悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

文字の大きさ
11 / 79

10

しおりを挟む
10

「驚き過ぎて無言でサロンから帰って来ちゃったわ…」
 イライザは呆然として鏡の中の自分を見た。
「それでアドルフ様の赤い糸の相手はどなただったんですか?」
 侍女のアンリがイライザの髪を梳きながら聞くと、イライザは小声で呟いた。
「…ブリジット」

「え!?あ…そう言えば…」
 アンリが思い当たったように言うと、イライザは頷く。
「そう。アドルフお兄様って私たちと血が繋がってなかったのよ。今まで忘れてたけど」
「奥様の友人夫婦のお子様でしたよね?」
「そう。その友人夫婦はお兄様がまだ生まれて間もない頃に事故で亡くなって…お兄様の本当のお父様が公爵家の次男で、お母様が商家の娘で、駆け落ち同然の結婚だったからお父様は公爵家から勘当されてたの。それで残されたお兄様の引き取り手がなくて、学園時代からお兄様のお母様と友達で、駆け落ち後も仲が良かったお母様がお兄様を引き取ったんですって」
 その時のお母様はまだお父様と婚約中で、お母様は周囲の反対を押し切ってお兄様を引き取ったから、結婚はもうできないと思ったんだけど、お父様はお母様に「その子を自分たち夫婦の子として育てよう」とプロポーズしたのよ。

「旦那様…格好良いですねぇ」
 プロポーズのくだりを聞いたアンリが言う。
「そうね。それに今の今までお兄様と血が繋がっていない事を私が忘れてたくらいだもん。お父様とお母様、本当に我が子と分け隔てなく育てたって事よね」
 イライザの父と母はアドルフの出生について隠しはしなかったので、イライザもブリジットもいつしかアドルフが父と母の実子ではない事を知っていた。
 それでもイライザにとってアドルフは、自分が生まれた時から兄として存在していたので、血の繋がりなど気にした事はなかったのだ。

「アドルフ様、密かにブリジット様の事を想っていらっしゃるのかしら…」
 アンリがうっとりとした表情で言う。
「アンリ、そんな夢見る乙女みたいな表情かおしないでよ。こっちが恥ずかしいわ」
 鼻白んでイライザが言うと、アンリはぷくりと頬を膨らませた。
「お嬢様は夢がないですよ。血の繋がらない妹を想う兄、なんてロマンス小説みたいで素敵じゃないですか」
「お兄様がブリジットを想っているかどうかはまだわからないわ。もしかしたら、この家を継ぐためにはこの家の娘と婚姻しなければならないとお兄様が考えてるのかも知れないし」
「ええ~そんな打算的なの、嫌ですよぅ」
 不満気に言うアンリ。
「私だって嫌よ。だけどお兄様の立場ならそう考えても不思議はないもの」

 もしも打算なら、私がグレイ殿下を諦めたとしても、これだけ悪役令嬢として有名になった私に縁談なんか来ないだろうし、お兄様に私と結婚してもらう事はできないかな?
 そうすればお兄様はこの家の娘と結婚して嫡男の立場は磐石になるし、私は売れ残って家の恥にならずに済むし。
 ブリジットはロイ殿下とくっつけば、八方上手く収まるんじゃない?
 お兄様とブリジットの赤い糸を切って、ロイ殿下とマリアンヌの赤い糸を切って、私がお兄様への好感度を上げれば…
「お嬢様?」
「!」
 ハッとするイライザ。アンリが鏡越しにイライザを見ていた。

 私が赤い糸を切ってお兄様やブリジットの運命を変える?
 もしもお兄様が本当にブリジットを好きだったらどうするの。
 それに、マリアンヌはどうなるの?
「…無理」
 イライザはふるふると顔を横に振った。

-----

「痛っ」
 梳いていた髪が櫛に引っ掛かり、イライザは思わず声を出す。
「もっ申し訳ありません!」
 イライザの髪を梳いていた年若い侍女が青褪めた顔で飛び退くようにイライザから離れ、頭を深々と下げた。
 今朝はアンリがイライザが変わった事を他の侍女に知らせたくてわざと違う侍女を身支度に寄越したのだ。

 あー…これ以前のイライザなら「私に痛い思いをさせるだなんて、クビよクビ!二度と私の目の届く場所に現れないで!」って怒鳴り散らして手鏡とか投げたりして侍女を泣かせて実際クビにするパターンよね。
 頭を下げたままの侍女はブルブルと震えている。
 でも急にイライザが優しくなっても、そっちの方が胡散臭くて信じ難いだろうし…
「貴女、名前は何と言うの?」
「…も…申し訳ありませ…」
 震える声で言う侍女。
「名前を聞いているのよ?私は」
 イライザは、あまり低い声にならないように気を付けながら言った。
「…ヘレン…です」
「そう。ヘレン」
 侍女ヘレンは震えて消えそうな声で「はい」と返事をする。
「私の髪はウェーブがきつくて梳きにくいの。毛先の方から細かく丁寧に梳いて頂戴」
 イライザがほんの少し口角を上げて言うと、ヘレンは青褪めた顔のまま、目を見開いてイライザを見た。
「わかったかしら?ヘレン」
「は、はい!」
 持っていた櫛をギュッと握ると、ヘレンはイライザに近付いて、また髪を一束手に取った。
 





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...