入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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 マークはアレクサンドラを抱きしめるウリエルの脇腹を模擬刀で打つと、手を緩めた隙にアレクサンドラを引き寄せた。
「う…」
「ウリエル!お父様の所へ行って!」
「アリ…」
 脇腹を押さえてしゃがみ込みながらアレクサンドラを見上げたウリエルは、アレクサンドラの肩を抱くマークを見て俯く。
「…わかった」
 俯いたまま立ち上がる。
「アリ、ごめんな」
 そう呟く様に言うと、部屋を出て行った。

「アリ、大丈夫か?」
 アレクサンドラの顔を覗き込むマークが心底心配そうな表情をしていて、思わずアレクサンドラの眼に涙が浮かんだ。
「マークの馬鹿!剣なんて抜かないでよ!」
 ボロボロと涙を流しながらマークの胸をポカポカと叩く。
「泣くな」
 マークがアレクサンドラの頭を撫でる。
「だって…もし真剣だったらと思うと…怖かった…」
「さすがに真剣なら抜かない。アリに怪我をさせるかも知れないし」
「私の怪我なんてどうでも良いの。またマークが人を傷付けて…自分も傷付くのは見たくないの!」
「アリ…」
 マークはアレクサンドラの背中に手を回す。
「マーク?」
「…今日、試着すると聞いて、衣装が気になって…」
「衣装?」
 マークはアレクサンドラの肩に自身の額を押し付ける。
「この間、緑と赤の衣装を持っていたろう?」
「うん」
 耳を噛まれた時だ。
「…あれが、アリとウリエルの衣装かと…」
「私が緑のドレスを着ると思ったの?」
「……」
 無言でマークは頷く。
 …何だかマークがかわいいわ。
「でもさっき廊下でアントニーが緑の衣装を着ているのを見て…それに、シンシアが赤いドレスを着ていたし。…それで、アリもウリエルも来ないから様子を窺いに来たんだ」
「来てくれて良かったわ。振りほどけなかったから怖かったの」
「…今も、嫌なら言ってくれ。すぐ離す」
「嫌じゃないわ」
 アレクサンドラはマークの胸元をきゅっと握った。

 二人で並んでソファに座る。部屋のドアは開けて、侍女を呼んでお茶を淹れてもらった。
 侍女が退出するとマークは言った。
「前に俺は気持ちが平坦で上がりも下がりもしないと言ったが…アリからゲームの話を聞いてから乱高下してる」
「え?」
「今もその話は信じられないが、あれからアリに怒ったりウリエルに嫉妬したり。…いや、上がってないな。下がってばかりだ」
「嫉妬」
 目を丸くしてマークを見るアレクサンドラに、マークはふっと笑う。
 …笑ったわ。
「そうだ。俺はウリエルに嫉妬した。ロイド殿下にはしなかったのに、だ」
「え?」
「ようやく目の前の薄い被膜が無くなって、俺の本当の感情が戻ってきた気がする」
 マークは自分の胸に拳を当てた。
「本当の感情?」
「ああ。俺はアリが好きだ」
 好き?マークが、私を?
 途端にアレクサンドラの頬が熱くなる。
「さ、さらっと言い過ぎじゃない?」
「そうか?もっと重く言った方が良いか?」
「ううん。心臓が保たないから言わないで」
 耳まで赤くして言うアレクサンドラに、マークは微笑んだ。

-----

「ほう。マークと、ね」
 辺境伯であるアレクサンドラの父ハンクが執務机で足を組みながら言う。
「…はい。お父様、反対します?」
 執務机の前に立ったアレクサンドラはハンクを窺い見る。
「アリは何故反対されると思う?」
「…マークは罪を犯したわ。それに何の罪もない人を後ろから不意打ちで斬るなんて騎士としてはあり得ないでしょう?」
「アリにも騎士道が分かるのか?」
「一応、辺境伯家の娘だもの」
 ハンクはアレクサンドラを見ると、ふっと笑った。
「サイモン殿下と、ロイド殿下が口を揃えて言われるんだ。『本来のマークはそういう事をする人間ではない。今は病気の様な物だから、辺境伯殿の所で鍛えて性根を入れ替えてやって欲しい』とね。アリもそう思うのか?」
「病気…そうね。そうだわ」
 アレクサンドラは深く頷いた。
 ロイドは転生者だからゲームの強制力は効いていない、だからこそマークたちの「恋心」の歪さが分かるのかも知れない。
「私が娘の相手に求めるもの。覚えているか?アリ」
 ハンクが面白そうな表情でアレクサンドラを見る。
「…覚えてます」
 ハンクと模擬闘技をして勝つ。
 姉リズの婚約者もハンクにボロボロにされながらこれを果たして、その後一週間訓練を休んだのだった。

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