22 / 83
21
しおりを挟む
21
「いやああああ」
と叫んだアメリアは、芝生の上に座り込み頭を押さえている。
「アメリア!?」
シドニーが部屋を飛び出して行く。
「アメリア様!」
お仕着せの女性がアメリアに取り縋る。
ローゼは二階の窓から呆然とアメリアを眺めていた。
「あそこ!あそこに亡霊が!」
アメリアが片手で頭を押さえて、もう片方の手でローゼのいる窓を指差す。
咄嗟にその場にしゃがみ、ローゼは身を隠した。
「アメリア様何も見えませんよ?」
お仕着せの女性が言うと、アメリアは
「いいえ!ピンクの髪の女の子がいたわ!あれは私を恨んでいるのよ!私を呪いに来たんだわ!」
と叫ぶ。
お母様にとっての「ピンク髪の女の子」は…私は自分を呪う存在なんだ…
窓際でしゃがみ込んだまま、ローゼはブルブルと震える自分の肩を抱いた。
暫く経ち、シドニーがローゼのいた部屋の扉を開ける。
「ローゼ、済まなかったな。もうアメリアも落ち着いて…」
その部屋に、ローゼの姿はなかった。
-----
母のいる家に留まる事ができなくて、洗ってもらった少年姿の服に着替え、屋敷を出たローゼは少ない荷物を持って、馬車が行き交う道を歩いていた。
来た方向とは違う道を進んでいたらしく、上り坂を登り切ると昨日屋敷に向かって歩いた道からは見えなかった湖が見えた。
「あの湖…」
お母様が…
やっぱり私って、前世でも、生まれ変わっても、誰からも愛されない存在なんだなあ。
むしろ、私が生まれたせいでお母様もお兄様も不幸になったんじゃない?
「私が…いなければ…」
負のオーラと言うか、そういう物がきっと私には染み付いてるんだ。
私じゃなければ、他の、どこかの誰かがローゼとして生まれて来て、でもきっと私とは違ってあんな事件も起こらず、両親と兄に愛されて育った明るく素直で純真なヒロインのままゲームが始まって、攻略対象者と惹かれ合い、悪役令嬢に苛められながらも楽しく恋をして、誰かを選んで結ばれていた。
ぐるぐると考えながら歩いていたら、どのくらい時間が経ったのか、すぐ目の前に迫った湖に夕暮れのオレンジの太陽の光が反射していた。
「海みたい…キレイ…」
そんなに大きな湖ではないが、向こう岸まではかなりある。マーシャル公爵家の領地で見た、海に沈む夕陽に似ているとローゼは思った。
ヒロインに生まれたのが私じゃなくても、ヒロインが王太子殿下を攻略すればリリー様が婚約破棄される事には変わりないけど…
ううん。ヒロインが私じゃないなら、ヒロインは公爵家に行事見習いになんて行かないし、婚約破棄からの展開に加えて、飼い犬に手を噛まれるような思いを上乗せする事はなかったわ。
サイオン殿下が私じゃないヒロインに攻略される…か。
ローゼはサイオンに口付けられた自分の手の甲を見る。
あの口付けも、私を見つめる青紫の瞳も、「ローゼというヒロイン」へ向けたもので、私へ向けられた物じゃないのに…わかっているのに、そう思うと胸が苦しい。
私がもし、ここでいなくなったら、ゲームはどうなるのかな?
道を外れて、ふらふらと草むらを歩き、湖に近付く。
さっきまでオレンジに光っていた水面に、青や紺色が混ざってキラキラと光っている。
前世で、最期に見た、景色に似てる。
…もしも、この湖に身を投げて、死んでしまえば、ゲームの力は失くなる?
ゲームの力がなくなれば、サイオン殿下とリリー様の婚約解消もなくなって、攻略対象者もヒロインを好きではなくなって、元々の婚約者や恋人と元の仲に戻れるのかな?
お兄様も、厄介な妹が居なくなって、結婚して幸せになれる…?
