ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「サイオン殿下!先生!」
 ブラウン伯爵家の屋敷の門の外で、ローゼは近付いて来る二頭の馬に手を振る。
 ローゼに近付くと、馬を止めてサイオンとイヴァンは馬から降りた。
「ローゼリア、一応お忍びだから外でサイオンの名前を呼ばないで」
 イヴァンが苦笑いしながら言う。
「あ、ごめんなさい」
「いいんだ。お忍びと言いつつも、俺がローゼに会いに来ている事もさり気なく周知しなくてはならないからな」
 サイオンはローゼを軽く抱き寄せると額にキスをする。
「で、殿下!」
「サイオン、一応俺もいるんで多少は遠慮してくれ」
 イヴァンが呆れたように言う。
「俺は一人で来たかったのに、侍従かイヴァンかが一緒じゃないと駄目だと宰相が言うから、仕方なく連れて来ているんだ」
「王太子が一人で何時間も馬を駆けるなど、許可されなくて当たり前だろ」
 ブラウン伯爵家まで王都から馬で駆けてもほぼ一日掛かる。イヴァンの仕事の休みが週二日しかないので、サイオンもそれに合わせて執務を調整し、仕事を終えた夜に王都を出て、翌日夕方伯爵家に着き、次の日の午前には伯爵家を立ち、翌日の朝王都に到着し、そのまま仕事をする。そんな強行軍でも月に二回はサイオンはローゼに会いに来ている。
「夜も昼も駆けて来られてるんで私も心配です」
 ローゼは眉を寄せて首を傾げる。
 会えるのは嬉しいけど…やっと春めいて来たけど、冬の夜道は心配だったな。王都からここまで雪が多い地域とかがないのだけでも良かったけど。
「毎週じゃないんだから大丈夫だ」
「執務には差し障りないんですか?」
 馬丁に馬を預け、屋敷へと三人で歩く。
「執務に影響させると何を言われるかわからないからな。以前より精力的に、完璧にこなしてるよ」
 サイオンは口角を上げて言う。
「ニューマン先生は?」
「俺だってローゼ…リアに会うためなら頑張れるさ」
「会うのを楽しみにしてるのはローゼにだけじゃないだろう?」
 サイオンはイヴァンを横目で見る。イヴァンは目を逸らして
「まあね」と言った。

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「卒業パーティーまであと三週間か」
「そうですね…」
 夕食を終え、就寝までの時間にローゼはサイオンの泊まる客間を訪れる。独身の男女が二人きりになるには非常識な時間だが、ブラウン家では既にサイオンはローゼの婚約者扱いなので、不埒な振る舞いはしないという誓約の上で特別に許されているのだ。
 サイオンとローゼは座ったソファの上で手を繋ぐ。
 ずっと話してたいけど、サイオン様のためにも眠ってもらわないとね。
「サイオン様、そろそろ…」
「ああ…時間が経つのが早いな…」
 立ち上がり掛けたローゼの手を引き、サイオンはローゼに軽くハグをする。
 自分の前に立つローゼの両手を取りサイオンはローゼを見上げた。
「ローゼ」
「はい」
「色々考えたが…卒業パーティーの前に陛下に婚約解消の事を話そうと思う」
「…はい」
「リリーを伴い、二人で陛下にお会いしようと考えている。陛下の了承だけでもいただければ、卒業パーティーで婚約解消を発表しようかと」
 サイオンの父である国王が婚約解消を了承しても、次には議会の承認、そして教会からの許可を経ないと正式な決定とはならない。それでも国王の意向が強ければ最終的には議会は承認するし、教会は議会の承認があれば許可をする。ただとても長い時間が必要となるのだ。
 
「リリーを断罪して婚約破棄する必要はなくなったし、断罪する理由をわざわざ捏造する必要もないだろう?」
「はい。私はリリー様が断罪されるのは嫌だったので…その方が良いです」
 リリーが断罪された上で婚約破棄されたいと願ったのは、親子程に歳の離れた離婚歴のある男性との縁を望んだからだ。
 そのために断罪などされる謂れのないリリーを断罪する架空の理由を作り上げるつもりだったのだ。
「ただ…俺は色恋に現を抜かし、正当な『婚約という契約』を破るうつけ者として、王太子の立場を追われる事になるやも知れない」
 サイオンは真剣な表情でローゼを真っ直ぐに見つめる。
「…そうなったとしても、俺はローゼを選ぶ」
「サイオン様!」
 ローゼはサイオンの首に抱きついた。
「私も!私もサイオン様のお立場がどうなっても、私のはもうサイオン様のものですから。私は絶対サイオン様から離れません」
「ローゼ…」
 サイオンもローゼの背中に手を回した。
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