婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん

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 クラリッサはセシリアの前に封筒を差し出す。
「誕生パーティー?」
「そうなの。ロレッタがどうしてもセシリアに来て欲しいって…」
「ロレッタが…」
 ロレッタはもうすぐ七歳になるシルベストとクラリッサの歳の離れた妹だ。
 ロレッタが来て欲しいって言ってくれるのは嬉しいけど、シルは私がマルセル家の行事に参加するの…嫌なんじゃないかな?
 差し出された封筒を受け取れずに、セシリアが封筒をじっと見ていると、クラリッサはおずおずと話しだした。
「身内と友人だけの小さなパーティーなの。それにロレッタの誕生日は一か月後だから、お兄様はまだ入院してるんじゃないかしら。退院しているとしても療養中でパーティーには出られないと思うし…」
「……」
 クラリッサは私が気まずい思いをするんじゃないかと心配してるみたいだけど、多分私だけじゃなくて、シルのお父様お母様もクラリッサもみんな私がいたら気まずいと思うんだよね。
「それに…マジョリカも来るし…やっぱり嫌だよね?」
 言いにくそうにセシリアを見る。
「マジョリカ様も…」
「うん。やっぱりなし!ロレッタには私から言っておくから」
 セシリアは、封筒をポケットに納めようとするクラリッサの手首を握った。
「出席するわ。ロレッタにそう伝えて」
 セシリアはクラリッサの手から封筒を取ると、ニコリと笑う。
「…ありがとうセシリア。ロレッタは本当にセシリアに懐いてるから喜ぶわ」
 クラリッサも安心したように笑った。

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「予定より早く退院できそうだな」
 シルベストの病室を訪れているアルヴェルが言う。
「ああ。足の方は思ったより早く骨が着いたようだ。腕は粉砕骨折だからなかなかだが。内臓の損傷はなかったし、入院していても歩く練習をする以外やる事はないからな」
 事故からもうすぐ二か月、足の固定具は簡易なものになり、少しづつ負荷を掛けながら歩行の練習をしている。もちろんまだ杖は必要だが、ゆっくりとなら階段の登り降りもできるようになった。
 記憶は相変わらず戻らないままだが。
「しかし、クラリッサがシルベストに『帰って来るな』と言うとはな」
 アルヴェルはクスクスと笑った。
「ロレッタの誕生パーティーにセシリア嬢を招いているから、パーティーが終わるまでは退院するな、だそうだ」
 俺の記憶にあるクラリッサは、俺の事を嫌っていた。いや、嫌うというよりは怖がっていた。
 いつもしかめ面で、口数の少ない兄。妹と遊んだり親しく話したりした事もないのだから無理もない。
 だが、クラリッサは、俺の記憶がないと知った最初こそ、父母と同じように俺に対して腫れ物に触るような態度だったが、最近は遠慮なくズケズケと物を言うようになっている。
「昔のお兄様は怖くて近寄れなかったわ。でも、セシリアと付き合うようになってから、お兄様が不器用で感情を表に出すのが苦手なんだってわかったの」
 そうクラリッサは言う。
 言葉にこそ出さないが、早く俺にセシリアの事を思い出せと思っているのがわかる。

「誕生パーティーはいつなんだ?」
「誕生日自体は一週間後だ。ただ、パーティーは学園が夏期休暇に入ってからやるから、二週間後だな」
 シルベストは壁に掛かっている暦に視線をやる。
「なるほど。夏期休暇になればクラリッサやセシリア嬢、それにマジェリカ嬢も参加しやすいからか。それにしてもロレッタはまだ子供だから仕方ないけど、セシリア嬢もいる場にマジョリカ嬢を招待するとはね」
 アルヴェルが肩を竦めた。
「マジョリカがどうした?」
 そうシルベストが言うと、アルヴェルは一瞬「しまった」という表情になる。
「今のは失言だ」
 口元を押さえつつも表情は戻り、何もなかったように言った。
 マジョリカは、シルベストたちの父の妹の子供、つまりシルベストたちの従姉妹だ。ファイネン公爵家の令嬢でクラリッサと同じ歳、クラリッサやロレッタとも仲が良いのでロレッタの誕生パーティーに呼ばれても何も不自然ではない。
 アルヴェルのこの言い方、二人の間に何かがあったのか?

「一週間後と二週間後か。そのちょうど間に学園の舞踏会があるから、今は生徒会も忙しくて大変だよ」
 話を逸らすアルヴェル。
 何があったか、話すつもりはないと言う事か。
「アルヴェルもこんな所へ来ていないで学園に戻って働いたらどうだ?」
「優秀な役員やその他の協力者のおかげで、僕の仕事は今ひと段落してるんだ」
 自慢げに言うアルヴェル。
「本当か?俺の見舞いをサボる口実にするなよ?」
「……」
 シルベストからすっと目を逸らす。
「やはりそうか。早急に学園へ戻って生徒会長の義務を果たしてください。アルヴェル殿下」
 シルベストが慇懃に言うと、アルヴェルはシルベストを恨みがましい目でジトリと見た。



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