60 / 98
59
しおりを挟む
59
厩舎の側にいたポニーを厩舎の壁を背にして馬場の周りを取り囲む柵の外から眺める。
「ポニーって足が太くて短くてかわいいわぁ」
マリアが柵にもたれて言う。
競技用の馬や馬車を引く馬もかわいいけど、やっぱり小さいって無条件にかわいいわよね。
シャーロットもマリアの隣で柵にもたれると、腕を柵に乗せて、腕の上に顎を乗せる。
その時、シャーロットの視界いっぱいの黒い塊が上から下へ横切った。
「っ!」
ガシャーンッ!!
厩舎の屋根から落ちて来た瓦がシャーロットの額を掠めて、地面に落ちて割れる。
その音に驚き、いなないてポニーが駆け出し、障害競技用の馬にぶつかり、その馬が女生徒を乗せたまま走り出した。
「きゃあああ!」
女生徒の悲鳴が響き、ドカドカとした足音がシャーロットたちの方へ近付いて来た。
「ロッテ!」
何かが視界を横切った恐怖でその場に座り込んだシャーロットの腕をマリアが引っ張る。
「足が……」
力が入らない。
と言う間もなく、馬の足音が近付いて来る。
シャーロットは渾身の力を振り絞って、マリアを突き飛ばした。
ガシャガシャーンッ!!
バキバキッ!ドンッ!
シャーロットが手で頭を庇いながらギュッと目を閉じると、凄まじい衝突音がして、馬が柵にぶつかり、破壊しながら厩舎の壁にぶつかる。
「ロッテ!」
身体を柵に薙ぎ倒され、衝撃で気を失うシャーロットの視界に、紫色が過った。
馬に乗っていた女生徒は投げ出され、厩舎の壁にぶつかり、土の上へと倒れ込む。馬は厩舎の壁にヒビを入れながらも立ち上がり、ブフンッと息を吐くと尻もちをついたマリアのいる方へ駆け出す。
「きゃあ!!」
「マリア!」
マリアが身を縮こませると、男性がマリアを庇う様に覆いかぶさり、馬はヒラリとマリアと男性を飛び越えて行った。
そのまま走り去った馬は厩務員が手綱を掴んでどうにかそれ以上の被害を出さずに止めたらしい。
「ルーカス様!?何でここにいるんですか!?」
マリアは自分を庇った男性を見て声を上げた。
「ユリウス殿下にお伝えする事があってたまたま来たんだ。それより、マリア怪我はないか?」
ルーカスがマリアの両腕を押さえて言う。
「私は大丈夫です。ロッテは?ロッテは大丈夫なんですか?」
マリアはルーカスの服の鳩尾辺りを両手で掴んだ。
「それに、ルーカス様が庇うべきなのはロッテでしょう!?ロッテに何かあったら絶対助けるって言ってたじゃないですか!」
「いや。そうなんだが、私はマリアを助けたんだ」
ルーカスは真剣な表情でマリアを見た。
「…はい?そうですね?」
マリアはきょとんとしてルーカスを見る。
「私はロッテより、マリアを助けた。そして今、ユリウス殿下よりもマリアを優先している」
「…はい。そうですね。あの、ルーカス様?」
首を傾げるマリアを、ルーカスはぎゅうっと抱きしめた。
-----
「ロッテ!」
シャーロットを庇ったユリウスは、気を失って横たわるシャーロットを抱き起こす。
ぐったりしてユリウスにもたれるシャーロットの額と腕と足から血が流れていた。
馬から投げ出された女生徒を駆け付けたメレディスが介抱している。
「ルーカス」
「はい!」
ユリウスがルーカスを呼ぶと、ルーカスはマリアを抱きしめたまま返事をした。
「怪我人を王城の医療棟へ。マリアに怪我がないならロッテはルーカスが運べ」
「はい」
マリアを抱きしめる腕を緩めると、ルーカスはマリアに「大丈夫か?」と聞く。マリアは混乱しながらも頷いて「私も行きます」と言った。
「ユリウス殿下も怪我をされているではありませんか。一緒に王城へ…」
シャーロットを横抱きにしたルーカスはユリウスへ言う。
ユリウスの制服の背中には微かに血が滲んでいる。
「俺は大丈夫だ。事故の始末と、大会を締めてから戻る」
「ですが、先程も申し上げました通り…」
「わかっている。大丈夫だ」
ユリウスはそう言うと、シャーロットの額の血を親指で拭った。
シャーロットたちを乗せた馬車が王城へと向かうのを確認し、ユリウスは本部へ戻るべく歩き出す。
馬車を遠巻きに見ていた生徒たちもバラバラと散らばり始めた。
「ユリウス殿下!」
生徒たちの中からオードリーが駆けて来る。
「殿下!血が背中に…あ、そこにも」
オードリーがユリウスの手を指差す。
ユリウスは自分の手を見ると、親指にシャーロットの血が付いていた。
「…ああ、これは俺の血ではない」
ユリウスは上着のポケットからハンカチを取り出すと、指の血を拭い取った。
「オードリー」
「はい」
「済まない」
血の付いたハンカチを握りしめる。
「ユリウス殿下?」
オードリーがユリウスを見上げる。ユリウスは眉を顰めて苦しそうに言った。
「俺は…もう王太子でいる事ができない」
厩舎の側にいたポニーを厩舎の壁を背にして馬場の周りを取り囲む柵の外から眺める。
「ポニーって足が太くて短くてかわいいわぁ」
マリアが柵にもたれて言う。
競技用の馬や馬車を引く馬もかわいいけど、やっぱり小さいって無条件にかわいいわよね。
シャーロットもマリアの隣で柵にもたれると、腕を柵に乗せて、腕の上に顎を乗せる。
その時、シャーロットの視界いっぱいの黒い塊が上から下へ横切った。
「っ!」
ガシャーンッ!!
