入替令嬢と最果ての恋人

ねーさん

文字の大きさ
25 / 27

24

しおりを挟む
24 

 王宮からの帰りの馬車の中でマークがアレクサンドラに聞く。
「前世のローズは攻略対象者の中でロイド殿下を一番好きだった、と言っていたが、アリは誰を気に入っていたんだ?」
「え?」
マークではなかったんだろう?それにロイド殿下でもない」
 素朴な疑問のように言うマークに、アレクサンドラは言いにくそうに言う。
「…クリストファー」
「クリスか…」
 マークが少し眉を顰めて呟く。
「あのね、前世の私は父親と病院の先生や看護師以外の男性とは話した事もなかったから、男男した人より、クリストファーやサイモン殿下みたいな中性的な感じの人の方が好ましいと思ってたのよ」
「じゃあ今は違う?」
「違うわ。何しろ辺境伯領で騎士に囲まれて育ったんだもの」
 アレクサンドラは薄っすら頬を染めて言う。
 前世から通じても初恋はマークだし…
「そうか。まあ念のためクリスには会わせないようにしよう」
 マークは小さな声で言う。
「え?」
「いや。『アレクサンドラ』は国外追放の後どうなったんだ?リザに聞かれた時に濁しただろ?」
「うん…リザも、もしかしてそれが自分の行く末だったかもと思ったら気分が良くないかと思って…でもぼんやりとしか描かれていないのは本当なのよ」
 マークの向かいに座るアレクサンドラは俯いて視線を彷徨わせる。
「国外追放されてからは…身を売って、生活してたような描写があったわ」
 マークは眼を見開く。
「…では…国外追放にならない場合は?」
「王子に婚約破棄されたらもうお嫁に行く先もないし、最終的にはうんと年上のひとの後妻になるの。でも、その人が被虐趣味で…」
 そう言った処でマークが席から立ち上がると、ガバッとアレクサンドラを抱き締めた。
「ひゃっ!どうしたの?マーク」
「…アリがそんな目に合わなくて良かった」
 アレクサンドラの頬に、マークの頬のガーゼが当たった。

-----

 領地に帰るため王都を立つ日の朝、マークがアレクサンドラの部屋へやって来る。
「どうしたの?」
 部屋の中へは入らずドアを開けた所に立っているマークに駆け寄って前に立つと、アレクサンドラが問い掛けた。
「今日、家に行って来る」
「家?ってスペンサー家?」
「ああ。辺境伯様がアリと俺の婚約を申し込む文書を持たせてくださったんだ」
「え?じゃあ私も一緒に行くわ」
「いや、それはまた今度で。今日は俺一人で行くからアリは予定通り皆と一緒に出発してくれ」
「でも…」
「…俺はまだ父と母に事件の事を謝っていないから…」
 マークは俯く。
 アレクサンドラはマークの頭を両手でくしゃくしゃと撫でた。
「そう言って、実はスペンサー家の方たちに私との婚約を反対されそうだから、じゃないの?…マークが自分を取り戻したなら王都に戻って来いって言われるとか」
「それはないな」
「…どうして?」
「父は辺境伯様のファンなんだ」
「え?」
 マークは頭を撫でるアレクサンドラの手を握ると、手の平に口付けた。
「父も騎士だからな。俺が辺境伯様の騎士団に預けられる事になった時にも口には出さないが羨ましそうだったし」
「羨ましいものなの?」
 辺境伯騎士団に入れられるのは一種の罰ではないの?ご褒美になる人もいるって事?
「騎士の中の騎士だろう?辺境伯様は」
「まあ…そうね」
 アレクサンドラにとっては父は父だし、辺境伯領にいる騎士以外の騎士の事は知らないのだ。
「王都で姿絵が売られる程の人気だぞ」
「絵姿!?」
 ブ…ブロマイド!?アイドルの生写真状態?お父様が…
 王族や人気のある貴族は巷で絵姿が売られるのだ。今一番多く出回っているのは王太子のサイモンの物だろう。ロイドやクリストファーの物もある。絵姿を買うのは若い女性が多い中、辺境伯様の絵姿を持っているのは男ばかりだが、とマークは笑った。

「何と言っても俺は罪を犯したし、それを忘れて王都に戻る事はできない。父もそれは求めないし、認めないと思う。それに、俺は辺境伯様の騎士団に骨を埋めたいと思っているし。…父は辺境伯様と親類になれる事は密かに喜びそうだ」
「喜ぶの?」
「ああ、俺のこの傷が残ったとしても、辺境伯様に付けられた傷なら羨ましがられるかもな」
 マークはガーゼを貼った自分の頬を指差す。
「ええ~」
 マークのお父様、どれだけお父様のファンなの!?
「婚約を整えたら追い掛ける。馬を走らせればすぐに追い付けるから」
 マークはアレクサンドラの頬に手を当てる。
「うん」

 ゆっくりと、二つの影が重なった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい

瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。 伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。 --- 本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...