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庭から戻って来たリリーは、目を真っ赤にしながらもローゼに笑顔を向けた。
「心配しなくて大丈夫だから、今だけ少し一人にして」
そう言ってリリーは用意された客間に篭っていたが、夕食にはきちんと身なりを整えて現れ、何もなかったかのように振る舞う。
シドニーも、務めて普通に振る舞っていた。
「リリー様…あの…」
ローゼはリリーの髪を梳かしながらおずおずと声を掛ける。
「…今は何も言わないで。ローゼ。王都に戻ったら、話すわ」
苦く笑うリリー。
「わかりました」
頷くローゼにリリーは言う。
「それより、明日よ、ローゼ。覚悟は決まった?」
明日はアメリアが戻って来るのだ。
「…はい」
ローゼはごくんと息を飲む。
できるならば、お母様があまり傷付かないと良い。
私は、お母様に怖がられても、怯えられても、嫌われても、きっと大丈夫。サイオン様が私を待っていてくださるから。
-----
「義伯父上、サイオン殿下からの手紙をお読みになったんですね?」
ガタンッと音を立ててシドニーはテーブルに向こう脛をぶつける。
「痛っ」
「わかりやすい動揺の仕方ですね」
クレイグは少し呆れた様子で言った。
「いや、あのな…」
シドニーはテーブルにワインボトルを置くと、グラスをクレイグと自分の前に置き、ソファに座って脛をさする。
「何故リリー様を振ったんですか?」
クレイグはワインをシドニーのグラスと自分のグラスに注ぎながら言う。
「振っ…たつもりはないが…いや、受け入れなかったと言う事は私が振ったと言う事になるのか…」
小声でブツブツと呟くシドニー。
「リリー様に何かご不満でもおありで?」
「…それ以前に、クレイグ君だったら信じられるか?こんな話」
ワインをぐいっと飲みながら言う。
「それは…まあ。信じられませんね」
「だろう?それに、私には一時の気の迷い、時間が経てば消えて失くなる感情にしか見えない」
「気の迷い…ですか?」
「そう。それに我が子でもおかしくない年齢だぞ?そういう目では見られんよ」
「義伯父上は今おいくつでしたか?」
「三十七になった」
「リリー様が学園を来春卒業という事は十八歳…十九歳差ですか」
ふむ。とクレイグは考える。
十九歳差と十二歳差、言葉の上では大差ない気がする。と、言う事は自分が十二歳下のデボラ嬢をそういう目で見ているのはやはりおかしい事なのか。
十八歳と十五歳と考えると、私は、より、おかしいのかも知れないな…
あの男のように「女の子供」なら誰でも良い訳ではない事だけが救いか。
クレイグはグラスの中のワインを眺めながらそう思った。
「いくら婚約破棄されるとはいえ、王太子妃になろうかと言う程の令嬢なら、こんなオジサンの後妻でなくとも、もっと良い話はあるだろう?」
「まあ…しかし逆にもっと条件が悪くなる可能性もありますよ」
「あるか?」
「リリー様の父公爵次第ですが…婚約破棄にお怒りならば、もっと歳上で、自分より歳上の子供のいる相手とか、辺境とか、外国とか…」
「……」
「嗜虐趣味のある相手とか、若い女性が好きな爺とか」
「……」
「…特殊な性癖のある相手とか」
苦虫を噛み潰したような表情でクレイグが言う。
「なっ…」
正に特殊な性癖のある相手に妹は娶られ、妹も姪も義理の甥も傷付けられたのだ。
リリーまでがそんな相手に傷付けられるなんて、許される筈がない。
シドニーはカッと頭に血が上るのを感じる。
それでも、ワイングラスが割れそうな程、指に力を入れてその気持ちをやり過ごした。
「…王太子妃にするつもりで愛しんだ娘にそんな仕打ちはしないさ」
「……」
涙を堪えて笑顔を作ったリリーを思い出す。
あんなに若くて綺麗で、本来は私なんかが気安く話す事すらできない程の高位貴族の令嬢。あの方に、あんな顔をさせるような価値が、自分にあるとは到底思えない。
「それより、明日だ。アメリアが戻って来たら…どうする?」
シドニーは話題を変えるように頭を振りながら言った。
庭から戻って来たリリーは、目を真っ赤にしながらもローゼに笑顔を向けた。
