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イライザはソファに座って腕を組み、テーブルに置かれた封筒を睨んだ。
「どうしたものか…」
「お嬢様まだ悩んでおられるんですか?」
侍女のアンリが紅茶のカップをイライザの前に置きながら言う。
「まだってアンリ、この手紙が届いてから丸一日しか経ってないわよ」
「でも、どちらにせよお断りするのは難しいんですよね?」
「そうだけど…アンリ冷たくない?」
イライザが紅茶のポットをワゴンに置くアンリを上目遣いで見ると、アンリは唇を尖らせた。
「だってお嬢様、エドモンド王子のガイド役が花嫁候補だと言う事、私に教えてくださいませんでしたよね?それにもし隣国へ行く事になっても私を連れて行く気がなかったし。冷たいのはお嬢様の方ですわ」
「それについては私なりに気を使ったのよ。アンリは私の侍女である前に男爵家の令嬢なんだから、着いて来いなんて軽々しく言えないし、もし言ったとして、こ、断られたら悲しすぎるじゃない」
少し恥ずかしそうにイライザはアンリを見る。
「私が断る訳ありません」
「アンリ…」
コンコン。
イライザの部屋がノックされ、執事が来客を告げた。
-----
「イライザ様!」
執事に続いて部屋に入って来たのはシェリー・モーガン侯爵令嬢だ。
「シェリー様?どうなさったんですか?」
シェリーはディアナの取り巻きの令嬢で、階段から落ちた後、学園へ復帰したイライザに「ディアナに近付くな」と言って以来、イライザとは話しもしていない。
そのシェリーが深刻な様子でイライザの家を訪ねて来たのだ。
イライザがシェリーをソファに促すと、シェリーは素直に座る。そして向かい側に座ったイライザを険しい表情で見た。
「…性懲りも無く舞踏会でミアに暴力を振るい、また評判を落としたイライザ様に会いに来るなんて、絶対に私の本意ではないのですが」
「はい」
そうだろうけど、じゃあ何でわざわざ夏期休暇に入って一週間も経ってからシェリー様が私に会いに来たんだろう?
「ディアナ様が…」
そう言うと、シェリーは俯いて膝の上の自分の手をグッと握った。
「ディアナ様が?」
「…毎年夏期休暇にグレイ殿下とロイ殿下が王家の保養地へ避暑に行かれるの、イライザ様もご存知よね?」
グレイ殿下。
その言葉にイライザの胸がチクンと痛む。
「はい。毎年アレックス様とディアナ様もご招待されて…」
それに去年はミアも招待されていた。
それを知った去年の私は嫉妬に苦しみながら夏期休暇を過ごしたんだったわ。
今年は……
「そう。なのに今年はディアナ様が『行きたくない』と言われているの」
「え?」
ディアナ様はこの避暑をアレックス様と過ごせるからと毎年楽しみにされていたんじゃ…
「…あ!」
思わず声を上げるイライザ。
「イライザ様?」
シェリーが訝し気にイライザを見た。
イライザは口元に手を当てて首を横に振る。
…赤い糸を切られたせいだわ。
ディアナ様とアレックス様、家同士が決めた婚約者同士でも想い合ってて、仲が良くて、本当に羨ましかったのに、赤い糸が切られたせいで気持ちが離れてしまったんだ…
「いえ。そ…それでディアナ様は…」
イライザはディアナが本当に行かないつもりなのかをシェリーに問うた。
「王子と婚約者からの招待を断る訳にはいかないわ」
ため息混じりにシェリーが言い、イライザは頷く。
「そう…よね」
毎年の招待を断るには相応の理由がいるもの。
今年に限って行きたくないなんて通らないし、体調が悪いと仮病を使うくらいしかないけど、バレたらマズいし。
「そこで、私がイライザ様に会いに来たのは、ディアナ様が『イライザ様に一緒に避暑に行って欲しい』と言われたからなのよ」
「え?私?」
イライザが言うと、シェリーはテーブルの上に置かれた封筒を指差した。
「招待されているんでしょう?イライザ様、エドモンド殿下から」
「……ええ」
テーブルの上に置かれた封筒の差出人はエドモンド。
内容は、グレイ殿下とロイ殿下の避暑に同行するのでイライザにも来て欲しいと云う招待。
「でも…私はエドモンド殿下と婚約している訳ではないし、断ろうと思えば断れるわ。グ……殿下だって私には来て欲しくないと思うし」
隣国の王子からの招待を断るのは難しいけど、でも、きっとミアも行くんだろうから、余計に。
「でもディアナ様は『イライザ様が行かないなら行かない』と。気不味いのはわかるわ。でもディアナ様のために行って欲しいの」
シェリーが顔の前で両手を組んでイライザに向けて祈るポーズをとる。
気不味いとか、そんなレベルじゃないと思うんだけど…
ああ、でもミアが私を挑発するために赤い糸を切ったなら、ディアナ様の気持ちがアレックス様から離れたのは私のせいとも言えるかも。だとしたらディアナ様に付いていて差し上げたい気持ちもあるし。
「…わかった…行くわ…」
イライザは絞り出すように言った。
イライザはソファに座って腕を組み、テーブルに置かれた封筒を睨んだ。
