ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

文字の大きさ
56 / 83

55

しおりを挟む
55

 翌日、デボラの病室へ訪れたクレイグは、ベッドの傍らに立って言う。
「明日からへ行く事になったんだ」
「そうなんですか」
「だから明日からは暫く来れないが…」
「はい。色々上手く行くように祈っていますね」
 デボラはクレイグを見上げて笑う。
 クレイグは苦虫を噛み潰したような表情で、片手で自分の口元を覆った。
「クレイグ様?」
「私が来れなくても…もう大丈夫なんだよな…」
「え?」
 呟くように言うクレイグ。デボラが聞き返すとクレイグは首を横に振る。
「いや。そういえば歩く練習を始めたと聞いたけど?」
「あ、はい。今日は廊下を向こうの端まで行って戻りました。歩くのは大丈夫なんですけど、身体を捻ったり、立ったり座ったりする時痛いので、少しづつですね」
「そうか。無理はしないようにね」
「はい」
「……」
「……」
 会話が途切れて、デボラが不思議そうにクレイグを見た。
「…何だか昨日から変ですね。クレイグ様」
「変?」
「お疲れですか?本当に無理にここへ来てくださらなくても大丈夫なので…」
「無理はしていない」
「え?」
 クレイグはベッドに両手をつく。昨日、マリックがしていたように。
「クレイグ様?」
「…昨日、来ていた幼なじみがデボラ嬢の恋人で攻略対象者?」
「え?あ、マリック?」
「ああ」
「そうですけど…あの…?」
 クレイグは眉を寄せてデボラを見る。
「別れたと聞いたけど、恋人なのを否定しないんだね。…縒りが戻った?」
「え?」
 クレイグ様は何でこんなに切なそうな表情をされてるの?
「…ああ、駄目だな」
 クレイグは膝をついてベッドに突っ伏した。
「クレイグ様?」
「私は自分が思う程大人ではなかったようだ」
「大人?」
 クレイグはベッドに顔を伏せたままで言う。
「デボラ嬢…」
「はい?」
「…もしも幼なじみと縒りが戻ったのなら、聞き流してくれて良いんだが」
「?」
 ゆっくりと顔を上げたクレイグは、デボラを上目遣いで見ながら言った。
「私はデボラ嬢に恋をしている」

 …こい?
 え?恋!?
「なっ何で!?」
 落ち着いてて、大人で、格好良くて、優しくて、強くて、貴族で、大人で、格好良くて…ああ、堂々巡りだわ。
 そんな男性ひとが、私に、恋?
 もしかして聞き間違い?
 それとも「こい」の意味が違うの?鯉?濃い?故意?
「『何で』と来るのか」
 目を白黒させるデボラに、クレイグは苦笑いをする。
「自分が怪我をしているのに『ローゼは大丈夫だ』と言ったら『良かった』と言って笑ったんだよ。その時…何と言えば良いのか…私に生まれて初めての感情が生まれた」
「ふえ!?」
 私、笑ったの?良く覚えてないけど、刺されて、クレイグ様に助けられて、運ばれた時よね?
「…心を、奪われたんだ」
 ひえええ!
 真っ赤になってあわあわと狼狽えるデボラ。
 クレイグはそんなデボラを少しの間見つめると、すっと立ち上がった。
「…クレイグ様?」
「済まない。こんな歳の離れたおじさんに、恋をしているなんて言われても…気持ち悪いし、困るよね」
 口角を上げ、笑顔を作る。
 デボラはクレイグを呆然と見上げた。
「そんな…こと…」
「困らせたい訳ではないんだ。…本当に済まない」
 そう言うと、クレイグは踵を返して病室を出て行った。

-----

「『待ってください』って言おうと思ったのに声が出なくて…」
「うん」
 赤茶の髪に、侍従の服を着たローゼがデボラのベッドの側に立っている。男の子の格好なので、扉は開けてあり、ベッドからも少し距離を取っていた。
「クレイグ様はおじさんじゃないし、気持ち悪くなんかないし…って言おうと思ったの」
「うん」
「でも困ってないとは言えなくて…だって、信じられる?」
「ん?」
「クレイグ様みたいな男性ひとが私に恋をするなんて、信じられないでしょ?」
「そう?」
 ローゼは不思議そうに言う。
「私はお兄様が好きになったのがデビィで嬉しいけどな」
「う、嬉しい?」
「見る目あると思う」
「ええ~?」
 デボラは照れたように鼻に皺を寄せる。
「デビィは?お兄様の事そういう対象として考えられない?」
 ローゼはにこにこと笑いながら言う。
「…考えた事もないから、今から考える」
 デボラは赤くなりながら俯いた。

「明日に行くんでしょ?」
「うん」
「緊張してる?」
「してる」
 ローゼはこくんと頷く。
「そうよね…クレイグ様にも言ったけど、色々上手く行くように祈ってるわ」
「うん。ありがとうデビィ」
 ローゼとデボラは見つめ合って、微笑み合った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...