長身令嬢ですが、王太子妃の選考大会の招待状が届きました。

ねーさん

文字の大きさ
18 / 98

17

しおりを挟む
17

 あれは俺が八歳の時の、当時の国王陛下…俺の祖父の誕生パーティーの夜。
 当時王太子だった父は、王太子妃である母と第一王子の俺、そして側妃とその子供、第一王女アイリーンと第二王子スアレスを伴ってパーティーに出席していた。
 その頃の母は体調に波があり、その日は調子が悪かったので、早くにその場を辞してしまった。

 その場に残された俺は、父と並ぶ側妃、そしてアイリーンとスアレスを見て、疎外感を覚えたんだ。

「王太子妃はまた欠席か」
「最初から側妃を王太子妃にしておけばなあ」
「第一王子がいなければ離縁もあり得たが…」
 密やかに交わされる会話も耳につく。

 ふと横を見ると、父の腕にはスアレスが抱かれ、側妃が父に寄り添い、アイリーンが父の足に纏わりついている。

 不意に、ぼくは邪魔なんだ、との考えが頭に浮かんだ。

 父と、母と、娘と、息子。あの仲睦まじい四人が父が望む本当の「家族」なのではないのか、と。

 そっと会場を抜け出して、夜の庭に出た。
 明かりを灯された庭も、少し影になると深い闇だ。

 ぼくがいない事に気付いて、慌てて探せばいい。第一王子がいなくなれば大騒ぎだろ。
 ぼくが第一王子だから、大騒ぎになる。
 でもそれはじゃない。

 木の影に座り込む。

 しばらく経つが、誰も探しに来ない。
 …第一王子が居なくなっても第二王子スアレスが居るから?

 ガサッ。
「ユリウス殿下?」
 名前を呼ばれて俯いていた顔を上げる。

 濃茶色の髪の女の子が少し屈んでぼくを覗き込んでいた。
 探しに、来てくれた?
「こんな所で何してるんですか?」
 不思議そうな表情。
 ……探しに来てくれたんじゃないのか…やっぱり誰もぼくを探してなんていないんだ。
「……まえ」
「え?」
 キッと女の子を睨む。きょとんとした表情に苛々とした気持ちが募った。
「お前!」
「は?」
「お前!ぼくを連れ出したと言え!」
「はい!?」
「お前が、ぼくを、連れ出したと、パーティー会場に戻って証言しろ!」
 そうでもしないと、探されてもいないのにノコノコ戻るなんでできない。結果、このひとがどうなろうと知るもんか!
 やさぐれた気持ちで女の子を睨みつけた。
「嫌ですよ」
 首を傾げながら言う。
「嫌だと?ぼくの言うことが聞けないのか!?」
「聞けませんよ。そうしたら私が犯罪者になるんですよ?」
「そんな事知るもんか」
「うわぁ…」
 女の子は、呆れた様に眉を寄せる。
「ぼくは第一王子だ!逆らうとタダでは済まないんだぞ!」
「不敬罪ですか?」
「そうだ」
「……」
 女の子は真剣な表情になると、静かに言った。

「私、立場や権力を笠に着た振る舞い、嫌いです」

「!」
 女の子は濃茶の髪を掻き上げながら「ふぅ」とため息を吐く。明かりが反射して、茶色の瞳が静かに光っている。
 嫌い。という言葉に心臓が跳ねる。
「……」
 嫌われた。
 嫌われたんだ。

 急に自分が恥ずかしくなり、胸がぎゅううっと痛くなった。
「殿下!?」
 女の子がギョッとした表情になる。
「…あ」
 涙が。

 小さくため息を吐いて、彼女はポンポンとぼくの頭を叩く。
「拐かすより頭ポンポンの方が不敬ですかね?」
 ブンブンと首を振る。
 手が暖かくて、嬉しかった。
「……ないで」
「はい?」
「…ぼくの事…嫌いにならないで」
 ボロボロと涙が溢れた。
「なりません。素直な子は好きですよ?」
 彼女はぼくの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 ぼくの隣に座って、ぼくが、父の事、母の事、ぼくの事を話すのを彼女はじっと聞いてくれた。
 相槌だけで、何かを言ってくれた訳ではなかったけど、ぼくは思いを口に出す事で心が落ち着いて、随分スッキリとした気持ちになったんだ。

「戻りましょう?みんな心配していますよ」
 そんな事ない。
 少しそう思ったけれど、黙って頷いて立ち上がる。

 彼女に手を引かれて、パーティー会場の近くまで戻ると、ぼくの姿が見えなくなったと、会場は大騒ぎになっていた。
「ユリウス殿下!」
「王太子殿下、ユリウス殿下が!」
 騎士の一人が彼女の腕を掴むと、強く引く。ぼくと繋いでいた手が離れた。
「貴様、殿下に何を!?」
 いけない。本当に彼女がぼくを連れ出した事になってしまう。
「ちがうんだ!」
「殿下?」
「大丈夫ですよ。ユリウス殿下」
 彼女はそう言うと、優しく微笑んだ。

「ユーリ!」
 そして、幼い頃に呼ばれていた愛称を呼びながら、必死な表情の父が駆けて来て、ぼくを抱きしめたんだ。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...