「心配しなくて大丈夫だから、今だけ少し一人にして」
そう言ってリリーは用意された客間に篭っていたが、夕食にはきちんと身なりを整えて現れ、何もなかったかのように振る舞う。
シドニーも、務めて普通に振る舞っていた。
「リリー様…あの…」
ローゼはリリーの髪を梳かしながらおずおずと声を掛ける。
「…今は何も言わないで。ローゼ。王都に戻ったら、話すわ」
苦く笑うリリー。
「わかりました」
頷くローゼにリリーは言う。
「それより、明日よ、ローゼ。覚悟は決まった?」
明日はアメリアが戻って来るのだ。
「…はい」
ローゼはごくんと息を飲む。
できるならば、お母様があまり傷付かないと良い。
私は、お母様に怖がられても、怯えられても、嫌われても、きっと大丈夫。サイオン様が私を待っていてくださるから。
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「義伯父上、サイオン殿下からの手紙をお読みになったんですね?」
ガタンッと音を立ててシドニーはテーブルに向こう脛をぶつける。
「痛っ」
「わかりやすい動揺の仕方ですね」
クレイグは少し呆れた様子で言った。
「いや、あのな…」
シドニーはテーブルにワインボトルを置くと、グラスをクレイグと自分の前に置き、ソファに座って脛をさする。
「何故リリー様を振ったんですか?」
クレイグはワインをシドニーのグラスと自分のグラスに注ぎながら言う。
「振っ…たつもりはないが…いや、受け入れなかったと言う事は私が振ったと言う事になるのか…」
小声でブツブツと呟くシドニー。
「リリー様に何かご不満でもおありで?」
「…それ以前に、クレイグ君だったら信じられるか?こんな話」
ワインをぐいっと飲みながら言う。
「それは…まあ。信じられませんね」
「だろう?それに、私には一時の気の迷い、時間が経てば消えて失くなる感情にしか見えない」
「気の迷い…ですか?」
「そう。それに我が子でもおかしくない年齢だぞ?そういう目では見られんよ」
「義伯父上は今おいくつでしたか?」
「三十七になった」
「リリー様が学園を来春卒業という事は十八歳…十九歳差ですか」
ふむ。とクレイグは考える。
十九歳差と十二歳差、言葉の上では大差ない気がする。と、言う事は自分が十二歳下のデボラ嬢をそういう目で見ているのはやはりおかしい事なのか。
十八歳と十五歳と考えると、私は、より、おかしいのかも知れないな…
あの男のように「女の子供」なら誰でも良い訳ではない事だけが救いか。
クレイグはグラスの中のワインを眺めながらそう思った。
「いくら婚約破棄されるとはいえ、王太子妃になろうかと言う程の令嬢なら、こんなオジサンの後妻でなくとも、もっと良い話はあるだろう?」
「まあ…しかし逆にもっと条件が悪くなる可能性もありますよ」
「あるか?」
「リリー様の父公爵次第ですが…婚約破棄にお怒りならば、もっと歳上で、自分より歳上の子供のいる相手とか、辺境とか、外国とか…」
「……」
「嗜虐趣味のある相手とか、若い女性が好きな爺とか」
「……」
「…特殊な性癖のある相手とか」
苦虫を噛み潰したような表情でクレイグが言う。
「なっ…」
正に特殊な性癖のある相手に妹は娶られ、妹も姪も義理の甥も傷付けられたのだ。
リリーまでがそんな相手に傷付けられるなんて、許される筈がない。
シドニーはカッと頭に血が上るのを感じる。
それでも、ワイングラスが割れそうな程、指に力を入れてその気持ちをやり過ごした。
「…王太子妃にするつもりで愛しんだ娘にそんな仕打ちはしないさ」
「……」
涙を堪えて笑顔を作ったリリーを思い出す。
あんなに若くて綺麗で、本来は私なんかが気安く話す事すらできない程の高位貴族の令嬢。あの方に、あんな顔をさせるような価値が、自分にあるとは到底思えない。
「それより、明日だ。アメリアが戻って来たら…どうする?」
シドニーは話題を変えるように頭を振りながら言った。
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