「どうしたものか…」
「お嬢様まだ悩んでおられるんですか?」
侍女のアンリが紅茶のカップをイライザの前に置きながら言う。
「まだってアンリ、この手紙が届いてから丸一日しか経ってないわよ」
「でも、どちらにせよお断りするのは難しいんですよね?」
「そうだけど…アンリ冷たくない?」
イライザが紅茶のポットをワゴンに置くアンリを上目遣いで見ると、アンリは唇を尖らせた。
「だってお嬢様、エドモンド王子のガイド役が花嫁候補だと言う事、私に教えてくださいませんでしたよね?それにもし隣国へ行く事になっても私を連れて行く気がなかったし。冷たいのはお嬢様の方ですわ」
「それについては私なりに気を使ったのよ。アンリは私の侍女である前に男爵家の令嬢なんだから、着いて来いなんて軽々しく言えないし、もし言ったとして、こ、断られたら悲しすぎるじゃない」
少し恥ずかしそうにイライザはアンリを見る。
「私が断る訳ありません」
「アンリ…」
コンコン。
イライザの部屋がノックされ、執事が来客を告げた。
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「イライザ様!」
執事に続いて部屋に入って来たのはシェリー・モーガン侯爵令嬢だ。
「シェリー様?どうなさったんですか?」
シェリーはディアナの取り巻きの令嬢で、階段から落ちた後、学園へ復帰したイライザに「ディアナに近付くな」と言って以来、イライザとは話しもしていない。
そのシェリーが深刻な様子でイライザの家を訪ねて来たのだ。
イライザがシェリーをソファに促すと、シェリーは素直に座る。そして向かい側に座ったイライザを険しい表情で見た。
「…性懲りも無く舞踏会でミアに暴力を振るい、また評判を落としたイライザ様に会いに来るなんて、絶対に私の本意ではないのですが」
「はい」
そうだろうけど、じゃあ何でわざわざ夏期休暇に入って一週間も経ってからシェリー様が私に会いに来たんだろう?
「ディアナ様が…」
そう言うと、シェリーは俯いて膝の上の自分の手をグッと握った。
「ディアナ様が?」
「…毎年夏期休暇にグレイ殿下とロイ殿下が王家の保養地へ避暑に行かれるの、イライザ様もご存知よね?」
グレイ殿下。
その言葉にイライザの胸がチクンと痛む。
「はい。毎年アレックス様とディアナ様もご招待されて…」
それに去年はミアも招待されていた。
それを知った去年の私は嫉妬に苦しみながら夏期休暇を過ごしたんだったわ。
今年は……
「そう。なのに今年はディアナ様が『行きたくない』と言われているの」
「え?」
ディアナ様はこの避暑をアレックス様と過ごせるからと毎年楽しみにされていたんじゃ…
「…あ!」
思わず声を上げるイライザ。
「イライザ様?」
シェリーが訝し気にイライザを見た。
イライザは口元に手を当てて首を横に振る。
…赤い糸を切られたせいだわ。
ディアナ様とアレックス様、家同士が決めた婚約者同士でも想い合ってて、仲が良くて、本当に羨ましかったのに、赤い糸が切られたせいで気持ちが離れてしまったんだ…
「いえ。そ…それでディアナ様は…」
イライザはディアナが本当に行かないつもりなのかをシェリーに問うた。
「王子と婚約者からの招待を断る訳にはいかないわ」
ため息混じりにシェリーが言い、イライザは頷く。
「そう…よね」
毎年の招待を断るには相応の理由がいるもの。
今年に限って行きたくないなんて通らないし、体調が悪いと仮病を使うくらいしかないけど、バレたらマズいし。
「そこで、私がイライザ様に会いに来たのは、ディアナ様が『イライザ様に一緒に避暑に行って欲しい』と言われたからなのよ」
「え?私?」
イライザが言うと、シェリーはテーブルの上に置かれた封筒を指差した。
「招待されているんでしょう?イライザ様、エドモンド殿下から」
「……ええ」
テーブルの上に置かれた封筒の差出人はエドモンド。
内容は、グレイ殿下とロイ殿下の避暑に同行するのでイライザにも来て欲しいと云う招待。
「でも…私はエドモンド殿下と婚約している訳ではないし、断ろうと思えば断れるわ。グ……殿下だって私には来て欲しくないと思うし」
隣国の王子からの招待を断るのは難しいけど、でも、きっとミアも行くんだろうから、余計に。
「でもディアナ様は『イライザ様が行かないなら行かない』と。気不味いのはわかるわ。でもディアナ様のために行って欲しいの」
シェリーが顔の前で両手を組んでイライザに向けて祈るポーズをとる。
気不味いとか、そんなレベルじゃないと思うんだけど…
ああ、でもミアが私を挑発するために赤い糸を切ったなら、ディアナ様の気持ちがアレックス様から離れたのは私のせいとも言えるかも。だとしたらディアナ様に付いていて差し上げたい気持ちもあるし。
「…わかった…行くわ…」
イライザは絞り出すように言った。
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