王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん

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「アリシアがパリヤ第一王子の婚約者に決まったぞ」
 ウィルフィス公爵家当主でアリシアの父であるレイモンドがその知らせを受けたのは、アリシア、パリヤ共に八歳の時だった。
 当時は王弟であるハリジュが25歳で、パリヤとどちらが立太子するか決まっていない頃だったが、ハリジュが一貫して王位には就かない、王位継承争いを招きたくないので自分は結婚もしないと公言していたのでパリヤが学園に入るまでには立太子するだろうと思われていた。
「アリシア、王子さまのお嫁さんになるの?」
 父を見上げるアリシアにレイモンドは相合を崩しながら頭を撫でた。
「アリシア、自分の事は名前で呼ばす、わたくし、と言いなさい」
「はーい」
 無邪気に返事をするアリシアに、レイモンドは「これから王太子妃、王妃としての教育が始まるのか…」と愛娘の過酷な将来に思いを馳せた。

-----

「アリシアがパリヤ殿下と婚約!?」
 アリシアの兄、グレッグが驚いたように言う。グレッグの部屋の隅に控えていたジーンは「え…」と思わず声を出した。
「ジーン」
「申し訳ありません」
 ジーンの父であり、ウィルフィス公爵家の執事であるネイハムに嗜められ、ジーンは姿勢を正す。
「ネイハム、ジーンは俺の幼なじみだし、そんなに堅苦しくしないで」
 グレッグが言うが、ネイハムは首を横に振る。
「グレッグ様もジーンももう10歳です。そろそろ弁えなくてはなりません」
 ちえーっとグレッグが唇を尖らせると、ネイハムは小声で
「まあ…二人きりの時は私には見えませんから」
 と言い、少し笑った。

 ネイハムが部屋を出て行くと、グレッグは勉強机からジーンを振り向く。
「二人きりだから声出しても良いんじゃない?それともショックで声が出ないの?ジーン」
「…別にショックじゃない」
 ジーンはそう言うとグレッグに近づく。同じ年に生まれた公爵家の嫡男と執事の長男は幼なじみというより兄弟のようだった。
「またまた。実の兄の俺よりアリシアの事かわいがってるくせに」
 からかうようにグレッグが言うと、ジーンはため息を吐いた。
「アリシアは公爵家の令嬢だし、第一王子とは同い年だし、こうなるだろうと予想してた」

 その時、グレッグの部屋のドアがバーンと開いた。
「グレイにいさま!ジーンにいさま!」
 アリシアが入って来る。
「アリシア、王子さまとけっこんするんだって!」
 アリシアが言うと、グレッグは苦笑いをしながらジーンを見る。ジーンはグレッグから目を逸らした。
「アリシア嬉しい?」
 グレッグが聞くと、アリシアは「だって王子さまだよ?」と首を傾げる。
「王子さまとけっこんするのはお姫さまだよね?」
「アリシアはお姫様になりたいの?」
 ジーンが聞くと、アリシアは「うん」と頷いた。

-----

 パリヤとアリシアが13歳の頃パリヤを王太子とする事が正式に決まり、アリシアも王太子妃教育として、週に五日は王宮に通う事になった。
「…お姫様になるのも楽じゃないのね」
夕方王宮から公爵邸へ帰ってきたアリシアは大きなため息を吐いた。
「お疲れですね。今日は何をなさったんですか?」
 アリシア付きの侍女ダイアナがアリシアの髪を梳きながら聞く。ダイアナはアリシアより二歳上、グレッグやジーンと同じ年で、アリシアとパリヤが婚約した頃からアリシア付きの侍女として仕えている。いずれアリシアがパリヤと結婚する際にはダイアナも一緒に王宮に上がる事になっている。
 アリシアはふんわりした雰囲気のダイアナがとても好きだ。
「語学…と言うか、北部や東部の方言よ。同じ国の言葉なのに地方によって微妙に違うのよねぇ。外国語の方が一から覚えなきゃで大変だけど、こう…微妙に意味がわかるのに~って言うのもなかなかストレスだわ」
「そんなものですか…」
「そうなの…」
 アリシアとダイアナは揃ってため息を吐いた。

「そうだ。グレイ兄様からいつ帰って来るか、連絡あったのかしら?」
 アリシアはパッと顔を上げた。
 グレッグとジーンはこの春学園に入学し、寮生活をしている。もうすぐ長期休暇で家に戻る予定なのだ。
「私は聞いておりませんが、グレッグ様から旦那様へお手紙が来ていたようですからお知らせがあったかも知れませんね」
「そう。後でお父様に聞かなくちゃ!」

 グレイ兄様とジーン兄様のお顔、こんなに長い間見なかったの生まれて初めてだわ。
 せっかく学園は夏季休暇なのに私の方の王宮通いには長期休暇がないんだもん。別荘にも行けないし、遠出もできないし、つまんないなあ~。

 アリシアは一人でまたため息を吐いた。
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