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翌日。
屋敷の前に馬車が停まり、クレイグが馬車を降りる。黒い鬘のローゼに続き、クレイグが手を差し伸べてリリーも馬車を降りた。
「クレイグ君、ローゼ、リリー様、ようこそおいでくださいました」
頭を下げて迎えるのはシドニー・ブラウン伯爵。ローゼの伯父だ。
「ローゼ、元気そうで良かった」
「伯父様にも沢山ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
頭を下げるローゼの肩をシドニーはポンポンと叩く。
「無事なら良いんだよ。詳しい話は中でしよう」
応接室で、クレイグが手渡した書面を読んだシドニーは、視線を上げると苦く笑いながら言う。
「大体の話は聞いていたが…改めてサイオン殿下も大胆な事をお考えになる」
「義伯父上」
「伯父様」
「『ローゼが実は双子だった計画』と『ローゼにそっくりな娘を養女にする計画』か、ローゼはどちらが良いんだ?」
「伯父様…その前に、本当に良いんですか?」
ローゼはシドニーを窺うように言う。
「うん?」
「どちらの計画でも…私、ブラウン伯爵家の…お母様の子供という事になるんですけど…」
実は双子だったとしたら、もちろんシドニーの妹でローゼの母親アメリアの娘という事になるし、そっくりな娘を養女にするのも、計画ではアメリアの娘としてブラウン家の籍に入る事になっているのだ。
「ああ。もちろん承知しているよ」
シドニーはそう言ってローゼに微笑み掛ける。
「…いずれにせよ、ローゼが我が家に来るなら、アメリアの件は避けては通れない。それに、アメリアだってローゼが幸せになるのなら、喜んで協力する筈なんだ。本当ならば」
「伯父様…」
「覚悟を決める時が来たんだ。アメリアも、私も」
シドニーはキッパリと言った。
ブラウン伯爵家ならば、クレイグが出入りし、ローゼと交流しても不自然ではないし、ローゼがブラウン伯爵家の娘として学園に行く際、エンジェル男爵家を休みの日に帰る「親戚の家」にする事もできる。
また今まで伯爵家から王太子妃を輩出した前例はないが、伯爵家も上位貴族である上、王太子の達ての希望という事であればそう困難ではないだろう。
ローゼをブラウン伯爵家の娘にするため、アメリアに、思い出させなければならない。
-----
シドニーは、庭を見たいと言うリリーに伴って、以前アメリアと話した東屋へと来ていた。
「今日はアメリア様はどちらに?」
東屋の中にあるテーブルで紅茶を飲みながらリリーはシドニーに問う。
「アメリアの友人が婚家から帰って来ているので、その家へ行っております。明日には戻りますよ」
「その方はアメリア様の記憶の事をご存知なのですか?」
「ええ。子供の頃からの友人なので」
「そうなんですか」
あのバラはもう花の時期は終わっちゃったのね…
リリーは以前アメリアとシドニーと見たバラのある方を眺める。ローゼとアメリア色のバラと、シドニーの色のバラ。
庭を見ていると、シドニーが
「もしも…」
と呟くように言った。
「…もしも、アメリアが思い出さなかったり、思い出してもローゼを拒絶したりした時には、ローゼを私の養女にします」
「え?」
「アメリアがちゃんと母親としてローゼに接する事ができるなら、その必要はないですが…ローゼに、母親か、父親かがちゃんといて、愛されてかわいがられる生活をさせてやりたい。ほんの数年でも」
真剣な表情のシドニー。
リリーはそんなシドニーを見つめる。
「これまで、ローゼに関わって来なかった伯父が今更何を言うかと思われそうですけど」
苦笑い。
ああ…やっぱり…
「もしローゼを養女にするなら、私も結婚していた方が良いのだろうか…?」
小さな声でシドニーが言う。それを聞き逃さなかったリリーは「え!?」と思わず声を出す。
「…いえ、将来王太子妃になる令嬢の養い親となるなら、父母揃っていた方が良いのだろうかと思いまして」
「…シドニー様には、ご結婚を考えておられるようなお相手がおられるのですか?」
「リリー様?」
もしかして、アメリア様のご友人?「婚家から帰って来ている」って、里帰りじゃなくて、離婚とか死別とかで婚家との縁を切って帰って来たとか!?