ローゼは暗くなり始めた湖畔に立ち竦んだ。
「いやああああ」
と叫んだアメリアは、芝生の上に座り込み頭を押さえている。
「アメリア!?」
シドニーが部屋を飛び出して行く。
「アメリア様!」
お仕着せの女性がアメリアに取り縋る。
ローゼは二階の窓から呆然とアメリアを眺めていた。
「あそこ!あそこに亡霊が!」
アメリアが片手で頭を押さえて、もう片方の手でローゼのいる窓を指差す。
咄嗟にその場にしゃがみ、ローゼは身を隠した。
「アメリア様何も見えませんよ?」
お仕着せの女性が言うと、アメリアは
「いいえ!ピンクの髪の女の子がいたわ!あれは私を恨んでいるのよ!私を呪いに来たんだわ!」
と叫ぶ。
お母様にとっての「ピンク髪の女の子」は…私は自分を呪う存在なんだ…
窓際でしゃがみ込んだまま、ローゼはブルブルと震える自分の肩を抱いた。
暫く経ち、シドニーがローゼのいた部屋の扉を開ける。
「ローゼ、済まなかったな。もうアメリアも落ち着いて…」
その部屋に、ローゼの姿はなかった。
-----
母のいる家に留まる事ができなくて、洗ってもらった少年姿の服に着替え、屋敷を出たローゼは少ない荷物を持って、馬車が行き交う道を歩いていた。
来た方向とは違う道を進んでいたらしく、上り坂を登り切ると昨日屋敷に向かって歩いた道からは見えなかった湖が見えた。
「あの湖…」
お母様が…
やっぱり私って、前世でも、生まれ変わっても、誰からも愛されない存在なんだなあ。
むしろ、私が生まれたせいでお母様もお兄様も不幸になったんじゃない?
「私が…いなければ…」
負のオーラと言うか、そういう物がきっと私には染み付いてるんだ。
私じゃなければ、他の、どこかの誰かがローゼとして生まれて来て、でもきっと私とは違ってあんな事件も起こらず、両親と兄に愛されて育った明るく素直で純真なヒロインのままゲームが始まって、攻略対象者と惹かれ合い、悪役令嬢に苛められながらも楽しく恋をして、誰かを選んで結ばれていた。
ぐるぐると考えながら歩いていたら、どのくらい時間が経ったのか、すぐ目の前に迫った湖に夕暮れのオレンジの太陽の光が反射していた。
「海みたい…キレイ…」
そんなに大きな湖ではないが、向こう岸まではかなりある。マーシャル公爵家の領地で見た、海に沈む夕陽に似ているとローゼは思った。
ヒロインに生まれたのが私じゃなくても、ヒロインが王太子殿下を攻略すればリリー様が婚約破棄される事には変わりないけど…
ううん。ヒロインが私じゃないなら、ヒロインは公爵家に行事見習いになんて行かないし、婚約破棄からの展開に加えて、飼い犬に手を噛まれるような思いを上乗せする事はなかったわ。
サイオン殿下が私じゃないヒロインに攻略される…か。
ローゼはサイオンに口付けられた自分の手の甲を見る。
あの口付けも、私を見つめる青紫の瞳も、「ローゼというヒロイン」へ向けたもので、私へ向けられた物じゃないのに…わかっているのに、そう思うと胸が苦しい。
私がもし、ここでいなくなったら、ゲームはどうなるのかな?
道を外れて、ふらふらと草むらを歩き、湖に近付く。
さっきまでオレンジに光っていた水面に、青や紺色が混ざってキラキラと光っている。
前世で、最期に見た、景色に似てる。
…もしも、この湖に身を投げて、死んでしまえば、ゲームの力は失くなる?
ゲームの力がなくなれば、サイオン殿下とリリー様の婚約解消もなくなって、攻略対象者もヒロインを好きではなくなって、元々の婚約者や恋人と元の仲に戻れるのかな?
お兄様も、厄介な妹が居なくなって、結婚して幸せになれる…?
ローゼは暗くなり始めた湖畔に立ち竦んだ。
6
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
