16 / 27
15
しおりを挟む
15
「ずっと現実感がない。気持ちもずっと平坦で上向きも下向きもしない。ドロシー嬢がここまで来てくれても面倒だとしか思えないし、アリに好きだと言われても……」
マークはじっと自分の手を見詰めながら苦し気に言った。
「面倒なのね?」
アレクサンドラはため息混じりに言った。
「…嬉しい気持ちはある」
「無理する事はないわ。キッパリと振って欲しいんだし」
「無理はしていない。ただ何もかもが目の前の被膜を通して見ている感じで…自分の事と感じられないんだ…」
マークは俯いて右手で自分の目を覆う。
アレクサンドラはマークの左の袖口を掴んでいた手を離した。
「ローズに会いたい?」
「…ああ。会って聞きたい。どうして俺はこうなったのか」
アレクサンドラは大きく息を吐き、大きく息を吸う。
「マーク」
意を決して言った。
「信じなくても良いから、私の話を最後まで聞いて欲しいの」
-----
冬期の始めの考査の日、勉強部屋でアレクサンドラはノートを広げて後ろの席のシンシアに見せた。
「赤いドレス?」
シンシアが首を傾げる。
「そう。赤って言っても落ち着いた赤色よ。で、こんなデザイン」
「これ既製品なの?素敵ね」
「うん。ちょっと手を加えようと思ってる」
「私に似合うかな?」
「絶対似合うわ」
「じゃあアリに任せるわ。楽しみにしてる」
「うん」
「アリのドレスは?何色にするの?」
「うーん、今は青緑とベージュで悩んでる」
するとアレクサンドラの隣りの席から、話に入りたそうにしていたウリエルがすかさず声を上げる。
「アリ、緑が良いよ!似合うと思う」
「ウリエルは自分の髪の色にして欲しいだけでしょ?でもアリが緑のドレスを着たとしても、それはウリエルの色じゃなくて私の色よ。残念でした」
「なっ。シンシア」
アレクサンドラはシンシアの後ろの席に座るマークに視線を向ける。
マークは俯いて考査前にノートをチェックしているようだ。
…まだ怒ってるんだろうな。
アレクサンドラは南の塔で、マークに自分が転生者である事、この世界が恋愛シミュレーションゲームの舞台である事、ヒロインがローズで、マークたち攻略対象者はゲームの強制力でローズを好きになった事、ローズがゲームをリセットしたのでこの世界が現実世界となり、強制力が消えた事、そして、ローズがこの世界から消えた事…すべてを話した。
結果、マークはそれを全く信じなかった。
「…そんな荒唐無稽な話で俺を誤魔化せると思うな。それとも馬鹿にしてるのか?」
低い声でそう言うと、マークは南の塔の展望室からアレクサンドラを追い出したのだ。
全てを信じてもらえるとは思ってなかったけど、あんなに反発されるとはね…
でも約束通り話は最後まで聞いてくれたわ。
まあ、これで嫌われたのは確かだし、キッパリ振られると言う希望は叶ったんだもんね…これで良かったのよ。
考査が終わって、シンシアと廊下を歩く。
「最近はあの木に登ってないの?」
「雪だしね」
「そう」
春になっても、もう行かない。
マークはアレクサンドラに会う可能性があれば来ないだろうし、アレクサンドラも分かっていてもマークが来ない事に傷付きたくはない。アレクサンドラはそう思った。
「…マークとは、どうなの?」
シンシアがアレクサンドラを窺うように言う。
「どうもこうも。私に好かれても面倒なだけらしいわ」
アレクサンドラは肩を竦めて言った。
「面倒?マークがそう言ったの?」
「うん。ドロシーが来たのも面倒だったらしいわ」
「そうなの?」
「うん」
あの時は、嬉しい気持ちもあると言っていたが、きっと今はそんな気持ちもないだろう。
マークは夕食の席などで一緒になった時でもアレクサンドラを一瞥もしないのだ。
「シンシアは?マークの事…」
まだ好き?と聞きかけると、遮るようにシンシアは言う。
「脈がない人を想い続ける程、一途でも健気でもないの」
「ええ~」
「やっぱり緑のドレスにしようかな。青緑」
「それ、さっきはああ言ったけど、知らない人が見たら本当にウリエルの色だと思われるわよ?」
「そうかしら?」
「そうよ。辺境伯様には卒業パーティーでアリの顔を売りたい気持ちもおありなんじゃないの?アリも適齢期になるし。それなのに周りからウリエルのパートナーだと思われたら台無しじゃない?」
「え?卒業パーティーに私の結婚相手を探す意味もあるの?」
「多分あるわ」
確かに、学園にはアレクサンドラと歳の近い貴族が国中から集まって来ているのだ。
「ベージュが良いわよ。差し色にピンクとか」
「ピンクはかわいすぎない?私似合わなそう…」
ローズの髪がピンクだし、ちょっと避けたいわね。
「じゃあ青か紺」
「そうね。考えてみるわ」
シンシアとそう話ながら歩くアレクサンドラを、廊下の角からマークがじっと見ていた。