不思議そうな表情をしたシドニーをじっと見つめるリリー。
「あの…リリー様?」
「…シドニー様、あの、これ、読んでいただけますか?」
リリーはドレスのポケットから白い封筒を取り出し、テーブルの上に置く。
「手紙…ですか?」
「はい」
白い封筒には模様も紋章もない。宛名も差出人も書かれていない。
シドニーは首を傾げながら封筒を手に取る。
「わっ私、読まれている間、お庭を見ていますね!」
リリーは勢い良く立ち上がると、東屋を出て庭に降り、ずんずんと以前見たバラの植わった方へと歩いて行く。
「…?」
シドニーはそんなリリーの後姿を少し眺めた後、封筒を開いて便箋を取り出した。
翌日。
屋敷の前に馬車が停まり、クレイグが馬車を降りる。黒い鬘のローゼに続き、クレイグが手を差し伸べてリリーも馬車を降りた。
「クレイグ君、ローゼ、リリー様、ようこそおいでくださいました」
頭を下げて迎えるのはシドニー・ブラウン伯爵。ローゼの伯父だ。
「ローゼ、元気そうで良かった」
「伯父様にも沢山ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
頭を下げるローゼの肩をシドニーはポンポンと叩く。
「無事なら良いんだよ。詳しい話は中でしよう」
応接室で、クレイグが手渡した書面を読んだシドニーは、視線を上げると苦く笑いながら言う。
「大体の話は聞いていたが…改めてサイオン殿下も大胆な事をお考えになる」
「義伯父上」
「伯父様」
「『ローゼが実は双子だった計画』と『ローゼにそっくりな娘を養女にする計画』か、ローゼはどちらが良いんだ?」
「伯父様…その前に、本当に良いんですか?」
ローゼはシドニーを窺うように言う。
「うん?」
「どちらの計画でも…私、ブラウン伯爵家の…お母様の子供という事になるんですけど…」
実は双子だったとしたら、もちろんシドニーの妹でローゼの母親アメリアの娘という事になるし、そっくりな娘を養女にするのも、計画ではアメリアの娘としてブラウン家の籍に入る事になっているのだ。
「ああ。もちろん承知しているよ」
シドニーはそう言ってローゼに微笑み掛ける。
「…いずれにせよ、ローゼが我が家に来るなら、アメリアの件は避けては通れない。それに、アメリアだってローゼが幸せになるのなら、喜んで協力する筈なんだ。本当ならば」
「伯父様…」
「覚悟を決める時が来たんだ。アメリアも、私も」
シドニーはキッパリと言った。
ブラウン伯爵家ならば、クレイグが出入りし、ローゼと交流しても不自然ではないし、ローゼがブラウン伯爵家の娘として学園に行く際、エンジェル男爵家を休みの日に帰る「親戚の家」にする事もできる。
また今まで伯爵家から王太子妃を輩出した前例はないが、伯爵家も上位貴族である上、王太子の達ての希望という事であればそう困難ではないだろう。
ローゼをブラウン伯爵家の娘にするため、アメリアに、思い出させなければならない。
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シドニーは、庭を見たいと言うリリーに伴って、以前アメリアと話した東屋へと来ていた。
「今日はアメリア様はどちらに?」
東屋の中にあるテーブルで紅茶を飲みながらリリーはシドニーに問う。
「アメリアの友人が婚家から帰って来ているので、その家へ行っております。明日には戻りますよ」
「その方はアメリア様の記憶の事をご存知なのですか?」
「ええ。子供の頃からの友人なので」
「そうなんですか」
あのバラはもう花の時期は終わっちゃったのね…
リリーは以前アメリアとシドニーと見たバラのある方を眺める。ローゼとアメリア色のバラと、シドニーの色のバラ。
庭を見ていると、シドニーが
「もしも…」
と呟くように言った。
「…もしも、アメリアが思い出さなかったり、思い出してもローゼを拒絶したりした時には、ローゼを私の養女にします」
「え?」
「アメリアがちゃんと母親としてローゼに接する事ができるなら、その必要はないですが…ローゼに、母親か、父親かがちゃんといて、愛されてかわいがられる生活をさせてやりたい。ほんの数年でも」
真剣な表情のシドニー。
リリーはそんなシドニーを見つめる。
「これまで、ローゼに関わって来なかった伯父が今更何を言うかと思われそうですけど」
苦笑い。
ああ…やっぱり…
「もしローゼを養女にするなら、私も結婚していた方が良いのだろうか…?」
小さな声でシドニーが言う。それを聞き逃さなかったリリーは「え!?」と思わず声を出す。
「…いえ、将来王太子妃になる令嬢の養い親となるなら、父母揃っていた方が良いのだろうかと思いまして」
「…シドニー様には、ご結婚を考えておられるようなお相手がおられるのですか?」
「リリー様?」
もしかして、アメリア様のご友人?「婚家から帰って来ている」って、里帰りじゃなくて、離婚とか死別とかで婚家との縁を切って帰って来たとか!?
不思議そうな表情をしたシドニーをじっと見つめるリリー。
「あの…リリー様?」
「…シドニー様、あの、これ、読んでいただけますか?」
リリーはドレスのポケットから白い封筒を取り出し、テーブルの上に置く。
「手紙…ですか?」
「はい」
白い封筒には模様も紋章もない。宛名も差出人も書かれていない。
シドニーは首を傾げながら封筒を手に取る。
「わっ私、読まれている間、お庭を見ていますね!」
リリーは勢い良く立ち上がると、東屋を出て庭に降り、ずんずんと以前見たバラの植わった方へと歩いて行く。
「…?」
シドニーはそんなリリーの後姿を少し眺めた後、封筒を開いて便箋を取り出した。
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