悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「いらっしゃいませ。エドモンド殿下」
 イライザの部屋を訪れたエドモンドをアンリが礼をして迎える。
「イライザは変わりない?」
 エドモンドはアンリに勧められてソファに座った。
「はい…まだお目覚めになりません」
「今日で十日か」
「そうですね…」
 アンリは俯きながらもエドモンドにお茶を出す準備のため、手を動かす。
「今日はグレイは?」
「午前中にお見えになりました。午後は執務があるそうです」
「『イライザが目覚めたら一番に謝罪したい』と言っていたが、本当に毎日来てるんだな」
「はい」
 アンリはエドモンドの前に紅茶のカップを置いた。

「昨日、ミアに面会した」
「え?」
「グレイからミアが『赤い糸が消えた』と言っていたと聞いたから、それがイライザがアンリに話した赤い糸の話と同じなのかどうか確認しようと思って」
「はい」
「ミアは『自分は乙ゲーのヒロインらしく振る舞っただけ』と言っていた」
「『ヒロイン』!イライザお嬢様もその言葉を使われていました。やはりミア様もお嬢様と同じように前世でこの世界が舞台のゲームをしていたと言う事でしょうか?…ところで『オトゲー』とは何ですか?」
 紅茶のカップを乗せていたトレイを胸の前に抱くようにして、アンリが首を傾げる。
「『乙女ゲーム』を略してそう表現するらしい。そして乙女ゲームとは、主人公の女性を操作し、男性の登場人物を攻略していく過程で疑似恋愛を楽しむゲームだそうだ」
「はあ…」
 ますます首を捻るアンリを見て、エドモンドは少し笑った。

「赤い糸についても聞いてみた」
「!」
 アンリがピッと背筋を伸ばす。
「ミアとイライザの前世に、惹かれ合う運命の相手同士は赤い糸で結ばれていると言う伝承があり、ゲームのヒロインであるミアは通常見えないその赤い糸を見る事ができ、それを切る事、結ぶ事ができるのだそうだ」
 エドモンドが胸ポケットから取り出した、折り畳んだ紙を開きながら言う。
 ミアの話をメモしていたのだ。
「え?結ぶ…ですか?」
 アンリが眉を寄せる。
「そう。イライザも赤い糸が見える、切れると言っていたとアンリは言ったが、結べるとは言っていなかったよね?」
「はい。イライザお嬢様は異性の素肌がお嬢様の顔に触れるとその人の赤い糸が見えるようになる、と。そしてそれを切る事ができると言われていましたけど、繋げたり結んだりはできないと仰っていたと…」
「つまり、ミアとイライザでは赤い糸に関する能力に違いがあるんだろう。現にミアは同性でも素肌に触れると赤い糸が見えるようになると言っていた。イライザのように『異性の』『顔に』と云う条件ではない。手と手が触れても見えるらしいから、ミアには関わりのある人間ほぼ全ての赤い糸が見えていたようだね」
「そうなんですか…ほぼ全て……え?『見えていたようだ』?」
 過去形?
 とアンリが呟くと、エドモンドは上目遣いにアンリを見た。

「…ミアは捕縛された時からグレイと自分との間の赤い糸が見えなくなったと言った」
「!」
「グレイとミアの間の赤い糸が失われたのか、赤い糸を見る能力自体が失われたのか。あれからグレイ以外の赤い糸の見える相手に会う機会がなかったため判別できなかったと。そこへ俺が現れた」
「エドモンド殿下の赤い糸は…見えたのですか?」
 アンリは胸の前でトレイを抱くように持つ手に力を入れる。
 エドモンドはアンリを見て、眠るイライザの居る寝室の方へ視線を移した。
 そしてまたアンリを見る。
「ミアは俺の赤い糸も見えない、と言った」
「見えない…」
 アンリが眉を顰めるのを見て、エドモンドは口角を上げる。
「…まあこれ以上の事は、イライザが目覚めて、ミアの話と照らし合わせてみなければわからないな」
「そうですね…」

「しかしアンリがイライザから転生や赤い糸の話を聞いてくれていて良かったよ。それを聞いて納得できた部分が多くあった」
 アンリに笑い掛けるエドモンド。
「納得…ですか?」
 アンリは少し頬を赤くしながら、胸の前に抱いていたトレイをワゴンに置く。
「ああ」
 赤い糸や前世、転生、ゲームなど荒唐無稽な話で、そう簡単に信じる事はできない事象だが、グレイがイライザやミアに対する自分の気持ちがわからないと言っていたのも、俺がイライザを国に連れて帰りたいと思ったのも、赤い糸の話を聞けば「なるほどな」と思える。
 そして今の俺のも。

「ミアは前世や転生の事は誰にも話していないと言っていた。それを思えば、イライザはアンリを本当に信頼しているんだな」
「嬉しいです。私、イライザお嬢様の事、僭越ながら…妹のように思っているので」
 少し照れたように、嬉しそうに笑って言うアンリをエドモンドも微笑んで見つめた。



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