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シルベストの目の前に、ドレスアップした令嬢が二人立っている。
「今日の舞踏会のドレス、お兄様にも見せてあげようと思って」
そう言ってスカートを摘むのはクラリッサだ。
「……」
シルベストは無言でクラリッサの隣に立つセシリアを見た。
「えっと………おはようございます」
居心地が悪そうに身を竦めているセシリア。
そんなセシリアを見て、シルベストは少し苛立つ。
「おはよう」
セシリア嬢はまた俺が困ると思って恐縮してるんだろう。
婚約者なんだから遠慮ばかりせず、もっと俺に対して強く出てもいいんじゃないか?
いやしかし実際強く出られても困るんだが。
「そのネックレス…俺が贈った物か?」
セシリアのドレスは紺に青の差し色の入ったもの、それに合わせたサファイアのネックレスとピアスをしていた。
「見覚えが?」
セシリアの顔がパッと輝く。
しまった。また「期待」をさせてしまった。次に来るのは「落胆」。その表情は見たくないんだが…
「…推測だ。サファイアが俺の瞳の色だから」
「あ…」
できるだけ表情に出さないように気をつけているのだろう。それでもセシリアが意気消沈したのがシルベストには伝わった。
「そうなんです。このドレスもネックレスもピアスも髪飾りも靴も…シルベスト様の卒業パーティーの時に贈っていただいたものなんですよ」
セシリアの表情がふわりと緩む。
…俺の知らない俺を思い出しているのか。
青いドレスと装飾品、それに手袋と靴はシルバー。俺の瞳と髪の色。
自分の卒業パーティーに、これを贈るとは…俺はどれだけ独占欲が強いのか。
そんな感情は、俺は知らない。
「そうか」
セシリアから視線を逸らすと、視界の端に寂しげに微笑むセシリアが見えた。
「クラリッサ、セシリア嬢、そろそろ行こう」
病室の扉からアルヴェルが顔を出す。
「生徒会長がこんな時間にこんな所にいていいのか?」
生徒会役員は早めに舞踏会の会場である学園の講堂へ集まっている筈なのだ。
「準備は万端だから大丈夫」
白い夜会服のアルヴェルはセシリアとクラリッサの間に立つと、両手を広げるように差し出した。
「二人とも、お手をどうぞ」
「王子様にエスコートしてもらうなんて贅沢ね」
クラリッサが笑って自分の手をアルヴェルの手に乗せる。
「本当」
セシリアもそれに倣って手を乗せた。
「両手に花で、僕が一番贅沢だね。じゃあシルベスト、また来るよ」
「ああ」
扉を出る前に、セシリアがシルベストに会釈をする。
アルヴェルに手を取られて出て行くセシリアをシルベストは黙って眺めていた。
-----
「思い出さないのなら、もう一度恋をすればいいのよ」
王城の医療棟から学園の舞踏会へ向かう馬車で、クラリッサが言う。
もう一度…と言っても、シルと私が生徒会で一緒に役員をしてたから何かと顔を合わせたり話したりする機会も多くて、そんな中で私はシルを好きになったし、シルも私を好きになってくれた。
でも今は、私は学園生で、シルは王城に勤めてる。
頻繁に会える訳じゃないし、そんなに話せる訳でもないし…
今のシルにとって、私は顔見知り程度の令嬢で、その程度なのに婚約者だから困ってて、この状況でもう一度恋をするのは無理だと思う。
「それは…無理じゃないかしら?」
首を傾げるセシリア。
「記憶がなくても、シルベストは以前のシルベストとは違うと僕は思う。だからあながち無理でもないんじゃないか?」
アルヴェルがそう言うと、クラリッサは大きく頷いた。
「そうよ。私もそう思うわ。だって以前のお兄様には私、なかなか話し掛けられなかったし、冷たいから苦手だったわ。話し掛けても『ああ』とか『そうか』とかくらいしか返って来なかった。でも今のお兄様とはちゃんと会話ができるもの」
「それは、シルは本当は冷たい人なんかじゃないって知ったから、話し掛けやすくなっただけじゃ?」
「いや、僕も、以前のシルベストより今のシルベストの方が口数が多いと思っていた。記憶がなくてもセシリア嬢の影響は残っているのではないかな?」
私の、影響…?