厩舎の屋根から落ちて来た瓦がシャーロットの額を掠めて、地面に落ちて割れる。
その音に驚き、いなないてポニーが駆け出し、障害競技用の馬にぶつかり、その馬が女生徒を乗せたまま走り出した。
「きゃあああ!」
女生徒の悲鳴が響き、ドカドカとした足音がシャーロットたちの方へ近付いて来た。
「ロッテ!」
何かが視界を横切った恐怖でその場に座り込んだシャーロットの腕をマリアが引っ張る。
「足が……」
力が入らない。
と言う間もなく、馬の足音が近付いて来る。
シャーロットは渾身の力を振り絞って、マリアを突き飛ばした。
ガシャガシャーンッ!!
バキバキッ!ドンッ!
シャーロットが手で頭を庇いながらギュッと目を閉じると、凄まじい衝突音がして、馬が柵にぶつかり、破壊しながら厩舎の壁にぶつかる。
「ロッテ!」
身体を柵に薙ぎ倒され、衝撃で気を失うシャーロットの視界に、紫色が過った。
馬に乗っていた女生徒は投げ出され、厩舎の壁にぶつかり、土の上へと倒れ込む。馬は厩舎の壁にヒビを入れながらも立ち上がり、ブフンッと息を吐くと尻もちをついたマリアのいる方へ駆け出す。
「きゃあ!!」
「マリア!」
マリアが身を縮こませると、男性がマリアを庇う様に覆いかぶさり、馬はヒラリとマリアと男性を飛び越えて行った。
そのまま走り去った馬は厩務員が手綱を掴んでどうにかそれ以上の被害を出さずに止めたらしい。
「ルーカス様!?何でここにいるんですか!?」
マリアは自分を庇った男性を見て声を上げた。
「ユリウス殿下にお伝えする事があってたまたま来たんだ。それより、マリア怪我はないか?」
ルーカスがマリアの両腕を押さえて言う。
「私は大丈夫です。ロッテは?ロッテは大丈夫なんですか?」
マリアはルーカスの服の鳩尾辺りを両手で掴んだ。
「それに、ルーカス様が庇うべきなのはロッテでしょう!?ロッテに何かあったら絶対助けるって言ってたじゃないですか!」
「いや。そうなんだが、私はマリアを助けたんだ」
ルーカスは真剣な表情でマリアを見た。
「…はい?そうですね?」
マリアはきょとんとしてルーカスを見る。
「私はロッテより、マリアを助けた。そして今、ユリウス殿下よりもマリアを優先している」
「…はい。そうですね。あの、ルーカス様?」
首を傾げるマリアを、ルーカスはぎゅうっと抱きしめた。
-----
「ロッテ!」
シャーロットを庇ったユリウスは、気を失って横たわるシャーロットを抱き起こす。
ぐったりしてユリウスにもたれるシャーロットの額と腕と足から血が流れていた。
馬から投げ出された女生徒を駆け付けたメレディスが介抱している。
「ルーカス」
「はい!」
ユリウスがルーカスを呼ぶと、ルーカスはマリアを抱きしめたまま返事をした。
「怪我人を王城の医療棟へ。マリアに怪我がないならロッテはルーカスが運べ」
「はい」
マリアを抱きしめる腕を緩めると、ルーカスはマリアに「大丈夫か?」と聞く。マリアは混乱しながらも頷いて「私も行きます」と言った。
「ユリウス殿下も怪我をされているではありませんか。一緒に王城へ…」
シャーロットを横抱きにしたルーカスはユリウスへ言う。
ユリウスの制服の背中には微かに血が滲んでいる。
「俺は大丈夫だ。事故の始末と、大会を締めてから戻る」
「ですが、先程も申し上げました通り…」
「わかっている。大丈夫だ」
ユリウスはそう言うと、シャーロットの額の血を親指で拭った。
シャーロットたちを乗せた馬車が王城へと向かうのを確認し、ユリウスは本部へ戻るべく歩き出す。
馬車を遠巻きに見ていた生徒たちもバラバラと散らばり始めた。
「ユリウス殿下!」
生徒たちの中からオードリーが駆けて来る。
「殿下!血が背中に…あ、そこにも」
オードリーがユリウスの手を指差す。
ユリウスは自分の手を見ると、親指にシャーロットの血が付いていた。
「…ああ、これは俺の血ではない」
ユリウスは上着のポケットからハンカチを取り出すと、指の血を拭い取った。
「オードリー」
「はい」
「済まない」
血の付いたハンカチを握りしめる。
「ユリウス殿下?」
オードリーがユリウスを見上げる。ユリウスは眉を顰めて苦しそうに言った。
「俺は…もう王太子でいる事ができない」
11
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる