくても良いから、私の話を最後まで聞いて欲しいの」

-----

 冬期の始めの考査の日、勉強部屋でアレクサンドラはノートを広げて後ろの席のシンシアに見せた。
「赤いドレス?」
 シンシアが首を傾げる。
「そう。赤って言っても落ち着いた赤色よ。で、こんなデザイン」
「これ既製品なの?素敵ね」
「うん。ちょっと手を加えようと思ってる」
「私に似合うかな?」
「絶対似合うわ」
「じゃあアリに任せるわ。楽しみにしてる」
「うん」
「アリのドレスは?何色にするの?」
「うーん、今は青緑とベージュで悩んでる」
 するとアレクサンドラの隣りの席から、話に入りたそうにしていたウリエルがすかさず声を上げる。
「アリ、緑が良いよ!似合うと思う」
「ウリエルは自分の髪の色にして欲しいだけでしょ?でもアリが緑のドレスを着たとしても、それはウリエルの色じゃなくて私の色よ。残念でした」
「なっ。シンシア」
 アレクサンドラはシンシアの後ろの席に座るマークに視線を向ける。
 マークは俯いて考査前にノートをチェックしているようだ。
 …まだ怒ってるんだろうな。

 アレクサンドラは南の塔で、マークに自分が転生者である事、この世界が恋愛シミュレーションゲームの舞台である事、ヒロインがローズで、マークたち攻略対象者はゲームの強制力でローズを好きになった事、ローズがゲームをリセットしたのでこの世界が現実世界となり、強制力が消えた事、そして、ローズがこの世界から消えた事…すべてを話した。
 結果、マークはを全く信じなかった。
「…そんな荒唐無稽な話で俺を誤魔化せると思うな。それとも馬鹿にしてるのか?」
 低い声でそう言うと、マークは南の塔の展望室からアレクサンドラを追い出したのだ。

 全てを信じてもらえるとは思ってなかったけど、あんなに反発されるとはね…
 でも約束通り話は最後まで聞いてくれたわ。
 まあ、これで嫌われたのは確かだし、キッパリ振られると言う希望は叶ったんだもんね…これで良かったのよ。

 考査が終わって、シンシアと廊下を歩く。
「最近はあの木に登ってないの?」
「雪だしね」
「そう」
 春になっても、もう行かない。
 マークはアレクサンドラに会う可能性があれば来ないだろうし、アレクサンドラも分かっていてもマークが来ない事に傷付きたくはない。アレクサンドラはそう思った。
「…マークとは、どうなの?」
 シンシアがアレクサンドラを窺うように言う。
「どうもこうも。私に好かれても面倒なだけらしいわ」
 アレクサンドラは肩を竦めて言った。
「面倒?マークがそう言ったの?」
「うん。ドロシーが来たのも面倒だったらしいわ」
「そうなの?」
「うん」
 あの時は、嬉しい気持ちもあると言っていたが、きっと今はそんな気持ちもないだろう。
 マークは夕食の席などで一緒になった時でもアレクサンドラを一瞥もしないのだ。
「シンシアは?マークの事…」
 まだ好き?と聞きかけると、遮るようにシンシアは言う。
「脈がない人を想い続ける程、一途でも健気でもないの」
「ええ~」

「やっぱり緑のドレスにしようかな。青緑」
「それ、さっきはああ言ったけど、知らない人が見たら本当にウリエルの色だと思われるわよ?」
「そうかしら?」
「そうよ。辺境伯様には卒業パーティーでアリの顔を売りたい気持ちもおありなんじゃないの?アリも適齢期になるし。それなのに周りからウリエルのパートナーだと思われたら台無しじゃない?」
「え?卒業パーティーに私の結婚相手を探す意味もあるの?」
「多分あるわ」
 確かに、学園にはアレクサンドラと歳の近い貴族が国中から集まって来ているのだ。
「ベージュが良いわよ。差し色にピンクとか」
「ピンクはかわいすぎない?私似合わなそう…」
 ローズの髪がピンクだし、ちょっと避けたいわね。
「じゃあ青か紺」
「そうね。考えてみるわ」

 シンシアとそう話ながら歩くアレクサンドラを、廊下の角からマークがじっと見ていた。

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