「ずっと現実感がない。気持ちもずっと平坦で上向きも下向きもしない。ドロシー嬢がここまで来てくれても面倒だとしか思えないし、アリに好きだと言われても……」
マークはじっと自分の手を見詰めながら苦し気に言った。
「面倒なのね?」
アレクサンドラはため息混じりに言った。
「…嬉しい気持ちはある」
「無理する事はないわ。キッパリと振って欲しいんだし」
「無理はしていない。ただ何もかもが目の前の被膜を通して見ている感じで…自分の事と感じられないんだ…」
マークは俯いて右手で自分の目を覆う。
アレクサンドラはマークの左の袖口を掴んでいた手を離した。
「ローズに会いたい?」
「…ああ。会って聞きたい。どうして俺はこうなったのか」
アレクサンドラは大きく息を吐き、大きく息を吸う。
「マーク」
意を決して言った。
「信じなくても良いから、私の話を最後まで聞いて欲しいの」
-----
冬期の始めの考査の日、勉強部屋でアレクサンドラはノートを広げて後ろの席のシンシアに見せた。
「赤いドレス?」
シンシアが首を傾げる。
「そう。赤って言っても落ち着いた赤色よ。で、こんなデザイン」
「これ既製品なの?素敵ね」
「うん。ちょっと手を加えようと思ってる」
「私に似合うかな?」
「絶対似合うわ」
「じゃあアリに任せるわ。楽しみにしてる」
「うん」
「アリのドレスは?何色にするの?」
「うーん、今は青緑とベージュで悩んでる」
するとアレクサンドラの隣りの席から、話に入りたそうにしていたウリエルがすかさず声を上げる。
「アリ、緑が良いよ!似合うと思う」
「ウリエルは自分の髪の色にして欲しいだけでしょ?でもアリが緑のドレスを着たとしても、それはウリエルの色じゃなくて私の色よ。残念でした」
「なっ。シンシア」
アレクサンドラはシンシアの後ろの席に座るマークに視線を向ける。
マークは俯いて考査前にノートをチェックしているようだ。
…まだ怒ってるんだろうな。
アレクサンドラは南の塔で、マークに自分が転生者である事、この世界が恋愛シミュレーションゲームの舞台である事、ヒロインがローズで、マークたち攻略対象者はゲームの強制力でローズを好きになった事、ローズがゲームをリセットしたのでこの世界が現実世界となり、強制力が消えた事、そして、ローズがこの世界から消えた事…すべてを話した。
結果、マークはそれを全く信じなかった。
「…そんな荒唐無稽な話で俺を誤魔化せると思うな。それとも馬鹿にしてるのか?」
低い声でそう言うと、マークは南の塔の展望室からアレクサンドラを追い出したのだ。
全てを信じてもらえるとは思ってなかったけど、あんなに反発されるとはね…
でも約束通り話は最後まで聞いてくれたわ。
まあ、これで嫌われたのは確かだし、キッパリ振られると言う希望は叶ったんだもんね…これで良かったのよ。
考査が終わって、シンシアと廊下を歩く。
「最近はあの木に登ってないの?」
「雪だしね」
「そう」
春になっても、もう行かない。
マークはアレクサンドラに会う可能性があれば来ないだろうし、アレクサンドラも分かっていてもマークが来ない事に傷付きたくはない。アレクサンドラはそう思った。
「…マークとは、どうなの?」
シンシアがアレクサンドラを窺うように言う。
「どうもこうも。私に好かれても面倒なだけらしいわ」
アレクサンドラは肩を竦めて言った。
「面倒?マークがそう言ったの?」
「うん。ドロシーが来たのも面倒だったらしいわ」
「そうなの?」
「うん」
あの時は、嬉しい気持ちもあると言っていたが、きっと今はそんな気持ちもないだろう。
マークは夕食の席などで一緒になった時でもアレクサンドラを一瞥もしないのだ。
「シンシアは?マークの事…」
まだ好き?と聞きかけると、遮るようにシンシアは言う。
「脈がない人を想い続ける程、一途でも健気でもないの」
「ええ~」
「やっぱり緑のドレスにしようかな。青緑」
「それ、さっきはああ言ったけど、知らない人が見たら本当にウリエルの色だと思われるわよ?」
「そうかしら?」
「そうよ。辺境伯様には卒業パーティーでアリの顔を売りたい気持ちもおありなんじゃないの?アリも適齢期になるし。それなのに周りからウリエルのパートナーだと思われたら台無しじゃない?」
「え?卒業パーティーに私の結婚相手を探す意味もあるの?」
「多分あるわ」
確かに、学園にはアレクサンドラと歳の近い貴族が国中から集まって来ているのだ。
「ベージュが良いわよ。差し色にピンクとか」
「ピンクはかわいすぎない?私似合わなそう…」
ローズの髪がピンクだし、ちょっと避けたいわね。
「じゃあ青か紺」
「そうね。考えてみるわ」
シンシアとそう話ながら歩くアレクサンドラを、廊下の角からマークがじっと見ていた。
6
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる