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王城の拘留部屋は、わかりやすく言えば貴族専用の留置所だ。
調度品も王城に相応しい品物が置かれ、寝室や浴室も付属した貴族屋敷のゲストルームのような趣きの部屋だが、廊下からの扉を入ると鉄格子で部屋の一角が区切られ、鉄格子の隅にある鉄の扉には鍵が掛けられており、鎧を着た騎士が傍らに立っている。部屋への出入口はそこ一つしかない。
壁には通常ある大きな窓はなく、天井に近い位置に横に細長い採光窓があるのみだ。
「随分珍しい方がおいでですね」
鉄格子の扉の前に立つ人物を見て、拘留部屋に置かれたソファに座っていたミアは目を見開いた。
「聞きたい事がある」
扉の前に立ってそう言ったのはエドモンドだ。
「私に?」
ミアは興味深そうに眉を上げる。
「ああ。本当はイライザに聞きたいが、まだ目覚めないから」
エドモンドは腕を組んで不満気に言った。
「あれから、今日で八日?九日ですっけ?」
人差し指を立てて口元に当てて言うミアに悪びれた様子は全くない。
「九日だ。保養地で二日、王都に戻る道中で二日、王都に戻って五日。君はイライザがこんなに長い間目覚めなくて、心配はしないのか?」
ジロリとミアを睨むエドモンド。
ミアは口角を上げる。
「今更取り繕う気はないですからね。私はイライザに消えて欲しかった。まあ上位貴族への殺人罪よりは殺人未遂で済んだ方が罪が軽いかも知れませんけど、大逆罪に問われるなら追加の罪が未遂だろうと誤差みたいなもんですよ」
ミアは笑みを浮かべながら言う。
「本気でイライザを殺す気だったのか…?」
「うーん、私としてはイライザが消えてくれればそれで良かったんだけど…それはこの世界での『死』って事だから、消そうとする事は殺そうとする事と同じ意味になりますかね?」
人差し指を口元に当て、考えながらミアは言った。
「まあ、今更イライザが消えても、私の状況は変わらないんだから、どっちでも良いか」
ソファに寄りかかり足を組む。
「君は…以前の『ミア』とは別人だな。こちらがお前の本性なのか」
エドモンドが軽蔑した表情でミアを見た。
ミアの顔から笑顔が消えて、エドモンドを睨む。
「…私はゲームの通り、ヒロインらしく振る舞っただけだわ」
ミアの言葉にエドモンドはピクリと反応を示した。
「そう、それ。そのゲームとは何なんだ?赤い糸とは?」
そうエドモンドが言うと、今度はミアが反応する。
「赤い糸の事、イライザから聞いたんですか?」
「いや。イライザの侍女アンリからだ」
「侍女に?」
「俺は一日置きにイライザの家へ行っている。その時アンリが俺を見て『この方がお嬢様の赤い糸の相手か』と呟いた。それがたまたま耳に入り、気になったので詳しく聞いてみた」
「独り言が来客の耳に入るなんて、侍女としては大失態だわ」
「アンリはただの侍女ではなく、イライザの幼なじみで理解者でもある。イライザがお前を虐め、グレイに付き纏っていた時期にもただ一人イライザの側にいた人物なんだ。それに俺が地獄耳だっただけで、アンリの声は通常なら誰にも聞こえていない筈だ」
エドモンドが憮然として言うと、ミアはまた口角を上げる。
「随分、イライザの侍女を庇われるんですね」
「俺のせいでアンリが咎められてはかなわんからな。それより、アンリは『この世界はイライザが生まれ変わる前に生きていた世界の娯楽であるゲームの舞台だ』と言うのだが…」
「ええ。この世界は間違いなく、私が前世でやっていた乙ゲーの世界、ですね」
ミアがニッコリと笑って言うと、エドモンドは首を傾げた。
「『オトゲー』?」
「恋愛シミュレーションゲーム、所謂『乙女ゲーム』を略してそう言うんです」
「何故略す?」
「さあ?国民性ですかね?」
ミアも首を傾げる。
「国民性?…まあいい。しかし、それを知っていると言う事は、やはり君も転生者なのかな?」
「転生者…ですか?」
「アンリが、以前イライザが自分のような別世界に生まれ変わった者をそう表現すると言っていたと」
「なるほど。道理で前世っぽい言い方だなと思いました。もっと言えば別世界じゃなくて異世界ですね。異世界転生」
ミアはうんうんと頷き、それを見ていたエドモンドはますます首を傾げた。
王城の拘留部屋は、わかりやすく言えば貴族専用の留置所だ。
調度品も王城に相応しい品物が置かれ、寝室や浴室も付属した貴族屋敷のゲストルームのような趣きの部屋だが、廊下からの扉を入ると鉄格子で部屋の一角が区切られ、鉄格子の隅にある鉄の扉には鍵が掛けられており、鎧を着た騎士が傍らに立っている。部屋への出入口はそこ一つしかない。
壁には通常ある大きな窓はなく、天井に近い位置に横に細長い採光窓があるのみだ。
「随分珍しい方がおいでですね」
鉄格子の扉の前に立つ人物を見て、拘留部屋に置かれたソファに座っていたミアは目を見開いた。
「聞きたい事がある」
扉の前に立ってそう言ったのはエドモンドだ。
「私に?」
ミアは興味深そうに眉を上げる。
「ああ。本当はイライザに聞きたいが、まだ目覚めないから」
エドモンドは腕を組んで不満気に言った。
「あれから、今日で八日?九日ですっけ?」
人差し指を立てて口元に当てて言うミアに悪びれた様子は全くない。
「九日だ。保養地で二日、王都に戻る道中で二日、王都に戻って五日。君はイライザがこんなに長い間目覚めなくて、心配はしないのか?」
ジロリとミアを睨むエドモンド。
ミアは口角を上げる。
「今更取り繕う気はないですからね。私はイライザに消えて欲しかった。まあ上位貴族への殺人罪よりは殺人未遂で済んだ方が罪が軽いかも知れませんけど、大逆罪に問われるなら追加の罪が未遂だろうと誤差みたいなもんですよ」
ミアは笑みを浮かべながら言う。
「本気でイライザを殺す気だったのか…?」
「うーん、私としてはイライザが消えてくれればそれで良かったんだけど…それはこの世界での『死』って事だから、消そうとする事は殺そうとする事と同じ意味になりますかね?」
人差し指を口元に当て、考えながらミアは言った。
「まあ、今更イライザが消えても、私の状況は変わらないんだから、どっちでも良いか」
ソファに寄りかかり足を組む。
「君は…以前の『ミア』とは別人だな。こちらがお前の本性なのか」
エドモンドが軽蔑した表情でミアを見た。
ミアの顔から笑顔が消えて、エドモンドを睨む。
「…私はゲームの通り、ヒロインらしく振る舞っただけだわ」
ミアの言葉にエドモンドはピクリと反応を示した。
「そう、それ。そのゲームとは何なんだ?赤い糸とは?」
そうエドモンドが言うと、今度はミアが反応する。
「赤い糸の事、イライザから聞いたんですか?」
「いや。イライザの侍女アンリからだ」
「侍女に?」
「俺は一日置きにイライザの家へ行っている。その時アンリが俺を見て『この方がお嬢様の赤い糸の相手か』と呟いた。それがたまたま耳に入り、気になったので詳しく聞いてみた」
「独り言が来客の耳に入るなんて、侍女としては大失態だわ」
「アンリはただの侍女ではなく、イライザの幼なじみで理解者でもある。イライザがお前を虐め、グレイに付き纏っていた時期にもただ一人イライザの側にいた人物なんだ。それに俺が地獄耳だっただけで、アンリの声は通常なら誰にも聞こえていない筈だ」
エドモンドが憮然として言うと、ミアはまた口角を上げる。
「随分、イライザの侍女を庇われるんですね」
「俺のせいでアンリが咎められてはかなわんからな。それより、アンリは『この世界はイライザが生まれ変わる前に生きていた世界の娯楽であるゲームの舞台だ』と言うのだが…」
「ええ。この世界は間違いなく、私が前世でやっていた乙ゲーの世界、ですね」
ミアがニッコリと笑って言うと、エドモンドは首を傾げた。
「『オトゲー』?」
「恋愛シミュレーションゲーム、所謂『乙女ゲーム』を略してそう言うんです」
「何故略す?」
「さあ?国民性ですかね?」
ミアも首を傾げる。
「国民性?…まあいい。しかし、それを知っていると言う事は、やはり君も転生者なのかな?」
「転生者…ですか?」
「アンリが、以前イライザが自分のような別世界に生まれ変わった者をそう表現すると言っていたと」
「なるほど。道理で前世っぽい言い方だなと思いました。もっと言えば別世界じゃなくて異世界ですね。異世界転生」
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