セシリアは腿の上の自分の手をギュッと握った。
そうだとしたら、シルは三年前に戻った訳じゃないし、今のシルは『氷』じゃないって事。
……私が傍にいなくても…大丈夫なんだわ。
シルベストの目の前に、ドレスアップした令嬢が二人立っている。
「今日の舞踏会のドレス、お兄様にも見せてあげようと思って」
そう言ってスカートを摘むのはクラリッサだ。
「……」
シルベストは無言でクラリッサの隣に立つセシリアを見た。
「えっと………おはようございます」
居心地が悪そうに身を竦めているセシリア。
そんなセシリアを見て、シルベストは少し苛立つ。
「おはよう」
セシリア嬢はまた俺が困ると思って恐縮してるんだろう。
婚約者なんだから遠慮ばかりせず、もっと俺に対して強く出てもいいんじゃないか?
いやしかし実際強く出られても困るんだが。
「そのネックレス…俺が贈った物か?」
セシリアのドレスは紺に青の差し色の入ったもの、それに合わせたサファイアのネックレスとピアスをしていた。
「見覚えが?」
セシリアの顔がパッと輝く。
しまった。また「期待」をさせてしまった。次に来るのは「落胆」。その表情は見たくないんだが…
「…推測だ。サファイアが俺の瞳の色だから」
「あ…」
できるだけ表情に出さないように気をつけているのだろう。それでもセシリアが意気消沈したのがシルベストには伝わった。
「そうなんです。このドレスもネックレスもピアスも髪飾りも靴も…シルベスト様の卒業パーティーの時に贈っていただいたものなんですよ」
セシリアの表情がふわりと緩む。
…俺の知らない俺を思い出しているのか。
青いドレスと装飾品、それに手袋と靴はシルバー。俺の瞳と髪の色。
自分の卒業パーティーに、これを贈るとは…俺はどれだけ独占欲が強いのか。
そんな感情は、俺は知らない。
「そうか」
セシリアから視線を逸らすと、視界の端に寂しげに微笑むセシリアが見えた。
「クラリッサ、セシリア嬢、そろそろ行こう」
病室の扉からアルヴェルが顔を出す。
「生徒会長がこんな時間にこんな所にいていいのか?」
生徒会役員は早めに舞踏会の会場である学園の講堂へ集まっている筈なのだ。
「準備は万端だから大丈夫」
白い夜会服のアルヴェルはセシリアとクラリッサの間に立つと、両手を広げるように差し出した。
「二人とも、お手をどうぞ」
「王子様にエスコートしてもらうなんて贅沢ね」
クラリッサが笑って自分の手をアルヴェルの手に乗せる。
「本当」
セシリアもそれに倣って手を乗せた。
「両手に花で、僕が一番贅沢だね。じゃあシルベスト、また来るよ」
「ああ」
扉を出る前に、セシリアがシルベストに会釈をする。
アルヴェルに手を取られて出て行くセシリアをシルベストは黙って眺めていた。
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「思い出さないのなら、もう一度恋をすればいいのよ」
王城の医療棟から学園の舞踏会へ向かう馬車で、クラリッサが言う。
もう一度…と言っても、シルと私が生徒会で一緒に役員をしてたから何かと顔を合わせたり話したりする機会も多くて、そんな中で私はシルを好きになったし、シルも私を好きになってくれた。
でも今は、私は学園生で、シルは王城に勤めてる。
頻繁に会える訳じゃないし、そんなに話せる訳でもないし…
今のシルにとって、私は顔見知り程度の令嬢で、その程度なのに婚約者だから困ってて、この状況でもう一度恋をするのは無理だと思う。
「それは…無理じゃないかしら?」
首を傾げるセシリア。
「記憶がなくても、シルベストは以前のシルベストとは違うと僕は思う。だからあながち無理でもないんじゃないか?」
アルヴェルがそう言うと、クラリッサは大きく頷いた。
「そうよ。私もそう思うわ。だって以前のお兄様には私、なかなか話し掛けられなかったし、冷たいから苦手だったわ。話し掛けても『ああ』とか『そうか』とかくらいしか返って来なかった。でも今のお兄様とはちゃんと会話ができるもの」
「それは、シルは本当は冷たい人なんかじゃないって知ったから、話し掛けやすくなっただけじゃ?」
「いや、僕も、以前のシルベストより今のシルベストの方が口数が多いと思っていた。記憶がなくてもセシリア嬢の影響は残っているのではないかな?」
私の、影響…?
セシリアは腿の上の自分の手をギュッと握った。
そうだとしたら、シルは三年前に戻った訳じゃないし、今のシルは『氷』じゃないって事。
……私が傍にいなくても…大丈夫なんだわ。
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