入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

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「アリ、ウリエルがごめんなさい」
 勉強部屋の席についたアレクサンドラの前で、シンシアが隣に立つウリエルの頭を押さえて下げさせている。
「ごめん。アリ」
 ウリエルも頭を下げたまま言う。
「…どうしたの?その顔」
 アレクサンドラがウリエルを見て言う。頭を下げていても分かるほど左頬が赤い。
「アリに怖い思いをさせたって言うから、代わりにブン殴った」
 シンシアが拳を握って言う。
「ええ!?」
「最後の考査なのに『受けない』って言うから、さっきもう一発ブン殴った」
「ええ!?」
 アレクサンドラがウリエルに告白されたのはもう二週間も前だ。確かにそれにしては頬が赤すぎると思ったら、さっきも殴ったのか。
「『卒業パーティーにも出ない』とか言い出すし、騎士のくせにこういう時に逃げてどうするの」
 頭を下げたままのウリエルの頭をシンシアはパシッと叩く。
「シンシア、もう勘弁してあげて」
「…アリ」
 ウリエルが頭を上げる。
「本当に、俺は情けない…改めてごめんな。アリ」
 シンシア、本当にグーで殴ったのね…
 ウリエルの頬には平手打ちとは違う赤い跡があった。
「ううん。…気持ちは嬉しかったわ」

「アリに近付くな」
 アレクサンドラの後ろからマークの声がして、首に手を回されて後ろに引き寄せられた。
「マーク」
 椅子に座ったままのアレクサンドラを抱き寄せるようにして、マークはウリエルを睨んでいる。
「マーク、ウリエルは謝ってくれたのよ。幼馴染なんだし私も気まずくなりたくないわ」
 アレクサンドラが後ろを見上げるようにして言うと、マークは手を解いた。
「そうか。なら良いんだ」
 マークはアレクサンドラの頭をポンポンと叩くと自分の席へ座った。
「…無表情なのに甘々なのが伝わるってのもなかなかね」
 シンシアが呆然と呟く。ウリエルはガックリと床に跪いていた。
「あっ甘々!?」
「どう見ても甘々でしょ?ねえ、ウリエル」
 慌てるアレクサンドラを見ながら、シンシアは意味深な視線でウリエルを見る。
 敵わないわよね?と言いたげだ。
「…ああ」
 跪いて俯いたウリエルは絞り出す様に言った。
 その時部屋のドアが開いて、学園から来た教師が入って来た。
「考査始めるぞー。席に着いて」

-----

「どうやら『本当の俺』は嫉妬深い奴らしい」
 アレクサンドラがこっそりと南の塔を訪れると、一人で当番をしていたマークが言った。
「…この距離と関係ある?」
 マークは展望室の一番奥、展望窓の前に立ち、アレクサンドラは展望室の入口の扉の前に立っている。二人には五メートル近くの距離があった。
 近付くなとマークが手の平を掲げてアレクサンドラを止めたからだ。
「ある。あまり近付くな」
 一応、アレクサンドラは辺境伯家の令嬢なので、夜に男と二人きりで居たと噂にならないよう、こっそりと塔に来ていた。
「噂になるのを気にしてるの?」
「違う。むしろ『アリは俺の物』だと周り中に言いたいくらいだ」
 お…俺の物…
 アレクサンドラの頬が赤く染まる。マークが真顔でこういう事を言える人だとは。
「アリは明日には王都に立つだろう?」
「うん」
 辺境伯家の領地から王都までは馬車で十日近くかかる。卒業パーティーに参加するために、明日には出発する予定だ。卒業パーティーに参加しないマークとは暫く会えなくなるのだ。
 だから会いに来たんだけどな。
「卒業パーティーに出れば沢山の貴族と知り合うだろう」
「そう…ね」
「今、近付かれると、そいつらにアリを取られないように…してしまう」
「…何?」
 マークが苦笑いしながらアレクサンドラを見る。
「アリを、お嫁に行けない身体に」
「ええ!?」
 つまり、アレか。アレしてしまう、と。
 アレクサンドラの頬はもちろん、耳も首も赤く染まる。
「辺境伯様に認められる前にそうなると、絶対にアリとの交際も結婚も認めて貰えなくなる。…と言うより、俺は確実に殺されるだろう」
 …お父様なら、そうかも。
「そっそうね」
「だから、不用意に近付くな」
 マークの言葉にアレクサンドラは頷く。
「わかったわ。じゃあここで言うけど…マーク、一緒に王都に行かない?」
「…俺は卒業パーティーには出ないぞ」
「ううん。卒業パーティーじゃなくて、その後」
「その後?」
 アレクサンドラはスカートのポケットから封筒を取り出すと、両手で顔の前に掲げた。
「リザ様と、ロイド殿下に一緒に会わない?」

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