32 / 83
31
しおりを挟む
31
「…あの、これ、どういう状況ですか?」
ローゼは、呼び出された寮のリリーの部屋のドアを開けるなり呆気に取られた表情で固まった。
部屋の中には、リリーとデボラが居る。秋期が始まってからこの二人とはよく部屋を行き来しているので、それは不思議ではない。
リリーは「もう私はローゼの主人じゃないんだもの。これからはローゼの友人よ」と言ってくれたのだ。
ただ、今日はリリーとデボラ以外にも部屋に人が居た。
リリーの右隣に座るのはエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢。左隣にはエレノア・ウィンブロー伯爵令嬢。
向かいのソファには奥からサフィ・デップマン伯爵令嬢、ドロワ・カーティス子爵令嬢、そしてデボラが座っている。
これは…コーネリア様以外の悪役令嬢が勢揃い…だわ。
「ローゼはここに座って」
デボラが立ち上がって自分が座っていた所へとローゼを促す。
デボラは人数分の紅茶を手際よくテーブルに置くと、食卓の椅子を持って来て、ローゼの隣へと置いて座った。
リリーとデボラはニコニコしていて、他の四人はじっとり睨むようにローゼを見ている。
「リリー様、これはどう言う事ですの?」
エリカサンドラがリリーに言う。
「あのね、ローゼの事を知ってもらえば、みんな意地悪する気がなくなるんじゃないかと思ったのよ。お友達になれとまでは言わないけど…」
「こっこんな女と友達になんて、なれる訳ありませんわ!」
「そうです。無理です」
エリカサンドラが手に持っていた扇でローゼの方を指して言うと、エレノアが同調して頷いた。
「えいっ」
リリーが自分の扇で、リリーの前へ伸ばされたエリカサンドラの扇を上からペシンと叩く。ポトリと扇がリリーのスカートの上に落ちた。
「そうやって扇で人を指すのは下品よ。エリカ様」
にっこり笑って扇を手に取りエリカサンドラへ両手で差し出すリリー。
エリカサンドラはバツが悪そうに「扇を叩き落とすのも上品とは…」と呟きながら扇を受け取った。
「エレノアはどうして無理だと思うの?」
リリーがエレノアの方を向いて言う。エレノアはリリーの弟クリスティンの幼なじみだ。と、言う事はリリーの幼なじみでもある。
「え?あの、だって…クリスが…」
「クリスは確かにローゼに夢中でエレノアを蔑ろにしていると思うわ。でも、それはあくまでもクリスがエレノアを蔑ろにしているのであって、ローゼが何か関係あるのかしら?」
「…だって、この女がクリスを誘惑して…」
「具体的にローゼが何をしたのかしら?」
エレノアは視線をうろうろと彷徨わせている。ローゼが何かをしたエピソードを思い付かないからだ。
「エリカ様も、サフィ様、ドロワ様も、貴女たちのお相手に、ローゼが何をしたのか、考えてみて」
「……」
リリーの言葉に黙って考える令嬢たち。
「私も、マリックがあんまりローゼ、ローゼと言うし、私の事を放っておくから、腹が立って、憎くて…ローゼの持ち物を隠したり、嫌味を言ったりしたし、家から下剤持って来て飲ませようかと思ったりしたんですけど…」
デボラがそう言うと、リリーが
「下剤!?」
と声を上げる。
「実行してませんよ」
デボラは苦笑いすると、話を続ける。
「夏期休暇にひょんな所でローゼと会って話して…マリックに対してローゼから働きかけた事など何一つないし、ローゼはマリックを好きでもないし、まして、自分を好きにさせたいなんて思ってもいないのが分かったんです」
「……でも」
サフィが自分の膝の上に置いた手を握りしめる。
「この人が働きかけた訳ではないのは、その通りかも知れません。でもランドール様が急にピンクを好きになったり、私と話していても上の空だったり、遠目でこの人を眺めている時の表情とか……辛くて…」
「デップマン様…分かるわ…」
隣のドロワが眉を寄せて言う。
「…ただ、私の舞踏会での発言が、事実ではなかった事は…素直に謝罪したいと思います」
「事実ではないと…?」
ドロワがそう聞くと、サフィは頷く。
「我が家に王太子殿下がお見えになって…父に守秘義務違反での異動を告げられた際に説明を受けました」
サイオン殿下が?
ローゼは咄嗟にリリーを見る。リリーはローゼと目が合うと頷いた。
「ええ。そう聞いているわ」
「私も、その件は誤解がないように、とロイズ殿下からお聞きしましたわ」
エリカサンドラも言う。
「だから…」
サフィは立ち上がると、ローゼに向かって頭を下げた。
「自分が辛いからって、貴女の尊厳を傷付ける様な事を言って…誇張された噂になってしまって…本当にごめんなさい」
「え、あの」
ローゼも立ち上がる。
が、サフィに何と言って良いか分からない。
リリーを見ると、ゆっくりと頷く。
リリーに「言いたい事があるなら言いなさいな」と言われた気がして、ローゼは拳を握って声を発した。
「…あの、これ、どういう状況ですか?」
ローゼは、呼び出された寮のリリーの部屋のドアを開けるなり呆気に取られた表情で固まった。
部屋の中には、リリーとデボラが居る。秋期が始まってからこの二人とはよく部屋を行き来しているので、それは不思議ではない。
リリーは「もう私はローゼの主人じゃないんだもの。これからはローゼの友人よ」と言ってくれたのだ。
ただ、今日はリリーとデボラ以外にも部屋に人が居た。
リリーの右隣に座るのはエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢。左隣にはエレノア・ウィンブロー伯爵令嬢。
向かいのソファには奥からサフィ・デップマン伯爵令嬢、ドロワ・カーティス子爵令嬢、そしてデボラが座っている。
これは…コーネリア様以外の悪役令嬢が勢揃い…だわ。
「ローゼはここに座って」
デボラが立ち上がって自分が座っていた所へとローゼを促す。
デボラは人数分の紅茶を手際よくテーブルに置くと、食卓の椅子を持って来て、ローゼの隣へと置いて座った。
リリーとデボラはニコニコしていて、他の四人はじっとり睨むようにローゼを見ている。
「リリー様、これはどう言う事ですの?」
エリカサンドラがリリーに言う。
「あのね、ローゼの事を知ってもらえば、みんな意地悪する気がなくなるんじゃないかと思ったのよ。お友達になれとまでは言わないけど…」
「こっこんな女と友達になんて、なれる訳ありませんわ!」
「そうです。無理です」
エリカサンドラが手に持っていた扇でローゼの方を指して言うと、エレノアが同調して頷いた。
「えいっ」
リリーが自分の扇で、リリーの前へ伸ばされたエリカサンドラの扇を上からペシンと叩く。ポトリと扇がリリーのスカートの上に落ちた。
「そうやって扇で人を指すのは下品よ。エリカ様」
にっこり笑って扇を手に取りエリカサンドラへ両手で差し出すリリー。
エリカサンドラはバツが悪そうに「扇を叩き落とすのも上品とは…」と呟きながら扇を受け取った。
「エレノアはどうして無理だと思うの?」
リリーがエレノアの方を向いて言う。エレノアはリリーの弟クリスティンの幼なじみだ。と、言う事はリリーの幼なじみでもある。
「え?あの、だって…クリスが…」
「クリスは確かにローゼに夢中でエレノアを蔑ろにしていると思うわ。でも、それはあくまでもクリスがエレノアを蔑ろにしているのであって、ローゼが何か関係あるのかしら?」
「…だって、この女がクリスを誘惑して…」
「具体的にローゼが何をしたのかしら?」
エレノアは視線をうろうろと彷徨わせている。ローゼが何かをしたエピソードを思い付かないからだ。
「エリカ様も、サフィ様、ドロワ様も、貴女たちのお相手に、ローゼが何をしたのか、考えてみて」
「……」
リリーの言葉に黙って考える令嬢たち。
「私も、マリックがあんまりローゼ、ローゼと言うし、私の事を放っておくから、腹が立って、憎くて…ローゼの持ち物を隠したり、嫌味を言ったりしたし、家から下剤持って来て飲ませようかと思ったりしたんですけど…」
デボラがそう言うと、リリーが
「下剤!?」
と声を上げる。
「実行してませんよ」
デボラは苦笑いすると、話を続ける。
「夏期休暇にひょんな所でローゼと会って話して…マリックに対してローゼから働きかけた事など何一つないし、ローゼはマリックを好きでもないし、まして、自分を好きにさせたいなんて思ってもいないのが分かったんです」
「……でも」
サフィが自分の膝の上に置いた手を握りしめる。
「この人が働きかけた訳ではないのは、その通りかも知れません。でもランドール様が急にピンクを好きになったり、私と話していても上の空だったり、遠目でこの人を眺めている時の表情とか……辛くて…」
「デップマン様…分かるわ…」
隣のドロワが眉を寄せて言う。
「…ただ、私の舞踏会での発言が、事実ではなかった事は…素直に謝罪したいと思います」
「事実ではないと…?」
ドロワがそう聞くと、サフィは頷く。
「我が家に王太子殿下がお見えになって…父に守秘義務違反での異動を告げられた際に説明を受けました」
サイオン殿下が?
ローゼは咄嗟にリリーを見る。リリーはローゼと目が合うと頷いた。
「ええ。そう聞いているわ」
「私も、その件は誤解がないように、とロイズ殿下からお聞きしましたわ」
エリカサンドラも言う。
「だから…」
サフィは立ち上がると、ローゼに向かって頭を下げた。
「自分が辛いからって、貴女の尊厳を傷付ける様な事を言って…誇張された噂になってしまって…本当にごめんなさい」
「え、あの」
ローゼも立ち上がる。
が、サフィに何と言って良いか分からない。
リリーを見ると、ゆっくりと頷く。
リリーに「言いたい事があるなら言いなさいな」と言われた気がして、ローゼは拳を握って声を発した。
6
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる